沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 3月号

平成20 年度都道府県医師会勤務医担当理事連絡協議会

理事 宮里 善次

去る12 月4 日(木)日本医師会に於いて、 標記連絡協議会が開催されたので報告する。

はじめに、唐澤人会長から「本連絡協議会 は、日医勤務医委員会、全国医師会勤務医部会 連絡協議会と併せて、日本医師会が勤務医の抱 える諸問題への取り組み、検討していくための 大きな柱の一つであり、大変重要な会議である と認識している。また、今年度は医師の団結を めざす委員会、勤務医の健康支援に関するプロ ジェクト委員会を新たに会内に設置し、委員会 の組織力強化に向けた勤務医・女性医師の意見 が会務に反映される体制づくりや勤務医の心身 の健康を幅広くサポートする対策などについて 検討いただいているところである。

昨今の医療を巡る過酷な環境を改善し、医療 のあるべき姿を実現していくためには、勤務医 や開業医といった枠組みをこえて、一人一人の 医師が、医師会を中心に団結し、国民と共に一 つの大きな力として発信・行動していくことが 重要である」とあいさつした。

報 告

(1)全国医師会勤務医部会連絡協議会につ いて

1)平成20 年度報告(千葉県医師会)

千葉県医師会池崎良三理事より、「考えよう 新しい日本の医療と勤務医の未来−今こそ求め られる医師の団結−」をメインテーマに、平成 20 年11 月22 日(土)千葉県浦安市東京ディ ズニーシー内ホテルミラコスタに於いて標記連 絡協議会を開催した。全国より多数の先生方に ご参加いただきこの場を借りて感謝申し上げる。

2)平成21 年度担当医師会(島根県医師会)

次期担当県である島根県医師会田代收会長よ り、来年の開催期日について報告があった。

  • 期日:平成21 年11月28日(土)10:00
  • 場所:松江市内 一畑ホテル

協 議

テーマ:「医師の大同団結を目指して」

(1)都道府県医師会からの勤務医活動報告

1)北海道医師会 北野明宣常任理事

北海道では医師不足・偏在の影響で地域医療 が崩壊寸前となり医師確保対策が喫緊の課題で ある。本年、北海道からの要請を受け、北海道 病院協会とともに実施主体として、医師確保の 困難な医療機関に緊急臨時的に医師を派遣する 「緊急臨時的医師派遣事業」を展開している。

具体的には医師派遣が可能な民間病院や診療 所に派遣元医療機関として予め登録し、医師が 不足している地域の医療機関からの派遣依頼を 受け、実施主体と北海道で構成する運営委員会 で派遣を決定している。本年6 月から11 月まで の期間に派遣した医師数は延べ389 名、月平均 65 名である。派遣元医療機関に対する報償費は 日額50,000 円である。深刻な医師不足により 医療提供が困難な地域を支援するため、病院勤 務医のシフトの工夫や診療所医師の休診日な ど、時間を作ってもらい協力して貰っている。

2)大阪府医師会 大笠幸伸理事

大阪府では昭和39 年に勤務医部会の前身で ある勤務医委員会が設置され、昭和48 年7 月 勤務医部会が発足した。発足当時の勤務医会員 数は3,451 名であったが、平成20 年9 月末現 在1 万人(10,077 人)を突破した。部会の役 員構成は、部会長1 名、副部会長3 名、常任委 員若干名(H20 年度は43 名)、顧問若干名 (H20 年度は5 名)、参与若干名(H20 年度は3 名)となっており、毎月2 回(第2 ・4 火曜日) 常任委員会を開催している。また、府内それぞ れのブロック(11 ブロック)において年間2 〜 4 回、ブロック委員会を開催、ブロック合同懇 談会を毎年3 箇所で開催している。今年度事業 計画では、1)部会組織の充実、2)学術研究 の推進、3)地域医療崩壊を防ぐための諸施策 の検討、4)医療制度の研究と研修、5)勤務 医環境改善の推進、6)医療安全対策の推進、 7)勤務医生涯教育の推進、8)医療機関連携 の推進、9)福利厚生事業の推進、10)各地勤 務医部会との連携を掲げている。

