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病院におけるインフェクションコントロールナースの役割

大湾知子

琉球大学医学部保健学科成人看護学I助教授
 同大学病院泌尿器科尿失禁専門看護師
 同大学病院感染対策室感染対策専門看護師 大湾 知子

沖縄県ICNネットワーク第1回ミーティングにて
県内で活躍している病院のICNの皆様と藤田次郎教授の集合写真

私は琉球大学保健学科で看護教育・研究に従 事していますが、附属病院の感染対策室で兼任 の感染対策専門看護師として、泌尿器科外来で は尿失禁専門看護師として臨床現場で実践して います。大学院博士課程在学中、斎藤厚先生 (当時の第一内科教授・感染対策室長)から推 薦を頂き、平成8年度日本環境感染学会海外派 遣員として米国のGina Pugliese女史からイン フェクションコントロールナース(以下、ICN) の業務研修を1ヶ月間受け、11ケ所の病院も視 察しました。

今回、沖縄県医師会会員の皆様に国内外と沖 縄県で学んだ感染対策の現場から病院における ICNの役割をご紹介させていただく機会を下さ り光栄に存じます。

T.ICNとは

1)日本看護協会の専門看護師・認定看護師規 則では、感染看護専門看護師と感染管理認 定看護師があり、その違いを次のように規 定している。

  • a.前者は、平成10年から日本看護協会専 門看護師認定試験に合格し、感染看護の 専門看護分野において卓越した看護実践 能力が認められ、かなり広い分野におけ る専門家として看護職を越えた調整能力 や研究能力が期待されている。
  • b.後者は、平成12年から同協会の感染管 理認定看護師認定試験に合格し、特定し た感染分野の高い熟練した看護技術と知 識を修得していることが期待されている。

2)厚生労働省は平成5年から院内感染対策効果 に期待のできる看護師に講習会を開催し、 文部科学省は平成7年から42大学病院に専 任の感染対策担当看護師を配置している。 医療施設では病院内措置の専任または兼任 で感染対策専門看護師、安全管理室併任の 感染管理担当看護師として活躍している。

U.ICNの役割

1.感染看護専門看護師は以下1)〜5)の5項 目、感染管理認定看護師は1)〜3)の3項 目の役割がある。

  • 1)実践:個人・家族または集団に対して卓 越した看護を実践する(実務経験5年以上)
  • 2)教育:看護職者に対しケアを向上させる ため教育的機能を果たす(院内教育研修 会・講演会・公開講座などの開催)
  • 3)相談:看護職者を含むケア提供者に対し てコンサルテ−ションを行う
  • 4)調整:必要なケアが円滑に行われるため に、保健医療福祉に携わる人々の間のコ ーディネーションを行う
  • 5)研究:専門知識・技術の向上、開発をは かるために実践の場における研究活動を 行う(院内外研究発表、研究論文指導)

2.感染対策担当看護師あるいは感染対策専門 看護師の役割

国立大学病院感染対策協議会によると感染対 策担当看護師の役割は、看護の視点から施設内 における患者・家族・職員の院内感染予防およ び適切な対応ができるように指導することと定 義されている。

役割を担い院内感染対策を成功させるのに必 要な知識は、公衆衛生学、職員の健康管理学、 微生物学、疫学、建築学、統計学、成果の評 価、管理、コンサルタント、品質保証、感染 症、滅菌と消毒、患者ケアの実践、教育など14 項目があげられる。

具体的役割には、

1)病院感染サーベイランス
2)感染防止術の提供:マニュアル作成・改訂
3)職業感染防止:職業感染発生要因に関す るデータの分析、およびそれに基づく対 策の立案や導入及び評価
4)感染管理教育:現場における感染管理教 育、ニーズの把握と実施
5)感染管理コンサルテ−ション:問題解決 を援助するため、知識や情報の提供
6)施設管理:感染防止の視点から、清掃、廃 棄物、給食などの管理実践者をサポート

