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平成21 年度日本医師会がん対策推進協議会

常任理事 大山 朝賢

去る7 月12 日(日)、日本医師会館において 開催された標記協議会について、その概要を報 告する。

開 会

今村聡日本医師会常任理事の司会により会が 開かれた。

挨 拶

唐澤人日本医師会長(岩砂和雄日本医師副 会長代読)より、概ね以下の通り挨拶があった。

我が国のがん対策を総合的、計画的に推進し ていくために平成19 年4 月に「がん対策基本 法」が施行され、6 月に「がん対策推進基本計 画」が策定されたことはご高承のとおりである。

21 年度の政府予算においては、がん検診事 業予算が昨年度から倍増され1,298 億円とな り、また、がん検診受診促進企業連携委託事業 として2 億8,000 万円が新たに予算化された。 さらに補正予算において、女性特有のがん検診 推進事業として検診手帳・検診無料クーポン券 の配布が実施されることになっている。

日本医師会においては、がん医療の一層の充 実を図るため、平成19 年8 月にがん対策推進 委員会をプロジェクト委員会として設置し、が ん検診の在り方について答申をいただいてい る。また緩和ケアについて全国の医師の意識調 査を実施するとともにマニュアルを作成した。 今期において、がん対策推進委員会を常設委員 会とすることとし、諮問「がん検診の今後のあ り方。検診受診率向上と精度管理システム」に ついてご討論いただいている。

このように、我が国のがん対策が、患者や家 族あるいは広く国民と医療従事者そして行政が 同じ方向を向いて動き出したこの時期に本協議 会が開催されることは極めて重要で有意義であ ると考えている。この対策協議会の成果を踏ま え、各地域におけるがん対策の更なる推進につ いて今後とも引き続き先生方のご協力をお願い したい。

基調講演

「わが国のがん対策−個人として、国として−」
垣添忠生(国立がんセンター名誉総長/日本対がん協会会長)

国立がんセンター名誉総長・日本対がん協会 会長の垣添忠生先生より、「わが国のがん対 策−個人として、国として−」と題して講演が 行われた。

講演では、「がんとはどういう病気か?」、 「がんの予防と検診」、「がんの診断と治療」、 「人が生きるということ」、「わが国のがん対策」 と、大きく5 つのテーマに分けて説明があった。

先ず始めに、『がんとはどういう病気か?』 として、「がんは、正常細胞が何らかの要因に より“がん遺伝子の活性化”もしくは“がん抑 制遺伝子の不活化”が起こす細胞の病気であ る」と説明があり、日本では、悪性新生物が 1970 年後半から死因の第1 位を占め、そのが んの種類も、医療技術の向上や食の欧米化等に 併せ、胃がん、子宮がんは減少の傾向に、肺が ん、大腸がん、乳がん、前立腺がんは増加の傾 向にあると報告され、「がんは時代とともにダ イナミックな変貌を遂げている」と述べられ た。また、がんは、長い時間経過を要する慢性 疾患であり、脳卒中や心筋梗塞とは全く違う病気であることが強調された。

次いで、『がんの予防と検診』について説明が あり、がんの一次予防として喫煙、食事、感染 症が対策上非常に重要であることが示され、う ち喫煙と感染症対策についての見解が示された。

たばこ対策については、「たばこは、がんの 原因の30 %を占めているが、たばこ事業法や 専売事業法による財政確保や産業振興という二 つの点から、なかなか対策が進まない状況であ る」と意見され、当面の対策として、たばこ自 動販売機の撤去や1 箱500 円への引き上げ、た ばこ農家の転作支援を講じるとともに、2009 年現在で男性40 %、女性10 %という喫煙率 を、男性20 %以下への引き下げ、女性は若い 方への喫煙防止等の対策を行うべきとの見解が 述べられた。

