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骨髄バンク推進月間に寄せて

真栄田篤彦

琉球大学大学院医学研究科
内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座(第二内科)
友寄 毅昭

骨髄移植・末梢血幹細胞移植が固形臓器の移 植と大きく異なっている事項の一つは、全例、 生存しているドナーからの提供で、さらに複数 回提供できることです。公的なバンクには日本 骨髄バンクとさい帯血バンクがあります。血 縁者間移植ドナーは、同胞や親子で1)HLA が 一致していること、2)ドナー適格条件を満たす 程度の健康が保たれていること、3)提供にご本 人・ご家族の同意を得ていることの3 つの条件 が必要です。そのような血縁ドナーが見つから ない場合に患者さんは公的なバンクが利用でき ます。さい帯血は免疫寛容度が高いので、血清 6 座(HLA-A、-B、-DR) のうち2 座不一致 移植まで可能です。そのため、1 つのさい帯血 はより多くのHLA 型の患者さんにも対応可能 となっています。実際、凍結保存され、公開さ れているさい帯血本数は全国でも23,653 本で す(2013 年7 月現在)。さい帯血の採取施設も 九州では、日本赤十字社九州さい帯血バンクの ある福岡県内の9 施設のみで、九州地区では沖 縄県をはじめ、福岡以外の県にはありません。 つまり、現状は採取施設を増やしてまでさい帯 血が足りないという訳ではないのです。ただし、 体重の重いレシピエントや非寛解悪性疾患では さい帯血移植はハイリスクになるので、骨髄・ 末梢血幹細胞移植を選択することになります。

ちなみに、生まれる前から子供の将来を心配 し、私的バンクでさい帯血を保管する話も聞き ますが、実際に病気になるなど使わないといけ ないようなケースになっても、安全性が担保さ れていないので、移植を実施する医療機関はな いと思いますので個人的には勧めません。とは いっても、私がちょうど大学院生の時に長女が 誕生した時は、嬉しさのあまり、取り上げてく れた産婦人科の先生にお願いしてさい帯血を頂 き、妻に付き添う時間もほどほどにして、大学 実験室に戻り、単核球分離・保管をしてしまい ました。結局、使うことなく、数年後に実験室 のフリーザーの故障を機に破棄しました。

さい帯血と異なり、骨髄ではHLA 拘束性が 強く、免疫寛容な状態ではないので、血清6 座 のうち1 座不一致移植までしか許容できませ ん。さらに、HLA の一致度を高めるためにア レル型まで一致させる必要があり、必要となる ドナー数も桁が違い、現在登録されているド ナーは433,336 人です(2013 年6 月現在)。沖 縄県のドナー登録状況は、ドナー年齢を考慮し た対象人口千人当りのドナー登録数が23.42 人 で二位の福島県(同14.22 人)、全国平均(同 6.33 人)をみると、断トツに高い登録状況で あることが一目瞭然です。実際、骨髄バンクを 介した非血縁者間造血細胞移植は平成25 年3 月までに15,389 例行われ、ここ3 年は、年間 1,200 例前後が行われています。しかし、移植 率は59.1%(2010 年)で登録者全員が移植で きている訳ではありません。その理由の一つが ドナー候補の健康状態です。ドナー不適格条件 の中には下記の項目があります。

  • 1)BMI30 以上の高度な肥満。
  • 2)空腹時血糖126mg/dL 以上、または随時 血漿200mg/dL 以上で投薬治療が必要な糖尿病。
  • 3)収縮期血圧150mmHg または拡張期血圧 100mmHg 以上の高血圧
  • 4)総コレステロール240mg/dL 以上の脂質 異常症
  • 5)尿酸値9mg/dL 以上

沖縄県のドナー登録数は最上位です。次の問題は採取実数を増やすことで、そのために、県 民の健康管理、メタボ改善が必要です。BMI や脂質異常症、高血圧などドナー適格基準は生 活習慣病としての目標基準よりもゆるい傾向で すが、それでも不適格になるドナー登録者は少 なくないです。骨髄バンク推進月間に際して、 ドナーのボランティア精神が自身の健康管理意 識に転化し、実行する契機にしていただければと願います。

最後に、沖縄県は地理的な問題があるので、 移植分野でも完結型医療を目標に行っていま す。沖縄在住者に対しての移植、ドナー採取術 の県内実施率はそれぞれ、40.8%、33.8%です。

ここ数年は非血縁者間移植ができる施設も増 え、2 施設(ハートライフ病院、琉球大学医学 部附属病院)になり、 2012 年12 月から2013 年6 月の7 ヶ月間をみると、移植、ドナー採取 術はそれぞれ県内実施率 66.7%と100%です (表1)。今後はハイリスクな移植にも対応でき る体制作りが必要と感じています。合併症が多 いですが、移植が成功すれば長期生存が得られ る造血幹細胞移植医療では他科、多職種による 治療時期に応じた濃淡のある長期的な医療が必 要です。今後とも移植医療にご理解とご協力を よろしくお願い申し上げます。

表1 沖縄県居住者の移植、骨髄採取術の県内実施数

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