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沖縄県立看護大学学長 前田 和子 先生

前田和子先生

沖縄県立看護大学学長 前田 和子 先生

微力ではございますが、精一杯沖縄県の看護教育のために尽くす所存でございます。

是非今後ともご指導とご支援を賜りますようお願い申しあげます。

Q1.この度は、沖縄県立看護大学学長ご就任 おめでとうございます。就任されて約半年 が経ちますが、これまでを振り返ってのご 感想と今後の抱負について、前田学長の自 己紹介と併せてお聞かせ下さい。

ありがとうございます。あっという間にもう 半年が経ってしまいました。沖縄県立看護大学 に赴任してきたのは平成17 年度ですから、今 年で7 年目になります。私が本格的に看護教育 の道に入りましたのは昭和61 年筑波大学に就 職してからです。9 年後に茨城県立医療大学に 移り10 年間勤めました。茨城県立医療大学は 医学部がないのに附属病院(リハビリテーショ ン病院)をつくった日本で初めての大学です。 その設立準備から関わり、ユニフィケーション (臨床と教育の一体化)の理念の下に、教員と 看護師の両方の辞令をもらって大学と病院を駆 け回っていました。私の専門は母子保健看護学 ですが、ここでは小児リハビリテーション医療 と障害児看護に特化した小児専門看護師の養成 を中心に行いました。県立大学でしたので、地 域リハビリテーションの第一人者大田仁史病院 長の下で県内の地域づくりについても多くを学 ばせていただきました。

本学に赴任してきたきっかけは、大学院を担 当する教員が足りないので来るようにという初代学長の上田礼子先生の強いお誘いでした。当 時在籍していらしたイリノイ大学名誉教授のビ バリー・ヘンリー先生のご指導の下、沖縄県立 看護大学がいろいろと先進的な教育的試みをし ているのを羨ましく思っていましたので、ここ で「進歩的看護教育」を学んでみたいという思 いもありました。

学長になって、今思いますことは「学部長と して野口前学長を十分お支えしていなかったの ではないか」という思いです。今さらながら、 学長という仕事の重さに驚いています。

現在、沖縄県立看護大学は、沖縄県の看護界 の先輩諸氏、上田元学長と野口前学長のご努力 により、本学のあるべき姿が描かれ、形は整っ たという段階に到達しました。あるべき姿とは 博士後期課程までを備えた大学院とその教育課 程に「島しょ保健看護」の領域が組み込まれた ことです。今後、私に課せられた責務はこの歩 みを止めることなく、実質化していくことだと 思っています。そのためには、本学の教員、特 に若い世代の教員の成長が欠かせません。彼ら が自分、本学、沖縄の経験の中に止まらず、全 国そして世界の看護教育と高等教育にも目を向 けて、広い視野をもって、沖縄県に必要な次世 代の看護職者を育ててくれることが沖縄県民の 期待に応えることだと思っています。

Q2.平成20 年4 月に、設置された「別科助産 専攻」について、これまでの実績(就職状 況等)についてお聞かせいただけますか。 また、併せて「別科助産専攻」の今後の展 望等について、教えていただけますか。

「別科助産専攻」は定員20 名です。これま で58 名が修了し、88 %が県内に、12 %が県外 に、そして8 割が助産師として、2 割が看護師 として就職しました。

別科助産専攻の今後の展望についてですが、 昨年度本学でも助産師の需要について独自に調 査を行いました。その結果、本学では、沖縄の 母子保健の現状、助産師外来及び院内助産所の 設置状況、さらに県内で分娩を取り扱っている 施設における助産師の需要等を考慮しますと、 なお継続の必要性があるという結論に至りまし た。したがって、「別科助産専攻」を平成25 年 度以降もさらに当分の間継続してまいります。

Q3.貴大学は、平成21 年に、離島地域におけ る保健看護の向上をめざし、文部科学省によ る「大学院教育改革支援プログラム」及び 「質の高い大学教育推進プログラム」におけ る取り組みについて、具体的な内容と成果に ついて教えていただけますでしょうか。

