理事 玉井 修
式 次 第
司会 沖縄県医師会理事 玉井 修
1. 開 会 司 会
2. 挨 拶 沖縄県医師会長 宮城信雄
3. 懇 談 座長 沖縄県医師会理事 玉井 修
1)出生前診断をする前に話し合うこと
沖縄県立中部病院 総合周産期母子医療センター
産科 副部長 大畑 尚子
2)出生前診断の光と陰
沖縄県立中部病院 総合周産期母子医療センター
新生児科 真喜屋 智子
3)出生前診断―なぜ選ぶのか、選ばないのか
明治学院大学社会学部教授 妊娠研究会代表
柘植 あづみ4. 質疑応答
5. 閉 会 司 会
平成25 年11 月23 日(土曜日)沖縄都ホテ ルにおいて出生前診断について考える県民との 懇談会が開催されました。採血検査によってよ り簡便に検査が可能となったいわゆる新型出生 前診断法がマスコミによって報道され、一般に もよく知られる様になってきました。しかし、 この様なめざましい医学技術の進歩により可能 となった出生前診断は十分な議論や理解も無 い状態で安易に検査を受け、その結果の重大さ に後で気がつくという状況を招いています。周 りの言葉に促されて、安易に検査を受けた結果 を前に愕然とし、結果を受け入れる事が出来ず にただ苦しむ母親もいるそうです。出生前診断 とはどのようなものなのかを事前にしっかり理 解して検査を受ける必要があるのです。出生前 診断は敢えて受けないという選択もあり得るの です。生まれてくる子供の命を選んでしまう権 利が果たして我々にあるのだろうか?根本的な 重い問いに対する答えは一人一人違うのでしょ う。技術の進歩とは我々に幸福をもたらすのでしょうか?それとも混乱と苦悩をもたらすので しょうか?私たちは立ち止まって考えなくては なりません。
障害を持って生まれてきた子供は不幸なので しょうか?僕自身はそうは思いません。僕自身 の息子も生まれつきの障害を持ちながら養護学 校を卒業し、現在は作業所で元気で働いています。僅かではありますが、毎月給料を貰ってき ます。金額の大小ではないのです。我が子が精 一杯働いて、少しでも社会の役に立とうと努力 する姿が僕の生きる力になっています。子とし て生まれ、親として成長し、愛情を持って生き ていく事が出来れば、障害は不幸ではないと僕 は信じています。
沖縄県立中部病院 総合周産期母子医療センター
産科 副部長 大畑 尚子
出生前診断は、胎児期から新生児期にかけて 特別な医療が必要となることが予測されるよう な赤ちゃんを発見して、治療の準備をするため にありますが、ときに、妊娠の中断につながる こともあります。
出生前診断の方法は、1)侵襲のありなし、例 えば流産の危険を伴うかどうか、2)その検査だ けで診断が決まる確定的検査か、可能性がわか る非確定的検査か、また3)ご両親が希望されて 特別に検査を行うのか、通常の妊婦健診のなか で行われるのか、といった観点から分類するこ とができます。我々は、いろいろな場面でご両 親に情報提供をしながら母体胎児の診療にあた りますが、赤ちゃんに問題があるかもしれない という方や、羊水染色体検査などの特別な検査 を希望される方に対しては、別に時間を設けて「遺伝カウンセリング」を行います。
遺伝カウセリングは、病気の遺伝や先天異常 などについて疑問や心配がある人々に対し、情 報提供や心理的社会的支援を行い、その人がで きる限り納得して方針を決めることができるよ うにする対話のことをいいます。例えば羊水染 色体検査を希望される方に対しては、検査の方 法だけでなく、どんな不安があるのか、検査で 分かることや分からないこと、検査結果をどの ように利用するか等を話し合いますし、超音波 検査で胎児に問題があるかもしれないと言われ た方に対しては、どのくらいのことが分かって いて、何が分かっていないのか、これから追加 の検査をどのように行うのか、出産後の治療の 予定等について話し合ったりします。単にこち らから情報を伝えるのではなく、患者さん自身 が自ら目の前の困難を乗り越えていくための援 助を目指しています。
出生前診断に関する遺伝カウセリングでは、 胎児は直接目には見えず、その意思や希望も確 認できない状態が故の難しさがあります。時に ご両親の希望と胎児/ 新生児の希望は違うのか もしれないと思ったり、ご両親以外の方が方針 決定に強く影響している、と感じたりすること もあります。出生前診断について話し合うこと は、ご両親それぞれが子供を持つことについて どう思っているのか、子供の多様性についてど うお考えなのか等を改めてお互い確認出来る場 でもありますので、ご両親それぞれの思いを率直に話し合える場になるよう配慮することを心 がけています。
