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「骨と関節の日(10/8)」にちなんで
〜ロコモティブシンドロームと変形性膝関節症〜

上原昌義

沖縄協同病院整形外科 上原 昌義

現在日本の高齢化が急激に進行しています。

先日、政府が閣議決定した「高齢社会白書」 によると、2010 年10 月1 日時点で、65 歳以上 の高齢者人口は過去最高の2,958 万人(前年 2,901 万人)で、1 億2,806 万人の総人口に占 める割合(高齢化率)も前年比0.4 ポイント上 昇し、23.1 %となりました。高齢者人口は、 1947 〜 49 年生まれの「団塊の世代」が65 歳 以上になる2015 年には3,000 万人を超え、75 歳以上の後期高齢者となる2025 年には、高齢 化率が30.5 %、2050 年には40 %程度まで上 昇すると推計されています。諸外国と比較して も、高齢化率は2010 年時点で最も高く、2、3 位のイタリアやスウェーデンよりも2 〜 3 ポイ ント高く、アジアでは、韓国より10 ポイント、 中国に比べて13 ポイントほど高い結果となっ ています。確かに長生きする人は増えました が、みんなが皆満足できるADL を保持できて いるでしょうか?健康寿命という概念の重要性 も唱えられ、寿命の「質」に着目した健康に暮 らせる期間を表す考え方が注目を集めてきまし た。ちなみに日本の健康寿命は平均73.6 歳 (世界第1 位)といわれています。厚生労働省 の資料で高齢者の機能低下には特徴があり、特 に筋骨格系疾患による下肢機能や基礎的体力の 低下が引き金となっているようです。現在要介 護、要支援者が450 万人(2007 年)に達し、 原因として運動器障害が21.5 %を占め健康寿 命の延伸には運動器疾患の予防が重要と思われ ます。日本整形外科学会ではWHO が提唱した 運動器の10 年(2000 年からスタート)の一環 行事として広く日本国民に運動器の重要性を伝 え、健康に生活していくお手伝いができるよう 毎年10 月8 日を「骨と関節の日」として新聞 紙面対談や市民公開講座を行ってきました。ロ コモティブシンドローム(ロコモ)とは、「運 動器機能障害により要介護になるリスクの高い 状態」のことで、日本整形外科学会が、2007 年に、新たに提唱しました。ロコモティブ (locomotive)とは移動能力を有するとの意味 で「ロコモ」には、人間は運動器に支えられ、 運動器の障害が要介護の要因として重要である ことを要介護になる前の年代の人にも知っても らい、運動器の障害で要介護となることを予防 するメッセージが込められています。ロコモの 三大要因として、1)脊柱管狭窄による脊髄、馬 尾、神経根の障害、2)変形性関節症、関節炎に よる下肢の関節障害、3)骨粗鬆症、骨粗鬆症性 骨折などがあります。

今年のテーマは「ロコモティブシンドローム と変形性膝関節症」です。東京大学医学部附属 病院研究チームの推計では、国内でロコモとそ の予備軍は4,700 万人とされ、メタボリックシ ンドロームや認知症との関連も指摘し、変形 性関節症の人は関節症でない人より、認知症や ロコモのリスクが高まることを報告しました。 また厚生労働省の調査報告では、国内での変形 性膝関節症患者数を、自覚症状を有する患者数 で約1,000 万人、潜在的な患者数(X 線診断に よる患者数)で約3,000 万人と推定していま す。関節軟骨は、1 平方センチ当たり200kg の 圧力に耐えられるようにできています。変形性 膝関節症は関節面に慢性の退行性変化と増殖性 変化とが起こり変形します。単純レントゲン像 の特徴として1)関節裂隙狭小化、2)関節軸の偏 位、3)骨刺形成などの変形が認められます。 2010 年川口らは、関節軟骨変性の誘因となる 『HIF2A』タンパク質を発見し、Nature 電子 版に報告しました。関節に負荷を与えて変形性 関節症を起こしたマウスを調査した結果、軟骨 組織に成長期の骨の形成などにかかわる 『HIF2A』が多量に検出され、さらに『HIF2A』 の量を減らしたマウスを作製し、関節に負荷を 与えても軟骨組織の破壊が抑えられました。また人工関節の手術で摘出された関節を調べたと ころ、軟骨変性部に『HIF2A』が多量に認め られ、本来は骨に置換されない軟骨で 『HIF2A』が関与し、変形性関節症に至ると考 察しました。また原因遺伝子として理化学研究 所の池川らは、膝や手の関節に痛みを伴う変形 性関節症の原因遺伝子を特定し、2 0 0 8 年 Nature(電子版)に発表しました。日本人の ゲノムにある塩基配列の個人差(SNP)と変 形性関節症との関係を調べ、発症に深く関与す る未知の遺伝子『DVWA』を発見しました。 この遺伝子が作るタンパク質と、細胞の構造を 支える別のタンパク質との結合が弱まることで 発症につながることが解明されました。このよ うに変形性関節症の新知見が報告され、今後の 治療に大きな期待が寄せられますが、やはり重 要なことは現状の評価と予防対策です。そこで 日本整形外科学会ではロコモの対処法として、 「ロコチェック」と「ロコトレ」を提唱しまし た。ロコチェック(チェックリスト)項目の中 で一つでも当てはまれば、専門医の受診を勧 め、ロコトレ(訓練方法)を自宅でも日々継続 して運動療法の実施を呼びかけました。

