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マスコミとの懇談会〜在宅医療・在宅介護について〜

理事 玉井 修

平成19年2月22日那覇市医師会館においてマ スコミ関係者を招いてマスコミとの懇談会が開 催されました。前々回のマスコミとの懇談会に おいて介護保険と医療保険の同時改定が市民に 及ぼす影響と題して議論したときに話に上がっ た在宅医療を今回は掘り下げてみようと思いこ のテーマと致しました。療養病床の60%削減に よって介護難民の発生が危惧される危機的な時 期に、受け皿の一つとして期待されている在宅 医療・在宅介護ですが、我が沖縄県では在宅療 養支援診療所の申請施設も伸び悩み、在宅がキ ーだと言われても余りに心細いのが現状です。 今回の懇談会でははじめに、在宅医療・介護の リーダー的活躍をされている、かじまやークリ ニック院長の山里将進先生(浦添市医師会)に 御講演いただきました。本来在宅医療は近隣地 域が対象になりますが、現在は対応できる医療 機関が少なく、かじまやークリニックでは遠く はうるま市まで赴く事があるとの事です。在宅 でなされる医療はかなり幅広く、注射、点滴の みならず胃瘻の管理や気管カニューレの交換や ポータブルの機械を用いた超音波検査や心電図 検査、血液検査、ノートパソコンを使用しての 紹介状作成、処方箋出力など工夫次第ではかな り高度なレベルまで可能な時代となって来てい る様です。しかし山里先生からは、このような 高度な医療が提供できる時代であっても、今最 も必要とされているのは医師、医療施設間の連 携であると強調されました。地域完結型医療の 発想は在宅医療でも何ら変わりはないのです。 様々な専門性をもつ医療機関が、お互いに得意 分野を補完しあいながら在宅でもチーム医療を 実践することが理想の形であるとの提言を頂き ました。在宅療養支援診療所の申請が沖縄県で 特に少ないのは、24時間支援体制の構築に壁を 感じているからではないでしょうか。診療所、 病院、訪問看護ステーションなどの連携が今後 の課題だと思われます。マスコミ各社からの質 問では、琉球新報の佐藤記者から現在の在宅医 療はどの程度の整備状況にあるのかとの質問が ありました。それに応えて、今回コメンテータ ーとして参加して頂いたプライマリケア医院ゆ いの津嘉山貞夫先生から、逆に、現在の在宅医 療、在宅介護を支える医師、看護師の数、訪問 看護ステーションにおける看護師充足状況の調 査などマスコミが積極的に取材し、この問題を 広く世に知らしめて欲しいとのご要望を示して 頂きました。また、週刊ホームプラザの徳記者 からは在宅介護における家族の関わり方に関し て質問があり、山里先生は沖縄県において介護 に家族の人手がとられ、働くことができなくな ると経済的に生活できない例が多い事を指摘し て頂きました。結局は民間老人ホームや、グル ープホームへの入所待機をせざるを得ない状況 となり、場合によってはあまり整備の行き届か ない宅老所へ預ける事も多々あり、具合の悪く なった場合などの対応に問題を生じる可能性が あるとの事でした。介護難民の危惧が現実味を 帯びてまいりました。在宅はやはり経済力を含 めた家族力に大きく依存するのですね。

週刊レキオの仲宗根記者からは、今後この様 な大変な在宅医療に関わろうとする若い医師は 養成されうるのか、ここにも医師不足の影響が 心配であるとのご質問がありました。山里先生 からは、現在医学部の5年生が研修に来ており、 医学生の在宅医療への指向は決して悲観的では ない、在宅医療は今後の医療において必要不可 欠なものであり、人材育成においても在宅医療 を実践できる事が時代のニーズであるとのご回 答を頂きました。また、玉城修先生からは、現 在日本ではアメリカ医療をまねて様々な医療政 策の改革を打ち出しているが、この政策そのも のに大きな矛盾を感じている、マスコミには日 本の医療政策の行く末を他の諸外国の例と照ら し合わせて問題点を浮き彫りにして報道して欲 しいとの要望があがりました。

最後に山里先生より、在宅医療を必要とする 患者さんは今後更に増える事が予想される、在 宅療養支援診療所をもっと増やして、徒歩や自 転車などで赴けるような近隣地域の在宅診療に 専門を異にした複数の医師が関わる事が理想で ある事、また在宅で癌のターミナルケアなどを行 う際には在宅でペインクリニックを行ってもらえ るような麻酔科専門医の在宅医療への参加を是 非強調しておきたいとコメントがありました。

印象記

広報担当理事 村田 謙二

今回のテーマ「在宅医療・在宅介護について」の内容は私にとっては衝撃的でした。特にかじ まやークリニックの山里将進先生の講演には己の無知に恥じ入るばかりでした。日頃高価で大型 な先端医療の機器に囲まれて仕事をしている私にとって、在宅でできることと言ったら昔ながら の聴診器と注射器の域を出ないのではと、先入観を持っておりました。しかし、考えてみれば様々 な機器がポータブルになってきており、それらを駆使すれば、かなり高いレベルの診断や治療が 実践できる訳であり、山里先生の講演はまさにそのことを実行されている内容でした。

また私が興味深かったのは、私の専門である麻酔科の仕事が在宅医療で力を発揮しうる可能性 についてでした。我々麻酔科医は日頃から様々な鎮痛法を使いこなしています。なかでも硬膜外 ブロックで癌末期の激烈な痛みが一瞬のうちに解消され患者さんに感謝されたことはこれまで何 度か経験してきたことです。しかし、それは今までは他科から依頼されて院内で行われた場合の みでした。

最近は局所麻酔薬だけでなく麻薬系の薬物を持続硬膜外投与する技術が進化してきました。そ してそのための器具も簡便でポータブルなものが手に入るようになってきています。これらを在宅 医療の場で使えば多くの患者さんがその恩恵を受けることができます。残念なことに全国的な麻 酔科医不足のなかで麻酔科医は病院内の手術のための麻酔業務に忙殺されています。今私は、定 年退職後体力が許されるならば、在宅医療のチームワークの一員になる道を真剣に考えています。