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『救急の日(9/9)・救急週間(〜9/15)』に寄せて

原田宏

南部徳洲会病院 救急診療部 原田 宏

『救急の日・救急週間』が制定されて、約30 年が経過します。この日は、一般の人々への啓 発の日であり、週間であります。私ども、医療 に携わる者にとっては、温度差はあるものの、 日々、救急の日であリます。

私ども、南部徳洲会病院は1979 年6 月1 日 開院し、本年6 月をもちまして創立34 年とな りました。設立当初より、『救急医療』と『研 修医育成』を重視して、医療を進めてまいりま した。1980 年(昭和55 年)6 月2 日 沖縄県 告示第376 号をもって民間病院として、沖縄 県で、第1 号の救急指定病院となりました。そ の当時の、平安山英達院長、堀川義文副院長 (現在 名誉院長)は、県立中部病院出身のため、 いわゆる北米型ER のシステムを導入され、今 日に到っております。当院で研修を受けて、巣 立って行った初期研修医は91 名にものぼり、 北米型ER を広める一助になっているものと考 えられます。

県内の離島からの救急患者さん受け入れ要請 は、開院当初からあり、また病院の性格上、奄美 大島の離島から、当院のセスナ機、自衛隊機にて、 多数の救急患者さんを受け入れてきました。

現在では、新病院屋上にヘリポートを設置、 ドクターヘリでの救急搬送を沖縄県では唯一、 直接受け入れております。ヘリポートから、エ レベーターでER、手術室、ICU、心カテ室へ と直接搬入しております。 

平成22 年から、ドクターカーによる、救急 医療チームを、一刻も早く事故や災害の現場に 送り込もうとする試みも始まり、すでに、30 回あまりの出動経験があります。

その他、夜間離島救急 長距離離島救急の搬 送に協力しております。また、件数は少ないのですが、日水難救済会、海上保安庁を中心とし た、洋上救急に協力し、艦船上での疾病や外傷 にも、積極的に取り組んできました。

なお、その間、1996 年(平成2 年)宮古島 へ救急患者さん搬送のため飛び立った、自衛隊 機が、東シナ海に墜落。同乗の当院 知花哲医 師を失ってしまいました。

さて、2 年前の県医師会報で、琉球大学救急 部 久木田教授が「AHA 心肺蘇生と救急心血管 治療のためのガイドライン2010(G2010)」に ついて解説されております。要約しますと、1) BLS の手順A → B → C からC → A → B への 変更2)質の高いCPR として、胸骨圧迫は100 回/ 分以上3)心停止後のケア重視、PCI や低体 温療法の積極的利用でした。

G2010 には、薬物療法についてもいくつか の変更がありました。救急の現場では、救急医 は原則このガイドラインを考慮して活動してお りますが、一般の医師にも知識として、多少の 解説をさせていただきます。

ACLS の基本的考えとしては、CPR と薬剤投 与を組み合わせることで自己心拍率が向上する。

(ただし、生存退院率、長期予後、神経学的予後の改善については、不明確。)

1)血管収縮薬

1)アドレナリン

心停止時の第1 選択薬(G2005 と変化なし)。 1mg を3 〜 5 分おきに静注。なお、CPR 中の どのタイミングで投与するべきかという具体的 記載はなくなった。

VF 症例では、first shock で除細動出来る可 能性が高く、薬剤投与はsecond shock 以降に開始する。PEA やasystole では、最初のリズ ムチェック後に投与する。

2)バソプレシン

非アドレナリン作用性の血管作動薬であり、 血管壁に対する直接的な収縮作用を有する。

作用半減時間が長いのが特徴である。アドレ ナリンの代用として投与可能。バソプレシン 40 単位の1 回投与がアドレナリンの初回、2 回投与と同等の効果が得られると言う。

2)抗不整脈

G2010 のアルゴリズムからはリドカインが 削除され、アミオダロンのみの記載となった。

1)アミオダロン

院外発症のVF とpulselessVT 症例へのアミ オダロン投与は、リドカインと比較して、生存 率向上に寄与するとの有用性が示されている。

<投与量とそのタイミング>

初回投与は300mg をボーラスで静注。2 回目以降は150mg を静注する。難治性VF/ pulsslessVT(CPR 除細動、血管収縮剤に反応 しない)場合に投与を考慮。

2)リドカイン

VF/pulsselessVT に対する抗不整脈薬剤と して受け入れてきたが、有効性が証明されずア ミオダロン投与が出来ない場合のみ考慮。1 〜 1.5mg/kg 静注(初回投与量)2 回目以降半量と し、5 〜 10 分間隔で最大3mg/kg まで投与可能。

3)徐脈

アトロピンが無効な場合、陽性変時作用薬(ド パミン、アドレナリン)の使用は推奨度に変更 はないが、経皮的ペーシング(TCP)の推奨 度がclass Tからclass U a となった。(相対的 陽性変時作用薬の推奨度上昇)

1)アトロピン

症候性除脈に第1 選択

0.5mg を3 〜 5 分おきに静注。合計最大投与3mg まで。

(注-1)成人0.5mg 以下の少量投与はむしろ徐脈増悪する

(注-2)U型2 度房室ブロック(Mobitz)や3 度房室ブロックはアトロピン効果期待できない経皮的ペーシングを考慮する。

2)ドパミン

少量投与では主に心拍数増加、高容量(10μg/kg/min 以上)では、血管収縮作用。

アトロピン投与が適切でない場合や、効果 がない場合に考慮。投与量2 〜 10μg/kg/min で反応を確認しながら調節する。中心静脈圧 などにも注意。

3)アドレナリン

4)イソプレナリン

ガイドライン:主な薬剤の変更とその推奨度の比較

ガイドライン:主な薬剤の変更とその推奨度の比較

4)頻脈

G2005 より、G2010 は、単純化され薬剤は アデノシンのみとなった。

頻脈は複雑で薬剤によっては増悪させること があり、専門医へのコンサルトを重視している。

1)アデノシン

(わが国ではATP を代替薬として使用。)
 作用発現が速く、生体内半減期が極めて短い。

(適応-1)
 規則的で幅の狭いQRS 波の頻拍
 迷走神経刺激に反応しない時に投与。初回 投与量ATP で10mg 急速靜注、その後す ぐに20ml 生食フラッシュ。効果なければ 1 〜 2 分以内にATP20mg 投与。

(適応-2)
 安定したQRS 幅の広い、単形成頻脈
 上室性頻拍(SVT)心室性頻拍(VT)との鑑別

(適応-3)
 狭いQRS 幅のリエントリー性SVT

注意点

・他の薬剤との相互作用
 テオフィリン、カフェイン、キサンチン誘導体、ジピリダモール、カルマゼピン

・喘息患者 禁忌

・不安定な頻脈、irregular で多形性QRS 幅が広い頻拍は、VF に移行しやすい
 詳細についてはガイドラインを参照ください。

ドクターヘリ

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