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平成25年度 全国医師会
勤務医部会連絡協議会

城間寛

沖縄県医師会勤務医部会長 城間 寛

平成25 年度全国医師会勤務医部会連絡協議 会(日本医師会主催、岡山県医師会担当)が、「勤 務医の実態とその環境改善〜全医師の協働に向 けて」をメインテーマに、去る11 月9 日(土) 岡山県岡山市で開催されたので、その概要を報告する。

1. 開会式

はじめに、清水信義岡山県医師会理事より開 会の挨拶があり、続いて、主催者を代表し横倉 義武日本医師会長(代読:今村聡副会長)から、 「現在の医療界には、早急に対処すべき課題が 山積している。諸課題の解決には、すべての医 師が参加して活動を推進していくための基盤が 必要であり、その役割を担うものこそが医師会 である。日本医師会は、本年4 月1 日に公益社 団法人へと移行した。更に、すべての医師の団 結に向けた旗印となるよう「日本医師会綱領」 を作成した。本綱領は、わが国の宝である国民 皆保険を基盤に、時流に流されることのない日本医師会の基本姿勢を、国民との約束という形 で示したものである。今後、本綱領を広く周知・ 活用していく中で、会員間のさらなる結束強化 と未加入医師への加入呼びかけを積極的に行っ ていきたい」と挨拶があった。

続いて、石川紘岡山県医師会長から、「今回 のメインテーマは「勤務医の実態とその環境改 善〜全医師の協働に向けて」を掲げ、パネルデ ィスカッションでは自治体・民間立で経営形態 の異なる5 病院から、メインテーマに沿った 紹介・意見等を発表いただく。続くフォーラム では「岡山からの発信〜地域医療人の育成」を 掲げ、医療人育成に情熱を捧げている教育陣の 方々より発表いただく。どうか患者の目、地域 住民の目を十分認識した上で、討論をいただけ れば幸いである」と挨拶があった。

また、来賓祝辞として伊原木隆太岡山県知事 (代理:副知事)と大森雅夫岡山市長(代理: 副市長)より歓迎の挨拶があった。

2. 特別講演1

「日本医師会の直面する課題」
日本医師会副会長 今村 聡

地域医療の再興に向けた医療提供体制について

地域医療の再興を果たすためには、各地域が、 かかりつけ医機能を中心に、それぞれの実情に 応じたbottom Up 型の医療提供体制を構築して いく必要がある。医療機関(規模・機能)の偏 在、医療関係者の偏在、住民の高齢化率・疾病 構造の差異等、地域の特性を顧みず、国の方針 や計画を斉一的に地域の医療に落とし込む、従 来のようなTop Down 型の方法論は限界を迎え ている。地域医療に関しては、地域の実情は異 なるため、現場の視点を国の政策に反映させる べきである。

くわえて、地域医師会には、行政との綿密な 連携のもとに、かかりつけ医を支え、他職種や 病診連携のコーディネーション機能を果たす 等、多くの役割が求められている。地域の中で 関係職種を取り纏めることが出来る団体は医師 会をおいて他にない。日本医師会は、地域医師 会が各地域の医療ニーズに応じた対応ができる よう支援を進めている。

さらに、日本医師会では、本年度より、ホー ムページのメンバーズルーム内に「地域医療情 報システム(JMAP)」(URL:http://jmap.jp/) を開設した。同サイトは、地域における医療需 要(年齢階級別予測人口など)および医療・介 護資源(施設数・病床数・医師数・看護師数・ 老健数など)の様々な情報を都道府県・二次医 療圏・市町村別に集計することが可能である。 さらに、将来推計人口等を用いた地域毎の中長 期的な予測も可能であるため、是非活用いただきたい。

医療界が直面する様々な課題を解決するためには?

真にわが国すべての医師を代表する団体とし て、組織のあり方・強化に向けた取り組みが必 要である。日医勤務医委員会では、会長諮問「勤 務医の組織率向上に向けた具体的方策」につい て検討いただいている。また、会内では日医の組織強化に向けた検討を始めており、方策ごと の具体的な可能性と効果予想等を踏まえ、現執 行部の任期中に組織強化の方向性を定めたい。

日本医師会の勤務医支援の方針とその具体的な取り組み

勤務医支援に関しては、医師不足や社会保障 財源を増やしていくことは必要であるが、今で きることから着実に実行する視点も肝要であ る。そのため、「産業保健」や「女性医師支援」「医 療連携」等の、既存のスキームを用いた健康支 援や労働環境の改善にも取り組んでいる。

日本医師会では、平成20 年度より「勤務医 の健康支援に関するプロジェクト委員会」を設 置し、以後、勤務医の健康状況を把握するため のアンケート調査や医師の職場環境改善ワーク ショップ研修会など様々な取り組みを行い「勤 務医の労務管理に関する分析・改善ツール〜勤 務医の健康支援をめざして〜」を作成した。本 分析・改善ツールは法令順守のみを目的とする ものではなく関係法令を、健康的な勤務医の就 労環境を実現するための指標と位置づけ、病院 の現状分析や把握の方法を紹介し、医療機関の 職場環境や労務環境の改善活動を支援することにある。

