理事 玉井 修
平成25 年11 月21 日(木曜日)沖縄県医師 会館において、第3 回マスコミとの懇談会が 開催されました。少子高齢化で労働人口を維持 するためにも女性の労働力は必要で、女性の社 会進出によって晩婚化が更に顕著になってい ます。週刊誌やテレビでは、芸能人などがかな り高齢で出産している事が大きく報道され、高 齢出産の現実は一般的にかなり誤解されてい ます。現在の日本において、一般的には、妊娠 出産はいつでも可能で、現代の医学をもってす れば様々な不妊治療により誰でも、いつでも、 妊娠する事が出来ると安易に考えられている のです。
しかし、高齢化により卵子のクオリティが低 下し、受精卵が得られない場合が多くなり、不 妊治療は万能ではない事も知ってもらわなくて はなりません。また、折角受精できたとしても卵子の質が低下していれば染色体異常の発生率 が高くなるという事も知ってほしいと思いま す。学校教育では避妊や、性感染症については よく取り上げられる反面、不妊に対する教育は おざなりにされてきました。学校教育の現場か ら意識を変える必要がありそうです。現在医学 部学生の半分は女性です。医療の現場だけでは なく、どの分野でも女性の労働力は今後もっと 重要性を増すでしょう。妊娠適齢期に妊娠し、 子育ても出来る様な社会環境を十分整備する必 要があります。今回のマスコミとの懇談会は、 マスコミの関心も高く、非常に多くの参加者が ありました。一部の芸能人のオメデタ報道では なく、妊娠、出産、育児の抱える実際の問題を しっかりと伝える事が、社会の認識を変える第 一歩だと思いました。
マスコミとの懇談会出席者
懇談事項
少子・高齢化が指摘 されて久しくなります。 本稿においては少子化 について生殖医学・医 療及び社会的立場から 意見を述べます。
まず生殖医学的に生 殖と老化について説明します。妊娠成立に必要 な卵子は成人女性の卵巣で新しくできてくるの ではなく、図―1 に示すようにお母さんの体内 にいる妊娠20 週の頃に一番多く700 万個に達 します。その後数を減らし、生れてくるころに は200 万個、思春期には20 〜 30 万個、35 歳 ころには2 万5 千個になり、その後加速度的に 減少して50 歳前後に1,000 個以下になります。 このことから女性の卵子は新たに作られること なく、数を減らしながら保管されていることが 分かったと思います。保管された卵子は消滅す るだけでなく、老化もしていきます。卵子の老 化は35 才を過ぎると始まります。このことを もとにして年齢別に妊娠率を検討してみたとこ ろ、女性年齢が19 〜 26 歳では約50%、27 〜 34 歳では40%、35 〜 39 歳では30%の妊娠率 が報告されています。このことから35 才以下 で妊娠成立が高いことは卵子の老化と強く関連 することが理解できると思います。同時に女性の晩婚化は妊娠し難くなることにも繋がるわけ です。このことをふまえて日本における女性の 初婚と第一子出産年齢を年代で視ると平成元年 では初婚年齢の平均が25.8 歳、第一子出産年 齢が27 歳であるのに対し、平成22 年には初 婚が28.8 歳、出産が29.9 歳となっています。 まさに晩婚・晩産化が日本において急速に進ん でいることを示しています(図―2)。
図―1
図―2
このような晩婚・晩産化に対し、子供が欲し いご夫婦に体外受精などの不妊治療は万能であ るか検討してみました。平成22 年の日本にお ける生殖補助医療技術での治療成績を示したの が図―3 です。各年齢ごとの妊娠率、生産率、 流産率です。これで視ますと37 歳までは30 〜 40%の妊娠率がありますが、その後年齢とと もに成功率が下降し、43 歳では10%程度、45 歳以降は一桁台の妊娠率です。さらに流産率が 37 歳から急激に上昇し、45 歳では60%に上り ます。その結果生産率(実際に生まれてくる赤 ちゃんの割合)は39 歳までは20 〜 10%ですが、 40 歳以降は一桁台となっています。晩産化に ついては橋口先生が詳細を述べておりますが、 40 歳以上の妊娠・分娩においては20 〜 35 才の人と比べて妊娠高血圧症候群が2.5 倍、前置 胎盤が3.5 倍、胎盤早期剥離が1.5 倍とリスク が高くなります。この点から考えると、晩婚・ 晩産化と生殖・家族計画の在り方として日本の 現状は医学的に不健全な方向に進んでいると思われます。
図―3
一方社会的には女性の社会的役割が増大して おり、2000 年以降共働き世帯が1012 万世帯と 男性のみの雇用世帯の797 万世帯を大きく上 回っています。そのような現状で、妊娠・出産・ 子育て支援や女性のキャリアーアップのための 制度は不十分であります。そのことが晩婚・晩 産化にさらに拍車をかけていると思われます。
