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平成22 年度第3 回沖縄県・沖縄県医師会連絡会議

常任理事 安里 哲好

去る11 月18 日(木)、県庁3 階第2 会議室 において標記連絡会議が行われたので以下のと おり報告する。

議 題

小児における長期人工呼吸管理を要する症 例の後方支援医療体制について(県医師会)

<提案要旨>

医療の進歩に伴い小児重症疾患(超低出生体 重児、先天奇形、代謝異常、先天性心疾患、 骨・筋疾患、頭部外傷など)の救命率は向上し ている。しかし原疾患や合併症などにより人工 呼吸器から離脱する事ができず、全身状態は安 定しているものの、管理のため長期間(数ヶ月 〜年単位)入院を要する症例が増加している。 このような症例は県立南部医療センター・こど も医療センターだけではなく、他の公的医療機 関も同様で全県的な問題である。本来の役割で ある急性期病院の機能に影響を及ぼし、小児医 療提供体制の大きな問題となっている。

県内にはこれら慢性期になった症例の長期人 工呼吸管理を行っている施設(名護療育園、整 肢療護園、沖縄療育園、沖縄小児発達センター など)はあるが、成人の後方支援病院と異な り、ベッド数や施設のマンパワーが十分でない ため、急性期医療機関から転院することが非常 に困難である事が現状である。

これらの状況をふまえ、長期人工呼吸管理を 必要とする症例を受け入れる後方支援医療施設 の拡大や新設に関し、医療行政や県医師会で検 討する事を要望する。

県立南部医療センター・こども医療センター より、上記の提案があるので県福祉保健部にて 現状等を確認のうえ、小児に限らず成人も含め た長期人工呼吸管理を必要とする症例の受け入 れ等、後方支援医療施設の拡大や新設等の改善 についてご検討いただきたい。

<国保・健康増進課より回答>

小児重症疾患に係る後方支援医療施設の受入の 現状等について

平成22 年9 月現在の状況について、国保・ 健康増進課で、周産期医療計画策定資料とし て、県内5 箇所の重度心身障害児施設の調査を 行った。

その結果、県内5 箇所の重度心身障害児施設 の病床は、

<入所の状況>(定員数)

名護療育園(80 人)、琉球病院(80 人)、 周和園(50 人)、沖縄療育園(100 人)、若夏 愛育園(90 人)で入所定員計400 人となっ ており、現在の入所者は387 人とほぼ万床状 態にある。

入所者のうち1 歳未満の乳児は0 人で、1 歳 〜 6 歳未満の幼児は4 人、他383 人は6 歳以上 となっている。

入所者387 人中、人工呼吸管理を行っている のは8 人(2.1 %)となっており、経管栄養を 行っている入所者は104 人で入所者の46.2 % となっている。

今後、入所、通所、ショートステイを受け入 れるにあたり必要な条件として、1)入所に係る 病床数の増、2)看護師の増員、3)診療、看護ケ アに係る技術研修、4)機器類の整備等が必要と の声がある。

重度心身障害児施設において、急性期医療機 関から高度なケアを要する小児の受け入れにつ いて、厳しい現状にあることが調査結果から伺 える。

今後、人工呼吸管理等医療ケアを要する症例 を受け入れるに当たっては、医療機関から地域 移行を推進するための入院児支援コーディネー タ等の人材確保、重度心身障害児施設の強化、 高度な医療ケアに対応するための技術研修に取 り組む必要がある。

<障害保健福祉課より回答>

後方支援医療施設の拡大や新設等について

県内の医療型施設の設置状況は、全国的に見 て少なくなく、重度障害児は、手帳発行数から 判断すると、施設に入所している方よりも在宅 で生活している方が多いことが伺える。

障害児に対する医療型施設は、生活の場であ り、そのため長期的な利用となっており(18 歳 を超えても障害児施設での処遇が認められてい る)、ほぼ満床の状態である。

