稲福内科医院 稲福 徹也
はじめに
今年、慢性頭痛の診療ガイドライン2013 が出版された1)。1988 年に国際頭痛学会が The International Classification of Headache Disorder を発表したことによって、世界で共 通の頭痛診断基準が用いられるようになり頭痛 研究の基盤ができた。わが国でも2002 年に慢 性頭痛治療ガイドライン、2006 年に慢性頭痛 の診療ガイドラインが出版され、今回3 回目の 改定である。ガイドラインは頭痛専門医のみで なくプライマリ・ケア医への普及を目的に作成 されており、Q&A 方式で記述されて読みやす い構成となっている。本稿では診療ガイドライ ンを参考に、一般開業医の先生方にも分かり易 く記載することを心がけた。尚、文章中の(p 数字)はガイドラインのページ数を示す。
症例提示
次のような主訴の患者さんは、よく見かける のではないだろうか?
□ 40 代女性、2 日前より頭痛あり、肩こりあり、受診した。
当然これだけでは診断を絞り込めないので更 なる問診が必要である。診療で多忙なA 先生 は「カロナールとミオナールを処方して、様子 を見てください」と言うかも知れない。しかし、 総合内科のB 先生は最初緊張型頭痛を思い浮 かべるが、追加の問診によっては片頭痛やうつ 病、くも膜下出血もあり得ると考えた。
□効率よく診断を進めるために、最も適切な質問を答えなさい。
私なら、回答は(1))
理由は、2)頭痛の部位を聞いてもそれ程診断 に迫れない、片頭痛の4 割は両側性。3)締め付 けられる頭痛が緊張型頭痛とは限らない、片頭 痛でも締め付けられる頭痛はあり。4)うつ病の スクリーニングとしてはよいかもしれない。5) ハンマーで殴られたような頭痛なら診療所を受 診せずER を受診している。軽い頭痛であって も突然発症ならくも膜下出血について考える必要はある。
□(症例続き)過去にも同様の頭痛あり、中学 生ごろから頭痛でイブ(OTC)を服用して いた。最近、職場の配置換えで多忙になり頭 痛は毎日のように起こる。頭痛が起こりそう なとき肩が凝って(予兆)、早めにイブを飲 むと効くこともある。しかし効かないときは 動くと悪化するので動きたくない、悪心あり 仕事も出来ない。光がまぶしく音もうるさく 感じる。今朝から頭痛ありイブが効かないの で受診した。母も頭痛もちだった。
私は、この患者さんは片頭痛で、薬物乱用頭 痛の可能性があると考える。頭痛の「予兆」と して肩・頚部のコリ、痛みはよくある症状であ るし、イブの服用回数によっては薬物乱用頭痛 の可能性もある。頭痛患者に対する迅速な情報 収集チェック・シート2)を示した(表1)。
二次性頭痛を除外2)
頭痛診療において、脳や全身の疾患により生 じる二次性頭痛を除外することが大切だと誰で も知っている。二次性頭痛を疑うポイントは (表2)、いつもと違う、今までに経験したこと がない頭痛、最初にして最悪の頭痛、突発する 頭痛、どんどん悪くなってくる頭痛などであ り、このような場合は、検査機器が整った総合 病院への紹介を検討する。絶対に見逃してはな らない頭痛はくも膜下出血と細菌性髄膜炎であ り、次いで動脈解離、慢性硬膜下血腫、急性緑 内障発作、急性化膿性副鼻腔炎も見逃してはならない。
慢性頭痛の診断(=片頭痛の診断)
同じような頭痛を繰り返す場合は慢性頭痛で あり、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛、三叉神 経痛などが含まれる。慢性頭痛で何らかの治療 が必要な場合は、病名に関係なく日常生活に支 障をきたしている頭痛である。従って片頭痛を 正しく診断することから始めるが、片頭痛の特 徴を示す5 つの頭文字からなるPOUNDing が 有用である。POUNDing は、Pulsating(拍動 性)、duration of-4-72 hOurs(4 〜 72 時間の 持続)、Unilateral(片側性)、Nausea(悪心)、 Disabling(生活支障度が高い)で表され、5 つ のうち4 つを満たせば片頭痛の可能性が高い (p23)。すなわち片頭痛とは、普段は何ともな いが、ひとたび頭痛が起こると仕事や家事を休 むほど日常生活に支障をきたす頭痛である。
(P数字)は慢性頭痛の診療ガイドライン2013の頁数を示す。
