はしかプロジェクト委員会委員長
(医)いちご会ちねん小児科 知念 正雄
はじめに
本年も5 月8 日〜 14 日まで、はしか‘0’キ ャンペーン週間が実施される。これは県民が麻 疹に対する正しい認識と、ワクチン接種による 予防の重要性を理解していただくことを目的と している。2001 年にはしか‘0’プロジェクト が立ち上げられ、県内における麻しんワクチン 接種率を95 %以上に達成して、麻疹発生を ‘0’にすることを目標に活動を展開して、今年 で10 年が経過した。これを機会に麻疹に関す る最近の動向と話題について報告する。
1)最近の動向−麻疹の減少と病原診断の重要性−
わが国では、2007 〜 2008 年に麻疹が大流行 し、それが契機となって2008 年1 月より全数 把握制度が実施され、麻疹流行の実態が明らか になった。全国から報告された麻疹患者は 2008 年に11,015 例に達し、しかも症例の4 割 は10 代(10 才〜 18 才)にみられ、いわゆる “成人麻疹”が多発した。国は「2012 年麻疹排 除の指針」を制定し、麻しん・風しん混合(以 下MR と略す)ワクチンの2 回接種の他に、 2008 年4 月から5 年間限定で中学1 年生(3 期)、高校3 年生(4 期)に対して補足的MR ワ クチン接種が実施されて、2013 年3 月で終了 する予定である。この麻疹排除指針が効を奏し て2009 年には739 例に激減し、さらに2010 年 は450 例の報告にとどまった。また全数把握制 度を伴う麻疹サーベイランスシステムが、2012 年麻疹排除に向けて強化されつつある。すなわ ち、従来の臨床診断よりも病原診断に基づく報 告が重視されることになり、各都道府県の衛生 研究所を中心にして、ウイルス学的検査体制が 国立感染症研究所の支援のもとに整えられつつ ある。麻疹を診断した全ての医療機関は、患者から採取した咽頭ぬぐい液、血液(EDTA血)、 尿の3 点セットの検体(できれば2 点以上)を 管内保健所を通して地方衛生研究所へ送付し、 確定診断された症例のみがサーベイランスに登 録されることになる。
図1 最近の知見に基づく麻疹の検査診断の考え方(国立感染症研究所麻疹対策支援チームによる)
2)本県の麻疹全数把握とワクチン接種率
沖縄県では全国に先んじて2003 年1 月から 全数把握事業が実施され、県衛生環境研究所に おいてウイルス学的検査(PCR 検査、ウイル ス分離)による病原診断がなされており、確定 診断例のみが報告されている。麻疹流行時の 2008 年には220 例の疑い報告で、41 例の確定 診断例がみられたが、2009 年には著明に減少 し、さらに2010 年では25 例の疑いが報告され たが、確定診断例は0 であり、2011 年2 月現 在麻疹の発生はない。
表1 麻疹全数把握実施とMR ワクチン接種率
MR ワクチン接種率の推移をみると、年々上 昇傾向は見られるものの、2009 年では1 才児 (1期)の接種率は91.5%(全国平均 93.6%)、 5 才児(2 期)88.6 %(同、92.3 %)、中学1 年 生(3 期)84.4 %(85.9 %)、高校3 年生(4 期)は76.9 %(77.0 %)と、いずれも全国平 均以下である。この様な状況下では対象者数約 17,000 人の6.0 〜 20.0 %(1,000 〜 2,400 人) の未接種者が各期毎に蓄積されることが予測さ れる。2012 年の麻疹排除の年度になってかなり の未接種者が存在することになり、地域におけ る集団免疫力(herd immunity)が低下し、一 旦麻疹が移入されると、またたく間に蔓延し流 行することが危惧される。はしか‘0’プロジェ クトは、2012 年麻疹排除の記念事業として、5 年間蓄積された未接種者(1 回の接種も受けて いない者および1 回だけの接種者)への追加措 置として、各市町村の公費負担によるMR ワク チン接種を要望しているところである。
3)高校生へのMR ワクチン接種の前倒し実施
2010 年7 月28 日〜 8 月20 日に開催された 「美ら島沖縄高校総体2010」に向けて、高校生 全員へのMR ワクチンの前倒し接種が実施され た。これは全国から参集する高校生に麻疹が発 生しないように、たとえ発生しても蔓延しない 様にあらかじめMR ワクチンを接種していただ くことを各市町村に依頼したところ、県内全て の市町村の理解と協力のもとで前倒し接種が実 施され、接種率は平均45.5 %に達した。これ は予想外の高い接種率であり、「2010 年美ら島 高校総体」は麻疹の発生もなく、成功裡に無事 終了した。大会実行委員会が全国都道府県宛 に、出場する全選手の体調管理の一環として、 麻しんワクチン接種の確認について依頼文書を 発送したことは高く評価される点である。
4)公開シンポジウム「2012 年はしか排除を 目指して−学校との連携のもとに−」の開 催について
今年は、はしか‘0’プロジェクトの10 周年 の節目にあたるので、キャンペーン週間の5 月 12 日(木)午後1 時より、浦添市てだこ小ホー ルにて、上記の公開シンポジウムを開催する予 定である。本県のMR ワクチン接種の2 期・3 期・4 期の接種率が低迷していることを考慮し て、今回はとくに県教育委員会と共催で、教育 現場を始め関係機関との密接な連携によるMR ワクチン接種率向上に重点をおいて開催され る。基調講演に文部科学省のスポーツ少年局学 校健康教育課学校保健対策専門官の有賀玲子 先生を招へいし、ご講演いただくことになって いる。さらに5 名のシンポジスト(小児科医、 保健所医師、市町村関係者、沖縄市教育委員、 高校教師)によるシンポジウムも予定されてい る。県医師会員をはじめ、関係者多数のご参加 を期待している。
おわりに
県内におけるMR ワクチン接種率を向上させ るには、麻疹に対する正しい認識とワクチン接 種の重要性についての啓発活動を平常時に継続 して実践していくことが重要である。