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生活指導の秘訣は、長く続けられること
(一口30回噛むことと、カムカム外来)

渡辺信幸

徳洲会新都心クリニック 渡辺 信幸

昔から、沖縄は、健康長寿の島として有名で したが、実はそのブランドは、とっくに崩壊し ています。2000 年に男性の平均寿命が全国26 位に転落して以来、26 ショックの余波は続き、 女性の全国一位も風前の灯火といった状況で す。これは沖縄が肥満先進県であることが大き いといわれています。2004 年の社会保険庁の データでは、BMI25 以上の割合が男性46.1 %、 女性26.1 %と全国ワースト1 で、メタボリック シンドロームは、本土の20 年先を行っている と考えてください。

疾患別にみた年齢調整死亡率では、糖尿病、 肺疾患、肝疾患が全国1 位であり、65 歳以上高 齢者の平均余命に占める健康余命の割合が男女 とも最下位という憂うべき報告も出ています。 ですから、今、肥満、メタボ対策が県をあげて 論議されています。私が生活習慣病外来を始め た理由の1 つにこの沖縄県の現状がありました。

しかし、もう一つ大事な理由は、離島医療の 中で気付いた予防医療の重要性です。例えば伊 良部島、宮古島では、緊急手術に対応できる脳 外科専門医がいませんでした。応急処置はでき ても、その後はヘリコプターで沖縄本島への搬 送となります。急性心筋梗塞など、重篤な心疾 患などもなかなか処置ができません。また、本 島での治療となると、経済的な負担も大きいの です。つまり、離島の医療においては、心血管 障害などのイベントが起きては困るのです。だ から予防に力を入れざるを得ません

石垣島、宮古島で生活習慣病外来を開設し、 肥満対策を中心に、生活指導、治療を行ってき ました。肥満が関連する疾患は多彩です。離島 で特徴的なのは、肥満、糖尿病、変形性膝関節 症の患者さんが多いことです。また、脳梗塞の 患者さんも多いのです。糖尿病に関しては、一 度指摘されたら、治らないという意識が強く、 また、悪化するまではなかなか受診しないとい う状況が続いていました。糖尿病は、生活指導 で4kg 減量すると、劇的に改善し、また、膝関 節症の痛みも、3 〜 4kg の減量で痛みが取れ、 歩行が可能となる症例を数多く経験しました。 石垣島での実績を紹介させていただきますと、 3 か月以上通院されている138 名の方の体重変 動を調べました。80 名強の方が約5kg の体重 減、5 〜 10kg が40 名弱、20 キログラムの減量 に成功した人が数名もいました。合計すると 130 名で、減量成功率は、94.2 %と非常に高い 割合です。ただ、私の外来では、50 歳代の女 性が最も多く、男性が少ない傾向にあります。 これが今後の課題といえます。

ゆっくり食べて病気の予防。一口30 回噛ん で肥満の改善。

私は、外来診療で、以下の指導をして効果を あげています。

  • 1.一口30 回噛むこと
  • 2.毎日体重を測ること。

この2 点を重点的に指導しています。すなわ ち咀嚼法を取り入れています。詳しい作用機序 は、成書に譲りますが、継続することが可能で あれば他の方法よりも、減量効果が大きいと思 います。

また、食事の好み、食事量も自然に変化しま すので、特にカロリー計算、食事指導などは、 必要無くなります。咀嚼によりいわゆる食習慣 が改善されるのです。

最近は「早食いなどの食習慣が肥満につなが る」という磯博康大阪大学教授らの研究チーム が論文を英医師会に発表されています。

私達は古来からの「腹八分に抑え、よく噛ん で食べる」事の大切さを見直す必要があると思 います。