表1 頭痛患者に対する迅速な情報収集チェック・シート2)より引用
表2 重篤な基礎疾患を示唆する頭痛徴候 2)より引用
群発頭痛とは
片頭痛と似た病態に群発頭痛がある。頻度は 低いが日常生活に支障をきたす強い頭痛で、25 〜 35 歳の男性に多く、毎日明け方に頭痛で覚 醒し、片側の眼の奥のえぐられるような痛みで、 流涙や鼻汁を伴い、じっとしていられない程の 激しい痛みであるが、3 時間以内には治ること を特徴とする。頭痛発作時に100%酸素吸入(7 リットル/ 分)15 分で80%の症例は頭痛が消失する。 イミグランの皮下注(保険適用あり)も有用で ある。診療は頭痛専門医に任せた方がよい。
片頭痛のマネージメント
片頭痛と診断したら、まず頭痛の頻度と程度、 日常生活への支障度を確認する。頻度が月に4 〜 5 回以下であれば頓挫薬にて対応する。基本 的には生活習慣の改善、すなわち早寝早起き、 食事の時間を規則正しくするなどで片頭痛が起 こりにくくなるので、そのように指導する。頭 痛が中等度であれば頓挫薬はアセトアミノフェ ンやイブプロフェン、重度の頭痛であればトリ プタンを使用する。いずれの場合も頭痛が起こ り始めたらなるべく早いタイミングで頓挫薬を 服用させることがコツである(図1)。頭痛がピー クに達して悪心嘔吐などが出現したら内服薬は 効かない場合が多いが、そのような患者にもイ ミグラン皮下注は奏効する。初期から悪心が強い場合はナウゼリンを先に服用させれば効果的 である。トリプタンの種類については(表3)に 示した。錠剤ではスマトリプタン、ゾルミトリ プタン、リザトリプタン効き目が早い。但し効 果には個人差があるので1 つのトリプタンが2 回以上無効な場合は別のトリプタンへ変更する。
図1
頭痛ダイアリー(頭痛日記)(P33 〜 34)
頭痛患者の悩みは今の頭痛が、我慢している と悪化するか、軽く終わるか初期の段階で区別 しにくいことである。頭痛早期に鎮痛薬を飲む ように指導すると薬の服用回数・量が増えてし まう。患者自身に自分の頭痛を理解してもらう こと、客観的なデータを得る目的で頭痛ダイア リー(頭痛日記)をつけてもらうと非常に有用である。医師にとっても、頭痛を正しく診断す るための資料になり、治療を進めるにあたり多 くの情報を得ることができる。
表3 トリプタン製剤の種類
片頭痛予防療法(p145 〜 47)
片頭痛発作が月に2 回以上あるいは6 日以上 ある患者では、予防療法の実施について検討す る。急性期治療のみでは片頭痛発作による日常 生活の支障がある場合、急性期治療薬が使用で きない場合、永続的な神経障害をきたすおそれ のある特殊な片頭痛には、予防療法を行うよう に勧められる。片頭痛予防薬についてはガイド ラインでいくつかの薬剤が推奨されているが、 わが国で保険適用のある薬剤は塩酸ロメリジ ン(ミグシス・テラナス)、バルプロ酸(デパ ケン・セレニカ)、プロプラノロール(インデ ラル)である。カルシウム拮抗薬の塩酸ロメリ ジンは、本邦で開発された片頭痛予防薬で有用 性は確立している。ミグシス10 r分2 を使用 し、効果発現には1 ヶ月以上かかる場合が多く、 効果判定には少なくとも3 ヶ月使用する。抗 てんかん薬のバルプロ酸は、欧米で20 年の使 用経験が蓄積されており片頭痛予防効果の良質 なエビデンスがある。デパケンR400 〜 600 r を1 日1 回眠前に使用し、数週〜 1 ヶ月で効 果を実感できるが判定には少なくとも2 ヶ月間 使用する。妊娠中の女性には禁忌である(p320 〜 332)。プロプラノロールは併存症に高血圧 や冠動脈疾患、頻拍性不整脈がある場合は予防 薬の第一選択薬として勧められる。インデラル 20 〜 30 r分2 〜 3 で開始し、効果が不十分な 場合は60 r / 日まで増量可、効果は投与1 か月程度で現れ、効果判定には2 か月間使用する。 (p334 〜 343)
頭痛体操(図2)3)
頭痛体操は、片頭痛の予防、特に慢性化の予 防や治療に効果的である。片頭痛の痛みにより 後頸部のコリが続くとさらに片頭痛が起きやす くなる。朝夕一回づつ、それぞれ2 分間程度の 簡単な体操で首の硬さがほぐれる。但し片頭痛 発作の最中に体操をすると頭痛が悪化するので 注意する。体操は緊張型頭痛にも有効である。
妊娠中・授乳中の片頭痛治療(p139 〜 141)