新しい検査法は次々出現するでしょう。社会 に出生前診断が広がり、出生前診断が一般的と いう風潮になると、出生前診断することが「賢 い選択」と思わせてしまう可能性や、妊婦さん 達に、子供に何かあったらどうしようという不 安をますます強く抱かせる可能性があることに も注意をしていかなければならないと思います。
今回の懇談会では、出生前診断の現状につい て簡単に整理しながら、どのように遺伝カウセ リングを行っているのかをご紹介し、その社会 的な問題にも触れられればと思います。
沖縄県立中部病院
総合周産期母子医療センター 新生児科
真喜屋 智子
「出生前診断」とは、生まれる前に胎児の状 態を診断することです。昨年、新型出生前診断 が話題となりましたが、出生前診断自体は、実 は40 年以上前から行われてきた技術です。も ともとは、胎児の病気を早期発見・治療するこ とで、疾患を持った子を減らすことが目的でし た。しかし、先天性疾患は診断がついても治療 法がないことも多く、妊娠早期に重篤な疾患が 診断された場合、産まない選択をする家族もいます。
出生前診断の利点は、生まれた直後から治 療が行えるように、赤ちゃんの疾患に応じた 準備ができる点です。一部の疾患では、おな かの中にいる状態で治療を行う胎児治療という方法もあります。従来の治療法では助けら れない重症例が、出生前診断で救命できるよ うになったことは、出生前診断の「光」の部 分です。また、診断から出生まで時間がある ため、医療者と家族が赤ちゃんの病気につい て知識を共有し、心の準備をすることができ る点もメリットです。
一方、胎児診断が治療上の不利益をもたらす 場合もあります。まだ見ぬ我が子が聞いたこと もないような病気だと言われたら、どういう気 持になるか想像してみてください。多くの妊婦 さんは五体満足でかわいい赤ちゃんが生まれる ことを思い描いています。突然の診断でお母さ んはパニックになります。必死で情報を集めよ うとしますが、インターネット上には、整理さ れていない情報がたくさん並んでいます。悪い 情報ばかりが印象に残り、赤ちゃんの存在自体 を否定してしまうかもしれません。妊婦の中断 や治療拒否につながる可能性があるという点は 出生前診断の「陰」の部分でしょう。
子どもが病気をもっているという事実を受け 止めることは、簡単なことではありません。で きれば障害を持つことなく育って行ってほしい というのは、親としてはごく自然な気持ちです。 しかし、多くの人は先天性疾患をもった子供た ちがどのように成長し、生活しているのか知ら ないのではないでしょうか?周囲の人たちの疾 患に対する認識の低さや社会保障の不足など が、「障害を持った子を育てる自信がない」と 妊娠中断を決断させる一因になっていることも 事実です。そして、産まない選択をした家族の 心のケアは、現在不足している状態です。
それぞれの家族で人生観や疾患に対する考え 方は異なるため、出生前診断の問題は簡単に解 決できるものではありません。私は赤ちゃんの ケアに携わる新生児科医として、妊娠継続を迷 っている家族や、産むことを決めた家族に対し て、この子たちがいかに社会の中で生活し、ど のようなサポートが得られるかの情報提供をす ること、障害をもつ=不幸ではなく「生まれて よかった」と言ってくれる子がいることなどを 伝えていきたいです。
明治学院大学社会学部教授
妊娠研究会代表
柘植 あづみ
日本は欧米の医療先進国に比して、出生前検 査については慎重な姿勢を維持しているとされ てきました。ところが、近年、日本における出 生前検査を受けることへの関心が高まっている という報道や調査結果が報告されるようになり ました。
出生前診断とは、妊娠中期までに胎児のさ まざまな障がいや遺伝的な疾患などについて 検査をして、その結果によって妊娠を継続し て出産するのか、それとも妊娠を中断するの かを決めるために行われます。そのための検 査をするかどうか、さらに検査を受けた場合 には検査結果を受けてどうするのかを、妊娠 している女性とそのパートナーが決めること とされています。