・医療勤務環境改善支援センター(仮称)について

厚生労働省では、医療機関の勤務環境改善に 向けた取組の推進を図るべく、平成26 年度概 算要求に新規事業として「医療勤務環境改善支 援センター(仮称)事業」が盛り込まれている。

1. 事業概要は、医師・看護師等の医療スタッ フの離職防止や医療安全の確保等を図るた め、国における指針の策定等、各医療機関が PDCA サイクルを活用して計画的に勤務環 境改善に向けた取り組みを行うための仕組み (勤務環境改善マネジメントシステム)を創 設する。こうした取り組みを行う医療機関に 対する総合的な支援体制を構築するため、都 道府県が地域の医療関係団体と連携し、当該 センターを設置するものである。

2. 本事業は、医政局と労働基準局が連携して 予算要求しており、医政局は「医業分野アド バイザー事業(仮称)約400 万(うち約200 万円都道府県の予算化が必要)/箇所」とし て、診療報酬や医療制度、組織マネジメント・ 経営管理面などに関する専門家を医療機関に 無料で派遣する仕組みを確保する。労働基準 局は「労務管理支援事業(仮称)400 万円/ 箇所」として、当該支援センターに医療労働 相談員1 名を配置するための体制を確保し、 社会保険労務士会や医業経営コンサルタント 協会等と連携する。一箇所あたり800 万円 規模の事業を想定している。

3. なお、本事業は必置規制では無いため、都道 府県行政が理解を示し、事業化することが必 要であるため、各都道府県医師会においては、 センターの設置を働き掛けていただきたい。 また、センターの設置主体は都道府県である が、県内の医療団体へ委託することが可能な ため、各県医師会で実施してもらいたい。

4. 本センターを巡っては、平成26 年度は予算 事業として実施されるが、現在、社会保障審 議会・医療部会において、来年通常国会に提 出する医療法改正案に位置づける方向で論議 されている。仮に医療法が成立した場合につ いては27 年度以降、法律に基づく事業とし て位置づけられる。

5. 更に、現在、医療法改正における法律への位 置づけとして、補助事業で実施している「地 域医療支援センター」については、キャリア形成支援と併せた医師の地域偏在・診療科偏 在の解消の取り組みをさらに進めるため、地 域医療対策協議会で定めた施策のうちのこれ らの取り組みを実施する地域医療センターの 機能を医療法に位置づけては如何か議論されている。

6. また、地域医療支援センター機能は、都道府 県が自ら行うことに限らず、病院や大学、公 益法人等に委託することも可能とすべきであ ると論議されている。

7. 医療勤務環境改善支援センター(仮称)およ び地域医療支援センターの機能を通じて、地 域における医師偏在、あるいは各医療機関に おける勤務環境を一体的に改善することが期 待できると考えており、これら両センターの 事業に都道府県医師会が積極的な関与(受託) をお願いしたい。

この他、日本医師会では、臨床研修医及び 医学生に対する支援として、「日本医師会臨床 研修医支援ネットワーク」の開設、医学生向け の無料情報誌「ドクタラーゼ」の発行を行って いる。また、女性医師が勤務しやすい環境整備 を図るための支援として、「日本医師会女性医 師バンク」の開設、「女性医師の勤務環境の整 備に関する病院長、病院開設者・管理者等へ の講習会」「医学生、研修医等をサポートする ための会」の開催、「女性医師のキャリア支援 DVD」「女性医師の多様な働き方を支援する」 冊子の作成等を行っている。

◆日本医師会臨床研修医支援ネットワーク

http://www.med.or.jp/rsn/

◆ドクタラーゼ

http://www.med.or.jp/doctor-ase/vol3/index.html

◆日本医師会女性医師バンク

https://www.jmawdbk.med.or.jp/app/pzz000.main

◆日本医師会女性医師支援センター

http://www.med.or.jp/joseiishi/

3. 特別講演2

「日本の医療をめぐる課題:チーム医療を中心に」
自治医科大学 学長 長井 良三

社会保障・税一体改革では、消費税増税、子 育て、年金、社会保障制度の改革が謳われてい る。現在、社会保障制度改革国民会議において 医療関連法の整備が進められている。高度急性 期から在宅介護までの地域完結型の医療、急性 期・回復期・慢性期などの病床の機能分担、か かりつけ医や総合診療医制度、医療提供者間の ネットワーク化、地域医療ビジョンの策定、財 政支援、医療職種の職務見直し、看護師資格保 持者の登録義務、データによる医療システムの 制御、2 次医療圏の見直し等が課題として挙げ られている。

医療の専門分化と高度化に伴い医療提供体制 に多くのねじれが生まれ、専門医間の連携はも とより、医療職種間のチーム医療が不備なため に勤務医には多大な負担が生じている。一定数 の医師増員は必要であるが、外科医については医 師を増やしても医療提供体制の構造的な改革を しなければ、根本的な問題の解決にはならない。