感染症対策については、C 型肝炎ウイルス、 ヘリコバクター・ピロリ菌、ヒトパピローマ・ ウイルス16 ・18 型とがん発症の関係性につい て説明があり、HCV、HBV 感染と肝がんの関 係では、H B V が肝がんを発症する比率は 1/100 人であるのに対し、HCV が肝がんを発 症する比率は10/100 人となっていること、B 型肝炎ウイルスにはワクチンが有効であり、世 界のがん対策の中の重要項目として位置付けら れていること、C 型肝炎ウイルスはワクチン製 造が難しいため、当面はインターフェロン、リ バビリン、AFP と肝エコーによるフォローア ップ等が重要であること等が説明された。ヘリ コバクター・ピロリ菌と胃がんの関係では、全 国51 病院による多施設共同研究結果より、ピ ロリ菌の除菌は二次胃がん発生を1/3 化するこ とが結果として示されており、現在、ピロリ菌 の除菌はがん予防としての保険適用は認められ ていない点も含め、今後慎重な議論を行う必要 があると意見された。ヒトパピローマ・ウイル スと子宮頚がんの関係では、12 歳女児に対し て子宮頚がんワクチンを接種した場合、子宮頚 がんによる死亡数を約73.2 %減らすとした研 究データが示されていることから、ワクチン接 種と検診の合理的な組み合わせを今後検討しな ければならないと意見された。

また、がんにならないための一次予防とし て、「がんになるための10 カ条」が示され、こ れを反面教師とした各個人における生活習慣の 実践の重要性が改めて示された。

日本のがん検診の状況については、各がん検 診(胃がん、子宮がん、乳がん、肺がん、大腸 がん)の平均受診率が17 %と非常に低い状況 であることが報告され、「がんは、私たちの身 体の中に、いつ発生したか分からないうちに発 生し進展する。初期のうちは無症状であるが、 この時期に介入することが大切である。がん死 を減らす上でがん検診の受診率を50 %以上に することが対策上重要であり国策として実施し ていくべきである」と意見された。

『がんの診断と治療』についての説明では、 「患者は、肉体的にも、精神的にも、経済的に も負担少なく、短期的に、美しく、しかも安全 に治して欲しいと望むが、がんの形態診断が精 緻になればなる程、別の問題も出てくる」と意 見され、一人の患者を中心とした外科医、放射 線治療医、化学療法専門家等のカンファランス の重要性及び担当医を中心とした看護師、薬剤 師、ソーシャルワーカ等のチーム医療の重要性 が示された。

『人が生きるということ』についての説明で は、「がんにならないことだけが人生の目的で はないが、避けられる理不尽な死は避けたい」 と述べ、例え進行がんであっても、「患者さん 自身の心構えと医師の覚悟、この両方がマッチ すると大きな成果が得られる」と意見され、治 療過程での患者さんへの励ましの重要性が述べ られた。

最後に、『わが国のがん対策』として、平成 19 年4 月に施行された「がん対策基本法」並 びに「がん対策推進基本計画」の概要について 説明があり、「個人としてがんとどう向き合う か、国としてどう対策を行うか、今後も議論を 重ねていきたい」と意見された。

報 告

(1)行政の立場から
前田光哉(厚生労働省健康局総務課がん対策 推進室室長)

始めに、わが国におけるがんの状況として、 “がんは日本人の死亡原因の第1 位”、“2008 年 推計がん死亡者数343,000 件、日本人の3 人に 1 人が、がんで死亡”、“がんの生涯リスクは日 本人男性2 人に1 人、女性3 人に1 人”、“継続 的な医療を受けているがん患者は142 万人”等 の統計データが示され、わが国における、がん の死亡数の推移、がんの年齢調整死亡率の推 移、主要ながんの年齢調整罹患・死亡率の変 動、がんの5 年相対生存率等のデータについて 報告があった。

