沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 9月号

新公益法人制度説明会

常任理事 真栄田 篤彦

去る平成21 年7 月16 日(木)14 時より本会 会議室において、今村 聡日本医師会常任理 事、伊藤和政トーマツコンサルティング(株) 中小企業診断士をお招きし、新公益法人制度の 概要並びに申請移行の実務等についてご講義い ただいたので下記のとおり概要を報告する。

説 明

今村 聡日本医師会常任理事

○改革の目的

今回の公益法人制度改革の目的は、1)民間に よる公益の増進、2)従来の公益法人制度の問題 点を解決することである。

※実質的に公益性の薄れたものや営利法人と 同様な活動しか行っていないような団体も 存在し、補助金や行政からの業務委託への 極端な依存体質や単なる天下りの受け皿機 関になりさがっている団体が多いなどの指 摘を受けて、国民による非営利活動の発展 を推進するために抜本的な改革を行う。

○新制度への移行の概要

平成20 年12 月1 日より、それまでの社団法 人・財団法人(民法34 条の公益法人)は特例 民法法人となり、平成25 年11 月30 日までの 期間に、公益社団・財団法人または、一般社 団・財団法人への移行手続きを行わなければな らない。この移行期間終了までに申請を行わな かった場合、または申請が認可されなかった場 合はその法人は解散とみなされる。

○公益認定の基準

T)公益目的事業比率

=公益目的事業の事業費が当該法人全体で発生 する費用の50 %以上を維持しなければなら ない。

※公益と収益・共益事業を半々に受け持って いる職員がいる場合、その人件費の半分を公益目的事業費に入れることができる。

※ある目的のために積み立てている積立額、 自己所有の土地を使用して公益事業を実施 する場合にその土地を借用した際に想定さ れる賃料、ボランティアの人件費、奨学金 がある無利息・低利融資の費用も公益目的 事業費に入れることができる。但し、一度 公益目的事業費に組み込んだら、外すこと はできない。

U)遊休財産規制

=目的の決まっていない財産(遊休財産)を持 ちすぎてはいけない。

※ 1 年分の公益目的事業費の額を超えてはな らない。

V)収支相償

=公益目的事業に係る収入がその事業の費用を 超えてはならない。

※原則儲けてはいけない。但し、多少の利益 を公益目的に使用することが認められる場 合もあるが、公益事業で出した利益を医師 会の財源に充てることはできない。

※この判定は二段階で行われ、事業ごと(医 師会病院、訪問看護ステーション、老人保 健施設etc :各事業が関連することが説明 できる場合は一つの事業として括ることが できる)と、事業全体で収支相償が成り立 っていることが必要。

W)公益目的事業財産の贈与

=万一、公益認定を取り消され、または返上し た場合、公益目的事業財産の残額を1 ヶ月以 内に他の公益団体、国・地方公共団体に贈与 しなければならない。

  • 1)公益目的事業から生ずる収入は全て公益目 的事業に使わなければならない。
  • 2)収益事業等から生ずる利益は2 分の1 以上 を公益目的事業に繰り入れなければなら ない。
  • 3)医師会などの会費収入は、使途を特定して 集めた会費はその特定の事業に充て、使途 を定めていない一般的な会費は2 分の1 が 公益目的事業の収入とする。
  • 4)特例民法法人からの移行時に公益目的事業 に使っている又は使うことが決まっている 財産はその旨を明示する。
○一般法人への移行と公益目的支出計画

一般法人へ移行する場合、移行登記を行った 時点における公益目的財産額を、計算上一定の 期間において公益目的のために段階的に使い切 る計画を立てなければならない。(これまで公 益法人として税制上の優遇等の恩恵を受けて積 み上げた財産であるため、公益のために使用し なければならないという考えから)その期間は 独自で決定できる(100 年でも可能)が、財産 額を使い切るまでの期間は「移行法人」扱いと なり、毎年財産額の報告を行政にしなければな らない等ある一定の制限を受けることになる。

支出計画の作成にあたっては、現在主務官 庁が「公益」と認めている事業(継続事業)に おける赤字事業、また今後の公益認定法に定 める公益目的事業にあたる赤字事業、公益目 的の寄付等を合算しこの金額で財産額を割り 算してその期間を設定すれば良いことになって いる。なお、将来別の事業が赤字になっても、 後から公益目的支出計画に追加することは認 められない。