外科医がチームを作るためには、様々な役割 分担と相互連携が必要である。手術前後の医行 為を他の医療職と分担することにより、質の高 い医療チームを構築することができる。すで に米国ではOsteopathist(施術師)、Physician assitant(医師助手)、Nurse pracitioner(上級 の看護師)が医療を支えている。我が国でも職 務分担を見直す時期にあるが、米国のシステム を導入するには多くの困難があり、関係職種の 協議が必要である。我が国でも看護師による医 行為がすでに多く行われているが、教育体制は 必ずしも十分ではなく標準化を進めなければ普 及しない。そこで、一定の研修を受けた看護師 については、包括的支持のもとに特定の医行為 を実施できるようにする制度が現在検討されて いる。しかし、法改正への慎重論として、看護 師が行う医行為の拡大は安全上問題、異なるタ イプの看護師を要請することになり現場が混乱 する、看護師籍への研修修了登録は新たな資格創出、誰が研修を修了したかわからないので現 場が混乱する、現行法のもとでも具体的指示に より対応可能、情報を開示しないと患者の不安 を抱く、特定行為の内容に疑問がある、事故が 発生した時の責任等の意見があげられている。

4. 日本医師会勤務医委員会報告

泉良平日本医師会勤務医委員会委員長

平成24・25 年度日本医師会勤務医委員会は、 日本医師会横倉会長からの諮問「勤務医の組織 率向上に向けた具体的方策」を受け審議を行っ た。平成26 年2 月には答申を作成し提出を予 定している。その他の諸問題については下記の とおり議論を行ってきた。

諮問については、「勤務医の組織率向上へ向 けた具体的方策」がなされた理由として、日本 医師会加入率の低下が2002 年以来10 年にわ たりみられること、また医師数は増加している にもかかわらず日本医師会会員は減少に転じて いること、その背景として勤務医の組織率が低 下していることがあり、新規開業の若い医師に も拡がっているのではないかと考えられる。委 員会では、組織率向上に向けた、中長期、短期 的な対策、日本医師会加入のメリット論、非メ リット論を交え、また強制的な日本医師会への 加入策などについて具体的な議論をなしてお り、その内容を答申に盛り込むこととしている。

答申作成以外では、勤務医に大きな影響を与 える問題について、診療に関連した予期しない 死亡の調査機関設立の骨子(日医案)、専門医 制度、日本医学会の法人化等について審議している。

男女共同参画委員会との合同委員会を2 年に 1 回開催し、勤務医と女性医師が持つ問題について審議した。

郡市区等医師会への勤務医にかかるアンケー ト調査を行い、794 医師会から回答をいただい た。結果については、答申に盛り込み、近日中 に報告の予定である。

去る7 月12 日に勤務医座談会を行い、5 名 の勤務医から具体的な日本医師会への意見をい ただいた。この内容は、日医ニュース9 月20日号から3 回にわたり掲載された。多くの批判 的な意見をいただき、これらの意見に真摯に答 えられる対応が求められる。

平成24 年度都道府県医師会勤務医担当理事 連絡協議会では、諮問に向けた議論をシンポジ ウム形式にて行った。具体的な方策を行ってい る、大阪府・兵庫県・鹿児島県各医師会からご 報告をいただき、さらに、日本医師会の今村副 会長からの提言を受けた後、討論を行った。

日本医師会にかかる説明を勤務医に行う際な どの資料として、「勤務医の組織率向上に向け て(仮)」を作成している。

5. 次期担当県挨拶

次期担当県の大久保吉修神奈川県医師会長 は、次年度の開催期日について、平成26 年10 月25 日(土)横浜市の横浜ベイシェラトンホ テル&タワーズにて開催を予定しているので、 多くの先生方の参加をお待ちしていると案内し た。また、メインテーマは「(仮称)地域医療 再生としての勤務医〜地域医療における病院総 合医の役割〜」とし、活発な議論ができること を期待すると述べた。

6. パネルディスカッション「様々な勤務医の実 態とその環境改善を目指して」

パネルディスカッションでは、メインテーマ 「勤務医の実態とその環境改善」に焦点をあて、 自治体・民間立で経営形態の異なる5 病院より シンポジストを迎え、それぞれの立場より発表 が行われた。

(1)大学病院における勤務医の実態 ―大学病院から―
岡山大学病院医療情報部・経営戦略支援部
教授 合地 明

究極の医師不足は大学病院にあるとした上 で、独立行政法人改革や新臨床研修制度導入に よる影響、地域中核病院からの医師派遣の要請 の増加や若年者層の離職希望者の増加、低報酬 かつ過重労働、教育、研究で疲弊する中堅医師 の人材流出等により、診療科各医局では教育、臨床ならびに研究の大学病院としての責務を果 たすため、最少人員で自科運営を行っている現 状を報告した。

岡山大学病院ではこれらの状況に対して、勤 務医の業務軽減を図る点から特定機能病院では 加算が認められていない医師事務作業補助者の 導入を全国の国立大学病院に先駆け行い、現在、 病棟のみならず外来を含めて60 名を配置して いる。また、救急患者受け入れについては、コ ンビニ救急受診をなくすため、原則二次、三次 救急のみを対象として救急科をはじめとする診 療科の負担軽減に努めている。労働環境改善の ためにスタッフの増員を計り、さらに人材確保 のために外部資金の導入とともに優秀な人財確 保を目的に寄付講座の開設ならびに病院教授制 度や特任助教任命制度などを制定し、人材流出 防止に努めている。また、収入保証のための兼 業規程(250 万円未満/ 年額)や教員自己評価 制度も設けている。さらに女性医師復職支援活 動等も行い、人材の確保に努めているが病院独 自の改善や改革には限界があると述べた。

