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今年の抱負

潮平芳樹

豊見城中央病院 院長
潮平 芳樹

今年私もいよいよ60 歳を迎えることになっ た。今回が6 回目の午年である。これまで先 輩方が還暦だよと言うのを聞いても、あまり気 にもしていなかったのが、“えーっもう60” と いう心境である。19 年間の公務員医師を辞め、 1999 年に豊見城中央病院に移ってはや14 年が 過ぎようとしている。当時は44 歳で、まだ先 輩医師はいて、気持ちは20 代のつもりでいた のが、最近では上にも人が少なくなり、さすが に気持ちは20 代とは言えなくなってきている この頃である。とくに48 歳からのこの12 年 は「あっという間」という感じである。

まさに激動の20 年、10 年の感がある。1994 年から95 年までの1 年間は宮古病院への単身 赴任であった。素晴らしい先生方やメディカル スタッフと楽しい思い出が一杯で、読書やテニ スなど有意義な時間を過ごすことができた。そ の時、一つ気になったのは“おとーり” の習慣 である。地域の健診に行くと眼球黄染している 人が何人もいて、GOT、GPT は30%位の人が 上昇していた。その頃から人件費削減のため市 町村の保健師の削減が始まったのである。「将 来は厳しいことになるな」と知人と語り合った のがついこの間のように思い出される。沖縄県 は1995 年世界長寿地域宣言をして以来、5 年ごとの調査では平均寿命のランクは徐々に低下 し、ついに日本一からも陥落してしまった。

さて2000 年以降の医療の進歩はかなり加 速しており、情報量もインターネットの発達 で膨大になった。メタボリックシンドローム、 CKD(慢性腎臓病)などが21 世紀を象徴する キーワードとなり、私の専門分野の関節リウマ チの治療も世界から遅れること5 年、2003 年 から生物学的製剤の登場で治療効果は劇的に改 善した。がんの治療も分子標的薬の開発、がん ペプチドや樹状細胞によるがんワクチンなど選 択肢も増えつつある。山中伸弥教授の開発した iPS 細胞による再生医療や細胞シートなどを応 用した医学の進歩は将来への展望を開くもので ある。先日、大阪大学の石井優先生の“in vivo imaging” の講演を聞いて、久しぶりに感動し た。石井先生は骨髄の中のリンパ球や、骨芽細 胞、破骨細胞、組織のマクロファージ、がん細 胞などをin vivo で視覚化するこの分野では世 界のトップランナーとのことである。蛍光でラ ベルされたがん細胞は他の細胞と比べ、明らか に活動が活発で、血管から血管外へ侵出してい く様子が明瞭に映し出されていた。最近大阪大 学で“がん幹細胞” を発見したと報道されたが、 この研究も関与しているようだ。この技術は素 晴らしいイノベーションで、ノーベル賞級の技術と思う。

当院は2004 年にがんの早期診断をするため に豊崎にPET 画像診断センターを建設し、多 くのがんを診断し、治療後の再発の早期発見に 貢献してきた。2010 年は再生療法の一環とし て、がんの患者に対して、樹状細胞によるがん ワクチンや活性化リンパ球移入療法などをはじ めた。現在も新たな治療を模索中である。これ からの12 年、世界はどのように進歩するのか 大変楽しみであり、考えるだけでもexciting で ある。これからも膨大な情報から取捨選択し時 代遅れにならないようにつとめたい。