○公益目的事業

= A 学術、技芸、善意その他の公益に関する 23 の事業に掲げる種類の事業であって、 B 不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与す るもの

医師会については、A は問題にならないと考 えられるが、問題となるのがB であり、この抽 象的な表現を具体的に17 の事業に区分したチェ ックポイントが内閣府より示された。しかしな がら、医師会共同利用施設がこの中に含まれて いないため、公益認定等委員会事務局による現 場の視察、ヒヤリングを行った結果、開放型病院、介護老人保健施設、訪問看護ステーション、 地域包括支援センターについては無条件ではな いが公益性について一定の理解を示している。

臨床検査センター、健診センターについて は、民間と違う点を示さなければならない。

公益性を判断する際の一般論として、1)不特 定多数の利益増進への寄与を明示、2)受益の機 会の公開(開かれた方法での開催の周知)、3) 「質」を担保する仕組み(専門家が講師である)、 4)特定の者の利益になっていない(講師への謝 礼が過大でない)をクリアしているかがポイン トとなる。

○公益目的事業の注意点

公益法人を目指す場合、公益目的事業比率だ けが重要ではない。

公益事業から生じた収益は、他の事業や管理 費の財源に回すことができないが、公益事業は 収支相償でなければならないため、事業の大部 分を公益事業としてしまうと管理費不足を生じ る可能性がある。

また、医師会事業の大部分を公益事業として おくと、公益認定を取り消された場合に失う財 産のリスクも高まることになる。

しかし、公益目的事業比率をギリギリ50 % 以上の状態としておくと、例えば行政からの補 助事業が減少したときに、50 %を割り込んで しまうこともあり得る。

○収益事業の注意点

公益法人が、公益性が認められない収益事業 を行う場合には、利益の50 %以上を公益に繰 り入れる義務がある。しかし、公益目的事業の 収入が多くなりすぎ、収支相償が成立しなくな ることがないようにしなければならない。また、 従来、収益事業の利益を全額管理費としていた 場合、50 %を公益事業に繰り入れた結果、管 理費に不足が生じないかどうかも検討しなけれ ばならない。

さらに、赤字体質の収益事業を継続し、赤字 がどんどん増加することで医師会の運営に不都 合が生じ、結果として公益事業が行えなくなる ことがないようにしなければならない。

○機関設計・定款

(1)機関設計

・社団法人には、社員総会の他、業務執行機 関としての理事を少なくとも1 名は置かな ければならない。

・理事会を置く場合、理事は3 名以上必要

・公益法人の場合、理事会の設置は必須

・理事会を設置する場合と会計監査人を設 置する場合には、監事を置かなければなら ない

代議員制度=内閣府は、一定の要件を充たすこ とで、以下の考え方による「代議員制度」の導 入を認めた。

・法人法上の「社員」を「代議員」とし、 「社員」たる「代議員」の選出を、選挙 権・被選挙権をもつ「会員」が行うことと する。

・社員たる「代議員」が構成する「代議員 会」は、法人法上の「社員総会」となる。

※なお、現在、各都道府県医師会における 代議員会では、日医会員ではない代議員 によって日医代議員が選出されている例も あるが、今後はこれを変えていかなければ ならない。各郡市区医師会においても同様 である。

○代議員制を採用するためには、以下の5 要件 が定款に定められていることが必要

1)「社員」(代議員)を選出するための制度 の骨格(定数、任期、選出方法、欠員措 置等)

2)各会員について、「社員」を選出するため の選挙(代議員選挙)で等しく選挙及び被 選挙権が保障されていること。

3)「社員」を選出するための選挙(代議員選 挙)が理事及び理事会から独立して行われ ていること。

4)選出された「社員」(代議員)が責任追及の訴え、社員総会決議取り消しの訴え等法 律上認められた各種訴権を行使中の場合に は、その間、当該社員(代議員)の任期が 終了しないこと。

5)会員に「社員」と同等の情報開示請求権を 付与すること。

理事=理事会設置型法人において、理事会を構 成。責任が従来より過重された。

(善管注意義務、忠実義務、法人への損害賠償 責任等)