また、政府におけるがん対策の主な歩みとし て、昭和37 年の国立がんセンターの設置から、 直近の平成21 年7 月に設置された「がん検診 50 %推進本部」までの経緯について説明があ り、平成19 年6 月に策定された「がん対策推 進基本計画」では、「がんによる死亡者数の 20 %減少」、「全てのがん患者・家族の苦痛の 軽減・療養生活の質の向上」の2 つをがん対策 全体の目標に掲げ、対策の重点事項として、 「放射線療法・化学療法の推進、これらを専門 的に行う医師等の育成」、「治療の初期段階から の緩和ケアの実施」、「がん登録の推進」の3 項 目が様々な事業として取り組まれていると説明 があった。

がん対策に係る具体的な進捗状況について は、がんによる死亡者の減少(75 歳未満の年 齢調整死亡率の20 %減少)については、平成 17 年92.4 %(100 %)を基準に、平成19 年現 在で88.5 %(95.8 %)。医療機関の整備につい ては、原則として全国全ての2 次医療圏におい て概ね1 か所程度拠点病院の設置を目標に、平 成20 年現在で98.0 %(351 施設/358 医療圏) の達成率。がん医療に関する相談支援及び情報 提供については、原則として全国全ての2 次医 療圏において相談支援センターを概ね1 か所程 度整備を目標に、平成2 0 年現在で9 8 . 0 % (351 施設/358 医療圏)の達成率。がんの早期 発見については、効果的・効率的な受診間隔や 重点的に受診勧奨とすべき対象者を考慮しつつ 受診率を50 %以上にすることを目標に、平成 19 年度現在で、男性(胃32.5 %、肺25.7 %、 大腸27.5 %)、女性(胃25.3 %、肺21.1 %、 大腸22.7 %、子宮21.3 %、乳20.3 %)の達成 率であること等の報告があった。

次いで、がん対策推進基本計画に基づく国の 主な取り組みとして、厚労省では、平成21 年 度がん対策予算案として、平成20 年度とほぼ 同等の236.8 億円を計上しているが、がん検診 に係る交付税措置は平成20 年の649 億円から 平成21 年度は1,298 億円とほぼ2 倍を計上し ており、特に女性の乳がん、子宮がんの検診に は補正予算として216 億円を計上していること が報告された。また、がん検診受診率50 %達 成に向けた集中キャンペーンとして、国・自治 体・企業・関係団体等が相互に連携・協力して 一体となった受診勧奨事業を積極的に展開する 予定であることが説明された。

(2)医師会の立場から 内田健夫(日本医師会常任理事)

内田常任理事より、「日本医師会では、平成 19 年4 月にがん対策基本法が施行されるなどに より、より一層のがん対策推進が求められてい ることから、平成19 年度当初はプロジェクト 委員会として『がん対策推進委員会』を設置 し、緩和ケアについての全国の医師の意識調査 の実施及びマニュアルの企画作成を行うととも に、がん検診のあり方について検討を行ってき た。平成20 年度より、がん対策推進委員会の 果たすべき役割の重要性に鑑み、がん対策推進 委員会を常設委員会とし、現在、がん検診の現 状、受診勧奨、がん検診に関する調査、受診率 向上の方策等について検討を行っている」と報 告があった。

次いで、日本医師会が今年4 月から5 月にか けて実施した「がん検診に関するアンケート調 査」の中間集計として、厚労省が指針に示しいる5 つのがん検診(胃がん、大腸がん、肺が ん、乳がん、子宮がん)に係る、各郡市区医師 会の委託実施状況等について報告があった。報 告では、国のがん対策として「女性特有のがん 検診推進事業」の実施について方策を検討して いる郡市区医師会は42(2.7 %)、今後の検討 課題とした郡市区医師会は1,014(65.8 %)、 無効・無回答が383(24.9 %)となっているこ と等が説明された。