ロコチェック:ロコモーションチェック

Locomotion Check

1)片脚立ちで靴下がはけない

2)家の中でつまずいたり滑ったりする

3)階段を上るのに手すりが必要である

4)横断歩道を青信号で渡りきれない

5)15 分くらい続けて歩けない

ロコトレ:ロコモーショントレーニング

Locomotion Training

a)ロコトレその1 :開眼片足立ち訓練(ダイナミックフラミンゴ療法)

b)ロコトレその2 :スクワット(股関節の運動;ロコモン体操)

c)その他のロコトレ(軽度なスポーツなど)

今社会的問題となっている「メタボ」には 「肥満は有害でその行き着く先には脳卒中、心 筋梗塞の危険がある。」ことを示しています。 運動器の重要性をアピールする場合、「運動不 足は運動器の健康に有害であり、その行き着く 先には介護の危険がある。」ということを明確 に提示することが必要と考えております。

急速に進行した高齢化は皮肉にも日本が世界 を先取りする形となってしまいました。今後、日本でしっかりした医療・福祉政策のもと高齢 化社会における健康寿命の概念と対応方法を確 立して世界の見本となるよう日本全体で考えて いく必要があると思われます。私達整形外科医 会がその一助となれるよう努力してまいります のでご指導、ご協力のほどよろしくお願い申し 上げます。

●新聞紙面座談会(平成23 年10月8日掲載予定)

1)沖縄タイムス

司会:伊志嶺 隆先生(伊志嶺整形外科)

コメンテーター

・安里英樹先生(はえばる北クリニック)
・池間康成先生(中部徳洲会病院)
・坂元秀行先生(ヒデ整形外科クリニック)
・林かおり先生(県立八重山病院)
・當眞嗣一先生(中頭病院)

2)琉球新報

司会:普天間朝上先生(琉大医学部整形外科)

コメンテーター

・山口 隆先生(東山整形外科)
・倉橋 豊先生(くらはし整形外科クリニック)
・新垣 薫先生(ハートライフ病院)
・新城宏隆先生(琉大医学部整形外科)
・喜久里教昌先生(県立中部病院)

●市民公開講座

日時:平成23 年10 月10 日(月)14:00 〜16:00
会場:沖縄県立博物館・美術館(2F 大ホール)
司会:仲宗根 聰先生(なかそね整形外科リハビリクリニック院長)

オープニング リマークス

「骨と関節の日」

金谷文則先生 琉球大学整形外科教授

演者

1)「ロコモ」とは?

・大城 亙先生 (那覇市立病院)

2)膝が原因で「ロコモ」になりやすい疾患について

・城間隆史先生 (海邦病院)

3)変形性膝関節症とは?

・普天間朝拓先生(県立中部病院)

4)変形性膝関節症の治療について

・久保田徹也先生(南部徳洲会病院)

5)「ロコモ」の予防法について

・津田智弘先生 (沖縄協同病院)