また、その他、大学としての主要な取り組 みがあればお聞かせください。

まず、「大学院教育改革支援プログラム」で すが、「島嶼看護の高度実践指導者の育成」(平 成20 〜 22 年度)を目的に、大学院の博士前 期・後期課程に新らたに島嶼保健看護領域を設 け、離島特有の健康問題に対応できる看護職者 の教育プログラムを構築しました。教育方法に は、県立宮古病院の一室に設けたサテライト教 室と本学との間を結んだテレビ会議システムを 活用して、遠隔教育と現地指導の融合型教育を 取り入れました。さらに、沖縄に最も近い太平 洋島嶼地域である台湾、グアム、サイパン、テ ニアンなどの海外実習や研修ならびに6 カ国か らの国外招聘講師による講義などを取り入れ、 グローカルな視点(国際的な広い視野で地域の問題にきめ細かく取り組むという姿勢)を養え るようにしました。学生募集枠に2 年間で博士 前期課程4 名と後期課程3 名が入学し、現在ま で2 名が修了し、離島の保健医療福祉の活性 化・質の向上を目指して活動しています。本プ ログラムは補助事業終了後も、「島しょ保健看 護領域」と名称を変えて、正式に教育課程に組 み入れ、継続されています。

次に「質の高い大学教育推進プログラム」と して、学部の教育方法の改善を目指した「島嶼 環境を活かして学ぶ保健看護の実践」(平成20 〜 22 年度)のプログラムを紹介します。これ は、学生の“対象を生活者の視点で捉える能 力”、“協働連携の能力”および“ICT 活用能 力”を効率的に高めるために、宮古島をモデル 島として、「島嶼モデル型臨地実習」を展開し たものです。この事業の特徴は、学生の教育効 果だけでなく、他の関係者3 者の成果もねらっ ていることでした。つまり、大学教員と島の看 護職者が協働して検討会(33 回)と研修会 (11 回)を続けることにより、互いの指導力を 向上させること、日々の看護を振り返り現場の 実践を改善させること、そして住民にとっては 地域の「強み」の再認識や新しい役割の発見な どの機会につながることでした。この取組の中 で予想以上の成果を出したのは住民でした。彼 らは学生の学習支援のために自主的にボランテ ィアグループ「みゃーくの会」(会員33 名)を 立ち上げ、民泊など学生の宿泊先の確保(民泊 ボランティア)、宿泊先から実習先までの車で の送迎(送迎ボランティア)、宮古の歴史と文 化、看護の理解を深めるための講議(講師ボラ ンティア)を担ってくれました。

島嶼モデル型臨地実習で学んだ学生は平成21 年度64 名、平成22 年度73 名でした。すでに事 業は修了していますが、「島嶼モデル型臨地実 習」は今年度も継続しています。改善を重ねな がら、他の島々でも応用できるように努力を重 ねているところです。島しょ県である沖縄の看 護職者は離島医療について正しく理解すること が必要です。そのためにも看護学生が学生時代に離島実習を経験することは大切なことです。

最後に「看護系大学から発信するケアリン グ・アイランド九州沖縄構想」についてです。

これは、文部科学省の「大学教育充実のため の戦略的大学連携支援プログラム(平成21 年 度〜 23 年度)」に採択されたプログラムで、福 岡県立大学をリーダー校と九州・沖縄の14 大 学(1 協力校を含む)が7 つの課題を共有して、 ケアリングの連鎖を大学内から、医療機関へ、 そして地域社会へと広げるという構想をもつ事 業です。

共通課題とは、A)助手・助教力、専任教授 力、教員集団力の停滞、B)臨地実習指導者の 教育力のばらつき、C)卒後一年目看護師の高離 職率、D)卒後一年目の看護技術の未熟さ、E) 新設校などの学生間における学びの文化の未成 熟、F)理科系科目の不得意さ、およびG)各大 学の特徴科目の共有不足です。県内から琉球大 学医学部保健学科、名桜大学看護学部ならびに 本校が新たな戦略的連携に取り組んでいます。