(2)国立病院機構における勤務医の実態
〜岡山医療センターでの現状と取り組みを踏まえて〜 ―公的病院から―
独立行政法人国立病院機構
岡山医療センター副院長 佐藤 利雄

独立採算制で経営管理を厳しく指導(旧国立 病院時代の重投資350 億円の返済義務有:年 間約20 億円の返済義務)される中、公的病院 として一般診療に加え行政上の診療役割とそれ に応える義務により、労働環境・内容に無理が 生じていると説明した。さらに、高度医療の提 供と医療による社会貢献が、医師のモチベーシ ョンの源であるが、医師としての基本的倫理観、 使命観に頼りきっている現状に課題があると指 摘した。また、これ等を踏まえた就労環境の改 善に向けた取り組みとして、1)医師数の増員に よる業務負担軽減(独法化以前の1.87 倍増)、 医師事務作業補助者の配置(15:1)や医師業 務の多職種への分担、救急医療に対する時間外 選定療養費実施や外来業務の軽減(地域医療支援病院となり地域医療機関との連携)、 短時間正規雇用の導入。2)業績評価制度の導入。 3)高度医療、技術習得をめざす医師を満足させる機 会の提供。「医師育成キャリア支援室」の設置 や「大規模なシミュレーションセンター」の整 備。さらに、国内外留学、良質な医師を育てる 研修など、国立病院機構が実施する人材育成制 度による医師のキャリアアップ支援。4)臨床研 究の推進による医師を学術的に満足させる機会 の提供。5)仕事と子育ての両立支援(育児短時 間勤務制度、院内保育所)など、女性医師のサ ポート体制の充実。6)医療安全対策の充実によ る医療トラブルへの負担軽減体制の整備等に取 り組んでおり、現在までに労働環境の改善は少 しずつ進んでいるが、今後も更なる取り組みの 継続が必要であると述べた。

(3)勤務医の光と影〜勤務医は何を求め、
病院はどう応えるべきか ―大規模私的病院から―
公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構
倉敷中央病院糖尿病内科主任部長 松岡 孝

自院で実施したアンケートによる勤務医の実 態調査結果について紹介し、その結果から全般 的には満足度の高い急性期病院であると報告し た。当院における勤務環境改善への取り組みに ついては、1)医師ワークライフバランス検討委 員会を設置し、医師の勤務負担軽減や処遇改善、 医師不足部署に対する医師補充や医師事務作業 補助者の配置・育成、日当直状況、時聞外勤務 状況の検討、また産業医による面接指導、医療 秘書の育成などについて定期的に会議を開催。 各事項についての検討、実施計画の策定を行い、 医師の勤務改善に努めている。2)女性医師の働 きやすい環境づくり委員会の設置、3)よろず相 談部会(全職種により構成、各職種から自由に 意見を出し、病院へ要望を提出し、改善に努め ている)の設置等を挙げた。しかし、アンケー ト結果を年代別、男女別、役職別、診療科別に 解析し見直すことにより、今後の更なる取り組みとして、(1)30 歳代(医員、副医長、医長) の過重労働の軽減、(2)当直システムの見直し、 (3)時間外勤務の削減、(4)医師事務作業補助 者の増員が課題であると述べた。

(4)岡山市立市民病院における勤務医の実態と
その環境改善に対する取り組み ―自治体病院から―
総合病院岡山市立市民病院副院長
今城 健二

岡山市中心部で病院過密地帯にある急性期 病院で、平成12 年に地方公営企業法の全適を 受け、廃院の可能性も検討する中、紆余曲折 を経て平成26 年度地方独立行政法人化、平成 27 年度新築移転が決定していることを説明し た。この間、病院勤務医の負担軽減に対する体 制整備を図るため、平成21 年度より岡山大学 病院との連携によりER 型救急システムの確立 のため寄付講座を開設した。これにより負担感 の強かった救急の医療現場で救急専門医と協力 して、自院の研修医・大学からの研修医の教育 を行いながら救急医療を強固に行う体制が整っ た。さらに、平成26 年度より連携大学院とし て「実践総合診療学講座」を開設することとし ており、救急搬入のみならず、walk-in の症例 に対しても対応の向上が期待される。病院のシ ステムの構築、若手医師の教育を通じて、職員 のモチベーションを維持・改善し、診療の質を 上げつつ無理のない運営を目指している。

病院勤務医の負担の軽減については、1)医師 事務作業補助者の配置や短時間雇用医師の採 用。2)育児中の女性医師の雇用推進、個別勤務 時間の対応。3)過重労働対策としての勤務シフ トの工夫(当直医の準夜・深夜の交替や翌日の duty の免除等)。4)暴言・暴力対策・精神的ス トレス軽減策としての警察OB の配置や市内初 の警察への緊急通報システムの構築を挙げ、今 後も様々な環境改善につながる取り組みを推進 したいと述べた。

(5)人口過疎地における取り組み ―山間部の中小病院から―
社会医療法人緑壮会金田病院理事長
金田 道弘

地域協働安心医療のシステムづくりの実践に ついて取り組み状況を紹介した。

院内での主な環境改善については、夜間外来 のうち22 時までの来院が7 割を超えている状 況を踏まえ、疲弊を減らし効率的に救急を受け 入れる仕組みを考えた。当直体制は内科系と外 科系との組み合わせによる当直医1 名と副当直 医1 名(院内・22 時まで院内その後院外・院 外の3 つのシフトから自由選択制)の2 名体制 を敷いている。

