伊佐整形外科 伊佐 眞
60 歳、年男になるということで、医師会報へ の寄稿依頼が届きました。12 年前にも書かせて いただいたので予想外だったのですが、折角の 機会ですので拙文をご披露したいと思います。
デイケア併設の整形外科診療所を設立して 20 年が経過しました。地域の方々を始め、多 くの関係者のお陰で何とかやってこられたと深 く感謝しています。
当院では毎日の朝礼で職員に1 分間スピーチ をしてもらい、毎月スピーチ賞を選出して寸志 を差し上げています。中学生になる娘の職場体 験を語った職員がいました。ある病院での病棟 見学とデイケア体験だったそうですが、「うー ん、何か可哀想だった」と娘は言ったそうです。 よく聞くとデイケア職員が利用者に対し横柄な 態度で接していたらしく、「あれは家族の人が 見たらショックだはずよ!母さんの病院でもあ んな感じ?」と聞かれて即座に否定したものの、 思い当たる節がないでもなく反省させられたそうです。
当院では投書箱を置いていますが、院長の態 度が悪い、上から目線で話すな、接遇の勉強を しろと叱られました。これでは職員に訓戒する わけにはいけません。心にぐさっと突き刺さり、 思わず弁解心が出てきましたが、逆耳仏心、今 その紙を机に置いて自戒しています。
医学部を卒業して30 年以上が過ぎ、新人の頃におじさんおばさんと感じたアラフォーが最 近は若く輝き、20 代の患者様を高校生と区別 ができないようになってきました。入局当時指 導を受け頼りがいのあったオーベンと同年代の 先生を見ると、一抹の不安を覚える事があった りします。仰ぎ見て近寄るのさえ恐縮した各大 学の教授でも、自分より後輩にあたる先生が数 多くおられます。最近年齢の近いある大学の教 授と会食する機会がありましたが、昔感じた威 圧感など皆無になり、話す内容に親近感まで覚 えました。かつて先輩の先生が還暦を迎えると、 何か別の世界へ行ってしまうような気になった ものです。いつしか自分も似通った年令になり、 偉くなったと錯覚しているようです。
どの診療科もそうだと思いますが、整形外科 も受診者で高齢者の占める割合が高く、午前中 はほとんど高齢女性を診ているかのような印象 まで持ちます。敬愛すべき方が多いのですが、 聴力低下のせいもあり、自分の主張だけに終始 してしまい、診療に支障を来す方がいます。診 察室のドアを勝手に開け、診察中の患者様の 背中越しに私へ話しかける方も少なくありませ ん。加齢現象?認知症?だからしょうがないと 考えてしまいがちですが、ひょっとして、程度 の差はあれ自分自身が若い人からそう思われて いるかもしれません。
ホームストレッチとまではいきませんが、人 生も第4 コーナーに差し掛かっています。菜根 譚に「人を看るには只後の半截を看よ」とあり ます。まだまだ一花も二花も咲かせるぞと奮起 しているのですが、以前のように力業だけで事 をなすのは困難です。稲穂は実るほど頭を垂れ るそうで、年を取るに従い出来るだけ腰を低く 保たないと周りから誰もいなくなる羽目に陥り そうです。忠言を聞き入れ、人様に迷惑を掛け ず、無事に日々の生活や仕事を送ることが出来 たら大変有り難い事だと思っています。