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平成22 年度第41 回全国学校保健・学校医大会

理事 宮里 善次

去る11 月20 日(土)午前10 時より、群馬 県ベイシア文化ホールにおいて、『守ろう育て よう子どもたちの健康と生きる力−学校医から のメッセージ−』をメインテーマに標記大会が 開催された。

午前の部は5 分科会が開催され、各県医師会 から応募のあった演題について、発表と活発な ディスカッションが行われた。各分科会の内容 は、第1 分科会が「感染症・予防接種・生活習 慣病」をテーマとした10 題、題2 分科会が 「学校検診・健康教育」をテーマとした11 題、 第3 分科会が「こころ・性教育等」をテーマと した10 題、第4 分科会が「耳鼻咽喉科」をテ ーマとした10 題、第5 分科会が「眼科」をテ ーマとした11 題となっている。

午後の部では、都道府県医師会連絡会議が行 われ、次回大会を静岡県医師会が担当すること に決定された。第41 回学校保健・学校医大会 開会式、日本医師会長表彰式では、群馬県医師 会の鶴谷嘉武会長より担当県としての挨拶、日 本医師会の原中勝征会長より主催者としての挨 拶が述べられた後、日本医師会長表彰の授与式 が執り行なわれた。表彰式では、学校医10 名、 養護教諭10 名、学校関係栄養士9 名に対し、 日本医師会長より表彰状が授与されるととも に、群馬県医師会長より記念品が贈呈された。

その後、「学校におけるアレルギー疾患の現 状と取り組み」をテーマとしたシンポジウムが 行われ、小児科や皮膚科の専門医、教育委員会 主管課より、それぞれの立場からの意見が述べ られた。

次いで、曹洞宗東善寺住職の村上泰賢氏よ り、「幕府の運命、日本の運命−小栗上野介の 日本改造−」と題した特別講演が行われた。

シンポジウム並びに特別講演の概要について は、以下のとおり。

シンポジウム

テーマ「学校におけるアレルギー疾患の現状と 取り組み」

座長 群馬大学名誉教授/希望の家附属北関東 アレルギー研究所所長 森川昭廣

基調講演
「学校生活管理指導表に基づくアレルギー疾患の取り組み」
群馬大学大学院医学系研究科小児科学分野
教授 新川浩一

始めに、「アレルギー疾患においては、疾患 をコントロールする上で長期管理を要し、学校 の理解や協力も必要となる。しかし、これま で、子どものアレルギー疾患を学校で理解・協 力してもらうのに適当な連絡手段がなく、保護 者の訴えのみに限られていた。今後は、『学校 のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライ ン』や『学校生活管理指導表』を大いに活用す ることで、教職員・保護者・主治医の三者間 で、子ども達のアレルギー疾患に関する詳しい 情報を把握、共有ができ、その結果、子ども達 が安全安心な学校生活が送れ、Quality of Life 向上につながることが期待される。」との発言 があり、『学校のアレルギー疾患に対する取り 組みガイドライン』普及に向けての問題点や改 善点等について、群馬県の取り組みを中心に講 演が行われた。

『学校のアレルギー疾患に対する取り組みガ イドライン』の刊行に至った経緯について、 「アレルギー疾患を持つ児童生徒の中には、学 校生活において種々の制約を要し、時には生命 に関わるようなイベントが起こることもある が、学校管理上の問題点としては、アレルギー 児に対する学校生活上統一した管理基準が無い ことであり、主治医や保護者、教職員間で疾患 に対する意識や対応に隔たりが生じることがあ った。このような状況を鑑みて、文部科学省に おけるアレルギー疾患に関する調査研究委員会 では、取り組みを進めるうえでの要綱を作成 し、また個々の児童への取り組みを医学的根拠 に基づいた方法で実施し、教職員に対してはア レルギー疾患に対しての知識を深め、身に付け る仕組みを作ることを提言した。財団法人日本 学校保健会は、その提言を受けて『学校のアレ ルギー疾患に対する取り組みガイドライン』を 平成20 年3 月に刊行した。」と説明があった。

しかし、『学校のアレルギー疾患に対する取り 組みガイドライン』が刊行されてから2 年が経 過し、「学校生活管理指導表」を用いて運用す る自治体も徐々に増えてきているが、本ガイド ラインが全国隅々まで普及し活用されるまでに は、行政、医師会、教育委員会等のより一層の 努力が必要であると意見され、現在、学校側や 医療側から挙げられている様々な問題点等を解 決することは、本ガイドラインが普及し浸透す る上で重要であり、このような取り組みにより、 子ども達が安全安心な学校生活が送れるように 整備していくことが望まれるとまとめられた。

