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日本産婦人科医会
第36回 性教育指導セミナー全国大会

宮良美代子

美代子クリニック 宮良 美代子

7 月28 日、第36 回性教育指導セミナー全国 大会が、福島県会津若松市の会津大学で行われ ました。平成23 年3 月11 日の震災と原発事 故の影響が今なお残る福島県で、災害からの復 興への思いと「教育振興、人材育成」を藩発展 の基盤と考えてきた会津の伝統を受け継ぎ、開 催にかける地元の熱い思いの詰まった大会とな っていました。

大会のメインテーマは「自律を支える性教育 を目指して- 夢に向かって自分らしく歩むため に-」で、震災を経験した子ども達が自律して 生きるために、性教育は生きるための教育であ るとの考えのもと、我々大人や産婦人科医は何 が出来るだろうかと言う思いを込めたテーマでした。

最初の特別講演は、「“夜のお勤め” メンタ リティーからの脱皮 - アメリカ教育現場での NO が言える関係を築くための性教育-」、と少 し過激なタイトルで、米国在住のフォトジャー ナリストの大藪順子さんの講演でした。大藪さ んは、先日沖縄にも来県し講演をされています が、自宅で就寝中にレイプ被害を受けた経験か ら、性被害者を支援する様々な活動を行ってい ます。自分が子どもの頃に受けた日本の性教育 と米国の性教育とを比較して、日本では性教育 が身体や命の問題に終始し、人権や自己防衛の 重要性を教えていないと指摘しています。また、 米国の性教育が、政権交代や大統領の考え方に 大きく左右されるという傾向にあること、自分 が関わった性被害者のこと、民間の被害者支援 の話しへと続きました。

教育講演Tは「性同一性障害と思春期」、は りまメンタルクリニックの針間克己先生の講演 でした。針間先生はこれまでに、日本における 性別適合手術の適応を判定する診断の1/3 を 書いているとの事でした。講演内容は、性同一 性障害の基礎知識と現状の解説に始まり、最近 の傾向として性別違和を訴える受診者の若年化 があるとしています。このような状況を受け、 2012 年に性同一性障害のガイドラインも一定 の条件付でホルモン療法の開始年齢を18 歳か ら15 歳に引き下げています。一方で、性別違 和を訴える者のすべてが性同一性障害ではな く、特に思春期は性別違和感が強まる年代でも あり、発達障害や統合失調症、同性愛、アイデ ンティティーの混乱などの例もあるため、個別 に判断し、臨機応変に対応していくべきで、性 急に診断・治療を行う必要はないと指摘しています。

教育講演Uは「哺乳類としての妊娠適齢期 〜卵子の老化〜」で、昨年NHK スペシャルで 取り上げられ、大きな話題を呼んだ加齢と妊 孕性の問題を、同番組に出演された名古屋市立 大学産婦人科教授の杉浦真弓先生が講演されま した。近年、我が国では女性の晩婚化や第一子 出産時年齢の上昇が顕著で、女性が自分のキャ リア維持のために結婚、妊娠を先送りする傾向 があります。産婦人科医師を対象とした調査で も、女性医師の未婚率、離婚率が男性よりも高 く、子どもの数も少ないことが明らかになって いて、キャリア女性に共通する問題が指摘され ています。女性の加齢により、不妊症、不育症(流 産)、染色体異常、子宮内胎児発育遅延、分娩 異常は明らかに増加します。それにもかかわら ず、日本においては生殖教育を受ける機会が少 なく、加齢と妊孕性の低下に関する知識が不足 していて、妊孕性を失ってはじめて後悔する高 齢女性が少なくありません。最もリスクの少ない20 代が妊娠適齢と考えるとしています。同 様の内容は、前日に行われた一般市民を対象と した講演会でも話されました。

午後からはシンポジウム「夢に向かって自分 らしく歩むために―震災を乗り越えて―」で、 基調講演として「福島県における中学生、高 校生の心と性のアンケート調査結果」が報告 されました。中学生・高校生の震災前後での 変化をアンケート調査の結果をまとめ、震災 後には「自分に良いところがたくさんある」「自 分に満足している」などの自己肯定感が強くな り、生き方を真剣に考える中高生が増え、家族 や友人の事を大切に思うようになった一方で、 震災により安定した生活が壊れ、表面的で安易 な異性関係に流されてしまう事もあると分析 しています。

福島県警からは、「福島県警察における性暴 力等被害救援協力機関(SACRA ふくしま)の 設立経過」の報告がありました。犯罪被害基本 法に基づき平成23 年3 月に閣議決定された第 二次犯罪被害者等基本計画で、性犯罪被害者の 医療費の負担軽減やカウンセリングの実施、ワ ンストップ支援センターの設立促進、医療機関における性犯罪被害者からの証拠採取等の促進 などを図るよう各機関に示されています。福 島県警では産婦人科へのアンケート調査を実施 し、被害申告や相談をしないまま、自ら産婦人 科を受診している例がかなりある事を示しまし た。その上で、福島県の広域性や都市が分散化 している事などの地域特性を考慮して、独自の 支援体制(SACRA ふくしま)を設立しました。 これは、福島県警察、福島産婦人科医会、ふく しま被害者支援センターがそれぞれ主体的に活 動しつつも、ネットワークを構築し一体的機関 として活動する形態で、これまでに設立された 大阪や愛知の一ヶ所拠点型の被害者支援と違う モデルとして注目されています。

来年の性教育指導セミナーは滋賀県で開催予 定ですが、メインテーマは「妊娠適齢期の現在・ 未来」で、今回と共通する部分もあります。2 年連続して妊孕性の問題が扱われる事になり、 子どもを持ちたいと思う女性はいつ妊娠・出産 を考えるべきか、この個人的な問題が、少子高 齢化・人口減少の進む我が国においていかに大 きな社会的問題であるかを痛感しました。