U 液の不思議なはたらき
県立南部医療センター
こども医療センター
長田 信洋
最近、風呂に入っていて思うのは、シャンプ ーの香りがとてもよくなったということ。鈍く なっていた嗅覚を刺激してリッチな気分にさせ てくれる。そのシャンプーの香りについて、大 手メーカーの開発秘話を某テレビ番組が取り上 げていた。
「香り」に深みを持たせるためには少なくと も20 種類以上の香りを混ぜ込む必要があるら しい。大手メーカー花王の商品開発部門には、 約1,000 種類の香料の原料が一つ一つビン詰め されて置いてあり、香りの研究、開発に用いら れているとのことであった。
企業秘密とされている香りの開発現場を女子 レポーターが取材した。数あるシャンプーの中 でも花王の「ASIENCE」は、近年売り上げを 伸ばしている商品であるが、ヒットの元となっ た香りには47 種類の成分が使われているらし い。その“艶やかな香り” を出すために、メー カーはとんでもない「香りの素材」をその中の 1 つにしのび込ませていることを知った。取材 したレポーターが、秘密の素材成分を保管して あるビンの蓋をとって嗅いだ時、思わず「うえ っ」という顔をしたが、それはなんと「猫のオ シッコの匂い」だったのである。
いたずら顔の開発担当者が、「こういったの を入れないと艶かしい香りは出ないですね」と 微笑みながらコメントするのを聞いた時は、思 わず頬の肉が緩んでしまった。
女性が美しく見える三大シチュエーションは 「夜目、遠目、笠の内」であるが、四番目に加え るとすれば、絶対に「洗い髪」ではないかと思う。 濡れた黒髪からほんのりと香ばしい香りが漂う 場面設定には、大抵の男はまいってしまう。
しかし香りの元をたどって行ったところでネ コのションベンが出てきたのでは、せっかくの美 女も台無しである。今回の「ASIENCE」の秘密 は出来るだけ思い出さないでおくことにしよう。
医療の現場で使われている薬剤にも、尿から 抽出されたスゴイものがある。「ミラクリッド」 という注射薬がそれで、名前の通り「奇跡」の 薬である。急性膵炎発症時にはトリプシンや好 中球エステラーゼ等のタンパク分解酵素を阻害 して病状を抑え、細菌性ショックや出血性ショ ックの発症時にはライソゾーム膜を安定させシ ョックを和らげる働きがある。一般名を「ウリ ナスタチン」といい、尿（Urine）由来の名が 付けられている。面白いことに開発当初は自衛 隊員たちの尿が使われていたらしい。国を守る 自衛隊員たちの尿が、われわれの体も守ってく れる。これも最初知った時には「えっ」と思っ た。今もそうなのかと思い製薬会社に問合わせてみたら意外やこれが、現在は中国の人たちの 尿を使用しているとの返事が帰ってきた。「尖 閣諸島」の領有権問題でもめている相手の尿か ら精製した薬だ。医学的には何の問題もないは ずだが、気持ちの面ではちょっとイヤだ。細菌 やウイルスの検査および処理もきちんとしてお り、感染予防面でも初期の頃のものより安全と のこと。しかし“防空識別圏” を突然主張して アジアの安全を脅かすような国である。尿の安 全性もほんとに大丈夫か？とついツッコミを入 れたくなる。
まあまあ、議論は尽きないと思うからこの話 は一応ここで区切りをつけよう。
猫尿シャンプーは香りで気分を落ち着かせ、 中国尿薬のウリナスタチンは気分はともかく、 体の中の炎症反応を落ち着かせてくれる。
ちょっとレベルの低い話になるが、寒い日の 朝のトイレでは、立ちション時に体の芯がブル ッときて気持ちがスーッと落ち着く幸福な瞬間 がある。小学生以上の男子なら誰でも経験して いる感覚だが、男子とは違って尿の通り道が肝 心なところで途切れた形になっている女子には この感覚がないらしい。この幸福感もシャンプ ーや薬剤同様、U 液（尿）が人にもたらす不思 議なはたらきと言えるだろうが、女子には納得 できないでしょうね。
心カテ風景（作者：長田信洋）
心臓外科医の手（作者：長田信洋）