社会医療法人敬愛会中頭病院
臨床研修副委員長消化器内科部長兼栄養部長(NST 代表者)
石原 淳
当院は、臨床研修指定病院であり、有りがた いことに琉球大学のみならず、全国各地の大学 から毎年10 人以上(上限12 人)の若い(注: 時には、それ程若くない場合もある。)初期研 修医達がやってきます。臨床研修制度の開始当 初は、指導医もどうやって指導してよいのか手 探りの状況でしたが、年を経るにしたがい指導 医も成長し(?)また、当院で初期研修を行っ た後、後期研修医として残った医師達も徐々に 頼れる指導医的立場になり、初期研修医+ 後期 研修医+ スタッフ医師という屋根瓦方式の臨床 研修ができる様になってきました。初期から比 べると隔世の感があります。そういう意味で は、新臨床研修医制度は、大学医局への入局者 の減少等の問題点が指摘されており、制度の見 直しも予定されている様ですが、当院の様な民 間病院にとっては、むしろ利点の方が大きかっ たと考えています。
さて、今回、本誌広報委員会から「指導医が 研修医に対して研修を受けるにあたりどのよう な心構えを期待するか?」についてとのテーマ を与えられましたので、その点について書きた いと思います。
私が初期研修医に対して期待する心構えとし ては、月並みですが「様々なことに好奇心旺盛 になってほしい、卒後何年経っても・・・。」 と言うことです。患者さんを前にしたときに 「これは、私の専門外です。」とむげに診療でき る権利を放棄しないでほしい。換言すれば、患 者さんを臓器別に診ないでいつでも全身を診る 姿勢でいてほしいと言うことです。例えば私の 専門は、消化器内科ですが外来や入院で担当す る患者さんの多くは、複数の主訴や疾病を持っ ていることも多く、患者さんの様々な主訴に対 して、あれは、何科、これは何科と臓器別に分 けて考えた場合、他科への無用のコンサルトが 多くなり過ぎることが懸念されるからです。簡 単な問題点の場合、自分の専門外と思っても専 門家への引き継ぎが必要かどうかの判断を的確 にした上で可能な限りまず自分で問題点を解決 できないか?と努力すべきで専門外の臓器は、 診ないとの思考は止めるべきです。それを解決 する意味では、現在の臨床研修医制度で初期研 修の2 年間を多科ローテートすることは、とて も意味のあることだと思います。しかし、多科 ローテート研修の弊害(?)としてこの頃の研 修医は、医学部卒業までに自分の進むべき進路 を決定していない場合も多い様です。私のとこ ろへ回ってくる研修医や医学生に将来の進路を 尋ねても明確な返事が返って来ることは、むし ろ稀で内科系か?外科系か?すら怪しい人も多 いのです。「自分の進路くらい学生のうちに決 定しておけ!」と怒鳴りたい様な気持ちにもな りますが、当の私自身が現在の職場に就職する まで消化器内科医になりたいと言う意思を強く 持っていた訳ではなく、どちらかと言うと他力 本願に流される様に、何となく現在の道を決定 したことを思い出します。強い意志を持って自 分の進路を決定することが理想かもしれません が、案外何となく決めた道でもその人に合って いればいいものだと思います。幸い私の場合、 何となく決めた消化器内科の道が結果的に自分 の性にとても合っていました。消化器内科は、 内科と外科の中間的な科で内科的診断+ 小外科的処置があり、最近では、内視鏡治療も進歩し ているので高齢者や高リスクの患者さんに対し て診断をして内視鏡治療をすることも可能にな っています(例:早期消化管がんに対する ESD ・内視鏡的粘膜下層剥離術等)。患者さん が大きな手術を免れ何事もなかったかのように 楽に退院できたときの達成感は、何事にも変え られないものです。「患者さんに不要な手術を 受けさすまい。」と日々診療に励んでいるので す。研修医の先生方には、何科に進むにしても そういった患者さんから感謝される様な場面が きっとあると思います。そういうことを一度で も経験すれば、日々の仕事にも、もの凄く励み になるものです。現在の私は、日々のそういう 小さな充実感の積み重ねがあるからこそ仕事が 継続できている気がします。
もうひとつ、離島県である沖縄で医療を行う なら、一度は、離島、僻地で働く経験をしてほ しいと言うことです。私も卒後3 年目からの2 年間離島の一人診療所(現うるま市、当時の勝 連町津堅診療所)で勤務していました。一人診 療所勤務は、病院勤務では、気づかなかった自 分の弱点がとてもよく見えてきて、再度、病院 に戻ったときに勉強すべきことが何なのか?ハ ッキリわかる様になります。更に医者だけで医 療が行えるものでは、なく、患者-家族関係、 地域の福祉医療サービス等、多くのスタッフで 医療が成り立っているというような病院にいる だけでは、わからないことが見えてくると言う 意味で医師の幅を広げるよい経験になります。 初期研修期間も将来、離島に行くことが前提で あれば、自ずと研修の姿勢も変わってくるもの です。離島勤務は、少し回り道かもしれません が、決して無駄には、ならない貴重な経験なの です。
何の脈絡もなく思いつくままに書いてきまし たので、まとまりのない文章になってしましま した。私見ですが現在の研修制度は、なかなか いい研修制度であり、可能ならもう一度、現在 の研修制度で研修し直したいという指導医も多 数いらっしゃるのでは?と思っています。
研修医諸君に説教できる程、立派な指導医で もありませんが、時間がかかってもいいので、 それぞれ自分に合った道を確実に見つけて少し でも社会に貢献できる医師になって欲しいと思 います。