今、晩婚・晩産化に対し、医学的側面からの 啓発・啓蒙と社会全体で女性支援のための基 盤の整備を強力に推進しなければならない時 と思います(図―4)。そのことが次世代の沖縄、 日本の健全な社会構築と発展につながると考えます。
図―4
高齢妊娠の定義は、 35 歳以上の初産婦、40 歳以上の経産婦を指し、 WHO でも一般的に35 歳以上の妊娠を「高齢 妊娠」と評価されてい ます。
母親の精神的な成熟、経済的に余裕ができて、 子育てができるケースも多いなど、社会的には 必ずしもデメリットばかりではありませんが、 肉体的な負担に対する耐久力は年齢が高くなる ごとに低下するという観点から一般的な問題点 を述べます。
高齢妊娠の問題点の一つとして、母体年齢が 40 歳を超えると流産率が50%を超えるという事 実を一般女性が認知していないことであります。
また異所性妊娠(子宮外妊娠)や死産も増加 するため、いわゆる「高齢出産」にすらたど り着けないことは、以外に知られていません。1)(表1)
表1
現に本邦の25 歳以上の一般独身女性に対す るアンケートで「自分が何歳まで自然妊娠がで きるか?」という問いに対して1/3 の被験者が 45 〜 60 歳まで可能と答えたという報告があり ます。2)(表2)
マスコミなどが有名な40 歳代タレントの妊 娠・出産を「おめでたく、すばらしいこと」と して報告する。それはそれで祝福されるべきことでありますが、同年代の自分自身のことでも なく、何ら自分の妊娠・出産の安全を保証する ものではありません。
表2
これだけ情報が得やすい時代にも関わらず、 発信する側、受け手側が問題の本質を想像する ことが難しいのは、これに限られたことではないですが…。
当然、母体年齢が高くなるとDown 症候群だ けでなく、すべての染色体異常のリスクも上昇 します。3)(表3)
表3
最近では、NIPT(母胎血胎児染色体検査) が本邦でも可能となり、その非侵襲性、簡便性 を歓迎する向きもあるが、カウンセリング体制、 患者の意志決定プロセスが適正か否か、中絶の 選択による心理的なストレスという問題がある のも事実です。
幸い「高齢妊娠」にたどり着けた場合でも「高 齢出産」という高く険しい山道を夫、産科医と供に乗り越えて行かなければなりません。
加齢に伴う偶発合併症として子宮筋腫、糖尿 病、高血圧、肥満、脳血管障害、血栓症などが あります。
産科合併症も妊娠高血圧症候群、前置胎盤、 常位胎盤早期剥離などが母体年齢と供に上昇す ることが知られています。4)(表4)
表4
県立中部病院でも高齢出産は全体の3 割を超 える状況です。(表5)
表5
その管理の困難さから帝王切開術率も4 割を超えます。(表6)
表6
加齢に伴う異常妊娠、分娩が増加することで 難産、帝王切開率、妊産婦死亡率が上昇するこ とは周知の事実であり、それに対して多くの医 療資源を投入しなければなりません。
妊娠適齢期は、25 〜 35 歳の10 年間とよく 言われるが、その時期は一般的に社会人として キャリアを積む時期であり、そのため妊娠・出 産を控えてしまうこともあります。
しかし、不妊治療などで妊娠する確率は、37 歳前後で50%、40 歳を超えると10%以下、42 歳を超えると5%以下になること、妊娠しても 出産にいたる確率も低くなること、妊娠・出産 の管理に困難が伴うことなどの事実をきちんと 本人だけでなく、社会の枠組みの中で男女問わ ず皆が認識する必要があります。
もし妊娠を希望するなら35 歳までに具体的 な行動が起こせるよう、本人の自覚、意志決定、 社会基盤の整備など含め、教育・雇用形態・社 会保障の抜本的な対策が急務であることは、論 を俟ちません。
健やかな社会を育むためにも、皆で取り組むべき時期に直面したと思われます。
【参考文献】
1) Anderson FWJ,Johnson TRB.Maternal mortality at
Y2K.Postgraduate obstetrics and gynecology 2000;
20:1
2) Sugiura-Ogasawara,M.,et al.,Japanese single women
have limited knowledge of age-related reproductive
time limits.Int J Gynaecol Obstet,2010.109(1):
p.75-6
3) Schreinemachers,DM,Cross,PK,Hook,EB.Rates
of trisomies 21,18,13 and other chromosome
abnormalities in about20,000prenatal studies compared
with estimated rates in live births.Hum Genet 1982;
61:318.
