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日本産婦人科医会
第34回性教育指導セミナー全国大会

宮良美代子

美代子クリニック 宮良 美代子

7 月31 日(日)、大分県別府国際コンベンシ ョンセンターにて、「性教育の可能性−つなが りを求めて−」を大会のメインテーマとして第 34 回性教育指導セミナー全国大会が開催され た。予想以上に多くの参加者が有り、若い女 性も多く、ピアカウンセリングを取り上げた講 演があったため、大学生や高校生の姿も散見さ れた。

午前は主催者、県知事等の挨拶の後、特別講 演、ワークショップ、ランチョンセミナーが行 われ、午後からはシンポジウムが行われた。

特別講演は「私の身体と私の気持ち−性的自 己決定権を考える−」の演題で、佛教大学社会 福祉学部社会福祉学科教授の若尾典子先生の講 演があった。演題からは、sexual identity に関 連した講演をイメージしたが、主たる内容は、 憲法学者の立場から見た女性の自己決定権につ いてであった。最初はいわゆる離婚後300 日問 題について。離婚して300 日以内に生まれた児 は離婚前の夫の子とみなすとの民法があるた め、出生届けを出せない子供が毎年3,000 人近 く発生しているとの事。女性に起因する問題と して扱われやすいが、本来は父となる男性の子 供に対する認知の問題、男性の自己決定権の問 題であると解説されていた。

続いて、妊娠中絶に関する女性の自己決定 権、レイプ、買春問題、Domestic Violence (DV)、Reproductive Rights、女子大生に対す る暴力、家出少女の援助交際の問題等、女性の 性に関わる人権問題をとりあげ、これまでの経 過と問題点、課題をまとめた講演であった。日 ごろ男女共同参画に関する沖縄県や那覇市の会 議に参加する事が多い私には非常に興味深い内容となった。

ワークショップは「地域をつなぐ性教育を求 めて」のテーマで行われ、まず中学校の養護教 諭から、学年ごとに作成された保健体育、学級 活動、道徳、理科の時間を活用した性教育指導 のスタンダードについて紹介された。続いて、 「性教育は生きる教育」・「性教育は、人を大 切に、人にも自分にも優しくなれるための学び である」との考えに基づく教育委員会生涯学習 課の親子を対象とした学習の取り組みについ て、大分大学医学部看護学科からは、大分県の 委託事業で始まったピアカウンセラーのボラン ティアグループ≪ PEC(ペック)の会≫の活 動報告があった。これらの活動を継続して発展 させて行くために、いずれも活動者の主体性を 尊重しながらも、行政機関における変わらぬ取 り組みと支援が重要になると感じさせられた。 最後は「デートDV アンケート調査より、予防 教育としての性教育」の演題で、デートDV 被 害者支援にとり組むNPO 法人「えばの会」理 事の産婦人科医師からの講演があった。デート DV に関するアンケートは大分県内の高校2 年 生および無作為抽出の大学生、計15,000 人を 対象に実施されたもので(回収率9.7 %)、被害 の実態、暴力を容認する意識傾向等が分析さ れ、予防教育への取り組みが考察された。20 代 女性のデートDV の被害経験者は、内閣府の調 査結果では約20 %とされており、若者の暴力 被害を防ぐ対策が急がれる。

ランチョンセミナーは今年から全国規模で公 費助成が始まったHPV ワクチンについてであ った。演者は自治医科大学産婦人科教授の鈴木 光明先生でHPV ワクチンの普及に尽力されている。講演では海外でのワクチン接種の取り組 みを紹介し、国のワクチン事業開始に先駆け、 昨年5 月から小学6 年生の女児を対象に学校で の集団接種をスタートさせた大田原市の接種状 況を示した。同市では学校での集団接種にする 事で、95 %を越える高い接種率が実現された が、厚労省のワクチン事業の開始にあたって 「保護者同伴が必要・・・」とされたため、今 後学校接種が困難になったとの事であった。た だ、学校接種の形をとらずに95 %近い高い接 種率を実現した小山市の例も紹介され、自治体 のワクチン事業への取り組みの姿勢、本気度が 問われるとの印象を受けた。

午後からのシンポジウムは、「性暴力への取 り組み−関係機関のつながりを求めて−」のテ ーマで行われ、「性暴力救援センター・大阪 SACHICO の活動」を紹介する阪南中央病院産 婦人科医師の加藤治子先生の基調講演をスター トに、「性犯罪被害の実際とその対応」、「大分 県の性犯罪被害者支援の現状と課題」を警察関 係の方々から報告があり、最後に「性暴力被害 者の心理面への対応・支援の充実に向けて〜産 婦人科と精神科の連携〜」として医師からの講 演があった。性暴力被害者に対する支援では、 産婦人科医師による診察、カウンセリング、弁 護士相談、警察への通報等が一つの窓口で対応 可能な支援拠点、いわゆるワンストップセンタ ーの必要性が痛感させられた。しかしながら、 現在日本ではこのような施設はまだまだ少な く、しかも公的な助成もなく、ボランティア活 動や寄付に頼らざるを得ない状況にあり、今後 の課題と言える。

今回の大会を通じて強く感じたことは、性に 関するさまざまな問題に対して、行政、医療、 地域が一体となりシステムを構築して、継続的 かつ地道に対処していく事の重要性である。沖 縄県においても、他県同様、若年者を中心とし た性に関する問題は多く、より一層の取り組み が望まれる。