これまでに、合同企画あるいはローカル企画 によるセミナーの実施、ケアリングSNS(人 と人とのつながりを促進・サポートする、コミ ュニティ型のウェブサイト)ならびにスキルラ ボの開設による新人看護師のメンタリングネッ トワークの構築や技術支援、沖縄地区学生コン ソーシアムの組織化と、これを母体とした学生 ゼミナール、学生フェスティバルなどの開催、 ICT を用いた大学院授業の相互受講(本校と聖 マリア学院大)ならびに新科目「ケアリング・ サイエンス」の開講準備など次々と成果が得ら れています。

Q4.専任教員の養成促進についてお尋ねします。

沖縄県医師会では、平成22 年2 月、将来 的な看護教員の養成並びにその確保に向け て、宮城会長から野口美和子前学長あて要望 を行ったところですが、その後の状況につい て進展があればお聞かせください。

沖縄県医師会の要望を受けて昨年5 月に前学 長をリーダーに「看護教員養成促進に関する検討プロジェクト会議」を組織し約1 年間検討し て参りました。その間、5 回の学内会議、県内 の看護教員や教員養成の状況調査、ナーシング リーダーシップ会議の開催、看護学校の教員責 任者との意見交換等を行いました。その結果、 1)平成4 年〜 21 年までに看護教員養成講習会が 4 回開催され、県内受講者は約120 名であった こと、2)県内5 養成所の専任教員約100 名中22 名が未受講者であること、3)教員平均年齢は 44.4 歳であり、近い将来教務主任クラスの世代 交代が避けられないこと、4)看護学校入学者に 大学卒業者が増加していること、5)看護教育の レベルが高くなっており全国的に大学院卒の教 員の割合が高まっていることなどから看護教員 の質向上が不可欠であるなどが確認できました。

したがって、看護教員の養成促進に関しまし て、本学は、1)一般教員の養成コースを県が主 催する場合は場所の提供、講師派遣、図書館の 利用など全面的に協力する、2)教務主任候補生 の養成には大学院博士前期課程(看護管理教育 領域)への入学について、もしご要望があれ ば、時限付きで現職の看護教員枠を設けるなど の措置も検討の余地があるかと思います。これ には入学定員の問題もありますので、今後県と も相談していかなければなりませんが、沖縄県 医師会との話し合いを今後ともを続けて何らか の対策が打てればと願っております。

Q5.医療の高度化や複雑化の中で、医療安全 を確保し、看護の質の向上を図るためには、 新人看護職員の臨床実践能力の向上が強く 求められておりますが、大学としての取り 組み等があればお聞かせください。

まさしく学部教育の充実が待ったなしで求め られています。本学では卒業時の到達目標を明 確にし、それらを達成するためにどうすべきか 3 年をかけて全学的に検討して参りました。そ して今年度入学の学生から新カリキュラムをス タートさせました。どちらかというとこれまで 教員一人一人、または専門分野それぞれの考え で進めてきた教育を、学生の立場に立って、大学として一貫した方針の下に教育し評価するよ うに方向転換しました。また、押しつけの教育 ではなく、学生の主体的学習を尊重した教育に 変えました。

同時に、学生の評価にも工夫を加えました。 評価は単位認定のための一発勝負ではなく、教 員が学生の到達度の変化を追いながら必要時指 導を加えていけるように、きめ細かく客観的な 評価が必要です。そのような評価は学生も自分 の到達度を知ることにつながります。

特に、卒業時の臨床実践能力を保証するため に、本学では3 年次の本格的臨地実習の前と卒 業前に最低2 回はOSCE を行う予定でいます。 OSCE とは客観的臨床能力試験のことで、判 断力・技術力・マナーなど実際の現場で必要と される臨床技能の習得レベルを評価するもので す。OSCE を実施するためにはシナリオ作成、 評価基準作成、短時間での評価、効果的コメン トなど教員自身の能力も問われますので、学内 外の研修などに参加しながら準備をしていると ころです。