3)鹿児島県 野村秀洋常任理事

鹿児島では会員の63.6 %(全会員3,917 名、 勤務医2,488 名)を勤務医が占めている。勤務 医会員数のこれまでの増加要因として考えられ るのは、毎年4 月鹿児島大学医学部医員採用 (研修医)ガイダンスにおいて県医師会長が医 師会の事業内容や医師賠償責任保険制度などに ついて特別講演を行っていることがあげられ る。会長が直に大学に出向くことで、医学部と の連携が強化され、医局入局後、医師会への入 会の流れが確立されている。加えて、年会費も 12,000 円と入会し易い環境となっている。さ らに、会長選挙が直接選挙であるため、会員で あれば1 票持つことになり、勤務医の意志反映 は十分果たされる状況にある。

入会後の勤務医支援策では、1)医師信用組合 の利用(各種ローン、保証人不要の低金利 2.115 %)、2)勤務医生活協同組合の利用(各 種保険等の割引)、3)医事紛争への保障制度な どの対応を行っている。また、県医師会勤務医 委員会の活動を通し、勤務医を取り巻くさまざ まな問題について協議・検討を行い、各種講演 会などを催している。

しかしながら、平成16 年4 月から必修化され た医師の新臨床研修制度の煽りを受け、近年、 勤務医数は年々減少傾向にある。県外に出る若 い医師が増えつつあることから、臨床研修医と 県医師会長との対話集会なども行っている。

(2)協議(意見交換)

日医勤務医委員会池田俊彦委員長の進行のも と、本日のテーマである医師の大同団結を目指 して、予め秋田県、岐阜県、広島県、三重県医 師会より寄せられた質問や意見についてそれぞ れ説明があり、本日のテーマである医師の大同 団結を目指して、協議(意見交換)を行った。

1)診療参加型病診連携 (秋田県医師会:坂本哲也常任理事)

平成17 年度より医師不足に伴う地域医療崩 壊の打開策として、開業医が基幹病院に出向き 診療を行う「診療参加型病診連携」を実践して いる。具体的には、8 医療圏のうち3 医療圏の3 郡市医師会がそれぞれの基幹病院において、 休日の救急外来業務や休日の小児科救急診療、 平日の夜間救急業務などを行っており、この体 制の充実を図るべきと考えている。

● 広島県医師会の高田佳輝常任理事から、電子 カルテに溶け込めない先生方への対処法につ いて質問があり、秋田県坂本常任理事から、 完全な電子カルテではなくオーダリングシス テムを採用しており、一部の先生方は紙ベー スで対応して貰っている。事前に2 〜 3 時間 程度レクチャーを行えばある程度の問題はク リア出来ると回答があった。

● また、宮城県医師会の藤田直孝常任理事か ら、折角来て貰った先生方が負担を感じない ようメディカルクラーク等の準備をすること にしている。また、秋田県が推奨する診療参 加型病診連携システムが全国に広がればかな りの成果が期待できるため、日医の積極的な 働きかけをお願いしたいとの要望があった。 同じく、宮城県医師会の橋本省常任理事か ら、病院でのオーダリングといっても都心 部、郡部、それぞれの規模によってやり方や システムが違う。その地域にあった解決策が あると思うので、試行錯誤、検討が必要であ るとの意見があった。

● 日本医師会勤務医副担当の木下勝之常任理事 から、都市部では休日診療も互いに譲り合っ てしまうのが現状。しかし、秋田県の様な取 り組みが成功例としてあるので、是非、各県 でも積極的に取り組んで欲しい。日医も全面 的にサポートし取り組んでいきたいと述べた。

2)医師の大同団結を目指して (岐阜県医師会:臼井正明常務理事)

医師不足対策の1 つとして病院の集約化の問 題について、都市部での集約化は必要だが、地 方ではむしろ地域に分散している方が安心で望 ましい。集約化の現状を見直し、少しでも中央 と地方の格差がなくなるよう対策を考えていか なければならないと思う。

● 医師の大同団結について、茨城県医師会の伊 藤良則常任理事は、出来るだけ多くの勤務医 に医師会に入って貰うことが肝要。その為に は入りやすい仕組みが必要であると述べた。 また、京都府医師会の上田朋宏理事は、京都 では地方で頑張っている先生を講師に迎え、 医師会主催による講演会を行うことで、勤務 医の先生との交流する場を提供することを医 師会が担っていると説明した。

● 静岡県医師会の武井秀憲理事は、若い医師は 基本的に医師会を見ておらず、メリット論で しか物事を考えない。彼らに目を向けさせる ためには、勤務医に主体性を持たせてあげ、 行動を起させることが必要である。勤務医が 地域のための仕事をし、なお且つそれで良い 収入が得られるような道を真面目に考えてあ げたら良いと思うと述べた。

