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沖縄県における喘息吸入指導に関する
薬剤師アンケート結果
(病院薬局と調剤薬局の違いについて)

伊志嶺朝彦

中頭病院1)、豊見城中央2)、琉球大学第一内科3)、群星研修センター4)
沖縄県総合保健協会5)、琉球大学医学部附属病院 薬剤部6)
伊志嶺朝彦1)、松本 強2)、藤田 次郎3)、宮城 征四郎4)
松山 朝雄5)、外間 惟夫6)

【要旨】

沖縄県内の病院内薬局と調剤薬局で、どのよ うな吸入指導が行われ、何が問題となっている のかを明らかにするため、県内568 施設に勤務 する薬剤師と施設長に対し、吸入指導に関する アンケート調査を行った。回収率は23%であっ た。回収できた薬剤師の所属は病院薬局が159 人(42.4%)、調剤薬局が150 枚(13.0%)、不 明が19 枚(1.3%)であった。

調剤薬局の薬剤師は病院薬局の薬剤師に比 して1 カ月の吸入指導人数が多く(指導人数 0 人/ 月の割合は50.3%vs5%)、『吸入指導に 自信がある』と答えた割合が多かった(41.3% vs31.4%)。また、吸入指導に関する患者情報 の医師との情報共有については、調剤薬局より 病院薬局の方が『情報共有しているまたは必要 に応じてしている』の割合が高かった(47% vs87%)。患者が処方された吸入薬を吸入でき ていないと判明した場合でも調剤薬局は病院薬 局よりも医師に情報提供を行う薬剤師が少な かった(51%vs91%)。このように、調剤薬局 では吸入指導の数も多く、指導自体には自信を 持っているが、病院側の医師への必要な情報提 供が十分できていない実態が判明した。このこ とは有効な治療を行う上で、大きな問題である。 今後は顔の見えない調剤薬局から病院側の医師 へ、気兼ねのない情報提供を行うツールを確立 するのが急務と考える。

【緒言】

気管支喘息は、吸入ステロイドが普及するようになった1990 年代後半からその死亡数が急 速に減少してきている1)。沖縄県でも同様に喘 息による死亡は減少しつつあるが、全国平均と 比較し、常に多く、ワースト5 以内に入ること が多い2)。そこで、県内主要病院、クリニック の呼吸器専門医が集まり喘息死0 作戦として、 様々な取り組みをしてきた。

初年度は『ER プロジェクト』3)として、救 急室を受診する患者の特徴や、治療内容につい て検討しました。その後、near fatal asthma 症 例の検討を主要病院で行った。その中から、1) 救急室受診をする患者は喘息死亡の多くを占め る高齢者ではなく、20 〜 30 才台の若年者であ ること。2)ER 受診後の治療プロトコールを統 一すべきであること3)near fatal asthma 症例 はER 受診よりは少し高齢の40 〜 50 才代が多 いこと。などが分かってきた。

また、喘息の適切な治療を啓蒙するために、 非専門医の先生方への地域での講演会も積極的 に行ってきた。その中で、患者さん自身の吸入 手技の熟練度合いや、それをサポートする薬剤 師の指導内容に、差があることが分かってきた。 喘息を診療する先生方への啓発はもちろん重要 であるが、喘息の薬剤が吸入剤中心であることを 考えると、適切な吸入手技が継続して行えるか 否かが治療効果を確実なものにするもっとも大 きな要素である。我々は、実際に吸入指導を行 う薬剤師の指導内容と意識調査、病薬連携の実 態調査の必要性を感じるようになった。そこで、 今回、沖縄県薬剤師会の全面的なご協力を得て 沖縄県における吸入指導アンケートを行った。

T対象と方法

2012 年8 月1 日から8 月31 日の間を調査期 間として沖縄県内の568 施設を対象とした。

沖縄県薬剤師会・病院薬剤師会に会員登録さ れている上記施設に勤務する1,427 名(推計) に対してと、各施設長に吸入指導に関するアン ケート調査を行った(図1)。

図1

図1 アンケート内容

U結果

返信のあった、328 名の集計解析をおこなった。

回収できた薬剤師の所属は病院薬局が159 人(42.4%)、調剤薬局が150 枚(13.0%)、不明が19 枚(1.3%)であった(図2)。

図2

図2 アンケート回収枚数の内訳

以下の結果の集計は全体の結果の他に病院と 調剤の薬局別の集計は所属未記入の19 件を除 く309 件の結果から集計した。

【喘息・COPD 治療の指導に自信をもってい るか】の質問に『非常に自信がある』『自身が ある』と答えたのは112 名(35.6%)であり、 病院と調剤では調剤薬局の薬剤師の方が自信を持っている傾向があった(図3)。

図3

図3 『喘息・COPD 治療の指導に自信をもっていますか?』
という質問に対する回答

【月に何人くらいの吸入指導をおこなってい るか】の質問には『指導人数0 人』が病院薬局 では80 人(50.3%)をしめたが、調剤薬局では6 人(5%)であり、『指導人数6 〜 30 人』 が病院薬局では10 人(6.3%)、調剤薬局では 6 人(26%)であった。圧倒的に調剤薬局の吸 入指導の人数が病院薬局に比べて多いことが分 かった(図4)。

図4

図4 『月に何人くらい吸入指導されていますか?』
という質問に対する回答

【初回の吸入指導でかけている時間】は全体 では5 〜 15 分で全体の70%を占める結果。と なった。ここでは病院薬局で長時間の指導を行 う傾向があった。

【吸入指導で実施している項目】については、 初回は『吸入操作、動作の指導』がほぼ全例で あり、続いて『副作用について』『アドヒアラ ンスの重要性』などであった(図5)。二回目 以降の指導内容で重視されたのは『副作用について』『アドヒアランスの重要性』であり半数 近くの薬剤師が指導項目に挙げていた(図5)

