やぎSUN クリニック 屋宜 晃
日本アレルギー協会は、石坂公成・照子先生 がIgE 抗体を発見し米国の学会で発表された2 月20 日を「アレルギーの日」と制定し、その 前後一週間を「アレルギー週間」として様々な アレルギーの啓発活動を行っている。そのアレ ルギー週間に因んで県医師会も会報に毎年アレ ルギーに関する記事を掲載している。今回はア レルギー性鼻炎を中心に疫学と将来展望に関し て簡単に述べたいと思う。
IgE が関与する最も典型的な例がアレルギー 性鼻炎である。誘発テストとして鼻粘膜にハウ スダスト抗原を染み込ませたディスクを置くと 直ぐに、くしゃみ・水様性鼻漏・鼻閉が出現する。つまりアレルギー性鼻炎患者の鼻粘膜にお いては、肥満細胞にIgE 抗体が付着して感作状 態にあるところに、抗原が侵入すると肥満細胞 内の顆粒が細胞外に放出され上記症状が起きる とされている。鼻粘膜誘発テストをやっている と、出現する水様性鼻汁の量に驚くことがある。
本邦で有病率が高いとされていた副鼻腔炎 は1960 年頃より減少ないしは軽症化が始まり、 1960 年後半より逆比例するようにアレルギー 性鼻炎の増加がみられている。本土では杉花粉 症の増加が著しく、社会問題となっている。
全国の耳鼻咽喉科医及びその家族を対象とし た疫学調査結果1)が(表1)である。沖縄県の杉花粉症の有病率は、6.0%となっている。調 査対象が耳鼻咽喉科医とその家族であるから、 当然バイアスがかかっているので杉花粉症の有 病率6.0%という結果になっていると考える。
表1(一部抜粋)
文部科学省の「アレルギー疾患に関する研究 調査報告書2)」によるとアレルギー性鼻炎の児 童生徒の有病率は9.2%である(図1)。学校健 診では検診当日に鼻炎症状を呈していないと正 常と診断されること、特に那覇市医師会では耳 鼻咽喉科医以外の診察であるため低値となるこ とに注意が必要である。
図1 児童生徒全体のアレルギー疾患有病率
従って沖縄県におけるアレルギー性鼻炎(ほ とんどが通年性アレルギーのハウスダストアレ ルギーと思われる)は、先に述べた耳鼻咽喉科医 及びその家族を対象とした疫学調査結果の27.2% と児童生徒の有病率9.2%の間にあるのであろう。
1980 年代には杉花粉症は日本特有の遺伝関係 が強く日本人にしか発症しないのではないかと 考える人もいたが、最近では日本に長く住んでい る外国人にも杉花粉症が発症している3)ことよ り、多量の抗原に暴露されると誰でも杉花粉症を 発症する可能性があるとされている。事実沖縄か ら本土に進学就職すると、花粉飛散期を2 シー ズン経験すると杉花粉症を発症することがある。
アレルギー疾患の増加の原因として「衛生仮 説」と「旧友仮説」がある。衛生仮説では感染 症が減少し、Th1(細胞性免疫)からTh2(液 性免疫)優位へと変わったことが原因と説明し ている。もうひとつの旧友仮説では、腸内細 菌(旧友)が自然免疫を介してTreg を誘導し、 免疫系の作動を制御しているところに、旧友が 存在しなくなってこうした免疫調節系が働かな くなり、炎症性腸疾患が増加しアレルギー疾患 も急増したとする考えである4)。いずれの仮説 が正しいか不明であるが、やはりアレルギーには多因子が関わっていると思われる。
アレルギー性鼻炎の治療として根本治療に近 いのは減感作治療だけである。この減感作治療 は、最近ではアレルゲン免疫療法と呼ばれてい る。従来から行われている皮下投与法は、頻回 な通院が必要で、時に重篤な副作用があり施行 医療機関が減少している。これに対して最近舌 下免疫療法が期待されている。つまり舌下免疫 療法では、痛みがなく、重篤な副作用が少ない、 また自宅投与が可能なことより負担が少ない治 療法となる。日本では本年4 月以降に杉花粉の エキスが薬価収載される予定である。またダニ に対しても治験が進んでいる。厚生労働省から は、舌下免疫療法の導入に際して教育講習の必 要性を求められたため、日本鼻科学会ではすで に2 回講習会を開催しており、e- ラーニング を経て登録医とする予定である。この登録医を 中心として舌下免疫療法が普及しアレルギー性 鼻炎の治療が大きく変わる可能性がある。しか し舌下免疫療法の治療効果は、皮下投与法より 劣るとされ、またnon-responder の問題や不適 切な投与により発生する危険性が指摘されている5)。 そうであっても今後のアレルギー性鼻炎 の治療のブレイクスルーになるのではないかと個人的には思っている。
【参考文献】
1) 鼻アレルギー診療ガイドライン2013 年版 ライフ・サイエンス
2) アレルギー疾患に関する調査報告書 アレルギー疾患
に関する調査研究委員会(文部科学書)平成19 年
3) 在日外国人のスギ花粉症実態調査票 石井彩子 宇田川
友克 柳 清 今井 透 耳展46:4・279 〜 283、2003
4) 進化医学 井村裕夫 P.155 羊土社
5) 舌下免疫療法の実際と対応 岡本美孝 日本耳鼻学会編