地域での主な環境改善については、真庭市内 全病院の当直医師の診療科情報の共有を図って いる。これにより医療圏内で対処可能と分かれ ば、長時間搬送を抑制でき、高次医療機関の勤 務医の環境改善にも繋がっている。また、半世 紀にわたるライバル関係にあった病院同士が、 将来も持続可能な医療提供体制をめざし、連携 推進協議会を設置。経営幹部が2 か月に1 回交 互に病院を訪れ意見交換を行っている。その成 果として、平成22 年9 月より両病院の外来診 療表を印刷配布し、受診者から好評を得ている。 かつてのライバルは、地域の安心医療を目指す パートナーになってきた。また、NPO 岡山医 師研修支援機構地域医療部会が毎月開催(計 86 回)し、各医療機関と大学との連携を図っ ている。

社会保障制度改革国民会議報告書には、日本 の医療の一番の問題は制御機構がないままの医 療提供体制であり、ニーズと提供体制のミスマ ッチであるとの記載がある。地域の実情に応じ た医療提供体制の再構築が必要である。その為 にはネットワーク化が必要であり、競争より協 調が必要である。医療提供体制の構造的な改革 を行うことにより、努力しただけ皆が報われ幸 福になれるシステムの構築が必要であり、その 結果、医療者の就労環境の改善に繋がることで はないかと考える。個々の施設の改善と共に医 療提供体制の再構築を目指すべきとした。

コメンテーター 小森貴 日本医師会常任理事

大学病院に勤務する医師(教育職扱い)の給 与体系の改善や特定機能病院たる大学病院の 方々の給与体系を別途設けるべきだと主張して いるが絶対実施させなければならないと強く感 じた。来年度の診療報酬改定については、勤務 医師の職場環境改善対策は不十分であり、日本 医師会の方針として重点課題に据えるべきだと 考えており、反映されるように最大限の努力し ていきたい。

7. フォーラム 「岡山からの発信- 地域医療人の育成」

フォーラムでは、「岡山からの発信- 地域医 療人の育成」をテーマに、5 名のシンポジスト より概ね下記のとおり発表が行われた。

1. 日本の医療を飛躍させる医師育成プランのグランドデザイン
山根正修(岡山大学医学教育リノベーションセンター准教授)

日本の医学教育は、独自の進化を遂げてきた が国際的に大学医学部として認められなくなる 2023 年問題により、ようやく国際認証に向け た動きが始まった。しかし、欧米を中心とした 医学教育先進国と歴史的違いは大きく、医師育 成の質向上を日本独自の医師育成プランを考え る必要がある。

大学医学部では、講義・実習、国家試験合格 を意識した知識重視の受動学習のため、卒業時 の医師としての態度や技能のレベルは不十分で ある。初期臨床研修制度が始まる以前は、臨床 技能だけでなく医師としての一人前の仕事、プ ロフェッショナリズムを含めた全人的な教育が なされてきた。現在は、指導医と研修医の関係 が希薄で、現制度に合った教育方法、指導スキ ルが浸透されていない。将来的には大学、基幹 病院、地域医療施設が一体となった医師育成プ ログラムと“教育認定指導医” を基盤とする生 涯教育体制の確立が必要である。

1. 患者の安全を第一に考え、質保証のプログ ラムにより、クラークシップから基本専門 修練医は医療現場で戦力となる。

2. 基本専門修練医から卒後5 〜 10 年目で、 地域医療研修(6 〜 12 ヶ月間)を必須化し、 地域医療での教育指導医を養成する。

3. 各講習会は、現行の厚労省指導医講習会を 応用、領域ごとに改変し開催、“教育指導医” を養成、認定する。

4. 教育指導責任者は、現在教育指導者不足と されている基幹研修病院での教育専任や地 域医療を通しての教育など長年の経験を生 かして、現代の学習理論に基づいた質の高 い指導を目指す。

岡山大学では、臨床力アップのためさまざま な方策を開始している。受動学習から能動学習 への切り替えが行われることが必要不可欠であ り、講義や実習を見学型から参加型への移行を 進めている。全科にE-Learning を開設し、動画 教材の開発、早い段階からシミュレーション教 育を導入、診療手技と問題解決できる知識レベ ルを向上させ、プロフェッショナリズムを備え たStudent Doctor として十分に自覚を芽生えさ せている。各専門診療科で質保証されたプログ ラムを確立することにより、単一施設で終結す るものではなく継続した生涯教育とすることが 重要と考える。これら医師育成の改革・改善に は大学を中心に研修基幹病院、地域医療施設一 丸となった生涯教育体制の構築が必要である。

2. 良い医師をみんなで育てる
糸島達也(NPO 法人岡山医師研修支援機構理事長)

NPO 法人岡山医師研修支援機構は、卒後臨 床研修制度開始と時を同じくして岡山大学と 167 の関連病院により発足した。主な事業内容 は、1)就職支援、2)広報支援、3)人材育成であ るが、近年特に注力しているのは各種シミュレ ーション医療教育を主軸とした多職種連携トレ ーニングである。当機構の使命はこれら人材育 成事業を大きなきっかけとして医師への各種 支援や会員施設の教育力向上を行い、それを Web 上で世界へ情報発信することである。ま たそれぞれの活動は常に共通のコンセプトで実 施されており、それが『良い医師を“みんな”で育てる』である。このコンセプトを実現する ために下記、「3 つの共有」を行っている。

