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第41 回九州地区医師会立共同利用施設連絡協議会

理事 金城 忠雄

平成21 年7 月4 日(土)・5 日(日)の2 日 間に亘り、福岡市医師会主催によりホテルニュ ーオータニ博多において、みだし協議会が開催 され約710 名が参加した。

4 日の第1 日目は、施設長会、各部門管理者 会、基調講演が行われた後、3 分科会が開催さ れ、「医師会病院部門」、「検査・検診部門」、 「高齢社会事業部門」に分かれて、発表・討論 が行われので、概要について報告する。

基調講演

演題「公益法人制度改革と共同利用施設につ いて」日本医師会常任理事 今村 聡

今村聡日本医師会常任理事より、医師会は殆 どが社団法人になっているため、今後は登記に よって自由に設立できる一般法人と、税の優遇 措置を受けられる公益法人の二階建てになるこ とから、「公益法人制度改革と共同利用施設に ついて」と題して、次のとおり講演があった。

1.公益認定基準(公益法人になる場合)

<公益目的事業比率>

・18 の公益認定基準がある。公益社団・財団 法人への移行については、公益目的事業比率 が費用で計って50 %以上が認定の基準。従 来は管理費としていた事業管理費(間接事業 費)も、できるかぎり事業費に配賦。

<収支相償>

・公益目的事業に係る収入がその実施に要する 適正な費用を償う額を超えないこと(収支は トントン以下)が重要。

・判定は二段階で行われ、両方クリアすること が必要である。

第一段階は、各公益目的事業ごとに判定(事 業のくぐり方は法人が判断)。

第二段階は、公益目的事業全体で判定(各事 業に共通する収益・費用を含める)。

なお、第二段階では、収益事業等から利益の 50 %以上を公益目的事業に繰入れた金額も、 公益目的事業の収入にカウントして判定する。

また、公益事業で黒字を出し、本会の財源に 充当することはできない。

2.事業の公益性の判断

<公益目的事業の定義>

・公益目的事業とは、(A)学術、技芸、慈善 その他の公益に関する別表各号に掲げる種類 の事業であって、(B)不特定かつ多数の者 の利益の増進に寄与するものをいう。

<共同利用施設事業の公益性の判断>

・医師会共同利用施設の公益性について理解を 得るため、公益認定等委員会事務局による現 場の視察、ヒヤリングが行われた結果、開放 型病院、介護老人保健施設、訪問看護ステー ション、地域包括支援センターについては、 無条件ではないが、公益性について、一定の 理解が得られた。

<共同利用施設事業の公益性の判断−考えられ るポイント例>

・一般論としては、1)不特定多数の利益増進へ の寄与を明示、2)受益の機会の公開、3)「質」 を担保する仕組み、4)特定の者の利益になっ ていないなどが求められる。

例えば、「運営委員会等に住民や行政が参 画等、開かれた運営」、「利用者を制限しない (非会員等)」、「最後のセーフティネット(重症患者、24 時間)」などのポイントが考えら れる。

・共同利用施設事業の公益性については、平成 21 年3 月17 日付け日医発都道府県医師会宛 通知「医師会共同利用施設の公益認定上の考 え方」で情報提供しているので、参考にして いただきたい。

3.公益法人の事業の注意点(財務面)

<公益目的事業の注意点>

・公益法人をめざす場合「公益目的事業比率」 だけが認定要件ではない。事業の公益性が認 められも、本当に公益目的事業が良いか、検 討が必要である。

収支相償:利益を出して、他の事業や管理 費の財源にまわすことが出来ない

公益目的事業財産:当該事業に使用する財 産は、公益目的事業財産(認定取消時に贈与 しなければならない財産)となる。

<収益事業等の注意点>

一方、公益性が認められない事業について は、公益法人が、収益事業等として行う場合 には、以下の注意が必要。

・利益の50 %以上を公益に繰入れる義務があ るが、50 %繰入れを受けた上で、公益目的事 業は収支相償を満たすか(黒字になることは ないか)。又、管理費の財源は不足しないか。

