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耳部ピアスの合併症対策
〜耳ピアス合併症、耳介軟骨炎、耳ケロイド〜

当山美容形成外科 當山 護

【要 旨】

近年、若者の間ではファッションとしてボディピアスが流行している。ピアスは 身体各部に容易に開けられるからであるが、それ故に素人のピアスショップなどで 施行し、安全性に乏しいものがある。ピアスは元来、医療行為であるが人間の組織 にピアスと云う異物を通す事は、多くのトラブルが生じる。医療人の施行と術後の ケアは大切であると云えよう。

今回、我々は耳部のピアスに関する基本的認識を述べた。特に耳介部に開ける軟 骨ピアスは、耳介ケロイドや耳介軟骨炎を生じると甚だ治療がやっかいとなり、耳 垂部の合併症とは明らかに違う。耳介ケロイドは再発しやすく、電子線治療が必要 となり、妊娠可能性のある女性には躊躇せざるを得ない面がある。また耳介軟骨炎 は診断の難しさがあり、専門医の適切な治療をしないと耳を失うおそれさえある。

Summary

"Major Ear Piercing Complications"

Recently, not only is ear piercing fashionable among young people, also body piercing has become a widespread trend. Body piercing can easily be done everywhere on the body and many people have started performing their own piercing, along with many amateur piercing shops are on the rise.

Ear piercing is an action of opening body tissue and the insertion of a foreign object which falls under the category of medical services. With amateur piercing there is a high risk of complications and the high possibility of the need of extreme medical treatments by an experienced doctor.

One particular awkward complication of ear piercing is the keloid which is the diseased part of ear cartilage that if not treated quickly and properly can cause metamorphosis or the loss of an ear. To avoid these cases primary care at an early state of inflammation is of high importance.

I'd like to report my experiences and conceptions of my cases of keloid reoccurrences. Postoperative electron-beam irradiation therapy for keloids were used with great success. For the treatment of auricular chondrodermatitis, a painless infection of the ear cartilage, I found by making an incision along the inner helix, folding the skin of the scapha back from the infected area, I was able to remove all of the infected cartilage. Then by having left the wound open for two weeks, every other day I could irrigate the wound and treat it with ointment. At the end of the next week, the wound was free of all infection and was closed again with successful results.

はじめに

昨今、耳部ピアスは男女を問わず若者の間で は増加の勢いを増すが、耳に穴を開ける行為が 容易なるためか合併症を起す症例が多発する。

耳介ピアスの合併症は種々であり、それぞれ に工夫した処置が必要で、かつ長期的ケアと専 門的知識を必要とする。今回、われわれは外来 で散見し、治療したいくつかの経験を報告する。

T)耳部ピアス合併症の種類

主たるものを以下に列挙する。

1)感染 2)ピアスの嵌入 3)外傷性耳垂裂 4) 耳垂部類表皮嚢胞 5)金属アレルギー 6)耳介・ 耳垂部ケロイド 7)耳介軟骨炎 などである。

これらはピアス施行後の早期合併症から晩期 合併症を含んでおり、施行前の注意と長期フォ ローの必要性が必須となる。

重篤な合併症は治療後も時として外耳変形を 残すことも多く、外的おしゃれを望んだにも関わ らず、結果として悲惨な状態を招く症例もある。

U)ピアス施行前の注意

当然の事として合併症を未然に防ぐには幾つか の施行前の注意点がある。以下に要点を記す。

1)未成年者の治療

司法判例では親権者の承諾なくして未成年に 医療行為を施行してはならない1)。難渋する合 併症の治療は親を含めた信頼と協力関係は大切 であり、親権者の承諾なしの未成年者へのピア スは信頼関係崩壊の第一歩となりかねない。

2)皮膚疾患既往の確認

他の身体部位における傷の治り具合やアレル ギー、アトピー体質の確認をしておき、又、消 毒薬にかぶれやすい体質などもチェックの必要 がある。

後述するが金属皮膚炎の既往、特にニッケ ル、コバルトなどは要注意である。また耳部ケ ロイドに関し、再発性が高いケロイド体質(ア レルギー、遺伝的要因)などや人種的特徴2)も 理解の基本事項となる。

3)ピアスの種類、形状、部位

金は比較的金属アレルギーを起さないとされ ているが、中には金と称し、金メッキのものが あり、その中には金属アレルギーを起しやすい ニッケルが含まれている場合もある3)。シリコ ン系樹脂やチタン製ピアスなど比較的刺激性の 少ないものをファーストピアスとして使用すべ きである。