図5

図5 『吸入指導で実施する項目』という質問に対する回答

【吸入指導の実演】に関しては、多くが自ら 実演(90%)し、患者さんにも実演(81%) させていた。どちらも100%を目指したいとこ ろだが、患者さんからのお断りもあるようである(図は省略)。

【患者さんが十分理解できるまでの吸入指 導回数】は1 回が14%、2 回が42%、3 回が 23%と3 回までが約8 割となった(図6)。

図6

図6 『患者さんが十分理解できるまでの吸入指導回数は?』
に対する回答

【薬剤師からみた患者さんの吸入手技の理解 度】は『ほとんどの患者が理解できている』ま たは『ある程度の患者が理解できている』が合 計で約9 割となった(図7)。

図7

図7 『薬剤師からみた患者さんの吸入指導の理解度』
に対する答え

【患者さんの吸入理解度についての主治医と の情報共有】は『共有している』と『必要に応 じて共有している』が59%となった。勤務薬 局別でみると病院薬局では87%で必要時には担当医との情報共有を行っていたが、調剤薬局 では52%で『情報共有をしない』と答えてい た(図8)

図8

図8 『医師との情報共有をしているか』に対する答え

【患者さんが吸入できていない場合の医師へ の相談】は病院薬局では『相談する』が91%で あったが、調剤薬局では51%でであった(図9)。

図9

図9 『患者さんが吸入できていない場合の医師への相談をしているか』についての答え

【情報共有の方法】は『電話』が75%と最 も多く、『直接話す』が17.9%、『メール』が 11.4%であった(図10)。

図10

図10 『情報共有の方法』についての答え

【考察】

今回の検討で、同じ薬剤師でもその所属する 組織によって、吸入指導に携わる頻度や時間に 違いがあることが分かった。調剤薬局の薬剤師 は吸入指導に携わる機会は多く、吸入指導に自 信もある。しかし、患者さんが吸入技を習得し ていないことなどの情報を主治医にフィード バックしない割合(病院薬局13%、調剤薬局 52%)がおおく、せっかくの頻回の吸入指導で 得た有益な情報を医師と共有できておらず、疾 患のコントロール状況改善に役立てられていな い可能性が示唆された。

その理由として、医師との情報共有は75% で『電話』で行われており、忙しい医師に気兼 ねしてフィードバックできないことが推察され た。また、各医師との日ごろの関わりが多く顔 の見える病院薬剤師と日頃電話でしか医師との 面識のない調剤薬局とではフィードバックする際の気軽さにも大きな違いがあることは容易に 推測される。

そこで、我々は、【FAX により情報共有】を 推奨しており、今後全県レベルで推奨していき たいと考えている。FAX にすることで、相手 の仕事の邪魔をしない気軽さから必要なフィー ドバックを適切に行うことが可能になると考え ている。同時に、病院と調剤薬局共同で行う勉強会などで顔の見える医薬連携もこれまで以上 に重要になってくる。

吸入指導の実態に関しては、薬剤師120 名 からのアンケートをもとに寺嶋4)が報告してい る。吸入指導は薬剤師にとっても労力を要する ものであり、初回指導でも10 分程度しかかけ られず、指導対象の患者が高齢になるほど、吸 入指導の困難さが増す状況を報告している。一 方でいったん導入できれば高齢者でもアドヒア ランスは良いとの印象ももっているようであっ た。吸入できていない患者に関する情報の担当 医との共有についての検討はなかった。

医薬連携に関する調査は少なく、東元5)らは、鹿児島での『喘息ゼロ作戦』の活動の中で、薬 剤師にアンケート調査を行っている。

『処方医との間で、患者の状態、吸入指導方 法や患者の吸入使用状況についての情報交換 をおこなっていますか?』と言う質問では、情 報交換をしない割合が調剤薬局で6 割で病院 薬局で5 割と高率であった。我々の今回のア ンケート結果との違いは病院薬局の情報提供 の割合が9 割と高く、地域による違いがある ことがわかる。

今回の薬剤師アンケートからわかった現状を 各薬剤師の方にフィードバックし、勤務する施 設による特徴を把握していただければ、【より 良い吸入指導と適切なフィードバック】に何が 足りないのかが明確になると考える。

喘息・COPD の治療において、その効果を 最大限に得るための最も大事な要素の一つが吸 入指導であることは異論のないところであろう。吸入指導が成功するか否かは当然ながら医 師と薬剤師の連携が重要である。どちらも一方 的な処方や、教育、指導ではなく、相互に補う 形の医薬連携が求められる。

【参考文献】
1) 社団法人日本アレルギー学会:喘息予防・管理ガイド ライン2012. 協和企画、東京、p25-31,2012.
2) 藤田次郎、嘉数朝一:沖縄喘息死0、および喘息発 作による救急受診0 を目指して、沖縄医報44(12): 70-73,2008.
3) 松本 強 他:『ER プロジェクト』―ER 受診時の患 者教育、吸入ステロイド薬/ 配合剤導入の有用性の検 討―、沖縄医学誌48(4):1-4,2010.
4) 寺嶋 毅:吸入療法の実態調査―薬剤師および患者ア ンケート結果の検討―、アレルギー・免疫 19(6): 98-108,2012.
5) 東元一晃、井上博雅:『喘息死ゼロ作戦』における 取組〜鹿児島大学呼吸器内科学〜、Int Rev Asthma COPD 14(4):37-42,2012.