・赤字体質の収益事業は認められない可能性が ある。

4.公益目的支出計画(一般法人になる場合)

<一般法人への移行と公益目的支出計画>

・一般社団・財団法人に移行する場合は、移行 時点の時価純資産額を公益に消費していく計 画、公益目的支出計画を作成することが必要 である。

5.公益法人制度改革関連税制

<法人税課税の概要>

・税法上、課税される収益事業は従来33 業種 だったが、労働者派遣業が今回追加されて 34 業種になった。それ以外のものは収益事 業以外ということで非課税になっている(看 護学校、共済事業等)

・公益社団法人は、収益事業等の利益の50 % 以上を公益目的事業に繰り入れることが義務 づけられている。もし、100 %繰り入れて、 公益目的事業に使った場合は、税金はかから ない。

・公益認定制度では公益社団法人と一般社団法 人の2 種類しかないが、税法上はさらに一般 社団法人を1 階部分の一般社団と、中2 階部 分の非営利型一般社団法人の2 種類に分ける。

・公益社団法人は、公益目的事業については、 それが税法上の収益事業であっても全部非課 税であり、公益に支出する収益事業及び共益 事業の利益は非課税となるため、残りの利益 が出た分についてだけ30 %の税金を払うこ とになる。

<医師会運営施設における税制上の問題>

・医師会共同利用施設が行っている事業が、公 益認定上、公益目的事業と認められるか、又、 今後、一般社団法人に移行するケースがあっ た場合、現在非課税の事業は課税されるの か、この2 つが大きな課題である。公益社団 法人、一般社団法人のいずれにおいても、現 在の非課税措置をまず確保することが必要。

・開放型病院等の法人税の非課税は、公益社団 法人、非営利一般社団法人に移行した場合、 非課税存続。

・看護学校等の固定資産税の非課税は、公益社 団法人に移行した場合は非課税存続、一般社 団法人に移行した場合は、一定の要件で非課 税存続。

<開放型病院の法人税非課税について>

・現行の民法34 条法人の中で、医療保健業は 収益事業で課税となっている。しかし、特例 としてオープン病院等を開設する一定の医師 会、つまり、開放型病院や検査センター開放 型の診療所を開設している医師会が行ってい るさまざまな医療保健業は、例外的に非課税 となっている。ところが、今回の公益法人制度改革に伴って民法34 条法人が無くなって しまうため、「非課税要件の根拠となる法律 が無ければ、例外規定もなくなるということ で、公益社団法人をとれば非課税でもよい が、一般社団法人に行くと法律自体がなくな るから課税」となる。

・開放型病院の法人税非課税については、従 来からある要件に、今回新たに「医師会の事 業内容」と「医師会の収入割合」の要件が ついた。

・事業内容の要件としては、地域医療支援病院 を開設、または自治体との委託契約により、 学校医事業、初期救急医療事業、予防接種事 業、特定健診・保健指導、地域産業保健セン ター、へき地等の巡回診療・健診のうち2 つ 以上実施していること。

・収入割合の要件としては、社会保険診療等、 労災、自賠責、公害、臨床検査センター利用 料、法令等に基づく健診、正常分娩、学校 医、特定健診・保健指導、国、地方公共団体 から委託された医療収入が医師会の(共済事 業及び看護学校等除く)年間収益額の6 割を 超えていること。

6.機関設計・定款

<機関設計>

・社団法人には、社員総会の他、業務執行機関 としての理事を少なくとも1名は置かなけれ ばならない。

・理事会を置く場合、理事は3名以上必要。

・公益法人の場合、理事会の設置は必須。

・理事会を設置する場合と会計監査人を設置す る場合には、監事を置かなければならない。

・会計監査人の設置は任意だが、公益法人は、 収益額1,000億円以上、費用及び損失額 1,000億円以上、負債額50 億円以上のいず れかに該当するとき、又、一般法人は、負債 額200億円以上の大規模法人の場合は、設置 義務がある。