また術後の腫れや炎症などでピアスの嵌入を 生じるものがあるが、防止の為にはピアス軸の 長いものが良く、施行後に充分な注意を要する。

部位的合併症に関し、耳垂部に発生するもの ほど治しやすく、耳介、耳輪に発生するケロイ ドや軟骨炎は甚だ難治性となる事は認識すべき であろう。

4)その他

消毒かぶれを起す症例があり、当院ではあえ て揮発性のアルコール消毒を基本とし、施行後 間もなくからピアス部の洗滌を勧めている。翌 日にピアスの止め金をゆるめる事は、嵌入を防 ぐ上で大切である。また、重篤な合併症を除い て施行前後の抗生物質の投与は行っていない。

V)合併症の治療

前述した7の合併症に対する我々の治療法を 以下に述べる。

1)感染、2)ピアスの嵌入

ピアスをはずす事なく治療したいと云う若者 は多いが、耳介軟骨炎を除いて、この様な希望 者には先ず頻回にピアス部の洗滌を勧めるが、 治癒するにしても日数を要する。われわれはピ アスを除去し、培養検査を原則とするが、その 事によって大方は一両日中に軽快する。除去後2 週間目位に再挿入が可能となり、前述した洗滌 法よりは早めに治療が完了する。皮膚炎のひろ がりが広いものや金属アレルギーに類するもの は、その処置を優先する。ピアスの食い込みの 著しいものは、局麻下に除去せざるを得ないが、 創傷治癒に時間を要し、ケロイド等、発生を見 極めながら3ヶ月後位に再装着等を検討する。

3)外傷性耳垂裂

耳垂下部に穴をあける場合に発生しやすいが新 鮮創であれば7−0ナイロン等で縫合すれば良い。 陣旧性のものは裂部の新鮮化を計り、同様の処置 を行うが耳垂縁のnotch形成に気をつけ、Z形成 をつけ加える時がある。

W)耳垂部類表皮嚢胞

ピアス後、出血などを 生じ、その後ピアスが行 われなかった場合にピア ス孔に嚢胞を生じるとさ れ、その様な症例に黒川 等は嚢胞部にトレパンを 通し、全層で嚢胞部を除 去した後ピアスを通して いる。4)

X)ピアスの金属アレル ギー

種々なる報告3),5)〜 7)が あるが、耳ピアスの場合 に多いのがニッケル、ク ローム、ニッケル含有の 金メッキなどである。こ れ等はネックレス、指輪 などでも反応するので女 性の場合、既往の有無を 大切にする、最近はチタ ン製やシリコン系ピアス の使用によってピアス後 の金属アレルギーは減少 傾向にあると思われる。

専門的にはパッチテス トなどをして単なる皮膚 炎との区別をしなければ ならないが、金属ピアス の種類や皮膚炎の注意深 い観察や症例によっては 臨床的には区別可能であ ると考えている。

Y)耳部ケロイド(症例1・症例2)

耳部ケロイドは形成外科外来で頻回にみられ るピアス後の合併症である。おおまかに耳介部 と耳垂部に分けるが治療の方法や再発率がやや 違う。ケロイドに対し保存的方法もあるが、最 終的には摘出手術も視野に入れ、その際、取り 残しをしない事が原則である。反面、大きく切 除した後、耳部の形態がどうなるか、充分なる説明をもって治療を行う。 小さいものはステロイド の局注やリザベンなどの 内服も選択肢のひとつで あるが、再発、増大の可 能性もあり、長期フォロ ーが必要となる8)〜12)

耳介ケロイドは完全摘 出を原則とするが、再発 率も高く、再発症例には 再切除後に電子線治療を 加えねばならない13)〜 18)

症例1

症例1 耳垂部ケロイドWedge excision術前

症例1

症例1 耳垂部ケロイド術後 再発なし

症例2

症例2 右耳介部ケロイド 未治療

症例2

症例2 未治療後初診時から3年目に右耳介部
ケロイド増大したので摘出術施行

症例2

症例2 摘出術後 電子線治療(3日間で15Gy)術後6ヶ月目再発なし
写真提供:新城氏

症例2

症例2 左耳介部ケロイドWedge excision術前

症例2

症例2 左耳介部ケロイド 術後抜糸時

症例2

症例2 左術後3年目 ケロイドの再発

症例2

症例2 左耳介部ケロイド再摘出後
電子線治療15Gy(3日間) 術後6ヶ月目再発なし
写真提供:新城氏

Z)耳介軟骨炎(症例3)

