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午年にちなんで

安里義秀

ハートライフ病院 小児科 安里 義秀

干支は五行(木火土金水)と陰陽からなる十干と十二支からなり、2014(平成26年)は甲午(きのえうま)に当たり、wikipedia(http://ja.wikipedia.org/wiki/甲午)によると、『甲午:干支の組み合わせの31 番目で、前は癸巳(みずのとみ)、次は乙未(きのとひつじ)である。 陰陽五行では、十干の甲は陽の木、十二支の午 は陽の火で、相生(木生火)である。』と記載 されています。相生(火は木から生じる)の年 なので調和が保たれ、万事順調に進んで行く年 だそうです。景気回復が順調に進み、種々の問 題が解決されることに期待が持てそうです。

ところで、「あなたの干支は何?」と聞かれ たら皆様はなんと答えますか。「午です」とか 「丑です」とか「虎です」などと答える方が一 般的だと思いますが、「甲午(きのえうま)です」 とか「丁丑(ひのととら)です」とか「己虎 (つちのととら)です」などと答える方は先ず いないでしょう。しかし午年には十干まで含め て答える特殊な干支があります。それは「丙午 (ひのえうま)」です。丙はその響きの通り陽の 火、午も陽の火なので火が重なっており同気と なり、良い場合にはますます良くなり、悪い場 合にはますます悪くなるそうです(比和と言い ます)。そのため昔から、といっても江戸時代 中期以降ですが、丙午の年は火が重なるので火 災が多く、丙午の生まれの女性は気性が激しく 夫の命を縮める(喰い殺す)と言われています。 それにまつわる物語やエピソードはいろいろあ りますが、有名なところでは井原西鶴の「好色 五人女」に収載されている八百屋お七の物語等 があります。あくまでも物語であるか、占いの post hoc による強化に過ぎないことなのに、現 実社会にまで強く影響を及ぼしているのが“丙 午の迷信” です。

この“丙午の迷信” は前近代の江戸時代もさ ることながら、近代に入った明治以降も出生調 整という形で現実社会に強く影響を与えてお り、明治36 年(1906 年)の女子の出生率は前 年より7%の減少、翌年は16%の増加が見られ ます。さらに昭和41 年(1966 年)の丙午で前 年の25%減少、翌年は42%の増加がみられて います(赤林英夫:日本労働研究雑誌 No.569, 2007)。明治時代よりも昭和の方が、影響が強 いことは興味深いところです。また“丙午の迷 信” を拠り所として丙午生まれの女性との縁談 を避ける風潮もあったようです。私自身は、丙 午生まれの女性で男を食いつぶすほどの激しい 女性には殆ど出会ったことがありません。むし ろ迷信に惑わされないか無頓着な人々に育てら れていることと、極端に人口が減って競争に晒 されることが少なかった世代なので、おおらか な女性が多いのではないかとさえ思います。

血液型性格判定に代表される占いなどは、酒 宴などで楽しく場を盛り上げるか、種々の行動 が過信に基づかないよう戒めるために用いるべ きであって、否定的に人格を批評したり忌避し たりするために用いるべきでないと思います。生 まれた瞬間、それどころか生まれる前から人の 運命が決まってしまうと考える血脈主義の人が、 肩身の狭い思いをする世の中になって欲しいと “丙午生まれの私” は午年にちなんで思います。