Q6.現在、沖縄県の看護業界をどの様に捉え ておりますか。また、沖縄県立看護大学と してどう関わり、何を期待するか等につい てお尋ねします。

最近茨城県の総合病院の看護部長さんたちと 会う機会がございました。そのとき、沖縄県に は元気の良い仕事熱心な看護部長さんがいらっ しゃいますよねという話になったとき、私の頭 には心当たりのある部長さんたちの顔が複数浮 かびました。看護部長さんたちに限らず、助産 師や保健師さんのリーダーたちの中にもユニー クで大胆な発想と行動力を持った方々が沖縄に は結構な割合でいらっしゃることを頼もしく感 じています。優秀な人材は中堅ならびに若い層 にもたくさんいらっしゃいますが、残念ながら 沖縄県の看護教育は大学化が遅れましたので、 優れた実践を文章化して発表する、または課題 を研究的に解決する経験が少なく、それ故に自 信がないという方々が少なくないのも事実です。

この問題に取り組むために本学の大学院では 大きく門戸を開いています。つまり、専門学校 卒業の看護職者の皆さんに仕事をしながら学ん でもらい、特定の専門分野でより高度な実践力 とリーダーシップを備えた看護職者、または 「がん看護」「慢性期看護」「老年看護」「精神看 護」の専門看護師に成長し、力を発揮していた だきたいと期待しています。

そのために、私どもは平成19 年度〜 21 年度 にかけて、「看護実践者(社会人)のための大 学院博士前期課程入学準備プログラム(以下、 準備プログラム)」を実施しました。この準備 プログラム(事前および事後学習時間を除く 18 時間コース)のねらいは、各種オンライン 文献データベースを用いた文献検索、論文の構 造の理解と、論文内容を批判的に吟味(クリテ ィーク)する看護研究リテラシーを磨き、大学 院受験の壁を低く感じてもらえるようにという ことです。

これまで、計98 名の受講生から、22 名が大 学院を受験し、15 名が合格しました。文科省 事業としての準備プログラムは終了しました が、その後も、公開講座等で継続しており、将 来的には沖縄看護実践開発センター(仮称)の 事業の一つと位置付けています。

今後とも、各実習病院・施設・機関、沖縄県 看護協会、日本助産師会沖縄県支部、沖縄県立 看護大学同窓会はじめ沖縄県の看護のリーダー の方々とは遠隔看護、離島看護をはじめ沖縄県 の看護をどう充実させていくかを話し合い、共 に協力していきたいと考えています。

Q7.県医師会に対するご要望がございました らお聞かせください。

現在、我が国では在院日数の短縮や医師の過 重労働などの問題に対応するため、医療の効果 的、効率的な提供を目的とするチーム医療の推 進が課題となっています。厚労省で開催中の 「チーム医療推進会議」では、看護師の積極的な 活用と有機的連携を目的に、一定の医学的教 育・経験を前提に専門的実践能力を有する看護師に対して業務範囲を拡大する新たな枠組み構 築を検討しているところです。いわゆる「特定 看護師(仮称)」の検討です。島しょ保健看護を 特色とする本学としては、医師の確保が難しい 離島および僻地医療の現場でこそ、昔の「公衆 衛生看護師」に相当する、「特定看護師(仮称)」 の養成が必要ではないかと考えています。県医 師会にはこのような本学の将来像について是非 ご相談に乗っていただきたいと思っています。

Q8.最後に日頃の健康法、ご趣味、座右の銘等がございましたらお聞かせ下さい。

私は国立療養所所長として長らく結核医療に 取り組んでいた父の影響を強く受けて生きてき ました。生前、父は「人のために力を尽くし て、天の倉に宝(徳)を積みなさい」、「あなた たちが一生困らないように、あなたたちの分ま で宝を積んでおいたからね。安心していいよ」、 「でも、孫たちの分は積んでないから、あなた たちが積みなさい」と話していました。この 頃、私はこの父の言葉をよく思い出します。

この度は、インタビューへご回答頂き、誠に有難うございました。

インタビューアー:広報担当理事 當銘正彦