軟骨(膜)炎は初期診 断の困難さがある19)。耳 介部に限らず、軟骨部の 感染は潜在的に進行し、 抗生物質に抵抗性がある 事は良く知られている 20),21)。そのために、罹患 軟骨の除去が何よりも大 切で炎症の進行を止める と共に耳介保護に役立つ。 われわれの症例では図1の 如く、Helex部を切開し 感染耳介を確認した後、 炎症部を掻爬し、健常軟 骨と分けた。数週間 Helexの皮弁を持ち上げ たままオープンとして直 視野に耳介部の炎症がお さまったのをみて皮弁を 元に戻し、外耳形態に著 しい変形を残すことなく 治療できた。

この方法は文献的には 耳介血腫除去の外科的療 法と類似する。22)

症例3

症例3 左耳介軟骨炎術前

症例3

症例3 左耳介部 Helex皮弁を起し感染軟骨を除去

症例3

症例3 感染耳介軟骨掻爬後2週間目に皮弁を元に戻す

症例3

症例3 術後1ヶ月 再発なし

図1

図1

考 察

耳のピアスが一般化するに従ってトラブルも 急増し、外科系臨床家は対応に苦慮するが、ト ラブルと一言で称しても異物であるピアスを除 去すれば容易に軽快するものから再発を繰り返 すものまで合併症形態は多様である。

また医学的見地からみると、ピアスの穴はあ る一定の厚さの層を貫通して作り上げるトンネ ル形式であり、内壁は上皮化する事なく長期に 異物が放置されている。この事は、当然のこと ながら、いつでも出血などの外傷起点を来す原 因となり、晩期合併症も起しやすい状況であ る。われわれは、安易にピアスをしたものの重 篤な合併症で苦しんでいる症例を垣間見る時、 迅速かつ適切な処置が不可欠であると考えた。 それは施行前の注意と施行後の洗滌処置を含め て、金属アレルギー、嚢胞形成、ケロイド、耳 介軟骨炎などが発生したら形成外科、皮膚科な ど専門医の判断が必要な事を意味している。

特に本論で強調しておきたいのは、軟骨ピア スと称し、耳介軟骨部に穴をあけ作り出すピア スは耳介ケロイドや耳介軟骨炎を誘発しやす く、一度この疾患に罹患したら治療の難治性は 理解すべきであろう。

耳介ケロイドは耳介ごと切除せねばならない が、再発率が高いので外科的切除と共に電子線 治療を加える事もある。妊娠の可能性のある若 い女性に対する電子線治療の是非はあるものの、 この治療なしには完治がおぼつかないものも多 い23)。一方、耳介軟骨炎は診断の難しさがある。 耳介部の単なる腫れや赤味は皮膚炎のみでも起り得るからである。しかしながら炎症症状が潜 在性進行を示した時には本疾患を頭の片隅に入 れておく。耳介全域に炎症の広がりを起す軟骨 炎は素早い診断と処置が必須である。少なくと も耳介部にピアスを通した既往歴や抗生物質に 抵抗性を示し、ピアスをはずしても炎症の鎮静 が見られないものには耳介軟骨炎を疑ってしか るべきものと考える。治療は炎症部の軟骨を直 視野に除去することにつきるが、早期の発見が 外耳形態保持につながる事は云うまでもない。

まとめ

われわれは昨今、形成外科外来に散見される 耳部ピアスの合併症をまとめ、文献的考察を施 した。かつ予防と治療に言及し、一部われわれ の持論を述べた。耳部ピアスは軽症のものから 重篤のものまで多種多様の形態を示すが、安易 な治療は病態をより複雑化するので、的確な病 態把握と社会的警鐘が必要な点を強調しておき たい。