・一般社団法人の機関設計は以下の5通り。な お、公益法人は4)か5)で、日医定款変更案は5)を採用。

  • 1)社員総会+理事
  • 2)社員総会+理事+監事
  • 3)社員総会+理事+監事+会計監査人
  • 4)社員総会+理事+理事会+監事
  • 5)社員総会+理事+理事会+監事+会計監査人

・社員総会は、法定事項(定款変更・解散・計 算書類の承認・社員の除名等)とその他定款 規定事項を行う。

・社員は、理事に責任追及の訴え、行為差し止 め請求を行うことができる。

・理事会は、業務執行の決定、理事の職務執行 の監督、代表理事・業務執行理事の選定、解 職を行う。

<定款の作成>

・定款記載事項として、1)必要的記載事項2)相 対的記載事項3)任意的記載事項がある。

1)は、全ての事項を定款に記載しなければ ならない事項のこと。その一つでも記載が欠け ると、定款の効力が生じないので注意が必要。

2)は、必要的記載事項と異なり、記載がな くても定款の効力に影響はないが、定款に定 めがなければ、その効力を生じない事項のこと。

3)は、法令に違反しない範囲で任意に記載 すことができる事項。

・事業計画及び収支予算については、公益法人 の場合は、事業計画書、収支予算書等の作 成、備置き、閲覧義務有り。一般法人の場合 は、法人法には、事業計画、収支予算に関す る規定はないが、ガバナンス確保の観点から、 定款に規定を設けておくことが望ましい。

・事業報告及び決算については、公益法人の場 合、財産目録の作成、備置き、閲覧義務有 り。一般法人でも、公益目的支出計画が完了 するまでの間は、毎事業年度経過後3 ヶ月以 内に、1)公益目的支出計画実施報告書と2)事 業報告・計算書類等を行政庁に提出する必要 がある。

・日医では、定款変更案を作成している。現行 定款を基に、内閣府「定款変更モデル」を参考に、法令及びガイドライン等から必要とな る内容を加筆・修正し、「公益法人用」と「一 般法人用」の案を作成。変更案は、日医ホー ムページメンバーズルームで公開中である。

第2 分科会「検査・検診部門」

本会は第2 分科会の「検査・検診部門」に参 加し、4 医師会より主に平成20 年度4 月より開 始された特定健診・特定保健指導への取組みに ついて報告があった。概要は次のとおり。

1.島原市医師会の特定健診への取組み
−会員医療機関の煩雑さを解消するために−
島原市医師会 事務局長 嶋井量章

島原市医師会の従来の基本健診は、老健法の 下、島原市から委託を受け、昭和58 年から集 団健診を実施、平成16 年から施設健診も平行 して実施してきた。平成20 年度からスタート した特定健診も、基本健診と同様に島原市国保 から委託を受けて、集団・施設で国保・後期高 齢者を対象に実施している。

島原市国保の協力により検査項目では、心電 図や血清クレアチニン・尿酸・ヘモグロビン A1c を保険者独自の追加項目として20 年度か ら実施し、21 年度からは貧血(赤血球数・血 色素量・ヘマトクリット値)も保険者独自の追 加項目とした。委託料も診療報酬を基に医師会 が試算した金額を提示し、契約することが出来 た。平成21 年度の委託料は、協会けんぽ・健 保組合・共済組合が基本的な健診項目で7,200 円、島原市国保と島原市後期高齢者が共に、基 本的・保険者独自の健診項目で9,891 円となっ ている。

今回、医師会では看護学校、訪問看護ステー ション等は運営しているが、健診センターや検 査センターを運営していないことから、特定健 診については、民間の検査機関や健診事業者と 手を組み、初期投資を限りなく少なく、また、 会員医療機関の負担を軽減できるよう医師会が 中心となり役割分担を行い、多くの医療機関に 参加を呼びかけた。

その結果、医療機関44 施設の内、31 施設が 手を挙げ特定健診を実施し、検査・健診センタ ーを運営していなくても、医師会事業として、 充分に成り立つことの報告があった。

