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結核予防週間に寄せて(9/24 〜 9/30)

東朝幸

八重山福祉保健所長 東 朝幸

はじめに

厚生労働省は毎年9 月24 日から30 日までを 「結核予防週間」として地方自治体や結核予防 会、日本医師会等関係団体のご協力のもと、結 核予防に関する普及啓発等を行っております。

さて、沖縄県における平成23 年の結核患者 登録状況は下記のとおりです。過去5 年間は 260 人を前後しており、罹患率(人口10 万対) は全国値より僅かながら高く推移しています。 (表1)なかでも高齢者(80 歳以上)の患者の 割合が増加しています。(表2)

沖縄県における結核患者の新登録状況

表1、表2 を参照

表1 沖縄県の新登録患者及び罹患率の推移

表1

表2 80 歳以上の新登録者数及び全新登録患者に占める割合の推移

表2

高齢者の結核の課題

高齢者の発症は過去においての結核の流行が 今影響していると考えられ、細胞性免疫の落ち る高齢者は今後も注意が必要です。また、高齢 者は、治療による副作用の頻度も高く、合併症 のために十分な治療を行うことができない場合が少なくないため、治療成績は青壮年層に比較 して悪いのが現状です。更に、高齢者では胸部 X 線写真上非典型的な像を呈することから、結 核の診断が遅れ、重症となって診断されること が少なくありません。

特に、臨床症状も呼吸器症状を呈さないで全 身症状のみを呈することがしばしば経験されま す。したがって、体重減少、食思不振などの全 身症状のみを訴えた場合でも胸部X 線撮影を 行い、異常陰影がみられた場合には各痰細菌検 査を強くお勧めします。

妊婦や若年者の結核集団感染

高齢者ばかりではありません。昨年8 月、県 結核関係者に激震が走りました。妊娠中の30 代女性が結核で母子ともに死亡し、医療機関の 職員や患者ら計19 人の集団感染事例の発生で す。県内で集団感染が発生したのは2001 年以 来11 年ぶりです。女性は当初からせきと微熱 はあったが、風邪とみなされ、切迫流産で入院 した際、咳が続いていたため、胸部エックス線撮影をし、結核と診断されたとのことです。沖 縄県健康増進課は、県産婦人科医会に、妊婦で も結核を強く疑う場合は内科の受診を案内、必 要な検査を実施するよう要請しました。

更に残念なことに今年の5 月には小学校での 結核集団感染事例が発生しています。周りの大 人で感染源となる結核患者との接触があれば疑 いますが、小児においては、咳や発熱といった 一般的な症状から結核を診断するのはかなり難 しいと思われます。両方の集団感染事例に共通 なのは、診断の遅れです。たとえ若年であって も2 週間以上続く咳等があれば鑑別疾患にぜひ 結核を加えてほしいと思います。

新しい結核補助診断検査

BCG に影響されず、結核菌群に特有の蛋白 質を抗原としてリンパ球(Th1)より産生され るインターフェロンγ(IFN- γ)が測定でき るようになり、クウオンテイフェロン(QFT- 3G)やエリスポット(ELISPOT)が導入され ました。測定感度が高く若年者の接触者検診等 において、予防投薬を開始する根拠の一助とな ります。この検査の影響と思われますが、沖縄 県においても医療従事者の潜在性結核感染症の 届出が増加しております。

超多剤耐性結核(XDR-TB)

結核に効き目が強い第一選択薬のうち、イ ソニアジドとリファンピシンに耐性をもつも のは、多剤耐性結核(MDR-TB)と名付けら れています。XDR 結核はこの二種類に加えて、 補助的な第二選択薬(六種類)のうち、三種類 以上に対して耐性があるものを指しています が、かなり治療が困難となり、感染拡大となる と尚更やっかいなことになります。原因として は不十分な治療期間によるものが考えられてい ます。それを防ぐために保健所ではWHO の推 奨するDOTS 戦略として保健師による服薬支 援を推し進めておりますので、ご協力をお願い 申し上げます。

おわりに

今更ながら、比較読影の大切さや、喀痰検査 の重要性は言うまでもありません。この週間を 機会にぜひ、日頃の診療の中でもう一度結核を 思い起こしてくだされば、幸いに存じます。