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沖縄県中央保健所所長 仲宗根 正 先生

仲宗根正先生
P R O F I L E
平成20 年4 月1 日現在
昭和55年
長崎大学医学部卒 県立中部病院にて臨床研修
昭和61年 東京大学大学院医学系研究科 修了
昭和62年 北里大学医学部講師
昭和63年 南部保健所医師
平成3年 コザ保健所保健予防課長
平成8年 コザ保健所次長兼保健予防課長
平成9年  名護保健所長
平成11年 北部保健所長 (組織名称変更に伴う)
平成14年 北部福祉保健所長(北部福祉事務所との統合)
平成15年 福祉保健部健康増進課長
平成17年 福祉保健部保健衛生統括監
平成20年 中央保健所長

健康長寿おきなわを めざして力を合わせて 取り組みましょう。



Q1.就任されて10 カ月が立ちますが、ご感想 と今後の抱負をお聞かせください。

これまでもっぱら保健所で仕事してきました が、この5 年間は県庁勤務でしたので久しぶり の保健所です。御承知のように、この数年は医 療制度改革や感染症関連の法律の改正など大き な変更がありましたし、県庁でも携わったこと と保健所の実務では違いますので戸惑うことも ありました。また保健師が関わっている個別の 相談事例等を見ると、背景にいくつもの課題が からんだ深刻なものも多く社会経済状況の変動 の影響も感じます。昨今の不況の影響もあり、 今後難しいケースが増えるのではないかと危惧 しています。

それでも保健所では地域住民の生活の様子が 保健、衛生、環境の各分野から具体的に見え、 課題に応じて保健所の段階での対策も検討でき ます。保健所は地味な機関ですが重要な役割を 果たしているということを再認識しています。 保健所は職員が70 名を超え県の出先機関では 大きな所帯ですので、県(福祉保健部と文化環 境部の出先機関です)の主要施策も念頭にお き、各班の業務がバランスよく進められ総合力 を発揮できるようにしたいと思います。

Q2.特定健診も1 年を経過し、メタボリック 症候群やCKD(慢性腎臓病)の問題など沖 縄県特有の課題も見えてきたような気がし ますが、この辺の取り組みに関して何かあ りますでしょうか?

県民向けの啓発活動とか特定健診の従事者に 対する研修等もありますが、より行政的な観点 から言いますと、それぞれの疾患の早期発見や 指導、管理のためのしくみとして、特定健診の 体制を軌道に乗せることがまず必要であると考 えています。

特定健診は、住民向けにはメタボ健診という ことでマスコミも取り上げ、周知は進んでいま す。制度としては、住民の方にはわかりにくい かもしれませんが、健診事業を保険者が実施す る事業へと変わったわけで、これは行政的には 大転換です。つまり市町村では健診の担当窓口 が変わったというレベルだけでなく、これまで 医療の費用面だけを見てきた保険者が健診およ び保健指導等の保健事業(同じホケンなので聞 き間違えやすいですが)も一連のものとして扱 うことになり、日本版疾病管理(D i s e a s e Management)の体制になったということです。

保健事業としては、健診受診自体が目的では なく、その結果に応じて保健指導が適切に行わ れ、さらにその効果の分析評価が実施できるし くみがつくられなければいけません。現時点で は今年度は特定健診体制の初年度で、健診機関 から保険者への結果報告、保険者の全国(中 央)の機関からの結果の還元、支部(県、圏 域)ごとの分析という一連の流れがまだ完結し ていません。

保健所は法的に保険者への指導権限はありま せんが、特定健診・保健指導への保健所の役割 は、地域の健康状況を把握するため、各保険者 の情報交換を通して健診、保健指導が円滑に実 施されるよう調整すること、地域保険(国保) および職域保険の圏域の健診データ(どのよう なデータが提供可能かを含め今後の課題です が)の分析をして圏域の健康課題を明らかにす ることがあると思います。残念ながらまだその ようなデータを入手する道筋もできていません が、県の保険者協議会からのデータの還元方策 等を模索していく必要あると考えています。

Q3.HIV 感染症や新型インフルエンザなど感 染症対策における保健所のリーダーシップ が求められる重要な課題が多いですが、今 後どの様な活動をお考えなのでしょうか?

