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新生児期・乳幼児期の嘔吐
小児外科的疾患を見逃さないために

福里吉充

沖縄県立中部病院小児外科 福里 吉充

はじめに

嘔吐は、小児の診療において、よく遭遇する 主訴の一つである。嘔吐の原因は、腸閉塞など 腸管に問題のあるもの、感染症によるもの、代 謝性疾患によるもの、腎疾患によるもの、耳鼻 科的な問題によるもの、泌尿生殖器系によるも の、精神神経系によるもの、中毒によるものな ど、数限りなくあるので、診断に苦慮する場合 が少なくない。特に、自ら症状を訴えることが できない新生児や乳幼児が対象となる場合に は、理学的所見をとることもしばしば困難であ り、診断治療が遅れてしまい、患児が重篤な状 態へ陥ってしまうことも考えられる。本稿で は、嘔吐を主訴とする新生児や乳幼児の診療の すすめかたについて、小児外科的視点から述 べ、新生児および乳幼児期の小児外科的疾患に ついて言及する。

全身状態の把握が第一優先

すべての診療に共通していえることである が、診療の最初の段階で患児の全身状態を把握 しておくことが大切である。嘔吐の回数、経口 摂取量、皮膚の状態などから脱水の評価を迅速に行い、必要であれば輸液を行いながら診療を すすめるなど、患児の全身状態を安定させるこ とを最優先とすべきである。

胆汁性嘔吐

嘔吐の鑑別で重要なことは、緊急の外科的処 置が必要か否か(小児外科的疾患かどうか)と いうことである。吐物の中に胆汁が混じった、 いわゆる“胆汁性嘔吐”は、十二指腸乳頭部よ り遠位部腸管の閉塞で起こるとされ、外科的疾 患が原因であることが多い。何らかの原因で腸 閉塞が起こっていること示唆している。胆汁性 嘔吐が主訴であるならば、外科的疾患が完全に 否定されるまでは、外科的疾患が隠れているも のと考えて、診療をすすめていかなければなら ない。

新生児期の胆汁性嘔吐

新生児期に胆汁性嘔吐がみられたら、腸閉 鎖、腸回転異常症および中腸軸捻転(以下中腸 軸捻転)、ヒルシュスプルング病、鎖肛などの先 天性疾患を強く疑う。これらほとんどの疾患に 対して開腹術が必要となる。特に、中腸軸捻転 は、時間がたつにつれて腸管の大量壊死へと進 行し、生命に関わる危険性の高い疾患なので、 迅速な対応が要求される。胆汁性嘔吐をきたす ほとんどの疾患は腹部膨満となるが、中腸軸捻 転では、腹部は平坦かむしろ陥凹していること が多く、診断の手がかりとなる。特徴ある上部 消化管造影検査所見(corkscrew sign)や超音 波所見(whirl pool sign、渦巻きサイン)があ れば、本症の確定診断となるが、この疾患を疑 うのなら、すぐに小児外科あるいは新生児開腹 術のできる施設へ紹介をしなければならない。

乳幼児期の胆汁性嘔吐

乳幼児期の胆汁性嘔吐で、遭遇する頻度の高 い疾患は、腸重積症である。典型的な腸重積症 は、間歇的腹痛やイチゴゼリー状便などの症状 もみられ、診断はさほど困難ではない。腸重積 症は、小児科医による高圧浣腸整復によって完 治することが多いが、来院時に胆汁性嘔吐が見 られる場合には、腸閉塞がかなり進行した状態 と考えられ、高圧浣腸では整復困難なことが予想される。小児外科医への早めのコンサルトが 望ましい。乳幼児期の胆汁性嘔吐のその他の原 因として、頻度的にはさらに低いが、中腸軸捻 転やヒルシュスプルング病など先天性の疾患や 外鼠径ヘルニア嵌頓等が挙げられる。いずれも 小児外科への紹介が必要である。

