沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 2月号

2型糖尿病薬物療法開始時の
経口血糖降下薬の選択について

湧田健一郎

中頭病院
糖尿病内分泌代謝
内科 湧田 健一郎

近年、糖尿病治療薬の新規開発は目覚ましく、 当院においてもその選択肢は急速に広がってい ます。先日、一人の若い先生に声をかけられ、外 来で患者さんの糖尿病をしばしば発見するのだ けれど、運動、食事療法で改善しない場合、薬 物療法として最初にどの薬剤から使用してよい のかよくわからないので教えてほしい、と頼ま れたことがありました。特に、非専門医の先生 方に於いては治療薬の選択に難渋する場合も経 験されると思われます。そこで、当院にて、特 に外来を初めて間もない先生方向けに新たに診 断された2 型糖尿病(主にHbA1c8%未満で、ケ トーシス、ケトアシドーシスを伴わない)の患 者さんに対して最初に薬物療法を開始するにあ たり、その経口血糖降下薬の選択に関して1 つ の提案をさせていただきました。今回は当院(ち ばなクリニック)の糖尿病外来患者数、経口血 糖降下薬の使用状況なども交えてご紹介します。

当院では約4,400 人(2012 年12 月時点) の2 型糖尿病患者が通院されております。そ のうち約67%が経口血糖降下薬を使用して おり(図1)、その処方内容の内訳としては スルホニル尿素(SU 薬)が最も多く、続いてDPP4 阻害薬の順になっております。これ を、以前(2011 年)のものと比べてみますと、 SU 薬の割合が減少していること、逆にDPP4 阻害薬の割合が増加していることが確認できます。(図2)

図1

図1 当院における治療群別2 型糖尿病患者症例数

図2

図2 当院における経口血糖降下薬使用割合

現在、経口血糖降下薬としてはビグアナイド薬、 チアゾリジン薬、DPP4 阻害薬、SU 薬、即効型 インスリン分泌促進薬、αグルコシターゼ阻害 薬(α GI)があり、それぞれ、インスリン抵抗性 改善系として、ビグアナイド薬、チアゾリジン薬、 インスリン分泌促進系として、SU 薬、DPP4 阻 害薬、食後高血糖改善系として、即効型インスリ ン分泌促進薬、αグルコシターゼ阻害薬(α GI) に分けられています1)。(図3)2012 年に改定さ れた米国糖尿病学会(ADA)/ 欧州糖尿病学会 (EASD)のガイドラインによりますと2 型糖尿 病患者の治療として運動食事療法に加えて、まず、 ビグアナイド薬の使用が推奨されています4)。 (図4)一般に欧米人の2 型糖尿病患者はインスリン 抵抗性主体型、日本人の場合、インスリン分泌低 下型が多いとされており、このガイドラインをそ のまま日本人2 型糖尿病患者の治療に適応するこ とはできないと思われますが、薬価、低血糖のリ スクが少ないことなどを考えると、少なくともイ ンスリン抵抗性主体型の2 型糖尿病患者に対して はADA/EASD のガイドラインに沿って治療する こともやぶさかではないと思われます。このよう に薬物治療を開始するにあたってインスリン抵抗 性の有無を確認し、薬剤を選択していく方法は1 つの有用な方法であると考えられます。 実際、インスリン抵抗性が高く、大量にインスリンを使用 しておりましたインスリン強化療法中の患者で、 チアゾリジン薬の追加投与により必要インスリン 量を劇的に減量できた例なども経験しています。 そこで、薬物療法開始時の薬剤選択に関して、よ りシンプルに説明するために、まず、薬物療法開 始前にインスリン抵抗性の有無をチェックして、 インスリン抵抗性主体の糖尿病患者に対してはビ グアナイド薬、チアゾリジン薬などのインスリン 抵抗性改善薬を、インスリン抵抗性がそれほどな い患者に対してはSU 薬、DPP4 阻害薬などのイ ンスリン分泌促進薬を使用し、特に食後高血糖が 目立ってくるようならα GI、即効型インスリン 分泌促進薬などの使用を検討する方法を提案し ました。(併用する場合は、組み合わせによって、 薬剤の減量、中止または種類の変更を考慮する必 要があります。)インスリン抵抗性主体型の特徴 としてはメタボリックシンドローム、HOMA-R 2.5 以上、空腹時血中インスリン 15 μ U/ml 以上、イ ンスリン分泌低下型の特徴としては空腹時血中Cペプチド1.0ng/ml 以下、 やせ型、2)などが挙げられます。 特に現在の沖縄県の場合、男女問わず、 全世代でメタボリックシンドロームが全国平均を 超えていること3)、沖縄県民のインスリンの分泌 パターンが欧米人のそれに近いことなどを考慮す ると、ビグアナイド薬、チアゾリジン薬といった インスリン抵抗性改善系薬剤を使用する機会が多 くなってくるかもしれません。また、高齢者の割 合が高い事(今後全国的に増加していくこと)を 考慮すると、GLP-1 のインスリン分泌に対する 作用機序として、インスリン分泌の増幅経路を亢 進させるという特徴から単独では低血糖のリスク の比較的少ないDPP4 阻害薬が比較的使いやす い薬剤であり、今後その使用がますます増えてく るものと思われます。これは先ほど示した当院の データと同様の流れにあると思われます。

図3

図3 経口血糖降下薬の選択

図4

図4 米国糖尿病学会(ADA)欧州糖尿病学会(EASD)ガイドラインにおける治療指針

薬物療法を開始するに当たって、薬剤の使用 方法に関して日本のガイドラインでは画一され たものはありません。一方、その選択の幅が年々大きくなっていく近年の状況を考えますと、最 初にどの薬剤を使用するかを決定することが困 難になってくるのではないかと思われます。内 服薬の選択に関しては基本的にはそれぞれの患 者さんに合った適切な治療が必要であり、薬剤 の選択方法はそれぞれかと思いますが、その1 つの選択基準として少しでも参考となればと考 えご報告しました。今後新たな経口血糖降下薬 が登場することが予想されますが、その使用方 法に関しても、より一層検討を重ねていきたい と考えております。

【参考文献】
1) 日本糖尿病学会編 糖尿病治療ガイド2012-2013. 文光堂
2) 糖尿病診療ハンドブック 岩岡 英明, 栗林 伸一
3) 琉球新報 2013 年1 月24 日朝刊
4) Inzucchi SE et al.Diabetes Care 2012:35(6):1364-1379