ただ、日本では1970 年代初めから出生前診 断が障害者差別であり、生命を選別する(いわ ゆる優生学的な発想に基づく)行為だという批 判もありました。そういった背景もあり、羊水 検査やその他の出生前検査の実施件数は推計値 しか得られていません。また、これまでの推計 値はアメリカやイギリスと比較するとかなり少 ないとされてきました。けれども、この2、3 年の間に、羊水検査の件数が増えているといっ た報告や、超音波検査を含めた技術の進歩によ って胎児の何らかの異常が妊娠の早いうちに見 つかりやすくなり、出生前診断後に中絶をする 件数が増えているのではないか、という報道も なされました。
私たちは2003 年に、東京都内で「妊娠と出 生前検査の経験についての調査」を実施しま した。その結果を『妊娠ーあなたの妊娠と出 生前検査の経験をおしえてください』(柘植・ 菅野・石黒著・洛北出版)を2009 年に出版しました。
新しい出生前検査の報道が続く中で、その本 の中でも紹介した何人かの女性の言葉が思い浮 かびました。ある女性は上に子ども2 人がいて、 年齢が高くなってからの妊娠なので、家族と相 談してトリプルマーカー検査を受けました。胎 児がダウン症である確率は低いという結果が出 て、出産しました。でも、元気に育つ子どもを 見ていて、もし確率が高いと言う結果だったら どうしたのだろう、とふと考えるそうです。別 の女性は、年齢が高くなってからの初めての妊 娠だったので、医師から羊水検査の説明がされ ました。「受けない」と決めて、出産しました。 子どもは元気に生まれました。そして「胎児を 選別するようなことはしたくない、どちらにし ても産む」と思っているから受けなかったと自 分で思っていましたが、よく考えたら、検査を 受けて、検査結果でもし何かが見つかったと言 われたら、それでも産むと言い切れるだろうか。 その場に立って、厳しい選択をしなければなら ないような検査は受けない、というのが本当の ところだったのではないか、と思ったというこ とでした。
「大丈夫だろう」と思って羊水検査を受けた けれどもダウン症が見つかって、中絶し、その 選択で良かったのかと思うのと、検査を受けて良かったと思う気持ちの両方があると記入した 人がいました。自分の妹がダウン症で早く亡く なったけれども、ダウン症の子が生まれても育 てるとして検査を受けなかった人もいます。
新型出生前検査の登場、出生前検査について の日本社会の受け止め方、妊娠年齢の高齢化な どさまざまな状況が変化する中で、2003 年調査 から10 年後となった今年も、あらためて「妊 娠と出生前検査の経験についての調査」を行っ ています。その結果の中間集計を含めて、女性 とそのパートナーがなぜ出生前診断を選ぶのか、 あるいは選ばないのかについて考えています。
○玉井理事
お疲れ様でした。今回の講演会のご感想をお 伺いさせてください。
質問の中には普通に出生前診断はどこでもでき るのかとか、医者は異常があった時には言ってくれ るのかという質問が多かったです。なので、大畑先 生に質問したのですが、結構、幅があるんですね。
○大畑先生
妊婦健診の全てが出生前診断になりうる、異 常があれば伝える、ということが基本だと思いま すが、境界がわかりにくく、患者さんと共通認識 をもつ作業が不足しているんだろうと思います。
○玉井理事
産婦人科の先生は異常があれば言ってくれる んでしょということでしょうか。
○大畑先生
言うのではないかと思います。
○県立南部医療センター・こども医療センター
大橋容子先生
胎児の生命に関わる ものに関しては言わね ばなりませんが、マイ ナーなものだけであっ たら言うかどうかよく 話題になりますね。生 命や予後に関わるもの は伝えますが、そうでないものは妊婦や家族に 言うべきかよく迷います。
○柘植先生
私が生命倫理でこのテーマについて25 年前に 勉強し始めた頃は、障がいがあっても産まれてか ら育っていくならば、言わないのが医師としての 良心のように受け止められていました。障がいの あるお子さんがいるお母さんにインタビューし たときにも、医師はもしかしたら胎児のときに障 がいがあることを知っていたかもしれないけど、 何も言われずに出産した。産まれて最初はショッ クを受けたけれども、育てていかなきゃと思い、 育ててきた。産んで良かった、妊娠の早い時期 に、障がいがある、と言われていたら、もしか したら産まなかったかもしれない、とおっしゃっ てました。障がいがあっても生まれて育つ子ど もならば、障がいがあることを伝えずに生まれ てから両親を支えていくのが医師の良心だと考 えられていましたが、今は伝えなかったことを 訴えた裁判があります。アメリカでは羊水検査 があることを言わなかったことで裁判になって 医師が賠償金を支払った事例があります。、日本 でも羊水検査の結果を間違って伝えたことが裁 判になりました。さらに、妊娠中に風疹にかかっ た妊婦さんに、風疹症候群で生まれる子どもに 障がいが出るかもしれないことを伝えなかった、 と裁判が起きて、患者側が勝訴しています。