2.特定健診・特定保健指導の1 年の歩みに ついて
北九州市門司区医師会 健診部管理者
濱崎美智子

門司区医師会の健診事業は、平成14 年度に 北九州市の委託を受け、今日まで市民と密着し た健診を実施してきた。平成20 年度に導入さ れた特定健診・特定保健指導のスタートは事前 に実施されたモデルケース事業健診では殆ど参 考にならず、開始までの数ヶ月は数々の情報に 振り回された混乱期であった。当医師会員への 周知、受診者への説明、事務関係の対応など、 この1 年を経てやっと定着してきた。特に、特 定保健指導は、結果を残すと同時に課題が残 り、対象者の意識を動かすことは難しく、今後 の健診受診に影響することは否めない。

今回、特定保健指導に重点をおき、栄養指 導、運動指導などすでに基盤にある運動教室を 用いたプロセスについて報告があった。

3.特定健診・特定保健指導開始から1 年を 経過して
北九州市小倉医師会 担当理事 今渡龍一郎

小倉医師会健診センターは特定健診対応のコ ンピュータシステムの再構築や市医師会・市行 政・産業医科大学と共に健診・保健指導システ ム構築に取組み、制度開始後は会員支援の理念 のもと大きな混乱もなく1 年を経過した。

理想的なシステムとしてスタートしたが、地 域住民主体から保険者別の縦割り健診への移行 のため、後期高齢者や被用者保険被扶養者が除 外され、集団健診数が激減し、収入面での打撃 が前面に出た。一方、保健指導の実施率は極め て良好であった。北九州市国保のシステムは、 住民に身近な「かかりつけ医」で健診と保健指 導が受けられる地域密着型であり、対象となっ た全ての住民に対して一律に保健指導がなされる特徴を持つことと、更に集団では保健指導に 備えて電話による対象者への声かけが功を奏し たと考えられ、個別医療機関からの保健指導依 頼も加え、動機づけ支援実施率は89 %、現時 点での積極的支援継続率は77 %であった。

その他、当センターは、医師、保健師・管理 栄養士に保健指導の実施、保健指導の標準化・ レベルアップとチームワークを保つための定期 研修会を継続している。

全般的には、初年度健診受診率目標25 %に 対し、21.5 %であり、受診率向上の対策が必要 であることから、今後とも市医師会・行政との 緊密な連携の上、受診者数の確保と地域におけ る指導的役割を果たしながら当健診センターと して更なる会員支援を充実したいと考えている との報告があった。

4.特定健診の現状と問題点
那覇市医師会 生活習慣病検診センター所長
崎原永辰

当センターでは、特定健診の初年度を終え、 この制度における那覇市の現状と問題点を分析 した。先ず、健診受診率は那覇市で21.6 %と 低調であった。受診者の内訳は、新規受診者が 増加した一方で、例年受診している受診者が減 少した。この理由として、特定健診が肥満者を 対象とした健診であると誤解されてしまったと ころがあると考えられる。

また、各検査項目の受診勧奨率について、最 も高率であったのがLDL-C で29.5 %、次に収 縮期血圧で27.8 %であった。特にLDL-C につ いては、保健指導率が26.1 %と異常に高く、 基準値を超えたものは実に55.6 %となった。 厚労省のLDL-C の基準値は120 r/d1 未満と されており、受診勧奨値が140 r/d1 となって いる。この判定値はそれぞれ日本動脈硬化学会 のガイドラインでしめされている糖尿病におけ るLDL 管理目標値と高LDL 血圧の診断基準 がそのまま採用されたようであり、他学会が採 用している判定値とのずれが大きく、判定値の 変更・統一が望まれる。

また、特定健診で情報提供と判定されたグル ープの中で、中等症以上の高血圧 (160/100mmHg 以上)が4.2 %、HbA1c で 6.5 %以上が6.3 %であった。このことは特定 保健指導の階層化における盲点として、特に注 意が必要であるとの報告があった。