感染症対策でも取り組み方は大きく異なって きます。

沖縄県は全国でもHIV/AIDS 感染者、発病 者の多い地域であり、エイズ治療拠点病院と連 携して予防・検査、治療、療養体制の各段階で 体制を整えていかなければなりません。

エイズ対策として各保健所ではこれまでエイ ズ予防教育、HIV 検査を進めてきました。とく に中央保健所では検査受検者が平成20 年は1 年間で1,398 件と全国でも多い保健所となって います。沖縄県の感染要因の特徴として男性同 性愛のグループが多いことがわかっており、 (厚労省は個別施策層対策といっております が)、特定の対象に特化した情報提供、検査等 の活動も必要です。

一方、新型インフルエンザ対策では、まず、 新たな国の行動計画に示された医療対応の内容 をたいへん大雑把に2 つに分けて整理すると、 発生から感染拡大までは保健所では積極的疫学 調査として疑い患者は感染症指定病床へ、接触 者の調査をもとに予防投薬等を行います。次い で蔓延期に入るとそのような封じ込めのための 対応は中止し、医療体制は重症者を中心とした 入院対応、軽症者は在宅療養となり、いわゆる 社会対応も行われます。行動計画で示された発 生段階の各段階の流行の進展に応じて関係機関 が適切に対応することが重要になります。

保健所では発生当初から発熱相談センターを 設置して相談および医療機関への案内を行うこ とになっています。また、県の行動計画では感 染症指定医療機関、病院、医師会等のご協力を 得て発熱外来を設置する計画がされています。 1 月31 日には南部医療センターで発生初期の患 者の振り分けを想定した大規模な訓練が行われ ました。流行時には特定の医療機関だけで対応 することはできず、すべての医療機関がそれぞ れの役割を担う必要があります。対策はまだ緒 についた段階で検討すべきことはまだまだたく さんあります。引き続きご協力をよろしくお願 いします。

Q4 生活習慣病対策や感染症対策のほかに県民 に知っていただきたい活動がありますか。

県民の健康づくりでもう一つの大きな課題に自殺対策があります。感染症対策や生活習慣病 対策は公衆衛生活動として基本的な戦略や方法 論がありそれらを受けた法律に基づき実際に活 動が展開されてきたわけですが、この点では自 殺対策は遅れていました。平成18 年に自殺対 策基本法ができたことで国、県をあげた共通の 対策の枠組みが示されています。その内容を公 衆衛生対策として一次から三次までの予防段階 にあてはめると、一次予防としてこころの健康 の保持、二次予防として自殺発生回避のための 体制で身近な相談体制やうつ状態の早期発見、 早期治療、自殺念慮のある人への対応があげら れ、3 次予防として未遂者への支援、遺族への 対応があげられています。

県では平成19 年度に自殺対策連絡協議会を 設置し、今年度から各圏域で関係機関連絡会議 が設置され体制づくりが始まっています。まだ 始まったばかりですが、各相談機関が自殺対策 におけるそれぞれの役割を確認し連携体制をつ くりながら対策を進めていく必要があります。 とくに医療機関では自殺のサインに気付き、見 守りを行い、適切な専門相談機関へつなぐとい ういわゆるゲートキーパーの役割が期待されて います。12 月には中央保健所でも2 回の「ゲー トキーパー研修会」を開催しましたが多くのご 参加をいただきました。自殺対策を進める大き な力として引き続きご協力をよろしくお願いし ます。

Q5.本会や日本医師会に対するご意見・ご要 望がございましたら、お聞かせください。

県医師会の先生方には県の各種委員会にご協 力いただき、また保健所では地区医師会の先生 方に保健所で行う会議の主要なメンバーとして 参加していただきご指導をいただいておりま す。忙しい診療の合間をぬってご協力いただい ていることにお礼を申し上げます。

今後の保健医療ではさまざまな分野で変化が 出てきて地域住民の方々に現状や施策の変更な どをよく理解していただくことが重要になって きます。県医師会では県民公開講座等を通して 県民への啓発活動に取り組んでいただいていま すが、当初県民の平均寿命の転落のニュースを きっかけに始まったこの事業は今や県民に広く 受け入れられ、大きな啓発の場となっていま す。保健医療の環境の変化に合わせ、この事業 をさらに展開され継続されることを期待してい ます。

Q6.最後に日頃の健康法、趣味、座右の銘等 がございましたら、是非お聞かせください。

ブレスローの7 つの健康習慣で言えば、「喫煙 をしない」、「朝食を毎日食べること」、「しっか り睡眠をとる」等はあてはまりますが、「定期的 な激しい運動」は、休みの日の散歩程度ですの で循環器疾患予防の効果は期待できません。

趣味と自慢できるものではないですが、睡眠 導入剤代わりの寝る前の読書。評判にひかれて お正月に読んだミステリー「チャイルド44」は おもしろかったです。あとは桜坂あたりの散歩 がてらに見る映画で、私の2008 年ベスト3 は 「12 人の怒れる男」「おくりびと」「歩いても歩 いても」です。

この度は、インタビューへご回答いただき、 誠にありがとうございました。

インタビューアー:広報委員 玉井修