稿を終えるにあたり、写真提供や御助言を頂 いた県立南部医療センター形成外科、新城憲部 長(現 形成外科KC院長)に深謝致します。

なお本論文の要旨は第102 回沖縄県医学会 (2006年6月11日)で報告した。

文 献
1)畔柳達雄:医療事故と司法判断.117〜141, 判例タイムズ社, 2002.
2)I, F, Kuir:On the nature of keloid and hypertrophicscars, Br. J plast surg vol.43 No.1 61−69, 1990
3)伊藤正俊:皮膚疾患と微量元素−金属アレルギーと金属発癌.治療, vol.88, No.7, 1942〜1947, 2006
4)黒川正人、石井良典:ピアス後の類皮嚢胞の治療、日美外報vol.21、No.2 101−105 1999
5)中山秀夫:金属アレルギー、アレルギーの領域vol4、No.12 1657−1664, 1997
6)伊藤正俊:金属による接触皮膚炎、アレルギー免疫vol.9 No.6、650−657, 2002
7)武田躬行、沼本・ロバート・知彦:金属アレルギーに気付かず頻回の手術を行った脊椎症の1例、整形外科vol.57 No.3、283−286, 2006
8)赤石諭史、小川令、石丸さやか、百束比古:耳部ケロイドの手術治療に関する検討、形成外科 vol.47 No.7、777−783, 2004
9)寺内雅美、高浜宏光:肥厚性瘢痕・ケロイドに対するトラニラストの臨床経験、日美外報vol.18 No.4、181−188, 1996
10)Alan R. Shons, Barry H, J, Press:The treatment of earlobe keloid by surgical excision and postoperative triamcinolon injection:Ann Plast surg, vol.10 No6 480−482, 1983
11)神保好夫、加藤武男、今井進、野本猛美:耳部ケロイド治療例の検討−外科的切除と長期持続固定の併用療法−:日形会誌 vol.16 No.2、99−106, 1996
12)Tayfun Akoz、Kaan Gideroglu、Mithat Akan :Combination of different technigues for the treatment of earlobe keloids、Aesth. Plast、Surg, vol.26 No.3、184−188, 2002
13)平安名常一、飯田直成、大塚康二朗、その他:ケロイドの術後照射に対する至適線量の検討−低線量での耳 介ケロイド術後照射を中心に−、日放腫会誌、vol.16、47−51, 2004
14)Ronald N. ollstein、Howard W. Siegel、John F.Gillooley、Jean M. Barsa:Treatment of keloids by combined surgical excision and immediate Postoperative X−ray therapy、Ann Plast surg vol.7 No.4、281−285, 1981
15)R.Ragoowansi、P.G.S.cornes、J.P.Gless、B.W.Powell、A.L.H.Moss:Ear−lobe keloids:treatment by a protocol of surgical excision and immediate Postoperative adjuvant radiotherapy:Br J Plast surg、 vol54 No.6 504−508, 2001
16)小川令、三橋清、百束比古:われわれのケロイドに対する術後電子線照射療法の治療成績−18ヶ月以上の 経過観察症例について−、日形会誌vol.22 No.5 357−361、2002
17)百束比古、小川令:ケロイド・肥厚性瘢痕に対する電子線照射療法:その基礎と研究、形成外科vol.47 No.5 507−513, 2004
18)小川令、百束比古、赤石諭史:美容的観点から考えた耳部ケロイドの治療−電子線照射療法およびピアス孔の再建を含めて−、日美外報vol.27 No.3 173−177, 2005
19)井上淳、長谷川均、河野政志、その他:耳介腫脹と関節炎を繰り返した再発性多発軟骨炎の1例:臨床と研 究vol.80 No.4、741−743, 2003
20)西久保直樹、中山正、河野徹也、その他:診断に苦慮した再発性多発性軟骨炎の1例、気管支学vol.23 No.4、 400−400, 2001
21)林正樹、国本優、山中昇:片側耳介初発の再発性多発性軟骨炎例、耳鼻臨床vol.97 No.9、807−811, 2004
22)上田隆志、松永喬:耳介血腫・外耳道異物の処置、外科治療vol.74 No.5 798−801, 1995
23)松田忠義:特別講演−電子線治療, 医療vol.36 No.11、943−954, 1972

著 者 紹 介

當山護

當山 護

生年月日:昭和16年1月7日

出身地:沖縄県 那覇市

出身大学:東京医科大学 昭和40年卒

略歴
 昭和40年3月 東京医科大学卒業
 昭和41年4月 東京医科大学病院整形外科教室入局
 昭和45年4月 東京警察病院形成外科国内留学(チーフレジデント)
 昭和52年2月 日本医科大学 学位取得
 昭和53年7月 当山形成外科 勤務
 昭和59年10月 日本美容外科学会 理事
 平成13年4月 日本美容外科学会会長
 平成16年10月 医療法人形成会を設立 理事長

所属学会
 国際美容形成外科学会(ISAPS)会員・日本形成外科学会(認定医)
 臨床形成外科医会(元会長)・日本美容外科学会(専門医)・日本脱毛学会(専門医)
 日本美容医療協会(認定医)



Q U E S T I O N !

問題:いわゆる軟骨ピアスは避けておいた方が良い理由を2つ選択せよ。

  • 1)開けにくい
  • 2)化膿しやすい
  • 3)ケロイドや耳介軟骨炎になったら治療が困難
  • 4)抗生物質が効きにくい
  • 5)神経があるから

CORRECT ANSWER! 3月号(vol.43)の正解

問題:70歳女性が血尿を主訴に受診したら?

  • 1)抗生剤投与し、1週間後にフォローする。
  • 2)随伴症状の有無を問診し、必要なら泌尿器科 へ紹介する。

正解 2)