報告が行われた後、集団健診の委託料、実施 医療機関への支払金額、保健指導の利用券のや りとり、地域産業保健センターと関わった受診 率の向上等について意見交換が行われた。

7 月5 日の第2 日目は、西島英利参議員議員 より「中央情勢について」講演後、慶応義塾大 学商学部の権丈善一教授より「小さすぎる政府 の医療政策と日本の医療保険」と題して特別講 演が行われた。

講 演

演題「中央情勢について」
参議院議員 西島英利

西島参議院議員より、中央情勢について概ね 次のとおり講演が行われた。

<臓器移植改正法案について>

臓器移植改正法案が衆議院を通過し、A 案が 参議院へ送付されてきた。A 案は脳死を人の死 とし、ゼロ才から臓器移植が可能となる法案で ある。

参議院で審議が始まったが、脳死を人の死と して定義していいのかどうか、疑問をもってお られる団体もある。今週の金曜日には成立させ たいと考えている。ここで成立させないと廃案 になって、子供の希望を絶つことにもなりかね ないので、是非成立させたい。

<社会保障給付費の推移について>

この高齢化社会の中で、年金、医療、福祉の 給付費がものすごいスピードで延びて来てい る。2006 年に社会保障給付費が全体で89 兆円 必要であったが、2009 年では、98 兆円になっ ている。2025 年では141 兆円になるとの推計 が出されている。

年金は、支払額が決まっており、しかも受給 者は増えていく一方であり、これを抑制するこ とができない。介護は始まったばかりだが、抑 制した結果、介護そのものが危機的状況になっ てきている。又、抑制ができる範囲の医療費を 多く抑制してきており、その結果、医療が危機 的状況になっている。

そのようなことから、これから先の社会保障 給付費をどういう財源で賄っていくのかという 議論が非常に重要になってきた。

<平成21 年度予算の概算要求に当たっての基 本的な方針について>

そこで、昨年の「骨太の方針2008 年」で平 成21 年度予算の概算要求に当たっての基本的 な方針について議論が行われた。昨年は2,200 億円削減の基本方針は変えなかったが、「医療 は崩壊し、どうしようもない状況になってい る。これはやめなければならない」と自民党の 国会議員から意見が述べられた。本来であれば 2 回で決着がつくが会議を5 回開催し、最終的 には「年金・医療等に係る経費等特定の経費に 関して、新たな安定的財源(税制上の措置)が 確保された場合の取り扱いについては、予算編 成過程で検討」という文言を記述させた。つま り、2,200 億円の抑制は無理だということをこ の段階で決着した。

そこで、年末に向けて検討したことが、「た ばこ税を引上げる」ということで、新たな財源 を確保しようということになったが、たばこを 栽培する農家の立場に立たれる国会議員の先生 方、たばこ販売店の立場にたたれる国会議員の 先生方から、猛反対があり、その結果、たばこ 税の引き上げはしないということになった。

これを溯ること10 月30 日の記者会見で麻生 総理はこの社会保障費から毎年2,200 億円を抑 制するのは限界だと述べられた。限界だと言う ことで、介護保険で3 %の引上げを明言した。 本来、こういう事は、年末に始めて決まるが、 いち早く10 月30 日に介護報酬の引上げを明言 し、これと併せて、景気が良くなれば、国民に 対して社会保障の給付の為の消費税の引上げをお願いすると明言している。

これを聞いた自民党内では、「総選挙を目の 前にして総理は何ということを言うんだ」と大 騒ぎになったが、政権与党の責任として、安定 的に社会保障の給付をしていく責任がある。そ のためには、早い機会に国民に理解を求める活 動は必要なのではないかということで、消費税 引上げの環境作りをするための決着をした。

従って、2009 年度予算の社会保障抑制財源 については、たばこ税増税が検討されてきた が、増税は見送られたことから、年金特別会計 の特別保健福祉事業資金1,370 億円を全額引き 落とし、そして足りない分を一般財源化する道 路特定財源600 億円から捻出し、2,200 億円に 足りない分は、後発医薬品使用促進230 億円を 確保した。そして、さらには3 %の介護報酬の 引上げを行ったということになった。

