沖縄赤十字病院脳神経外科
饒波 正博
平成19 年の夕張市の破綻とその後の状況は、 自治体の財政運営がいかに現在の、あるいは将 来の私たちの生活と直結しているかを教えてく れました。自治体もまた私企業と同じように破 産するものだと言うことが目の前で証明された わけです。
この事態を受けてクローズアップされてきた のが、自治体が経営する公立病院の民営化も含 む公共部門の経営の見直し問題でした。しかし ここで思いだしてほしいことは、介護領域で発 生した民間の福祉介護会社コムスンの不正請求 事件であります。処分後に明かされたその経営 の内実、職員に対するノルマ導入や一部で行わ れていた劣悪なサービス提供を見てもわかるよ うに、利潤追求を目的とする民営化はオールマ イティーの解決法ではありません。ある部門、 これは医療も含む公共の部門と言いなおしても いいわけですが、この部門においては市場経済 を導入してもうまく機能しないどころか、そう することで部門そのものが破壊されてしまう危 険性があるのだということがよく分かりまし た。そして破壊された場合に最も困るのは、ほ かならぬ私たちであるわけです。したがって私 たちは、この状況下で黙っているわけにはいき ません。しかし私は、語りだす前に公共部門に まつわる情報を読み解く能力(リテラシー)を まず身につけなければいけないと思うのです。
私が3 年前から所属している沖縄自治研究会 は、琉球大学教育学部の島袋純教授を中心とし た自由な集まりです。今回、約10 ヶ月かけて沖 縄県を含め県内9 自治体の財政分析を行い、こ の4 月に成果を「財政白書−大丈夫?あなたの まちの台所事情−」として刊行しました。この 勉強会を終えて驚いたことがあります。たった 10 ヶ月の勉強で身につけた浅はかな知識です が、その目で先の夕張市の財政資料に目を通し ますと、私でも明らかにおかしいと思われると ころが指摘できます。つまり、もし少し財政を 学んだ市民のチェックがあったのなら、夕張の 悲劇はあれほどまでひどくはならなかったので は、こんなことを考えています。公共部門の政 策の失敗は多大な被害を引き起こすだろうとは、 誰でも予想はつきます。これを未然に防ぐため には、前述したリテラシーを身につけた者が発 する幾重ものチェックが必要なのではないでし ょうか。そして私は、これを行うことも専門人 としての医師の務めの1 つだと考えております。
本文で紹介した、「財政白書−大丈夫?あな たのまちの台所事情−」で私は那覇市、用語集 を担当しました。皆様の御批評を請います。 noha-ma@gb4.so-net.ne.jp まで。