4) 日本産科婦人科学会周産期委員会 周産期登録データ
ベース:2001 ー 2005
○秋山氏(琉球朝日放送)
佐久本先生のおっ しゃった全国的な生殖補 助医療の治療数や出生児 数は沖縄にもあてはまる のでしょうか、また、沖 縄で不妊治療が全国レベ ルと同様にできているの か。不妊治療の現状を教えて下さい。
○佐久本先生
沖縄県では、年間で体外受精で産れているお 子さんは200 名ぐらいで、統計で6,000 名ぐらいと思います。
体外受精、顕微授精のレベルは全国とあまり 変わらないです。日本は世界各国に比べて一般 不妊治療の施設は世界一多いです。施設数は 600 〜 700 近くあります。アメリカが日本の人 口の倍ですが、不妊治療施設が300 ぐらいです。 日本はある意味体外受精が一つの産業になって いますね。
一般不妊治療で治る人でも体外受精に回って いるケースもあるのではないかと思います。沖 縄でも一般不妊治療でできる人がたくさんいま す。当院では年間350 〜 400 名ぐらい妊娠す る人がいますが、そのうち体外受精が100 名 ぐらいで、250 〜 300 名ぐらいは一般不妊治療 でできます。本土とは少し違っているんじゃな いかと思います。
○秋山氏(琉球朝日放送)
キャリアについて、沖縄では共働き率も高い ですし、一番働き盛りの25 歳から35 歳が適 齢期と言われていますが、今年から卵子凍結が 一般の人でもできるようになっていますが、い かがですか。
○佐久本先生
近いうちにガイドラインにも出てくると思い ますが、非常に大事なことで、未受精卵の凍結 は完全には確立していません。ただ可能ではあ るという状況です。例えば5 個未受精卵を取ったからといって、5 人できるわけではないです。 実は凍結した後、融解した場合変性したりして、 5 個では足りない場合があります。
もう一つ、ガイドラインで、生殖年齢可能層 をどこで区切るかです。妊娠まで時間がかかる からといった社会的な凍結と、癌を併発して、 癌治療の為に凍結することの2 つに分けないと いけません。社会的な適用の場合には、例えば 生殖年齢可能層の可能時期、高齢出産での母体 のリスクを考えた場合にどのぐらいの年齢で許 すかが問題になってきます。
受精卵は一回凍結すれば30 年〜 40 年もつ ことはわかっています。未受精卵は染色体が分 裂する途中ということもあって、未だ確立して いません。受精卵と同じ扱いではありません。
体外受精のいわゆるART というのは、身体 の外で受精したものを子宮に戻すやりかたで す。一般治療というのは女性の体外で排卵をき ちんと起こして、受精しやすい、着床しやすい 環境をつくることが必要です。
例えば卵管がない場合は現時点では体外受精 となりますが、実際には、排卵をしている、精子 も問題ない、卵管も通っているけど、妊娠しない ケースがよくあります。先ほどの糖代謝の異常や、 ストレス、などでなかなか着床しません。体外受 精で妊娠するのは30%ぐらい、自然で普通に妊 娠するのも3 割から4 割ぐらい、体外受精イコー ル万能ではなく治療法の一つでしかないです。
○玉井理事
技術的に難しいところもありますね。その他にご質問はございますか。
○照屋氏(FM たまん)
高齢出産のリスクが 高いというのは男性の 場合にはあまりわから ない分野で、そういう 意味で、先ほど教育で どういう啓発をしてい くのか。我々マスコミとして情報をどのように発信していけばいい のかをお伺いしたい。簡単な知識でマスコミか ら発信していいのか、専門の先生方がマスコ ミに来て、啓発活動をやっていくような方法 があればいいと思います。例えば学校で、マ スコミを通して世の中にどうのような発信の 仕方があるのかお互いに協力し合っていけれ ばと思いますが何かご提案ございますでしょうか。
○橋口先生
佐久本会長からありましたが、性教育とい うのは基本的には避妊を教えます。そいうこ とでだけでなく、一連の教育の中で命の教育 と家族をつくっていくということをベースに、 豊かな家族の生活ができることために、基本 的な経済力や学力がバックグランドに全人的 に教育をする必要があると考えます。妊娠す ることという、一つの事象に光をあてて話を することは難しいです。ですから、逆に私た ちもどうしたらいいのか皆さんにお聞きした いと思っています。