また、医療型施設ではあるが、医療設備や医 療スタッフ体制などの受入体制などから重度医 療ケアを必要とする障害児の受入の大幅増は困 難である。そのため、医療設備や医療スタッフ 体制強化による受入増の検討は働きかけていき たいと考えるが、現実問題として、医療型施設 の拡大や新設等だけでは、全ての医療が必要な 児童への対応は困難と考える。

医療ケアが必要な児童への対策については、 地域での福祉・保健医療体制を検討する場にお いて、地域にある資源を有効に利用した総合的 な検討を進める必要があると考える。

県としても、地域において医療ケアが必要な 児童への対策が推進されることに協力していき たい。

<医務課より回答>

後方支援医療施設の拡大や新設等に係る病床の 増床について

県内の名護療育園、整肢療護園、沖縄療育園、 沖縄小児発達センターなどは、一般病床に係る 既存病床数に算定されていないが、沖縄県の二 次医療圏においては全て病床の過剰地域であり、 基本的には病床の増床は厳しいと思われる。

ただし、小児重症疾患の患者の増加や、 NICU の状況が厳しいことを考慮すると、今 後、特例病床として取り扱うことが可能かどう か、検討する必要性が出てくると思われる。

また、医療的ケアを必要とする子供への対応 イメージとして、急性期病院、回復期病院、診 療所、重度心身障害児(者)施設、訪問看護ス テーション、その他在宅を支える福祉サービス 等について、それぞれ実態や課題が説明され対応策への検討例として下記事項をあげた。

  • ・回復期病院等に重度の子供を受け入れる病棟設置が可能か(小児科医不足)
  • ・急性期病院に重度の子供対象の病棟設置可能か(7 対1 の関係整理必要)
  • ・診療所での訪問診療を増やすことが可能か(診療所が少なく、時間がかかる)
  • ・子供対応の訪問看護ステーションを増やす
  • ・重度心身障害児施設での一時預かりサービスの充実(病床、マンパワーの確保)
  • ・その他、福祉サービスの充実、強化

以上の検討課題を含め、今後実施予定の福祉 サービスに関する調査や医療機能調査(医療計 画)等を基に検討する必要があると説明された。

<主な意見等>

■福祉サービスと医療サービスとの兼ね合いや 或いはそれを担う事業所をどのように誘導的 に作っていくか等の大きな課題があり、全国 的にもそれらの検討の場が少ないのが現状。 また、該当する施設を増やすためのインセン ティブ導入に課題を残す(福祉保健部)。

□在宅でみると医療保険と介護保険両方を使う ので医療費は高くなる。本件に関しては費用 負担が大きくなると考えられるので、県では なく国で検討すべき(県医師会)。

■医療必要度が低くなれば、子供は家庭に帰す のが前提である。安定した小児は基本的に家 に帰す仕組みづくりが必要。また、家族が旅 行や何らかの用事があれば、ショートステイ 等で対応できるようにしたいが、誘導策は非 常に難しいのが現状(福祉保健部)。

□成人はレスパイトで対応できるが、小児だと 小児科医がいなければ困る等の問題が発生し 難しい状況にある(県医師会)。

□南部医療センターには何名ぐらいNICU の該 当患者がいるのか。中部病院ではNICU を増 やした経緯がある(県医師会)。

■ NICU は短期で後方支援施設に移すが、家に 帰したけど再度連れてくるといった繰り返し が発生している(福祉保健部)。

■ NICU で治療を受け安定するとGCU や一般 病棟に移される。小児関連のベッドの回転が 悪くなる。在宅で人工呼吸管理を要する小児 は100 名を超えており、バックアップ体制の 強化が必要となってくる(福祉保健部)。

