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九州医学会特別講演について
「ミトコンドリアと長寿―核ゲノムとミトコンドリアゲノムの関わり」
東京都長寿研究所 田中雅嗣先生

石川清和

理事 石川 清和

ミトコンドリアは生命のエネルギーの生産工 場であり私達の健康と深くかかわっている。私 達の体は原子レベルで常に入れ替わっており、3 か月たつと全く新しい物質になっている。体内 には分子シャペロンと呼ばれる蛋白質の世話係 がおり、蛋白質の生成・輸送から変性した蛋白 質の修理、修復不能蛋白質の分解処理を瞬時の 休みもなく行っている。また、私達の60 兆の 細胞の遺伝子はエネルギーの生成過程で生じる 活性酸素と、細胞の入れ替えの際の遺伝子コピ ーミス等で一つの細胞が1 日に10 万か所以上 傷つき、それを常に修復していると考えられて いる。あるいは熱を産生するためにエネルギー を消費している。このような基礎代謝に1 日の 消費カロリーの6 〜 7 割が使われている。その 他五感の情報収集、思考等の高次脳機能、運動 等の生活活動代謝に2 〜 3 割、消化・吸収・貯 蔵等の食事誘導熱代謝に約1 割が使われている。

このように体内での代謝に使われるATP は ミトコンドリアで生成される。ミトコンドリ アではブドウ糖や脂肪酸を代謝しATP を作る 際に化学エネルギーをいったん電気エネルギ ーに変えている。ミトコンドリア内膜の電子 伝達系を電子が移動し、それと同時に内膜― 外膜間にプロトンを蓄積し、このプロトンを 利用してATP アーゼでATP を生成している。 このATP 合成は体内でのATP の消費量、血 糖値等によって微調整されている。ATP の消 費量が急激に上昇したり、急激に停止すること は、ATP の生成の急激な増加と停止をもたら す。それはプロトンの急激な増減を必要とし電子伝達系の電子の流れをも急激に増減するこ とになる。ミトコンドリア膜の電子の流れが急 激に停止すると電子がミトコンドリア膜から 流出しフリーラジカルとなり様々な障害を引 き起こす。一方で食事や運動不足ストレスなど によって過酸化脂質が増加するとミトコンド リアの膜の脂質構造の乱れが生じ、フリーラジ カルが発生しやすくなり、その結果生じたフリ ーラジカルによって蛋白質や核の変性が生じ、 様々な変性疾患やがんが発生する。このような 不要な細胞を取り除くため自ら消失させるア ポトーシスのスイッチがミトコンドリアに残 されている。

その他にも、ミトコンドリアの遺伝子は1 本 鎖でありエネルギー産生に伴って発生するフリ ーラジカルから遺伝子を守るために母系遺伝と なっている、エネルギー生成の機序が細菌・古 細菌・原核細胞で同じプロトンポンプを利用し ている、鳥は長寿と考えられているがその一因 がミトコンドリアの電子伝達系がフリーラジカ ルを生じにくくなっている、ヒトでミトコンド リアの変異は長寿をもたらすこともある、等が 知られている。数十年前の学生時代に教わった ミトコンドリアとは全く違ったミトコンドリア の姿が浮かび上がってくる。

ところで、11 月16 日の九州医学会特別講演 において標記の講演を予定しており、ミトコン ドリア研究の最新の研究成果を聴く機会と考え ている。是非多くの会員の皆様に参加して頂き、 健康長寿再生へとつながる医療情報として頂きたい。

第113回 九州医師会総会・医学会のご案内

沖縄県医師会の担当により第113 回九州医師会総会・医学会を、平成25 年11 月16 日(土)・17 日(日)の両日、ANA ホテルクラウンプラザ沖縄ハーバービューを主会場に開催致します。16 日(土) は総会・医学会、17 日(日)は9つの分科会と7つの記念行事を予定しております。

つきましては、沖縄県医師会諸先生方の多数のご参加をお願い申し上げ、九州医師会総会・医学 会及び記念行事が盛大、且つ有意義なものとなりますようご支援ご協力をお願い致します。