基本的に日本人はセックスしなくなっていま す。外国のデータと比べても希薄な人種になっ ています。結局それは出生数の低下、国力の低 下に繋がってくると思います。若い人たちは、 それどころではなくて毎日生活するだけで、そ れどころじゃないのかもしれません。社会的な 問題が解決しない限りは無理じゃないかと思います。
中部病院は今、2 極化しています。非常に若 年と高齢の妊娠が増えて、一番いい時期の世代 の分娩件数が落ちています。妊娠、出産、子育 てが生物学的に一番適している時期が、社会的 に一番、困難な時期となってしまった、一つの 社会を表していると思います。
○玉井理事
これからの取り組みの課題だと思います。他にご質問ございますでしょうか。
○大城氏(エフエム沖縄)
今回高齢出産という ことで、以前玉井先生 とお話ししたときに、 是非我が家の状況を話 しして頂きたいとのこ とでありましたので、 紹介させていたします。
実は私の家内が高齢出産を経験しました。42 歳で初産、自然妊娠と自然分娩、予定通り産れ てきました。家内は体力にも自信があって、健 康診断でも問題はなかったので、40 代で子供 を産むことに対して、問題を感じていたことは ありませんでした。
それまでずっと仕事をしていてやはり25 〜 35 歳が本人にとってキャリアを積む大事な時 期ということもあって、40 代までに一生懸命 仕事もしたし、しっかり遊んできたから、これ から40 代は子育てをしようと、子供を産むと 思っていたようです。子供が産れて1 歳半にな りますが、日々育児を楽しみながら、子供第一 の毎日を過ごしているのですが、それと同時に 高齢出産となると本当に学術的な問題だけでは なくて、日常の問題があって、まず一つが、家 内の体力の問題です。本人は那覇マラソンをガ ンガン走る方でしたので、産む体力は全然問題 なかったと、産める体力と育てる体力は決して イコールではない、育てるのでいっぱいいっぱ いで周りからは「2 人目は」と冗談でも言われ るんですが、本人は欲しいんだけれども、体力 的にNG だと言います。
つい2 〜 3 日前ですが、体調が優れなくなる と、夜中に自分はあと何年生きられるのだろう か、この子がきちんと大人になって家族を持つ まで元気でいられるのだろうかと不安にさいな まれて夜眠れない。一時的なことであって、長 期的に続きはしませんが、不安が心のどこかにあります。
経済的な問題もあります。実は女房が定年退 職する年代が単純計算で息子が大学受験を控え る時期となります。家のローンと老後の設計と、 子供の学費をどう捻出するのが不安の種です。 子供が日々育っていって元気に子育てをする喜 びもありますが、自分自身が人生計画する上で、 日々の生活の中で起こりうることも踏まえて、 あなた方マスコミは情報発信をするべきじゃな いのかとお叱りを受けております。
先ほど佐久本先生の話しでもありましたが、 女性が高齢出産をして華やかに取りあげられま すが、現実的な話しはなかなか表に出てこない。 それ故に、自分は40 過ぎてもなんとか妊娠で きるのではないか。若い時と同じ生活スタイル を維持できるのではないかと一種の誤解が生じ ているのではないかと思います。自分自身の反 省も含めて、情報の発し方を工夫する必要があ ると日々感じています。
○玉井理事
ありがとうございます。身につまされる思い がいたします。他に何かございますか。
○石川氏(沖縄ラジオ)
高齢出産に対しては リスクが大きいと聞き ましたが、例えば妊娠 が分かり、出生前診断 では赤ちゃんを妊娠し たところで病気が見つ かった場合に産れる前 に治療が可能なのでしょうか。
○橋口先生
治療可能なもの、出生後すぐ治療するもの、 全く治療が難しいものに分かれます。出生前診 断というのは染色体の検査が今注目されており ますが、実のところ、普段の妊婦健診は超音波 検査も一種の出生前診断です。身体、臓器も含 めて問題のある赤ちゃんが見つかった時に治療 可能な病気なのかそうじゃないかも含めて、ご 両親にお話ししてどう対処するか相談すること があります。