何を伝えるかを医師が決めるというのは、医師 がモラルを守っている時には、医師にお任せのパ ターナリズムと批判されることもありますが、そ れでもなんとかうまくいっている社会だったので す。今はそうじゃなくなって、医師がその責任を 抱えきれなくなっている。結局、訴訟を避けるに は、わかったことはすべて伝えた方が良いという状況になっています。そこが医師と患者の関係の 不幸の始まりになっているような気がします。
例えば、医学的に「小奇形」とされる異常は 伝えないとか、口唇裂だったら伝えなかった、 指の形成不全は超音波で分っていたはずなんだ けども、言われなかったんだと思うんです。
妊娠中の中絶できる時期に伝えられれば、産 まないことにするけれど、産んですごくショッ クを受けても、育てていかなきゃと育てたら、 育てて良かった、というストーリーは、医師が どこまでわかっていたかわからないのですが、 伝えなくても許されていた社会だと思います が、現在では、裁判になったら困るという不安 もあると思います。
○大畑先生
医師と患者関係の基本的スタンスとして、医 師側がたくさん情報を持っていて、患者さんを 思いやって教えるか教えないかを決める時代で はなくなってきていると思います。私自身は、 同等の立場に立っている者同士情報共有して、 そしてどうするかを一緒に考えようというスタ ンスでやっています。これを言ったらショック を受けるかではなくて、ショックを目の前で受 けて頂いて、それからどうしようか一緒に考え ようという感じです。また、医師の側には、手 術で治療可能な疾患を早く見つけてしまい、中 絶すると言われたらどうしようというそのプ レッシャーもあると思います。
○玉井理事
実際そのような経験もありますでしょうか。
○大橋先生
22 週という壁があって、22 週未満だったら 法律的に中絶が認められていて、それ以降はそ のような選択肢はなくなるので、胎児の異常を 妊娠のどの時期にみつけるかが問題だと思いま す。22 週未満に見つけた場合はどんな異常で あれ中絶に結びつく可能性を意識します。
初産婦さんでうつ病のある方に、超音波で口 唇裂を見つけたことがあります。個々の医師- 患者関係は様々だと思いますが、私なりにこの ご夫婦と関係を築いていたので、ご本人には最 後まで口唇裂のことを言わなかったことがあり ます。彼女は実際に我が子を見たら愛情が湧く だろうけれど、この時期に口唇裂のことを話す と妊娠期間中に色々な想像をしてしまいうつ状 態が悪化するだろうなと考えて言いませんでし た(ただし、この方の場合は例外です)。
○大畑先生
産科の中で難しいのはこの病気は言っていいと か言わなくていいというようなルールは決められ ないところにあります。母体保護法の胎児条項も そうですけど、胎児条項を作った時に、胎児条項 で中絶しても止む無しという病気はなんだと、具 体的な病気は挙げられないですよね。そういう難 しさもあり、明確にした方がいい部分もありつつ も曖昧さが残っていないと難しいですよね。
○玉井理事
一人一人の問題でプライベートな問題ですか らね。明確に区切ることが難しいですし、また どんどん医療が進歩していて、そういうものが どんどん変わっていく可能性がありますよね。 そういうところも踏まえてどう判断していくの かが増々難しくなっていきますよね。
○柘植先生
今は発達障がいのお子さんの脳の画像診断が 一生懸命に研究されていますよね。どこまで精 確なのかわからないですけど。出生前の胎児の 脳の画像診断も進んでいくんじゃないかと思い ます。胎児の段階でここが普通とは違いますと か、ここが異常ですとか言われると、育てよう という意欲がなくなっていくんじゃないかと、 どんどん社会が誰を受け入れるかが狭まってい くんじゃないかと思います。
○金城常任理事