なお、当調査については、集計が完了次第改 めて報告されることになっている。

質疑応答

佐賀県医師会:がん予防のためには、先ずがん を知ることが大切である。「早期発見・早期治 療」がいかに大切かを、広く国民に理解してい ただくことが重要と考える。

早期発見には定期検診を受診することが重要 となるため、がんに対する意識改革を換気する 広報を継続すべきである。

また、胃がん無料検診券、乳がん無料検診券 等々、無料のがん検診券を発行し、国民に配布 し、ある一定の期間内にかかりつけ医等に受診 してもらうようにしてはどうか。

厚生労働省:がんに関する普及啓発懇談会を昨 年10 月に設置し、キャラクターやロゴを作成 し、集中キャンペーンを通じ啓発を行いたいと 考えている。

無料検診については、平成21 年度の補正予 算事業として、乳がんと子宮頸がんを無料とし た「女性特有のがん検診推進事業」を実施する。

日本医師会:かかりつけ医に患者さんが来た際 に、がん検診の勧奨を行う等、動機付けを行っ ていただきたい。

無料クーポン券については、補正予算事業と なっており来年度以降の予定は不明である。

長崎県:1.在宅医療の立場から(提案主旨省略)

厚生労働省:在宅医療については、まだまだ改 善の余地がある。在宅医療は大きな問題として 捉えている。住み慣れた地域における家庭や広 い意味での在宅での療養を行うための、がん医 療連携体制をつくることが重要である。4 疾病 5 事業の計画に基づく事業の展開を検討したい。

長崎県: 2.がんに特化しない良性疾患にも適 応される緩和ケアの法整備のための「緩和ケア 小委員会立ち上げの提案」(提案主旨省略)

日本医師会:今年度の実施は難しい。次年度以 降検討したい。

長崎県: 3.子宮頸がん検診に関する教育の充 実を(提案主旨省略)

厚生労働省:子宮頸がんの主な原因は性交渉が 上げられるため、学校での性教育の必要性等、 文科省も含め検討したい。また、ワクチンの接 種については認可された時点で積極的に取り組 みたい。

印象記

大山朝賢

常任理事 大山 朝賢

この協議会での基調講演は国立がんセンター名誉総長の垣添忠生先生であった。医師会や学術 集会で複数回ご講演を拝聴してきた。今回の一般医師向けの内容は「わが国のがん対策」を論じ ながら、がん発生のしくみを基本的なところからひもとき、食生活さらには生活習慣病におよび、 又がんの為に数回の手術にたえ、社会で活躍されている方のレポートなど多彩であった。

行政の立場からは厚労省の前田光哉がん対策推進室長の報告があった。平成20 年の報告では、 日本人の3 人に1 人ががんで死亡、生涯リスクでは日本人男性の2 人に1 人、女性の3 人に1 人が がんになるといわれている。継続的な医療を受けているがん患者は142 万人。平成19 年度のがん 検診の受診率では男性の胃癌検診で32.5 %、大腸癌は27.5 %、肺癌25.7 %であるのに対し、女 性では胃癌25.3 %、大腸癌22.7 %、肺癌21.1 %、子宮癌21.3 %、乳癌20.3 %と低い値を示して いる。平成20 年度は特定検診が始まったこともあって、総じて、がん検診受診率は低下している という。そこで厚労省は平成21 年度がん対策予算案では平成20 年度とほぼ同様の236.8 億円で あったが、がん検診に係る交付税措置は平成20 年の649 億円から平成21 年度は1,298 億円とほ ぼ2 倍になっている。特に女性の乳癌、子宮癌の検診には補正予算として216 億円をつけている。 現在医師会ではこの補正予算に対応すべく、県福祉保健部と県医師会、地区医師会と協議して効 率的活用を計っている。

日本医師会がん対策推進委員会の報告は内田健夫常任理事から報告された。厚生労働省が指針 に示している5 つのがん(胃癌・大腸癌・肺癌・乳癌・子宮癌)検診やその他のがん検診につい て、平成21 年度のアンケート調査の中間報告であった。