● また、私(宮里)から沖縄県医師会主催の医 学会(年2 回開催)が、研修医等の若手医師 の発表の場として定着していることを紹介。 そのことが勤務医の医師会入会増の一因にな っていることを説明した。

3)事故調査委員会について広い視野から議論 をするべきではないか。 (広島県医師会:高田佳輝常任理事)

厚生労働省が創設を目指す医療安全調査委員 会(仮称)第3 試案並びに大綱案について、あ まりにも未解決な問題が多く、議論不十分と考 えている。加えて、多くの医療現場の医師達か らも反対の意見が相次いでいる中、日本医師会 は各県医師会を対象としたアンケート調査や日 本医学会の意見交換会を通じて賛同者多数とい う結論に導こうとしている。日医は16 万医師 会員を代表する団体であり、将来の医師のため に力を発揮すべき組織である。反対の意見を無 視し、厚労省に追従することは理解に苦しむ。

拙速に結論に走るのではなく、民主党や全国 医師連盟、パブリックコメントなどの意見も参 考にし、悔いのない制度を作って頂きたい。

● 宮城県医師会の藤田直孝常任理事から、試案 の練り上げに日医勤務医委員会があまり参画 なされていないように感じる。非常に大きな問題である。勤務医の総意を反映させるため には、少なくとも日医という組織の中で言え ば、この勤務委員会から人材を派遣し、議論 して欲しいと要望があった。これに対し、池 田俊彦日医勤務医委員長は、従前、本委員会 は会長からの諮問案についての討議が主であ ったが、今期からこの様な重大な問題につい ては議論することになっており、来年1 月開 催の委員会でこの問題を取り上げることにな っていると説明があった。

● 福井県医師会大中正光副会長、神奈川県医 師会増沢成幸理事、宮城県医師会藤田常任 理事からは、「重大な過失」の解釈について、 範囲が曖昧で、明確な共通見解がないまま事 が進められることを指摘し、熟慮して進める べきと訴えた。

● 鹿児島医師会の野村秀洋常任理事は、異状死 を警察へ届け出た経験を踏まえ、勤務医が救 われるためには医師法21 条の改正以外にな い。警察からは犯罪者扱いされ、証拠保全も 行われる。自分の主張も全く通用しない。調 査委員会に医師が関与することによって、今 の仕組みが変わると思うので、早急に作るべ きだと訴えた。また、埼玉県医師会の谷本秀 司常任理事からも県下会員が異状死を警察に 届け出たところ、鹿児島県と同様な扱いをさ れたことをあげ、異状死の問題だけに限ら ず、ノーフォールトの問題もあるので是非進 めて欲しいと訴えた。また、福岡県医師会の 家守千鶴子理事からは、療養型病床群で患者 さんが転倒し1 ヵ月後に逝去。保健所へ「警 察に届けるべきか」を相談。「必要なし」と の回答を得ていたにも関わらず、半年後に警 察が21 条を立てに連行、翌日の新聞に記事 が掲載された。21 条に関しては届け出をし なかっただけで引っ張られることもあり得る ことをご承知おき頂きたいと述べた。

● 日医木下勝之常任理事は、医療事故に対する 刑事訴追の誤った流れを正すには、医師法21 条を改正しなければならい。警察に代わる届 出機関として医療安全調査委員会を設置する ことが不可欠である。これまで警察が業務上 過失致死罪の容疑として検察に届け出た件数 は年間約90 件。そのうち起訴になるのは2 〜 3 件しかない。これから調査委員会へ届け出 る仕組みになったとしても、判断は調査委員 会に委ねられているため、これまで現状で起 訴されている件数と同程度になると見てい る。あまり言いたくはないが、医療事故を除 外するためだけに、刑法は変えられない。 「普通の過失」と「重大な過失」からなる業 務上過失致死を、これからは調査委員会の判 断で「重大な過失」のみ警察へ届け出るとい った仕組みとした方が良い。司法界の言葉で ある「重大な過失」を、医療界の言葉で判断 するならば「標準的な医療から著しく逸脱し た医療」である。これは実質的に刑法を変え ることに相当するものである。是非、警察へ の届出に代わる医療安全調査委員会の設置の 実現に向けてご理解賜りたいとお願いした。

4)勤務医の待遇改善について (三重県医師会:齋藤洋一理事)