シンポジウム

「学校における気管支喘息児の問題点とその対応」
重田こども・アレルギークリニック院長
重田誠

始めに、「小児気管支喘息の患者数は近年増 加傾向にあるが、喘息治療薬の進歩や小児気管 支喘息治療・管理ガイドラインの整備・普及等 により治療成績は向上し、患児のQOL は以前 に比して改善してきている。しかし一方で、長 期予後調査の結果からは、小児気管支喘息は以 前考えられていた程予後は良好ではなく、成人 期まで持ち越してしまう症例も少なくないこと が分かっている。学校における喘息児の生活管 理に関しても、治療の進歩により、以前のよう に発作のために長期欠席や運動制限等を必要と するような症例はほとんどなくなってきている が、体育等での運動誘発喘息や林間・臨海学校 等の学校行事における喘息発作の問題等は、依 然として学校において大きな問題である。」と 発言があり、高崎市における、養護教諭、担任 教諭、患者家族へのアンケートから、現在の学校における喘息児の生活管理上の問題点とそれ に対する対応について見解が述べられた。

アンケート調査の結果から、「養護教諭や担 任教師が把握している喘息児の状態と本人の状 態には解離があり、児の発作の状況や運動誘発 喘息の状態を過小評価している傾向がある。そ のことが保護者の不安感の要因になっているこ とが示唆される。また医療機関との連携に関し て問題があり、学校現場での要求や不安に医療 機関側が答えられていないことも問題である。」 と意見され、全ての喘息児が健康で有意義な学 校生活を送るためには、主治医、学校医、学校 教諭、養護教諭、校長、教育委員会等が連携を 持ち、情報交換と喘息治療のための理解を向上 させる体制が今後構築されていくことが臨まれ ると提起された。

「アトピー性皮膚炎は増えているか?視て、
  触れた30 年間の学校健診から」
倉繁皮ふ科医院院長 倉繁田鶴子

始めに、「最近我が国では、アトピー性皮膚 炎の治癒率が思春期から成人にかけて著しく低 下し、その結果20 歳前後の罹患率が確実に上 昇してきている。緊急の課題となる小児期から の対策に学校保健はどう関わることができるの か。」と発言があり、30 年に及ぶ皮膚科学校健 診から得られた結果と今後の課題についての見 解が述べられた。

アトピー性皮膚炎の罹患率の推移について、 「小学校就学、入学時におけるアトピー性皮膚 炎の比率は、昭和57 年の3.2 %と比較して平 成8 年以降は7 %から10 %と一定して高い数 値が続いており、客観的に見てもアトピー性皮 膚炎は増加している。中学校1 年生について は、アトピー性皮膚炎は小学生より減少してい るが、25 年の間徐々に罹患率は上がっており、 小学生に比べ一段と変化が明らかであり、近年 の成人型、特に重症アトピー性皮膚炎増加との 関連が想定される。」と問題が提起され、「成人 型アトピー性皮膚炎への移行を防ぐため、“中 学期”アトピー性皮膚炎にどの様に対処するか 皮膚科学校保健にとって今後非常に重要な課題 になる。」と意見された。

「学校生活における食物アレルギー・アナフィラキシー群馬県における現状と対応」
伊勢崎市民病院副医療部長兼小児科主任
診療部長 前田昇三

始めに、「学校生活の中で食物アレルギーの 発症を予防し、万一症状出現時には即座に対処 できるように、児童生徒個々の食物アレルギー の原因や症状について学校側が状況を充分把握 しておく必要がある。その為に、アレルギー疾 患学校生活管理指導表は重要な役割を担ってい る。今回、群馬県伊勢崎市の小中学校における 食物アレルギー児童生徒の実態と、群馬県内科 医会の食物アレルギーに対する対応について調 査したのでその結果を報告する。」と発言があ り、アンケート調査の結果と今後の課題につい ての見解が述べられた。

アンケート調査より、学校生活の中で食物が 原因でアレルギー症状を呈する児童生徒は少な くないことが判明したと報告があり、症状的に は蕁麻疹のような皮膚症状が主だが、喘息を伴 う呼吸器症状やショック症状等の重篤な症状を 呈する場合があり、十分な注意が必要であると 意見された。また、医師へのアンケートで、アナ フィラキシーショックを呈した症例が5 名いた が、エピペンは使用されておらず、学校における エピペンの使用について、教育委員会と十分協 議し、もしもの時に教師が躊躇なく注射できる 環境を作る必要性があるとの見解が示された。