(※代表理事(会長)、業務執行理事(副会長・ 常任理事)が業務を執行する)

理事会=業務執行の決定。理事会の職務の執行 の監督。理事の中から代表理事、業務執行理事 を選定・解職(※理事は社員総会(代議員会) で選任される)

※議決に加われる理事の過半数が出席し、そ の過半数をもって行う。この場合の代理出 席や書面による決議は認められない。

監事=理事の職務執行を監査。各事業年度の計 算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書 を監査。職務義務違反、職務怠慢等の場合、会 計監査人を解任できる。

この計画の作成にあたっては、現在実施中の 事業の中で黒字の事業は除くことができる。

※医師会が公益認定を受ける場合は、役員の 選任に以下の制限がかかる。

・他の同一の団体(公益法人等を除く)の 理事(監事)・使用人等相互に密接な関 係にあるものが理事(監事)総数の3 分 の1 以内

※政治連盟、医師協等との役員構成につい て注意が必要

税法上の非営利一般法人(税法上の収益事業の み課税)となるために必要な定款への記載事 項=

○非営利性が徹底された法人

1)定款に剰余金の分配を行わない旨の定めが あること

2)定款に解散時の残余財産が公益法人等の一 定の公益的な団体に帰属する旨の定めがあ ること

3)1)または2)の要件にある定数の定めに違反 した行為を行ったことがないこと

4)理事及びその親族等である理事の合計数が 理事の総数の3 分の1 以下であること

※以上の、説明を踏まえ、今村常任理事から 次のようなコメントがあった。

はじめに公益に行くか、一般に行くかを決 めるのではなく、現在の医師会事業ひとつひ とつを公益事業かそうでないのか見極め、法 人として税制面も考慮しながら、今後維持し ていけるのか、また、今後新たに事業を行う 場合にそれがどう影響するか将来のことも含 めて最終的に法人形態を決めるべきである。

しかし、公益法人と一般法人(非営利)の 税制のメリットを比較した場合、寄付金の面 で公益は優遇されるが、現に医師会が寄付を もらって事業を実施するということは殆どな いので、税制面では公益も、一般(非営利) も変わらない。

公益法人を維持するためには、経理面の事 務上のチェック作業が増えることから、専従 の職員1 〜 2 人の増員が必要となると言われ ている。

決算で、公益目的比率がクリア出来なかっ た場合、公益認定が取り消され、1 ヶ月以内 に公益目的事業財産の残額を、他の公益団 体、国・地方公共団体に贈与しなければなら ない。以上のこと等も考慮する必要がある。

印象記

真栄田篤彦

常任理事 真栄田 篤彦

新公益法人制度説明会を開催して、各地区の会長や事務局長その他関係者の多くの皆様方に参 加してもらいました。日医の今村聡常任理事と福岡にあるトーマツコンサルティング株式会社の 伊藤和政氏のお二人に講師としてご説明を頂き、その後に多くの質問や疑問等について解説をし てもらいました。

個別に直接データを提示しながらの説明も受けられて良かったと思います。県内の地区医師会 の担当者の方々も今回の説明会で新公益法人制度についての概容・詳細をご理解できたものと考 えております。

最終的には平成25 年11 月30 日付けで変更受付が締め切りになるわけですが、公益社団法人 は、変更後は一般社団法人には再変更できませんが、一般社団法人に制度変更した場合は5 年間 の移行期間終了後でも公益認定を取得することは可能とのことです。各地区医師会はそれぞれの 医師会事業を一つひとつ検証して、正確に判断を下してから検討する必要があるとの事ですが、 日医としては、一般社団法人を選ぶにしても「非営利性が徹底された法人」を選択していただき たいと話していました。

期限についても、混乱を避けるためにはなるべく2 年前(平成23 年)までには事務作業を終了 して余裕をもって申請したほうが望ましいという事でした。

各地区医師会での理事会で充分ご検討して又、事務方もその資料作成でご苦労すると思われ、 今後も種々疑問・質問等が生じると思いますので、日医やコンサルティング会社等の指導を受け ながら進めていってもらいたいと考えています。