もちろん、全く難しく、治療ができないも のもあります。それを受け止めてどうするかは医者が決めるのではなく、ご両親に決めて頂きます。
○石川氏(沖縄ラジオ)
折角、不妊治療で授かった命でしたら、治療 可能なところで、元気な赤ちゃんを産みたいと いうのが皆さんの願いだと思いますので、治療 可能なものがあることが希望を持てます。
○玉井理事
出生前診断に関しては講演がありますが、先 ほど「知る」ということによる辛さがあるとおっ しゃっていましたが、知ってしまったための辛 さについてコメント頂けますでしょうか。
○橋口先生
今、話題になっている、染色体の検査という のはお母さんの血液を採るだけで判断できるわ けでなく、最終的な確定診断は赤ちゃんから血 液を採ったり、羊水を採ったりする侵襲検査を する必要があります。胎盤の細胞を増殖させて 診断する技術がアメリカで開発され、アメリカ の臨床現場で当たり前のように行われてきたも のが、今度日本にも入ってきました。それが無 秩序に広まることを避けるために学会がコント ロールしようとする段階に入っています。この 検査に関して、十分自分たちで予備知識を身に つけて本当に必要かどうかを吟味して、受ける 前に専門家と話し合いをして受ける過程を経て いればいいのですが、「あんた受けた方いいん じゃないの」と周りから言われて、本人はその 気でもないのについつい受けてしまって、検査 後の結果を待つまでに地獄のような苦しみを味 わうとか、結果によっては待ちに待った妊娠を 中断するか否かを選択しないといけません。そ こまでの気持ちを考えないまま受けてしまった ために、本人だけでなく、家族が大変な思いを する現実があります。この出生前診断の問題は 知ることのメリットと知ることのデメリット知 らないことのメリット知らないことのデメリッ トをきちんと、みんなで考えていかないといけません。
便利なものは本当に便利なのか有益なのかは 別の問題だということを含めてみなさんに考え て頂ければと思っています。
○平良氏(エフエム那覇)
メディアは高齢で生 んだことをポジティブ に伝える特性があると 思います。それがすご くポジティブに出回っ てしまって、45 歳ま での妊娠は大丈夫だと 思っている人が31%という数字は、メディア が過剰にポジティブにフィードバックしている 結果じゃないかと思いました。
ただ、その逆を伝えることは結構しんどいと 思ったのが今日の印象です。産んだ後の子育て をどう社会で支えるかの議論は加担できます が、医学的な問題で、この年齢制限(適齢)が あることはどうしてもキャリア設定をずらす社 会設計をしないといけないのじゃないかと非常 に重たく捉えて憂鬱になっています。
佐久本先生が仰った社会的側面で負担が大 きいというところで、35 歳ぐらいは200 万ぐ らい、40 歳は1 億かかると仰ったのですが、 その治療の内訳はどういったものなのでしょうか。
○佐久本先生
体外受精を受けた場合、国、県から補助金が あり、国は200 億円を準備しています。先ほ どの数字は成功率から算出した金額です。
○平良氏(エフエム那覇)
チャレンジに対する確率の問題ですね。ありがとうございます。
○佐久本先生
例えば社会基盤として、日本の場合子育て支 援で子ども手当がありますが、1980 年ぐらい にフランスで2 年程留学しまして、フランスで も同じ制度がありました。白人のフランス人は 誰も産まない。キャリア的にはその人の人生に はつながらないからと。
今はフランス人の白人が増えています。それ は子育て支援を止めて育児支援に方針を変えた んです。ベビーシッターに補助を出したんです。 母親は3 ヵ月で職場復帰できます。なにもキャ リアアップの時期をずらすのではなく、その社会的基盤があれば、日本でもできると思います。 とにかくお金を出せばとやったのが今の日本で す。日本で女性の労働力が必要だと言いますが、 共稼ぎの率から考えればどこかで移民を受け入 れないといけない。
女性の労働力が必要だと言う割には、社会基 盤として支援が足りない。マスコミでもそのた めに、産みやすい環境をつくってほしいし、言っ てほしいです。