非胆汁性嘔吐

小児の非胆汁性嘔吐としては、緊急の外科的 処置が必要としない小児科的な疾患の頻度が多 くなる。ウイルス感染による上気道炎や急性胃 腸炎に由来するものが大半であり、制吐剤、輸 液などの保存的治療で改善する。その他の疾患 としては、髄膜炎、中耳炎、尿路感染症、敗血 症など感染症、ミルクアレルギーなど小児科的 な病態があり、いずれも原疾患の治療によって 改善する。

新生児期乳幼児期の非胆汁性嘔吐

新生児期、乳幼児期に非胆汁性嘔吐をきたす 小児外科の代表的な疾患として、胃食道逆流 症、肥厚性幽門狭窄症が挙げられる。

胃食道逆流症

新生児は、胃食道逆流(gastroesophageal reflux, GER)が起こりやすい構造をしている。 ほとんどの新生児が、哺乳後にミルクを嘔吐す ることがあるが、体重増加は良好であり、呼吸 器症状も見られない。この場合のGERは、体 重増加不良、呼吸器症状を有する様な、いわゆ る“GERD(gastroesophageal reflux disease)” とは区別して考えるべきである。GER は、通常は1才頃までには改善するといわれて おり、特別な治療は不要である。一方、GERD の場合は、治療が必要となる。小児のどの年齢 層であれ、GERDが疑われる場合には、小児外 科への紹介が必要である。臨床症状、上部消化 管造影検査、24時間PHモニター検査などで診 断を確定し、治療方針を決定している。

肥厚性幽門狭窄症

乳児期にミルクを嘔吐する小児外科の代表的 疾患として、肥厚性幽門狭窄症が挙げられる。 典型的な臨床像としては、健常に出生した男児 第1子が、生後1カ月頃よりミルクを嘔吐しは じめ、嘔吐は次第に噴水状となる。オリーブ様 の腫瘤を触れ、超音波検査で肥厚した幽門筋が 描出され、診断は容易である。アトロピン療法 で症状が改善することがあり、必ずしも全例が 外科的治療の対象となるわけではないが、診断 が遅れると、電解質異常、低栄養状態となって 重篤となるので、注意が必要である。

その他の嘔吐

非常に稀ではあるが、先天性食道狭窄症や十 二指腸狭窄症などの先天性疾患が嘔吐の原因と なることがある。これらは、ミルク哺乳時期に は嘔吐がなく、離乳食として固形物が始まる5 〜6カ月頃より嘔吐が始まる。それまでの発育 発達には問題なく健常に見えるので、しばらく 経過観察されるが、嘔吐は続く。1才頃になっ て、原因不明の体重増加不良や頻回の誤嚥性肺 炎ということで紹介されてくる場合がある。上 部消化管造影検査で確定診断となり、外科的処 置が必要となる。長期間続く嘔吐や体重増加不 良を伴う嘔吐には、小児外科的疾患が隠れてい ることがある。

血性嘔吐

血性またはコーヒー残渣様嘔吐は、食道や胃 での出血を反映している場合が多い。頻回に嘔 吐したあとの血性嘔吐は、マロリーワイス様の 機序が考えられる。栄養チューブや胃管が留置 されていれば、これによる胃壁の損傷も考えら れる。GERDであれば、逆流性食道炎の増悪が 考えられる。年長児であれば、潰瘍性の病変が 疑われる。いずれの病態でも、出血が続けば、 貧血が進行し、全身状態の悪化が予想される。 早めに小児外科へコンサルトした方がよい。

おわりに

新生児期、乳幼児期に嘔吐をきたす疾患は数 多く挙げられるが、鑑別診断で重要なことは、 緊急の外科的処置を必要とするか否かである。 胆汁性嘔吐、長期間続く嘔吐、呼吸器症状を有 する嘔吐、体重増加不良及び体重減少を伴う嘔 吐、血性嘔吐などは、小児外科的疾患の可能性 が高く、早期のコンサルトが必要である。