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皮膚科における食物・薬物アレルギーの診療
−アレルギー週間(2/17 〜 2/23)によせて−

宮城拓也

琉球大学医学部皮膚病態制御学講座
宮城 拓也

【はじめに】

食物アレルギーは原因食物を摂取した後に免 疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状 が惹起される現象と定義されている。食物アレ ルギーは表1 に示すような臨床型に分類され、 その症状は皮膚、消化器、呼吸器を含めた全身 に生じる1)。そのうち、食物によるアレルギー 症状が生じる最も頻度が高い臓器は図1 に示す ように皮膚粘膜である1)。そのためアレルギー 反応が生じると高頻度に皮膚症状を呈するた め、患者は自発的にまたは紹介され皮膚科を受 診することが多い。そのアレルギーの代表的疾 患が蕁麻疹(じんましん)である。

表1.アレルギーの臨床病型分類 参考文献1 より

表1.
図1.

図1.アレルギーの臨床症状の頻度 参考文献1 より引用

一般的に蕁麻疹とは、写真1 に示すような膨 疹、紅斑を伴う一過性、限局性の皮膚の浮腫が 出没する疾患であり多くは痒みを伴う。通常、 皮疹は24 時間以内に消退し色素沈着、落屑な どの続発疹を伴わない。また、皮膚ないし粘膜 の深部を中心に限局性浮腫を生じるものを特に 血管性浮腫と称する。蕁麻疹は表2 に示すよう な病型に分けられ、その原因は食物や薬剤に限 らない2)。実際の臨床でも、蕁麻疹を生じた患 者で食物や薬剤アレルギーを疑われ当科を受診 し、負荷試験の結果、コリン性蕁麻疹やアドレナリン性蕁麻疹と診断した症例も存在するため 蕁麻疹の診断には注意を要する。

本稿では食物アレルギーの特殊型で即時型の 反応を示す食物依存性運動誘発アナフィラキシ ーfood-dependent exercise-induced anaphylaxis(FDEIA)の診断を含めた、食物や薬剤 の負荷試験の実際と一般的な食物・薬剤による 即時型のアレルギーの診断と治療について概説 する。

写真1.

写真1.負荷試験により生じた前胸部の蕁麻疹の臨床写真

表2.蕁麻疹の分類 参考文献2 より引用。一部改変

表2.

【即時型アレルギーの診断】

即時型(食物)アレルギーを起こす原因物 質の同定は治療を行うための必須事項である。 一般的な即時型アレルギー検査には血液にて 血中抗原特異的I g E 抗体を調べるI g E - Capsulated hydrophilic carrier polymer Radioallergosorbent test:IgE CAP RAST 法が行われている。しかし、血中抗原特異的 IgE 抗体が陽性であっても食物アレルギーの 症状が出現するとは限らないため、血液検査 の結果のみによる安易な診断で食物制限を勧 めることは控えるようガイドラインでも示唆 されている3)

血液検査以外の検査としてはプリックテスト やスクラッチテスト、皮内反応テストといった 皮膚を利用した検査や、実際にアレルギーの存 在が疑われる食物あるいは薬剤を直接、経口的 に負荷しアレルギーの有無を判定する経口負荷 試験が挙げられる。現在の所、原因物質を特定 し確定診断をつけるために最も信頼性の高い検 査は経口負荷試験である。

そのため当科では食物あるいは薬剤アレルギ ーが疑われる症例では診断のために経口負荷試 験を行っている。また当科では薬剤アレルギー を有する症例に対し被疑薬以外の安全薬を確認 する目的にも経口負荷試験を行っている。ま た、食物アレルギーの特殊型であるFDEIA の 診断のためには経口負荷試験に加え運動負荷試 験が必須である。

このようにアレルギーに対する様々な検査が 存在するが、これらの検査は全て食事歴や症状 が生じた際の状況を含めた詳細な問診が行われ ていることが前提で行われるべきである。

【即時型アレルギーの治療と予防】

アレルギー症状を認める際の治療で最も重要 な点はその重症度を正確に判断することであ る。重症度判定は以下の表3 に示すグレード分 類が簡便かつ有用である4)。症状がこの表にお けるグレード1〜2で留まり、かつ皮膚のみに 症状が留まる場合は軽症と判断し抗H1、H2 ブ ロッカーの使用のみで経過観察してもよいが、 グレード3 以上の症状を認める場合はアドレナ リンの筋注を施行すべきである。また、グレー ド2 の症状であっても皮膚以外の臓器に症状が 及ぶ場合も積極的にアドレナリンの筋注を検討 すべきである。これは、表4 に示すように症状 出現からアドレナリン投与まで経過した時間に より予後が異なることと、アレルギーを生じる症例は小児や若年者に多く、アドレナリンの使 用による重篤な副作用を生じる可能性が低いこ とから、アドレナリンの使用によってもたらさ れる効果が副作用のリスクを上回ると考えられ るためである5)。そのような背景から携帯型の エピネフリンの注射薬であるエピペンがアメ リカでは保険適応となっており、日本でも早期 の保険適応が強く望まれる。

表3.アレルギーのグレード分類 参考文献4 より引用 一部改変

表3.