○平良氏(エフエム那覇)
私が言ったずらすというよりは、産んだ後の 支援をやればよいということですね。実際には フランスではそうだったと。ありがとうございます。
○玉城副会長
ラジオを聞いていた ら、待機児童が日本中 からいなくなる日がく るんですけど、保育士 が数万人足りないとい う現実があるようです。 保育士を育てない限り は待機児童がなくならないという悪い連鎖があ ります。
啓発の話しがありましたが、実は今、沖縄県 と沖縄県医師会が一緒になって、小中学生に向 けて健康のための副読本をつくろうとしていま す。産婦人科医会とか学会で、女性の早目の子 育てがいいんじゃないかとか、トータルの人生 を見た考え方がまとまったのがありますか。
もしあれば、小中学生に向けての教本ができ たらといいと思いますが、ただ中途半端にやる と変なことになるので、学会でまとまったもの があればありがたいです。
○佐久本先生
今回のスライドも少子高齢化対策の話しにな ります。実際にはご本人に選択して頂くという ことですが、情報がないということで今になっ てこんなことを言われても困るというじゃなし に、こういうこともありうるということを知っ ていただくことが一番かと思います。
○玉城副会長
沖縄県の健康長寿復活のためには、子供にア プローチして30 年後を夢見ようという一つの プロジェクトです。大人に言っても聞かないか らというのもあるので、女性の生涯における人 生設計の啓発は担任、保健の先生が子供たちに 上手に教えてくれる分りやすいのが重要になり ますし、国でつくろうとして反対にあって中断 していますが、中途半端だと学校現場が混乱し てしまうので、沖縄県の長寿復活のために食生 活とか運動とかの副読本として盛り込もうとし ています。今は主に内科の先生が検討していて、 産婦人科の先生が絡んでいないので、その辺も 検討会をしようかと思います。
○小橋川氏(ラジオ沖縄)
高齢出産というのは、 だいたいの人が知って いる話だと思いますが、 最近早期閉経というの がメディアの中でも取 り上げられていて、突 然閉経するとか、どう いったものなのか、原因があるのか、割合とし て今どれぐらいなのか、突然起こることはとて も怖いと思います。何かわかれば教えて頂きたいです。
○佐久本先生
早発閉経と言いますけど、それは40 歳以前 に月経が停止する。原子卵胞が減ってきて減り 方が問題とか、染色体の異常とか原因は様々で す。パーセンテージ的には当院では2%もない んじゃないかと思います。詳しい数字はわかりませんが。
ただ、早発閉経の場合には卵が出ない状況で すから、不妊症ということで、実際聖マリアンナ大学の教授がその辺をなんとかできないかと 研究しています。実際には卵が全然ないかどう かは、卵巣を取り出して、切片をつくって、な いことを確認します。それでは何の意味もない ので、実際には少しは残っているだろうという 発想で、その卵を出させようとする治療を考 えています。それが実際には30 名〜 40 名に1 名でうまくいったという話しで治療は難しいで す。多いわけではないです。
突然起こるわけではないです。生理不順に なってくるとか、そういう予兆があります。そ の時に対処すれば妊娠可能です。たいていは完 全に生理が止まってから数年たってから来るの で難しいです。1 ついい卵がでれば妊娠します から、出やすい時期がありますので、突然止ま ることはありません。
○小橋川氏(ラジオ沖縄)
卵子の数が急激に減る話しで、自分の卵子の 数が急激に減るタイプなのかを調べられる医療 機関があるのかお伺いしたいです。
○佐久本先生
基本的にはAMH(アンチミューラリアンホ ルモン)を調べるとどれぐらい予備があるのか どうかは診られます。実際正しい数がでるわけ ではないです。
卵子は突然無くなるわけではありません。
○玉井理事
少子高齢化を迎えて、いわゆる晩婚化は様々 なリスクがあることがあまり上手に伝わってい ない現実がありますので、我々とマスコミと医 師会が連携して正しい情報を啓発していけるよ うにできればと思っております。
それでは、第3 回のマスコミとの懇談会を終 了します。皆さん遅い時間からありがとうござ いました。