今話題の母体血によ る遺伝子診断いわゆる 無侵襲的出生前遺伝 子学的検査(NIPT: non-invasive prenatal genetic testing)は、具 体的にはどこでやられ ているのでしょうか。沖縄ではやっていないですよね。
○大畑先生
施設基準を満たす施設が沖縄では少ししかな くて、当院は基準は満たしていても手を上げる 余裕がないという状態です。大学病院クラスは ほぼ出していると思います。日本医学会のホー ムページに施設リストが更新されていて29 施設 ぐらいあると思います。患者さんがインターネッ トを使って検索されれば情報はとれますね。
○金城常任理事
具体的に母体血による胎児の遺伝学的検査の 施設を医師会から出していいと思いますね。採 血は内科医が行い、検体を米国に送り、胎児に 染色体異常の可能性があれば治療は産婦人科医 に紹介されることになる、これをどうするかですね。
(NIPT 検査実施施設一覧(2013 年11 月1 日現在)31 施設)
○大畑先生
今一応そういうことをしてほしくないので縛りをかけていると思います。
○玉井理事
真喜屋先生のお話の中で、産れてすぐ亡くなっ てしまう子だと最初に診断されて短期決戦だと 思ってその子に一生懸命関わっていたお母さん が、この子と長く関わっていくことになったと きに、そこから受け入れがしんどくなってくる という話しを聞いた時にとても切実な問題だな と思いました。この話はあそこではできないな と思って、あまり触れませんでしたが、実際現 場にいてそういう風なものは最近は難しいです か。お母さんの愛情というものをはぐくむこと ができない状況の子供がいるんでしょうか。
○真喜屋先生
例えば、双子で一方だけ重篤な病気を診断さ れたとき、健児を生かすために妊娠継続を選択す ることがあります。そういう場合、家族は、病気 のお子さんが長く生きられないという覚悟はし ていても、その子がハンディキャップを持ちな がら長生きする、それを自分たちがみていくと いう覚悟はできていないことがあるんですね。子 供を亡くすというのはとてもつらいことなので、 「かわいいと思ったら亡くなった時がつらいから」 と距離をおいてしまう方もいます。自分の心を 守るための防御反応なのだとは思いますが、いっ たん心を閉ざされてしまうと、産まれた後の関わ りをつくることはすごく難しいです。
ハンディキャップを持っていても、家族の一 員として受け入れられ、その子なりに成長がみ られる場合は、生まれてよかったと思えますが、 親の面会も少なく、ずっと一人で2 年、3 年と 病院で過ごしている子を見ていると、「出生前 に診断されていなければ、もう少し家族の受け 入れもよかったのではないか」とちょっと考え てしまうことがあります。
○玉井理事
それはちょっと悲惨ですね。結局、障がいを もって産れる子がある程度の率で産れてきますよね。
先ほどの脳の中を調べて産むか産まないかを 決めるとか、この子がこの子の人生を生きるん じゃないかとなってくれればいいんだけれど も、親のわがままと言ったら変だけど、そうい うところが幅を利かせてくると、本来あるべき、 社会の多様性に対しての認容力が無くなってく るんじゃないかと思いますね。
○大畑先生
親は、兄弟がかわいそうだからとか私が死ん だらと思ってしまう状態になっていて、親にだ けプレッシャーがかかっていると思いますね。 親だけが頑張らなくてもいい状態であれば、親 も自分たちが死んだら誰かがなんとかしてくれ ると思えるはずですから。
○柘植先生
日本では、普通のお子さんに対しても親が全 部責任を抱えて、親の子離れと子の親離れが遅れ ていて、それも関係していると思います。親が子 離れし、子が親離れできるようになっている社会 だったら、障がいをもっていても、障がいが無く ても同じだと思いますが、子供が成人したら一人 の大人として生きていける、そういう社会だった らいいと思いますけど。今は二十歳でも成人しな いし、最近「成人30 歳説」とかありますね。
○玉井理事
ごく普通にいますからね。社会的に自立でき ない。親も子離れしていないですね。子に対し てべったりで、もっと成熟した社会にならない といけないと。大きな問題を受け入れるために も社会全体が成熟していないと本来の咀嚼がで きないでしょうね。何もわからない状態で、技 術的なものがポンポン出てくるとそれに振り回 される現状があるのかなと思いました。
本日は長くお付き合いありがとうございま す。ご苦労様でしたありがとうございました。
意見交換会の様子