■在宅における医療ケアの必要性等についての 調査を近日中に実施することを考えている。 その中で課題を抽出していきたいと考えてい る(福祉保健部)。

□当該問題は、沖縄だけに限らず全国的な問題 となっている(県医師会)。

■診療所で人工呼吸管理を行うのは難しいか(福祉保健部)。

□ 24 時間体制での管理が必要なので難しい(県医師会)。

□先ほどの報告で施設における人工呼吸管理は 8 人に対し、在宅では100 人を超えているの は意外である(県医師会)。

■この問題は非常に大きく重要な問題と捉えて おり、議会にも取り上げたことがある(福祉 保健部)。

□訪問看護ステーションは、小児科医のバック アップ体制の下、受け入れているのが現状で ある(県医師会)。

■子供の対応施設が少ないという事は技術的な 要因があるのか、それとも別な要因があるの か。地域の中で増やしていけるような仕組み が出来ればよい(福祉保健部)。

■事業者を誘導する策が乏しいので、今後の大 きな課題である(福祉保健部)。

□医療型の療養病床20 床や40 床に対し、医師 1 名を配置するといったことは診療報酬上難 しいのか。また、病床規制の問題等(県医師会)。

■特例病床はしっかりとした根拠があれば医療 審議会にて審議可能だが、小児科医などのマ ンパワー等との兼ね合いもあるので慎重に行 う必要がある。また、一時預かり等は家族の 負担軽減にも繋がると考えられるので効果的 だと考える(福祉保健部)。

■実態調査をしながら、国に対しての要望等を検討することとし継続審議とさせていただき たい(福祉保健部)。

□ NICU も特例病床として認められると考えて 良いか(県医師会)。

■エビデンスを示せれば医療審議会にて審議可 能である。また、それを国に対して同意を得 る必要がある。そうすれば病床過剰地域であ っても特例病床として認められる可能性はあ る(福祉保健部)。

印象記

安里哲好

常任理事 安里 哲好

今回の協議内容は高度医療の影の領域を垣間見た感がした。解決策はかなり難しい印象を受けた が、当会においても、初めての課題なので提案し、現状分析をも含め可能な対策案を模索してみた。

病状が落ち着いて、急性期病院に入院している長期人工呼吸管理を要する小児症例の全体像 (数も含め)は十分に把握されていない。県内5 か所の重症心身障害児施設に387 人(定員400 人)が入所しており、人工呼吸管理となっているのは8 人(2.1 %)とのこと。それらの施設は医 療行為が行われる病床なのか生活の場なのか不明瞭であるが、いや両方を兼ねているのであろう。 一方、在宅にて人工呼吸管理を要する小児は100 名を超えている現状があり、母親の愛と努力 (看護師と一部同様な看護を身につけ)に負うところがほとんどであろう。

専門性の違う多くの医師が成人を中心とする一般病床や医療型療養病床を有する医療機関(後 方支援医療施設)に従事しているのと違い、小児科医の専従が必要とされるであろう。1)急性期 病院の一部をその病床に変更することが比較的容易であろうが(平均在院日数12 日、稼働病床利 用率96 %前後の現状はあるが)、特別に病床を増やす方法を模索する必要もあろうかと考える。 しかし、病院内医療の機能分化(混合病棟)となり、本来の急性期病院の趣旨から相反する。2) 次に、急性期病院で無い公的医療機関の病床を利用する場合、小児科医の確保と看護師等の技術 研修が必要とされよう。3)民間病院が一般病床や医療型療養病床を、長期人工管理を要する小 児を対象とした長期療養病床に利用する時、小児科医の確保と診療報酬制度において担保されて いるかが問題となろう。4)多くの病床が利用されていて、病床不足の状態なら、特別に南部保健 医療圏に50 〜 100 床前後を認可し、加えて国や県から補助を得て、民間が運営して行くのも一つ の案であるが、そこでも複数の小児科医の確保と看護師等の技術研修が必要となろう。5)今まさ に、現時点的に、この問題の主体となっており実績のある在宅療養を継続(・拡大?)すると同 時に、母親や家族の負担を軽減するために、訪問診療・看護・介護やショートステイ等の支援シ ステムの連携と充実が早急に望まれる。

終わりの近い老人介護と違い、母親(を中心とした)による、数十年にわたる長い看護と介護 が続けられて行く、その中で社会の共通資本はどう利用されて行くのか、今一度ひも解いて行く 必要があるのではと強く感ずると同時に、国家的・公的支援や制度上の策定無しには立ち行きが たい課題だと思う。