沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 7月号

指導医がしっかりしなければ日本医療に未来なし

宮城征四郎

臨床研修病院群プロジェクト沖縄
臨床研修センター長 宮城 征四郎

沖縄の勇壮な海の祭り「ハーリー」の鐘の音 が空に響き、梅雨を抜けると本格的な夏の到来 である。

県下の研修指定病院群においては、沖縄の陽 射よりも熱い思いで日々臨床教育に取り組まれ ているだろうか。


御承知のように、臨床研修病院群「郡星むりぶし沖縄」 は、臨床研修必修化制度スタート1年前の 2003年4月に、14病院で発足した。

今年3月には、第1期生45名の研修修了者を 輩出し、うち27名が群星病院群内で後期研修を 行い、18名が群星病院群外へ勇躍していった。

また、後期研修には群星外から14名の参加 も得て、41名からの出発となった。

この誌面をお借りして、県医師会をはじめ、 多くの皆様の御協力に厚くお礼申し上げたい。


今年の病院群変更に伴う厚労省指定再申請で は、現在の21病院・施設を27へと拡大し、より 一層魅力あるプログラムへと研きをかけたい。

2007年度研修医受け入れ募集定員総数は63 名であるが、今年もフルマッチする勢いで、多 くの研修希望者のインタビューを推進している ところである。


プロジェクト発足当時から、真っ先に取り組 んだことが、指導医のレベル向上を目的とした 指導医講習会(Faculty Development)である。

外国講師も含めて、臨床教育の第一線で活躍 するclinical teacherを毎月全国からお招きし、 県下の臨床研修病院群にも幅広く呼びかけ、去 る6月の開催で既に35回を数えている。

研修受け入れが始まった2004年以降は、研 修医も一緒に「臨床の基本」を指導医・研修医 が共に学べるもち方にバージョンアップし、講 師配置も群星研修委員長会議でよく討議を行っ た上で計画するようにしている。

我々が取り組んでいる“FD”の最大のねら いは、指導医に対しては What to teach and how? 一方、研修医諸君には What to learn and how? をしっかり掴ませるために 心血を注いでいるのである。

筆者は、県立中部病院で30余年にわたる臨 床教育の経験があるが、臨床教育は研修医・指 導医の双方教育(「啐啄そったく同時」)であり、片方だ けどんなに奮闘しようが決して魅力ある臨床研 修プログラムは生れないと断言したい。

また、一部の研修医を良い医師に育てたとこ ろで、日本医療全体に及ぼす影響は微々たるも のであることも、長年の経験を通して判明して いることである。1学年8,600名という医師国家 試験をクリアーした全ての人が良医となること が、日本の臨床医療を向上させる原動力になる ものと信じている。

蓋し、群星も順風満帆ではない。

最近のFD参加率は、指導医よりも研修医の 参加率が圧倒的に高いのである。

群星だけに言える現象ではないかもしれない が、「指導医は多くの外来患者を診なければい けない」とか、「諸会議が多い」等を理由に、 指導医がFDだけでなく院内カンファレンスや 研修管理委員会に出席しない状況も散見される という。

この様に、忙しいことを理由に教育を軽視す る態度は一昔前の話しであり、未だにそのよう な議論をやっているようでは、その臨床研修病 院・プログラムは“医学生の側から”淘汰され る可能性が強いと、私自身、危機感を抱かざる を得ず改善が急務である。

研修医が目の前にこんなに沢山居るのに、学 びの場であるFDを無視するようであれば、臨 床研修指定病院は国へ返上しなさいと言いたく なる。そうでなければ、臨床研修のメッカ沖縄 にやって来た研修医たちに対して、あまりにも 不誠実ではないだろうか。

「指導医」の皆に言いたい。「指導医なら研 修医を教える前に、まず指導医自身が変わりな さい!」と。臨床教育は、そんなに甘いもので はないのである。


FD以外の取り組みとしては、筆者が研修医 に対して教育回診を行い、それを指導医に見て 頂き、日々の研修指導に生かしてもらうように している。

欧米の医学教育では、日常普段に行われてい るProblem-Based Teaching Roundsであり、 臨床教育には欠かすことのできないグローバル スタンダードの指導メソッドである。

毎回どんな症例が飛び出すか分からない“ぶ っつけ本番”の教育回診は本当に楽しいもの で、また、研修医の成長ぶりも手に取るように 分かり、遣り甲斐満点なのである。

教育回診のかなめ は、研修医へ「臨床の楽しさ」 「臨床の大事さ」「臨床の奥深さ」を伝えること にある。各指導医が、夫々教え方が円熟するに は一定の期間を要するが、訓練すればどの指導 医も必ず到達できるようになる!

先ず指導医の必要条件は、(臨床を)研修医 と“一緒に学ぶ”という姿勢が何よりも大事で あることを強調しておきたい。

次に、米国との医学医療交流の取り組みにつ いて振り返る。

「富士山」だけを見るのではなく、プロジェ クト発足当初より、「世界最高峰級」を見せる ためにピッツバーグ大学医学部と群星沖縄病院 群とのレールを敷いた。

先日、第8次ピッツバーグFD派遣団が帰任 したが、これまで、レジデントの派遣も含める と総勢29名が現地の臨床医学教育を目の当た りにしてきた。

昨年は、同大学よりチーフレジデント1名、 総合内科フェロー1名、プロフェッサー1名を 沖縄に招き、様々な教育交流行事に取り組ん だ。とりわけ、全米Best Teacherのプロフェ ッサーの臨床教育にかける迫力には、多くの指 導医・研修医が刺激を受けたはずである。

今、群星沖縄で預かっている初期研修医109 名(2学年合計)、後期研修医も合わせると150 名余の実に4割は、女性である。

今年来沖するピッツバーグ大学チーフレジデ ントは女性であり、多くの女性研修医の良きロ ールモデルになるのではないかと今から期待し ている。

7月31日には、そのチーフレジ(卒後4年目) を講師に招き、第36回群星FDを開催するので、 この機会に県内の多くの指導医・研修医に“世 界水準”に触れて欲しいと、切に願っている。


最後に今後の抱負として、研修の場が何所で あろうとみんなが良い医師に育たねばならず、 そのために、今後10年間で“良き指導医を100 名”育てて行きたいと念じており、これが群星 沖縄臨床研修病院群の願いである。

ティーチングシーン

群星沖縄 良き指導医12箇条

1.患者に対して親切な医療を実践し、医学に対して謙虚である
2.medical intelligence、medical ethicsに常に意を用いる
3.基本に忠実な幅広い総合的基礎知識を身につけ、活用する
4.患者を全人的に診療し、臨床的諸問題の解決に意を尽くす
5.自身が有する知識と技術を惜しむことなく、後進に伝える
6.後進の臨床的成長を、邪魔せず、喜び、心から支援する
7.判らない事は判らないと認め、研修医と共に学び成長する
8.臨床的疑問点はその日のうちの文献検索で、これを解決する
9.自己の専門領域のみでなく、常に非専門領域にも意を配る
10.何処の病院、何処の地に赴任しても当直と救急を担いうる
11.より良い研修システムの構築を模索し、実践し協力する
12.院内外のカンファレンスには積極的に参加し、これを支える