「学校におけるアレルギー疾患への対応」
群馬県教育委員会スポーツ健康課主任
指導主事 高橋慶子

始めに、「群馬県教育委員会では、群馬県医 師会、群馬大学大学院と連携し、本県としての 対応について検討し、学校において適切にアレ ルギー疾患へ対応するよう指導を行っていると ころである。」と発言があり、群馬県教育委員 会におけるアレルギー疾患への対応内容について報告があった。

群馬県教育委員会では、平成20 年度より、 「アレルギー疾患対応検討委員会(会議)」を開 催し、アレルギー疾患をもつ児童生徒が安心し て学校生活を送ることができるよう、学校での 対応等について検討を行っていると報告される とともに、アレルギー疾患用学校生活管理指導 表(群馬県版)の活用を図る為の手だてとし て、教職員等への周知や啓発資料の作成、医師 が記入の際に参考となる手引きの作成等の活動 を行っていると報告があった。

指定発言

群馬小児アレルギー親の会会長の古市久子氏 より、保護者の視点による指定発言があった。

特別講演

座長 群馬県医師会会長 鶴谷嘉武

「幕府の運命、日本の運命−小栗上野介の日本改造−」
曹洞宗東善寺住職 村上泰賢

小栗上野介は、世間にあまり知られていない が、その業績は賛嘆たるものがあるとして、小 栗上野介の様々な業績について、小栗上野介が 幕末に語った言葉「幕府の運命に限りあると も、日本の運命に限りはない」を引用した演題 による講演が行われた。

印象記

宮里善次

理事 宮里 善次

平成22 年11 月20 日、群馬県前橋市のベイシア文化ホールに於いて、第41 回全国学校保健・学 校医大会が、『守ろう育てよう子供たちの健康と生きる力―学校医からのメッセージー』をメイン テーマに掲げて開催された。

例年通り、午前中は第1 〜 5 分科会に分かれて演題発表が行われ、筆者は第一分科会の『から だ・こころ(1)』感染症、予防接種、生活習慣病を拝聴した。

感染症では、さすがに新型インフルエンザに関する発表が全てを占めた。京都府は季節型流行 時の休校は学校医の独自判断で学校長に助言していたが、新型の場合は京都市教育委員会と京都 市学校医会で協議し、学級閉鎖基準を作成。全欠席者数と学級・学年・学校閉鎖数の集計から最 長でも4 日間が妥当であったことが分かったと報告があった。

予防接種でも京都府から興味深い発表があった。

一年目のV、W期のMR 混合ワクチン接種率があまりにも低調なため、個別接種と並行してV 期の集団接種を施行(学校医、教師、行政担当者で協議し、市立中学校を会場とした)。結果2 年 目は97.5 %と95 %以上の目標値を達成できた。我が国で個別任意接種だけで接種率95 %に達す るのは困難である。行政担当者の判断に敬意を表したい。

生活習慣病部門では東京都医師会から気になる発表があった。

平成17 年度から5 年間にわたる東京多摩市の小学校5 年生と中学生(1 〜 3 年生)のデータで ある。女児では以前と比べて肥満の割合は減ったが、逆に痩せのケースが増えており、年々増加 傾向にある。大人の女性のスレンダー指向が思春期の少女達に影響している可能性が高い。今後の検討課題であるが、成長期のダイエットは問題であると指摘があった。

午後はシンポジウム『学校におけるアレルギー疾患の現状と取り組み』が行われた。アナフィ ラキシー時のエピペン使用など時宜を得た質疑が交わされたが、目新しい議論は少なかったよう に思う。

個人的に興味を抱いたのは、アトピー性皮膚炎を発表した皮膚科医の発言である。

「一昔前まではアトピー性皮膚炎は皮膚科医にとって当たり前の病気で、当たり前に治療して いた。しかしながらマスコミによるステロイド療法への過剰反応で、現在ではあたかも難病のよ うな扱いである。またサードパーティーの業者等の参入などにより、EBM のはっきりしない治療 も多数出現している状態である。現在はアトピーを診断し治療を行う時、必要以上に気を使い言 葉を選ぶ。かと言って、以前と治療法が大きく変わったわけではない」

小児科領域では急性期で回復する疾患がほとんどで、慢性期でコントロールする疾患の割合は 高くない。そうした慢性疾患を診ている医師に何らかの精神的負担がかかるのは患者側にとって も不利益な事態である。

最後に幕末に活躍した小栗上野介に関する特別講演があった。幕府側についていた人物という ことと、研究者が数える程しかいなかったこともあり、これまでの評価は少ない。勝海舟が海臨 丸で太平洋を渡る前に、徳川幕府の公使として米国を訪問し、後の日本の発展に寄与した人物で ある。今後の研究で大きく評価されると思われる。興味のある方は講師の村上泰賢氏の著作をご 参照下さい。