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医療安全推進週間(11/24 〜 11/30)に因んで

本竹秀光

県立八重山病院 本竹 秀光

医療安全のキーワードでgoogle 検索を行う と0.19 秒で約1,500,000 件ヒットするくらい医 療安全という言葉が一般的になってきた。しか し、医療安全の概念の歴史は意外に新しく、米 国では1991 年ハーバード大学のブレナン医師 らがニューヨーク州の51 の病院の診療録をチ ェックし、医療に起因する有害事象が約3.7% で、その約半数は予防できたと報告した。同時 期に英国でも同様な報告がなされ、医療安全が 叫ばれるようになった。我が国では1999 年の 横浜市大病院での患者取り違え事件が端緒とな った。それ以来、全国で大学病院から小さな診 療所まで医療安全活動がなされてきた。大学に おいては医学生、看護学生等に対する医療安全 教育の講座が開設されるなど我々が医学教育を 受けた時代とは異なってきている。

しかし、これらの活動に比して我が国の医療 事故は本当に減少したのであろうか。Google で医療安全を検索すると、ある興味深い文献が ヒットした。島根大学医学部付属病院の廣瀬昌 博氏の「日本の医療システムと医療安全管理、 日米比較を通して」Health Care System and Patient Safety in Japan である。

この中で「日米の医療の質コントロールの 比較」と題して、米国では医療訴訟は我が国 の100 倍である。医療事故の場合米国では民事 による解決(civil medical malpractice lawsuit) で、我が国は刑事訴追(criminal prosecution) が原則であり、医師の診療上の委縮を引き起こ し、結果として患者の不利益につながる原因と なる可能性を示唆している。米国では法的外 監視体制として、Peer review(同僚監査)や Morbidity and Mortality conference(MMC) が 実施され、お互いの診療について厳しい議論 がなされる。米国ではこのようなシステムで医 療の質が担保されると考えられている。米国 におけるMMC の歴史は古く、1900 年代初期 のMassachusetts General Hospital のDr.Ernest Codman の症例検討のアイデアから始まり、1983 年にはACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education)は全ての研修施設 に定期的なMMC の実践を義務づけた。違反す ると研修施設認定はく奪となる。医療安全を実 践するにはこのPeer review が重要なポイント となる。医師においては同僚とは医学生から大 学教授までを意味する。医師も看護師も同様で ある。お互いがおかしいことはおかしいと言え る環境つくりが医療安全実践の根幹と言っても 過言ではない。沖縄県立中部病院の臨床システ ムは米国のそれに倣ったもので、外科では2 週 間から4 週間に一回MMC を実践している。目 的は合併症や死亡例を全体で検証し、医療の質 を高め、防ぎえた有害事象を減らすことである。 MMC 症例の登録は主に外科シニアレジデント によって行われ、わずかでも患者にとって不利 益を与えたと思われる症例はすべて対象とな る。上司の症例は少し控えめにといたったよう な例外は存在しない。原則、morbidity あるいは mortality が生じたその日のうちに登録し、対象 症例は消化器一般外科のみならず、呼吸器外科、 心臓血管外科、形成外科、麻酔科、外科が関連 した救急およびICU 症例としている。

我が国でこれまで起こった患者取り違え事件 や術中大量出血で亡くなった症例などは手術に 携わったすべての医療従事者がPeer review 文 化を持っていたなら防げたかもしれない。医療 安全の歴史を振り返ると、インシデントレポー ト報告の数からみても看護師が中心であること は否めない。真の医療安全文化が醸成される ためには医師のさらなる意識改革が必須と考え る。県立八重山病院では医療安全文化を作るた めに、管理者が中心となって(1)まずお互い を知る(2)ちょっとした気配り(3)ちょっと した思いやり(4)ちょっとしたおせっかいの 実践を職員全員ができるよう、“おかしいこと” を“おかしい” と主張できる職場環境つくりに 取り組んでいる。