名護療育園 泉川 良範
平成20 年11 月20 日(木)に北部地区医師 会の主催で開催されたニキ・リンコ氏の講演会 に参加したので報告する。ニキ・リンコ氏は、 翻訳家である一方、アスペルガー症候群の当事 者として全国各地で講演をされており、著書を いくつか出版していることで有名な方である。 名護市民会館中ホールで行われた講演会は、 「自閉っ子こうい う風にできていま す!〜自閉症の身 体機能障害と問題 行動について〜」 のタイトルで行わ れた。この講演会 は財団法人沖縄県 保健医療福祉事業 団の後援をえて、北部地区医師会が主催した。 主催者は200 人ぐらいの参加者を予想したよう だが、当日は立ち見も出る会場一杯の参加者 で、発達障害への理解を深める絶好の機会とな った。講演に先立ち主催者より、発達障害のう ち自閉症とくにアスペルガー症候群などについ ての概説が行われ、現在さかんに話題になって いる発達障害について、それをよく理解するこ とが、一般市民に求められていることなどが述 べられた。
ニキ・リンコ氏
司会によりニキ・リンコさんの講演を聞くに あたっての聴衆への注意事項として、拍手をし ないこと、フラッシュ撮影などカメラを向けな いこと、静かに話を聞く事、講演の後で質疑応 答はないことなどがあり、本人の登場は司会に よる講演開始の宣言の後で、舞台袖からスーっ と現れたのであった。
このように一般の講演会とは雰囲気が異な り、聴衆にとっては少なからず戸惑いもあった と思われた。しかし、アスペルガー症候群を理 解するには、このような当事者との具体的な出 会いが、講演とともに大切であり、障害の理解 へとつながると思われた。
講演の内容であるが、タイトルにもあるよう に自閉症の特徴として身体機能障害に焦点を絞 ることで、この障害に新しい視点が提供され、 初めて講演を聴く人には非常に有益であったと 思われた。すなわち、ニキ・リンコ氏による と、アスペルガー症候群は(少なくとも本人 は)、二つの事が同時にできないとのことで、 例えば彼女は夜の講演にもかかわらず、黒いサ ングラスをかけているのであるが、これは会場 で好きな色が目につくと、そこに注意がいって しまい話すことができなくなるということであ った。実際、主催者の注意にもかかわらずカメ ラを構えた人がおり、それに気づいた瞬間、彼 女は文字通り「フリーズ」してしまった。ま た、講演の時は、テーブルを前にして椅子に腰 掛けて話をしたのであるが、テーブルには布が かけてあり足下が見えないようにしてあった。 これは、話をしている間、自分の足の位置を感 じることができず、ぶらぶらしてしまって聴衆 の気が散ってしまうことを知らされてから、こ のような対策をとるようになったとのことであ った。興味深いエピソードとして、小さい頃近 所で柿をごちそうになった時のことがあった。 近所のおばさんに柿は好きかと聞かれて「聞い てくる」といって自宅に戻ったというのであ る。これは、自分の嗜好は、大人(母親)が知 っていることであり、大人(母親)が判断するものだと感じていたということである。お腹の 満腹や空腹も感じることができず、なんでも知 っている大人が判断するものと理解していたと のことであった。つまり、「暑い、熱がある、 空腹、おいしい、疲れている」などの特異的感 覚が、平均的な人たちの平均的な感じ方とかな りずれているとのことである。この事実を知る ことで、今は対処法を何とか身につけていると のことであるが、苦労も多いようであった。こ れが、彼女の言う「身体機能障害」である。心 や精神でなく身体の機能障害としてのアスペル ガー症候群の捉え方を具体的に話してくれたこ とで、多くの聴衆の目からうろこが落ちたよう であった。
講演を終えての感想は、障害者への支援は、 障害者の生活上の「困り」を理解することから 始まると思われるが、ニキ・リンコ氏の講演は まさに、それを具体的に教えてくれるもので大 変有益であった。後日、私の外来に来られたア スペルガー症候群の子育てに奮闘している母親 が、「あの講演で自分の子供の気持ちが少しわ かったような気がする」とにこやかに話してい た。このような講演会が県内各地で今後とも持 たれる事を期待する。昨年度から特別支援教育 が本格施行されており、まさに北部地区医師会 の時宜を得た講演会であった。
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