・「場の共有」

毎年開催の病院説明会では約80 近い医療 機関や大学診療科が一同に会して多くの医 学生、研修医、医師へのキャリアサポート を行っている。毎月開催の地域医療部会で は中小病院のトップや大学関係者だけでな く行政、法曹、マスコミまで幅広い職種に よる情報・意見交換を行い、距離や施設の 壁を越えた問題意識を共有している。

・「人の共有」

当機構の事務局、理事そして監事は様々な 施設に属する方々から構成され、活動が独 善的な状況に陥ることを防ぐだけでなく、 構成メンバーの得意分野を共有して組織の 多様性を保っている。

・「教育の共有」

当機構主催の地域医療体験実習等やアプリ 開発など、多くの人材育成プログラムで受 講者が当機構の「場」と「人」を共有しつ つ「医療教育」も体験することで当機構の 活動が目指す「みんなで」へと一歩ずつ近 づく事を期待している。

3. 地域医療におけるヒトの育成
佐藤勝(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
地域医療人材育成講座教授)

当講座は「地域で学ぶ、地域で育つ、地域を 支える」という基本理念のもと地域立脚型の教 育に力を入れている。入学後早期より1 〜 2 週 間ずつ、在学中複数回、一部必修化で地域医療 機関の皆様に協力を仰ぎながら地域医療実習を 実施している。地域の実情を知るため保健、福 祉介護や市町村行政の関係者、更に地域住民と ふれあいの場を設け、沢山の地域資源を動員し てもらいながら医学生を育てている。

実習に参加した学生が実習を未参加の同級生 に伝えようと「地域医療シンポジウム」を自ら 企画、開催した。学生自身が伝える事で臨場感 が増し学生全体の地域医療への理解が深まり医 師になる目的意識が明確化した。また、複数大学間交流も手がけ、地域医療現場を見学、グル ープワーク等を通し互いの現状や将来への期待 や不安等も共有している。更に様々な領域の学 生が地域に集りワークショップ等を通し、学生 時代から多職種連携の大切さを理解するのと共 に、地域医療の仲間作りにも注力している。

私は、現在も哲西町診療所(現岡山県新見市) において医学生や研修医、地域住民等への教育 や研修に携わっている。なかでも初期臨床研修 医向けに、実践形式で毎晩2 時間その日の全カ ルテを振り返る症例検討会を実施している。ま た、市長をはじめ保健師やケアマネージャー等 の講義、懇話会や住民との語る会も織り交ぜ、 地域資源をフル活用し指導している。地域医療 に魅力とやりがいを感じ大半が「将来診療所で 働きたい」と言ってくれる。実際1 ヵ月研修し た医師が4 年後に哲西町診療所へ赴任したよう に研修した地域に再赴任する事が全国でも見ら れるようになっている。

地域医療の教育や普及に沢山の方々に関わっ てもらい色々な切り口で多くの人々に地域医療 に触れて知ってもらう事により地域医療を支え 育てていこうとする仲間作り・環境作りにも繋 がっている。

将来の担い手である若い医学生・研修医等を 地域全体で熱意をもって育てる事と、彼らが地 域に残る、あるいは戻ってきたいと思える地域 のあたたかい支えこそが地域医療再生の大きな 鍵となる。その礎を地域の人々と一緒に築き始 めている事を実感している。

4. 女性がいきいきと働き地域貢献を果たす仕組みづくり
片岡仁美
(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・
医療人キャリアーセンターMUSCAT センター長)

医師不足、診療科ごとの偏在等が社会的に大 きな問題となっている昨今、医師不足によって ますます過酷になる労働条件の中、女性医師の 就労状況が注目されてきた。

女性医師は近年急速に増加し、平成22 年時点で29 歳以下の女性医師は全医師の35.9%を 占めている。我が国の女性の年齢階級別労働力 入口比率の推移をグラフ化すると、女性は30 代で就労人口が減少しているが、医師において も、一般人口と比べれば離職率は低いもののや はり、卒後5 〜 15 年の10 年間に女性労働人 口が減少することが報告されている。岡山大学 卒業生及び入局者に対して行ったアンケートで は、離職(産休・育休その他復帰時期が決まっ ている休暇を含まない)を経験した女性医師は 54%であり、離職時期については卒後10 年以 内が92%であった。女性医師の離職は喫緊の 課題であり、サポートは特に卒後10 年間が重 要であることが示唆される。

岡山大学病院では、平成19 年度に文部科学 省の「社会的ニーズに対応した質の高い医療人 養成推進プログラム」に採択されたことを契機 に病院全体で女性医師支援に取り組んできた。 特に、平成20 年度から柔軟な勤務体系が導入 されたことで復職者が急増し、現在では大学病 院での復職者は80 名余、地域の医療機関への 復職者が10 数名に上っている。平成21 年度 まで文部科学省の事業として、1)緩やかなサポ ートネットワークによる離職防止、2)柔軟な勤 務による復職支援、3)次世代育成支援を活動の 柱として取り組んできたが、平成22 年度から 地域医療再生計画に基づき岡山県からの委託事 業として取り組みを継続している(MUSCAT プロジェクト)。