勤務医の劣悪な労働環境と待遇について、今 春の診療報酬改定時に、病院勤務医負担軽減策 として、約1,500 億円の財源手当がなされる も、施設届出要件は厳しく、地域中核病院では 届出困難な状況で、何ら勤務医の負担軽減策に 繋がっていない。

直接、勤務医のドクターフィーに還元される 方策はないか。

● 日医勤務医委員会の本田宏委員は、大同団結 を目指していくには、医政のあり方と医療安 全調査委員会設置法などの現場の意見を汲み 取ることが大きなポイントだと思う。次回の 選挙で医療費を引き上げ、勤務医を守る政党 に投票できるように医師会が行動すれば大同 団結が可能となると述べた。

● まとめとして、三上常任理事から、医師会の 組織率向上のため方策については「A2C 会 員」という医賠責保険制度を創設し、集約化 の問題については、臨床研修制度の見直しを 現在検討し始めている。加えて、医師不足・ 偏在の実態調査、或いは医師確保に向けての アンケート調査も現在集計中である。また、勤務医の処遇については、診療報酬が一番大 きな問題であり、現況社会保障費の自然増に 対する2,200 億円の機械的削減の撤廃に向け たロビー活動を行っているところである。最 後に、医療安全調査委員会設置を巡る問題に ついては、「標準的な医療から著しく逸脱し た医療」の範囲の確定について、過去の事例 を参考に分析しながら徐々に整理していくこ とにしていると締め括った。

千葉宣言

医療費抑制政策は勤務医に過重な労働を要求し、 さらに国民の過大な期待は、はなはだしく勤務医を疲 弊させています。そのために病院を去る医師はあとを 絶たず、医療崩壊はますます深刻な状況です。

この状況を一刻も早く改善し我々にとって魅力あ る職場を取り戻し、明るい明日の医療を築くため次の 宣言をする。

一、勤務医の劣悪な環境を改善するため政府は直ち に医療費抑制政策をやめ、診療報酬制度の早急な 見直しを求める。

一、国民の求める高い医療水準を保つため、医師の 計画的増員を求める。

一、医師が安心して診療に専念できる法的整備を求 める。

一、そして、我々勤務医は医師会活動を通し、住民 と共に地域のより良い医療体制を築いていく努力 を続ける。

平成20 年11 月22 日 全国医師会勤務医部会連絡協議会・千葉

印象記

宮里善次

理事 宮里 善次

平成20 年12 月4 日に日本医師会館において都道府県医師会勤務医担当理事連絡協議会が行われた。

千葉県医師会による平成20 年度全国医師会勤務医部会連絡協議会報告と“千葉宣言”が報告された 後に、「医師の大同団結を目差して」をテーマに北海道、大阪、鹿児島の現状が報告され協議が行われた。

北海道は大学医局による医師の引き揚げなどにより、地域医療は崩壊寸前となり、医師確保は喫緊 の課題となっている。

北海道と北海道病院協会が一緒になって「緊急臨時的医師派遣事業」を立ち上げ、医師確保のまま ならない医療機関に医師派遣を行っている現状が報告された。半年間に延べ389 名、月平均65 名の派 遣状況が示されたが、その多くは民間病院から公的医療機関への派遣だったのが、印象に残った。

大阪府医師会から勤務医部会の活動内容や事業計画が報告されたが、最後に公的医療機関の1 病院 の現状が追加報告された。大阪府の厳しい財政状況をふまえて、医師手当が一律5 %カットされたこ と、若手と中堅、ベテランの給与差が少ないこと、眼科医や耳鼻科医、整形外科医が全身管理に自信 がないことを理由に、当直に責任を持てないと退職するため、医療レベルを維持するために、彼等を 当直からはずして残りのメンバーで頑張っていると云う現状を聞くと、公的医療機関で働く勤務医の 責任の強さと過酷な実体がひしひしと伝わってきた。

唐澤会長は挨拶の中で「現状の医療危機に対応するには、勤務医や開業医といった枠組みを超えて、 一人一人の医師が医師会を中心に団結し、行動していくことが重要である」と述べられたが、公務員 医師の過重労働と疲労困憊ばかりが浮かび上がってくる報告であった。

秋田からは病院の時間外を診療所の先生方が手伝い、勤務医の負担軽減になっていることが報告さ れたが、我が県でも中期展望として議論される事案と思われる。その他、公務員医師をいかに医師会 員にとりこむか、事故調査委員会に関すること、勤務医の待遇改善などが提案されたが、時間ぎりぎ りの提案であり、白熱した議論に至らず、妙案もなく宿題となった次第である。