表4.蜂アレルギーにおけるアドレナリン投与までの時間 と予後 参考文献6 より引用 一部改変

表4.

即時型アレルギーの治療でH2 ブロッカーを 使用する理由は皮膚のヒスタミン受容体には H1 受容体のみならずH2 受容体も存在するため である。また、アドレナリンの大腿前外側への 筋注が推奨されるのは図2 に示すように注射後 のアドレナリンの血中濃度に差があるためであ る6)。なお、急性期におけるステロイドの投与 は確立されたエビデンスが存在せず、治療の第 一選択薬とすべきではないが、投与を積極的に 避けるべき根拠となるデータもないため当科で は抗H1、H2 ブロッカーと併用でステロイドを 使用している。

図2.

図2.筋注と皮下注の場合のアドレナリンの血漿濃度 参考文献6 より引用 一部改変

もちろん、原因が特定された場合はその原因 物質の除去が最も有効な予防法であり治療法で もある。そのため、原因物質の特定が治療とし て最も重要である。特にFDEIA は原因物質摂取 後の運動を控えるだけで症状を抑えることが可 能であり、確定診断をつける意義は非常に高い。

【FDEIA について】

食物依存性運動誘発アナフィラキシー (food-dependent exercise-induced anaphylaxis: FDEIA)は,1979 年にMaulitz らによ り食物摂取が関与した運動誘発アナフィラキシ ー(exercise-induced anaphylaxis ; EIAn) として初めて報告され,その後1983 年にKidd らがFDEIA と命名した7)。報告により差はあ るが、原因物質を摂取後、4 時間以内に運動す ることによって生じるとされ、日本人における 原因食物としては小麦が60 %程度を占め、次 いでエビやイカがそれに続く7)。現在、小麦に よるFDEIA の原因抗原としてω5‐グリアジ ン、高分子量グルテニンが挙げられており、前 者が約80 %、後者が残りを占めるとされてい る8)。これらの抗原特異的IgE 抗体の検出が診 断に有用ではあるが、その両者が検出されない FDEIA の報告もあり確定診断には依然、運動 誘発試験が必要である9)

FDEIA の治療はもちろん、原因食物をさけ ることであるが、原因として頻度の高い食物が 小麦であるため完全に除去することは難しい。 そのため診断後は食後4 時間以内の運動を避け ることや、FDEIA の発症閾値を下げるとされ るアスピリン含有食物と一緒に小麦製品をとら ないようにするといった生活指導が必要となる。

【負荷試験の実際】

現在、2009 年に経口負荷試験標準化ワーキ ンググループから提唱された食物アレルギー経 口負荷試験ガイドライン4)が存在するがこれは 主に小児を対象にして作成されたため、厳密に いえば成人を対象とした経口負荷試験のガイド ラインは存在しない。成人は小児と比べ、アド レナリンとの併用に注意を要する抗鬱薬(三環 形抗鬱薬やMAO 阻害薬)や効果を減弱するβ ブロッカーを内服していることが多く、またア ドレナリン投与が原則として禁忌とされる甲状 腺機能亢進症や頻脈性不整脈の既往を有する率 も高い。当科では独自に負荷試験適応患者の基 準を設けているが、今までのところ、適応外と なりプリックテストのみで終了した症例は1 例 のみである。しかし今後もこのような症例が予 想されるため成人における負荷試験のガイドラ インの制定が強く望まれる。

【最後に】

現在、FDEIA の報告は国内でも160 件以上 にのぼりその一般的な認知度は高まってきてい ると思われる。最近一部の石鹸に含まれる加水 分解小麦にて感作されたと思われるFDEIA の 症例の報告9)もあり、今後は小麦による F D E I A がさらに増加する可能性が高い。 FDEIA は食物アレルギーの中でもショックを 来たしやすいため、FDEIA が疑われる患者が 受診した際は可能な限り誘発テストを行い確定 診断をすることが重要であると思われる。

【引用文献】
1)海老澤元宏、他:食物アレルギーの診療の手引き 2008.厚生労働科研究班より引用.
2)秀道広、他:蕁麻疹・血管性浮腫の治療ガイドライ ン.日皮会誌,2005;115,703-705.
3)西間三馨、他:アレルギー疾患 診断・治療ガイドラ イン2007.日本アレルギー学会,2007;331-338.
4)宇理須厚雄、他:食物アレルギー経口負荷試験ガイド ライン2009.日本アレルギー学会,2009.
5)Barnard JH.Nonfatal results in third-degree anaphylaxis from Hymenoptera stings, J. Allergy 1970;45:92-96.
6)Simons FE, et al. Epinephrine absorption in adults. Intramuscular versus subcutaneous injection. J Allergy Clin Immunol 2001;108:871-873.
7)Morita E et al.Food-dependent exercise-induced anaphylaxis. J Dermatol Sci 2007; 47:109-117.
8)森田栄伸、他.FDEIA(food-dependent exerciseinduced anaphylaxis)抗グリアジンIgE 抗体の検出,臨 皮2007;61:52-55.
9)千貫祐子,他:石鹸中の加水分解小麦で感作された小 麦依存性運動誘発アナフィラキシーを発症したと思わ れる3 例,日皮会誌2010;120:2421-2425.