V.感染対策の具体的実践内容

1.看護サービスの組織ならびに健康保持に必 要な生活水準を各人に保障する社会的機構 の整備、感染予防対策ガイドラインやマニ ュアルを作成・改訂する。

2.感染の伝播経路には空気・接触・飛沫の3 つの経路があり、建築学を活かして病院の カタチを見据えて結核をはじめ院内感染を 防ぐ。

3.新型の伝染病感染の防止、公衆衛生、環 境の衛生、個人衛生に関する個人教育、疾 病の早期診断と予防治療のためにチームと 連携する。

4.新規感染症を早期発見した場合、流行性 疾患は集団発生しないように病棟内の感染 対策リンクナースやドクターそして感染対 策チームと連携して病院感染情報の伝達と 対応・対策を行う。さらに臨床疫学的に感 染対策情報伝達システムを開発する。

5.感染管理の最新情報を盛り込みオリエンテ ーションを毎年行う。プログラム内容は、

  • a.伝染病の伝搬モデルと感染予防および管理のモデルの理解
  • b.血液/体液の暴露にかかわるかもしれないという職務/行為を知る
  • c.結核などの感染症を認識し、管理・監督の方法、防護具の用い方を知る
  • d.隔離と予防の方法によって暴露を減らすという方法を知る

6.分離菌の頻度と耐性菌の出現頻度について 病院感染情報レポートを統計学的に集計・ 解析して定期(毎月)報告する。

7.病棟や各部署を巡視して日常の患者ケアの 実践や感染管理、物品管理のコンサルテー ションや品質保証を確認する。

8.滅菌と消毒、感染症、臨床微生物学的知識を 普及したり院内環境の細菌汚染検査を行う。

9.職員の健康管理のため防護用品の着用指導 やインフルエンザワクチン接種などを行う。 (写真1、2)

10.職員に対し流水による手洗いの励行を徹底 し病院感染対策の指導を行う。人間の身体 がいかに汚染しているか、常在菌の存在を 認識させるのは重要である。消毒を行って いるが、その効果を知らない場合が多いの で、手指表面の細菌検査を行い、確認する ことによって予防行動が習得できる。

院内広報誌(「琉大病院のHOTLINE 第14号」)にて、感染対策の呼びかけをしています。

写真1

写真1

写真2

写真2

施設では院内感染対策委員会が月1回程度、 定期的に開催され、病院長または診療所長、看 護部長、薬剤部門の責任者、検査部門の責任 者、事務部門の責任者、感染対策に関して相当 の経験を有する医師等の職員から構成されてい る。保険医療機関において、院内感染防止対策 委員会が設置され、対策が行われていない場合 は入院基本料等より減額となる。

IV.おわりに

ICNは、独立した感染看護の専門分野として 水準の高い看護ケアを効率よく提供できること と確信しています。この度、5月20日(土)に 藤田次郎先生(琉球大学医学部第一内科教授、 感染対策室室長)を顧問として、ジェイ・エ ム・エス株式会社の共催にて沖縄県ICNネット ワークを立ち上げることができました。まだま だ力不足ですが、世話人代表を務めさせていた だき沖縄県におけるICNへの活動を応援する運 びとなりましたことをご報告いたします。

平成18年8月25日(金)19:00から21:00まで、琉球大学医学部臨床講義棟2Fにて、「感 染防止対策リンクナースを育成するには」を テーマに勉強会を開催致しますので、ご案内 申し上げます。

私こと「琉球大学医学部附属病院における清 掃作業員の視点からみた感染症廃棄物処理マニ ュアル作成に向けた検討」(大湾知子、高良武 博、上原勝子、津波浩子、佐久川廣美、新里 敬、健山正男、比嘉太、佐久川廣、草野展周、 斎藤厚)論文(Vol.18 No.2 1-9 2003)が、平 成17年第20回日本環境感染学会にて第1回学 会賞を受けましたのも、院内外の関係者の皆様 のお力添えの賜物と感謝致しております。

沖縄県は、観光立県がゆえに安心して訪問 できるように感染防止対策に努めたいと考え ております。

看護職者の意見を取り入れて、私たちの活動 に暖かいご支援をくださいました沖縄県医師会 広報委員の先生方に厚く御礼を申し上げます。 沖縄県医師会会員の皆様のご指導、ご鞭撻を今 後共、どうぞ宜しくお願い致します。

当時の感染対策室長斎藤厚先生へ受賞の喜びをご報告