また、総合力を持った医師の育成が社会的に も求められる状況で、復帰希望の女性医師にも ジェネラリスト希望者が少なくないことをふま え、総合診療能力の醸成を目指すシステムづく りにも取り組んでいる。

現在、支援を受けて復職した女性医師がさら に若い世代を支える「屋根瓦式」のサポートが 進みつつある。様々なバックグラウンドや働き 方を受け入れ、ダイバーシティーが真に推進さ れるためには課題もあるが、働き手の一人一人 を大切にすることが患者中心の医療に繋がるこ とを信じて活動を行っていけたらと考えている。

5. 岡山県医師会の活動
神ア 寛子(岡山県医師会理事)

岡山県医師会では、女性医師支援、男女共同 参画、次世代育成のテーマで、下記事業を行っ ている。NPO 法人岡山医師研修支援機構、岡 山大学地域医療人材育成講座、岡山大学医療人 キャリアーセンターMUSCAT、岡山県地域医 療支援センターと協働で多様なプログラムでこ れからの医療を担う医師をみんなで育てていき たいと考えている。

1. 女性医師相談窓口事業

岡山県地域医療支援センター、岡山医師研 修支援機構と共にドクターバンクのデータ ベースを構築中である。

2. 保育支援事業

保育施設情報検索システムを平成23 年度 末より岡山県医師会のホームページ上で公 開している。岡山県内で開催される講演会、 学会出席時の託児支援も行っている。

3. キャリアアップ事業

岡山県医師会研修医登録制度、 WELCOME 研修医の会、Doctor's Career Cafe in OKAYAMA、ハワイ大学地域医療 研修への派遣。

4. 普及啓発事業

インターネットを利用した岡山県関係の医 師によるソーシャルネットワーキングサー ビス「プラタナスの木陰」を作成した。情 報交換の場として皮膚科の女性医師のグル ープ「D + Muscat」が困った症例の相談 やDoctor's Career Cafe in OKAYAMA の 連絡などに利用している。

【質疑応答】

様々なキャリアを積まれた方が一旦休職した 後で、総合医を目指す方が多いと述べられてい たが外科の科長としては聞き捨てならない。地 域医療に目覚める方もいるとは思うが、子ども がいるからその範囲内でやらなければいけない ということがあるのではないか(埼玉県の先生)。

高度専門科からジェネラルを目指す方が少なくはないと申し上げたが、実数は4 名で内訳は、 整形外科、耳鼻科、皮膚科、小児科となってい る。自分が最初に目指した進路でずっと続ける ことができたらそれが一番望ましい。その方の キャリアが完全に途絶えてしまうよりは、別の 道を求める受け皿があってもいいのではと考え ている(片岡先生)。

クリニックに実習にくる学生の声を聞くと、 医師としての機能だけではなく、今後、地域で どう生きるのかという点で不安を持っている。 山根先生の講演で、医師のキャリアとして他施 設をローテンションするとあったが、勤務自 体が途中で途切れている。女性のライフイベン トに対応しづらい構造的欠陥があるのではない か。また、医師としての機能を高める仕組みで ワークキャリア等の支援が整っているとは思う が、一方で、自分でキャリアをどう切り開いて いくか、キャリア理論に基づいた本質的なキャ リア教育が不十分であると学生と話しをしてい て感じる。自主的な地域医療人を育成するにあ たり、生涯教育、医学教育における多くのキャ リア教育の現状や、今後の予定についてご意見 をいただきたい(秋田県の先生)。

学生向けのキャリア教育は、カリキュラムに は入っていない。恐らく学生が指導医と接した 時に一番影響が大きいと考える。キャリアを含 めた教育をプログラムに組み込んで大学でやっ ていく必要があると考える。地域の教育に関し ては、大きな病院で初期、後期研修を望む方が 多い。研修医に、専門医を取得後は中規模以下 の病院である程度、自分で責任をもって経験し ないとステップアップには不十分という話しを している。ほとんどの研修医が、小さい病院で 働いてみたいという意見がある。そういう機会 を設けてチャンスを与えている。女性医師に関 しては、キャリアの途中で結婚、出産、育児が あると一番頼れるのは大学のプランに乗ること である。育児をしながら、できる範囲内でステ ップアップしていく女性もいる(山根先生)。

キャリアプランは、大学関係者、市町村、地 域の医療従事者、全てでどのように育てていく かを考えている。地域にいても専門医がとれる ようなプログラム等を整備している最中である(佐藤先生)。

外科に関して、研修医を1 病院で育てること はなかなか難しい。岡山大学では、研修医を採 用している市中病院間でどのようなシステムで 研修医ローテーションしているのか(沖縄県-城間先生)。

プログラムに入っている研修医に対して、本 人の希望を聞いて協力型病院・施設の情報を与 えている。5 年経ったら平均的に経 験が積めるようにしている。また、 適正な症例数になるように、何年 目の研修医が何の手術を何例した というデータを集積していること や、他大学との提携を結んで症例 数をカバーしている(山根先生)。