妊娠初期から後期に至るにつれて片頭痛は 減少する傾向にあるが、頭痛頓挫薬が必要な 場合はアセトアミノフェンが勧められる。予防 薬が必要となる患者は少ないが、必要な場合 はβ遮断薬が挙げられる。授乳婦がトリプタ ンを使用した場合は、スマトリプタン(イミグ ラン)は使用後12 時間、その他のトリプタン は24 時間経過した後に授乳させることが望ま しいが、エレトリタン(レルパックス)は投与 後24 時間で母乳に移行したのは総量の0.02% との製薬会社からの報告あり比較的安全とされる。
(P数字)は慢性頭痛の診療ガイドライン2013の頁数を示す。
図2
小児の頭痛(p272 〜 289)
小児では6 か月以内に薬剤が効かない頭痛、 乳頭浮腫・眼振・歩行・運動障害を有する頭痛、 片頭痛の家族歴を有さない頭痛、意識障害また は催吐を伴う頭痛、睡眠と覚醒を繰り返す頭痛、 中枢神経疾患の家族歴や診療歴を有する頭痛な どは、二次性頭痛を疑って神経学的画像検査が 必要である。(p7)
小児の片頭痛については、持続時間が短い、 車酔いをする例が多い、65%に家族歴があり母 親が70%を占めるなどの特徴がある。規則正しい睡眠や食事、頭痛の誘因を避けるように指 導することで、薬を必要としない場合が多い。 急性期治療の第一選択薬はイブプロフェンとア セトアミノフェンである。トリプタンでは、ス マトリプタン点鼻薬(イミグラン)、錠剤では リザトリプタン(マクサルト)が有効かつ安全 である。12 歳以上でイミグラン点鼻は使用可 能、マクサルト錠も12 歳以上、体重40 s以 上で成人と同量(10 r)、体重20 〜 39 sで半 量(5 r)を用いる。(p284 〜 86)
緊張型頭痛(p192 〜 93)
緊張型頭痛は一次性頭痛の中で最も多いと考 えられているが、いざ正確な診断となると結構 難しいことも多い。発症機序としてストレスや 精神的緊張が促進因子であることは良く知られ た事実であり、日常生活に支障をきたすような 緊張型頭痛と考えたらうつ病や精神疾患を除外 するようにする。その際に一般医が精神科疾患 を整理して理解する方法にMAPSO システム がある4)。すなわち気分障害(Mood)、不安障 害(Anxiety)、精神病群(Psychoses)、物質関連障害(Substance-induced)、器質性/ その他 の障害(Organic or Other disorder)であるが、 とりわけ気分障害については、ここ1 か月抑う つ気分(一日中気分が落ち込んでいることがあ るか?)と興味の喪失(以前楽しめていたこと が楽しめなくなっていませんか?)の質問をし てうつ状態を除外することが大切である。
薬物乱用頭痛(p264 〜 270)
薬物乱用頭痛は元々片頭痛患者に多い。頭痛 は1 か月に15 日以上存在し、3 か月を超えて 定期的に1 か月に10 日以上頭痛薬(トリプタ ンや複合鎮痛薬)を使用している例が該当する (p265)。治療の原則は、1)原因薬物の中止 2)薬物中止後に起こる頭痛への対処 3)予防薬投与の3 つであるが、確立された治療法はない(p268)。 治療は頭痛専門医に任せた方がよい。
おわりに
慢性頭痛の診療ガイドライン2013 では、プ ライマリ・ケア医が一次性頭痛(特に片頭痛) について適正な診断と治療ができることを要求 している。また慢性頭痛について医学生や研修 医への教育も大切だと思う。日本頭痛学会ホー ムページより引用した沖縄県内の頭痛専門医を 記載した(表4)。頭痛の診断・治療に苦慮し た場合に利用して頂き、さらに病診連携、診診 連携を深めて頂きたい。
(日本頭痛学会・評議員 頭痛専門医 稲福徹也)
(P数字)は慢性頭痛の診療ガイドライン2013の頁数を示す。
参考文献
1) 日本神経学会・日本頭痛学会:慢性頭痛の診療ガイド
ライン2013. 医学書院,2013
2) 徳田安春編集:頭痛. 新・総合診療医学 病院総合診
療医学編. カイ書林,2012 p.66-68
3) 頭痛体操 http://www.mdsakai.jp/20090904cp.html (2013/8/11)
4) 井出広幸・内藤宏監訳:ACP 内科医のための「ここ
ろの診かた」- ここから始める!あなたの心療. 丸善
株式会社,2009
表4 沖縄県内の頭痛専門医(日本頭痛学会認定)