<骨太の方針2009>

今年の「骨太の方針2009」においては、「基 本方針2006 等を踏まえて」という文言が記述 されたことから大変なバトルが繰り広げられ た。本来2 回で終わる予定が、最終的な取り纏 めを行う自民党総務会を含めて計5 回の会議で 決着をした。与謝野財務大臣が、社会保障の自 然増については、そのまま認めることとする が、無理のない範囲で節約に努めることは、国 民に対する義務である。しかしながら、数字で もって節約の目標を示すことはしない。節約で きた分は当然のこととして社会保障の分野に充 てるという形で決着がついた。

その結果、今度の診療報酬もプラス改定にな る事は間違いないと考えて良い。

<財源の問題>

現在、社会保障の自然増は8,000 億円から1 兆円程毎年延びている。民主党はその辺の無 駄、埋蔵金等で賄えば良いと言うが、とても賄 いきれない金額である。先の党首討論で、鳩山 党首は4 年間は消費税の引上げをしない。議論 もしないということを言われた。診療報酬は 20 %引上げると表明しているが財源の話は全 くない。

民主党は、基礎年金も全額税方式を掲げてい るが、この場合22 兆円かかり、消費税の収入 は12 兆円位しかないが、不足分をどう手当す るのか明らかにされていない。さらに、消費税 をすべて基礎年金に充てた場合、今までみてき た4 兆8 千億円の老人医療費は、どの財源で工 面するかのも説明されてない。

また、党首討論で、「財源が大事」とする麻 生首相に対し、鳩山党首は「財源が先で人の命 が後なんですか」と指摘したことについて、私 は、「人の命が先ず大事なのは当然だが、人の 命を守るために財源をどうするのかと考えるの が、我々政治家の役割である」と述べた。

やはり国民の反発を買ってでも、消費税の引 き上げをお願いしなければいけないと先程から 申し上げているが、是非、皆様のご理解をお願 い申し上げたい。

<2009 年度税制改正関連法付則の内容>

結果的に、1)3 年以内に景気回復に向けた集 中的取組みを行う。2)平成23 年度までに、消 費税制を含む税制の抜本的な改革を行うため、 必要な法制上の措置を講ずる。3)消費税につい ては、その負担が確実に国民に還元されること として、2009 年度税制改正関連法付則の整備 がなされる予定である。

なお、消費税率については、消費税を引上げ る時には、医療にも消費税がかかる予定であ る。現在、医療に関しては、最終消費者は医療 機関になっている(消費税が非課税の為)が、 引上げる時には、医療にもかかることから、最 終消費者は患者になる。10 %以上になると1 割 の増を患者に課すことになる。これは大変な負 担になるので、この付則の中に併せて複数税率 をつくることになっている。つまり軽減税率を つくることができる。よって医療に関しては、 生活関連という形の中で、税率を引き下げた形 で、消費税をかけるというふうに整備がなされ るだろうと考える。

もし、政権が代わると法案の廃止法案が出て くることは間違いない。又、総選挙も間近にあ ると考える。いずれにしても将来をしっかりと 見据えた上で判断をしないと、医療の崩壊した イギリスがたどってきたことを、日本が繰り返 す事にもなりかねない。

特別講演

演題「小さすぎる政府の医療政策と日本の 医療保険」
慶応義塾大学商学部 教授 権丈善一

慶応義塾大学商学部の権丈善一教授より、年 金財政、医療・介護費用シュミレーションをめ ぐる攻防、公的保険と私的保険をめぐる激論な ど、権丈氏が委員を務めた社会保障国民会議で の議論の様子を克明に描写した「社会保障の政 策転換」等を基に、講演が行われた。

・2008 年日本の社会保障政策はたしかに転換 した。国民が医療・介護、保育・教育サービ スを所得や地域、ましてや性別に関係なく平 等かつ十分に享受できる社会をつくるため に、残された課題は財源調達問題1 本である。