コメンテーター 小森常任理事

岡山県は、医学教育から専門医 研修、男女共同参画まで大変熱 心に取り組まれているが様々な 問題もある。女性医師の方々に、 100%あるいは200%の形で復帰 していただくことが必要であると 考えている。日本医師会では、多 くの方々に情報を共有できるよう に、ブロック別会議、全国の協議 会等の様々な取り組みについての 記録を、日本医師会の女性支援セ ンター事業のホームページに掲載 している。情報を共有いただき、 女性医師が100%力を発揮できる ような体制を構築することは、男 性医師にとっても良い方向に向か うだろうし、日本の医療、特に勤務医の先生方の環境の改善に極めて重要なキー ポイントであると考えている。これからも、い ろいろな多くの声を結集していただき、我々日 本医師会にご指導いただきたい。

8. 岡山宣言採択

全国医師会勤務医部会連絡協議会の総意の 下、勤務医の勤務体制の整備、大学病院医師の 医療職化、多職種との協働により医師業務に専 念できるチーム医療の推進、男女共同参画の推 進と就労支援、これからの医療を担う医師をみ んなで育てる等、勤務医の環境の改善を求める 「岡山宣言」が満場一致で採択された。

岡山宣伝(案)

印象記

沖縄県医師会勤務医部会長 城間 寛

平成25 年全国医師会勤務医部会連絡協議会が岡山市において開催され参加したのでその内容 について印象に残るところを報告したい。今回は「勤務医の実態とその環境改善- 全医師の協働 に向けて」をメインテーマに挙げて内容が構成されていた。特別講演で、自治医科大学学長の永 井良三先生は「日本の医療をめぐる課題:チーム医療を中心に」と言う演題で講演された。特に 外科系で外国と日本の現状を比較してみると、日本、アメリカ、ヨーロッパと比較して外科系の 医師(心臓外科、脳外科、胸部外科)が、人数的に決して少ないわけではない事、また同じ人数 では欧米の方がはるかに一人当たりの手術件数が多い事を、数値を示しながら説明してくれた。 しかし、そうは言っても、やはり日本の外科医は多忙なのは事実である。これは、仕事の内容が、 本来医師でなくてもできることを、日本では医師がやっているからに他ならない。その点に関し ては数年前から改善が行われてきた。特に医療秘書については恩恵を受けている医療現場が多い と思う。これまでの診断書や保険の書類書きに煩わされていたのがほぼ解消された。今回、厚労 省で行っている検討会で、医療行為を分析し、それを医師以外の職種でもできるようにするため の議論を行っているとの事である。例えば、ドレーンの抜去を医師の指示の元に看護師ができる ようにするなど、そのためには、やはりそのトレーニングを受けた証明を行い、それを受けた看 護師は可能とする。その他色々な診療行為に関しても同様な検討を行っているとの事であった。 これらの診療行為を特定医行為として、それぞれを個別に検討し、数年以内に医師以外でも実施 できるようにする予定との事である。これらが実際に可能となったら勤務医の環境は、多いに変 わってくると思われる。数年前から、メディカルアシスタントの制度が導入され、我々は書類書 きの雑務から大分解放された。これら特定医行為が、他職種でも実施可能となってくると、我々 外科医も大分負担感が軽減されると思われる。

次に、岡山大学の人材育成センターについて、担当の胸部外科准教授の山根先生からお話があっ た。岡山大学では、外科医の育成については、これまでの入局制度ではなく、登録制度に変えて、 これまでの医局の関連病院を大学としてまとめて、大学病院、市中病院、そして登録された研修医 との話し合いで研修出来るプログラムを作り研修医本位の教育を行っているとの事である。それに より、これまでより大学に登録されている若い外科医の数は増えているそうであるが、大学病院自 体で研修を受ける研修医はまだ多くない様である。自由度を高めると逆に大学に人材が増えること を期待し模索中とのことであった。また、救急部では岡山市の予算で寄付講座を作り岡山市立市民 病院と連携し、救急指導医の確保をしながら救急業務をこなし、研修医教育と救急医育成を行って いる。今回、特に強く感じた事は、岡山大学が、人材育成のために市中病院と有効な連携を行って いる事である。沖縄でも大学と県、及び市中病院が、人材育成に関しては県全体で話し合い、個人(医 師)の自由度、地域の需要、医療施設ごとの要望、これらがうまくマッチする様にシステムを作り 上げることが必要である。早くその様な状況になってくれることを期待する。

以前、この勤務医部会連絡協議会に参加すると、全国の特に医師の少ない地域の病院からは、 医療が崩壊するとの悲痛な叫びが報告された。今回、岡山県の取り組みを聞くと、その頃の発表 内容に違いを感じた。明らかに進歩しているのだ。この数年間で、勤務医の働く環境に変化が生 じている。その原因は何処にあるかと考えてみた。数年前医師不足で閉鎖に追い込まれた病院も あった。そのために国も改善のための予算を付けた。また、医療者も学会や医師会を中心に医療 崩壊阻止のために色々要望してきた。全国医師会勤務医部会連絡協議会では、各県で勤務医の労 働環境改善への取り組みを定期的な発表の場としてきた。また勤務医が他職種や外国医師と比べ て劣悪な環境で仕事をしている現状を、マスコミを通して国に改善を強く働きかけてきたが、今 回の協議会を通して臨床の現場を改善する事に、非常に有効に働いてきたと強く感じた。