・この国には、構造改革派とか上げ潮派とかい ろんな人がいるが、実は社会保障重視派こそ が、いちばんの成長重視派なんだとそろそろ 気づいてもいい頃である。社会保障重視が日 本を救うと考えている。

・医療、介護、保育、教育こそ「需要を刺激す る新しいサービス」であり、それを公的な支 出で賄うことが経済成長につながる。

・国民の間で「政府は信頼できない」というイ メージが根強いが、冷静に考えれば、「もう 少し住み心地の良い社会をつくるために、政 府を道具としてうまく活用する」という選択 肢は十分ありうるし、いずれその方向に動く とも思っている。

・その他、消費税の引上げ、国民負担率、麻生 首相と鳩山党首の党首討論の問題、民主党へ の痛烈な批判など、西島参議院議員と同様な 意見が述べられ、選挙の際は将来を見据えて 判断をしていただきたいと講演された。

印象記

金城忠雄

理事 金城 忠雄

九州、特に福岡県は、医師会立共同利用施設の発達した地域と紹介の通り医療関係者700 人以 上参加した大きな協議会であった。

昨年の「検査・検診部門」の報告は、特定健診制度導入時期なので、試行錯誤、暗中模索の中、 この制度は失敗に終わるのではないかとの意見が多かったが、今年の報告では、各地区医師会が 熱心に活動しているが、受診率の低さが共通の悩みのようである。

「公益法人制度改革と共同利用施設について」の講演では、医師会立共同利用施設の維持には、 税金対策も重要であり、その手段として公益法人制度を如何に活用するかの講演であった。公益 認定のポイントは「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与すること」であり、項目別対策が多 方面にわたり、公益法人制度を導入するにはかなりのテクニックを必要とする。

「中央情勢について」

喫緊の課題は、臓器移植法の成立、衆議院解散で廃案にしてはいけないと精力的に活動してい ると。私としては、医師は、日本国内で治療が出来ないのであれば、患者に過大な期待を持たし てはいけないと思う。WHO、米国も渡航移植の自粛を求めている。当然である。

次は社会保障費「2,200 億円抑制」を撤廃させたことの苦労話し、財源に「たばこの増税案」な どの提案は、関係者からの猛反対がある等、予算編成の困難さの講演であった。

権丈善一慶応義塾大学商学部教授の講演は、非常に興味ある講演であった。結論は、タイトル の「小さすぎる政府の医療政策と日本の医療保険」では、医療は維持できないということである。 社会保障―医療・介護・保育・教育―は必要に応じて利用できる社会を作ること。そのためには、 財源の確保が問題になる。一般国民からの財源調達力を高めて、社会保障を目的に再分配政策を 行うことー負担なくして福祉なしーと持論を述べていた。

政治家は、公的社会保障の財源確保のため、消費税や保険料を上げる必要があることを提案す べきである。国民には、支払う負担よりも、受ける恩恵が大きいことを主張すべきである。日本 の保険料率はドイツ、フランスに比べて格段に低いことを説明し訴えるべきであると力説してい る。とにかく、財源がないと必要な医療福祉は維持できず破綻してしまう。

前出の西島英利議員の財源確保の苦労話にもあるように“政府のムダ金”“道路、防衛費”から の流用出来るような財源は、何処にもないのが現状であると。

我が国の社会保障制度を「人の命より財源が大事か」という財源調達を考慮しないインチキ集 団から守らねば成らないと、資料を駆使して非常に歯切れの良い講演であった。

同教授は、政府の社会保障国民会議のメンバーであり政策立案者の一人である。教授の思想が、 国の政策に反映し実現できれば、日本の将来も明るくなると思う。

(教授が提出した資料集に「学問に凝る勿れ」があり、奇妙に思い調べてみたら、福沢諭吉が、慶 応義塾大学開校時の講演で、学問は、大切至極ではあるが、これを唯一無二と思い込み学問だけ に凝り固まってはいけないとの言葉らしい)