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立八重山病院 院長
依光 たみ枝 先生

依光たみ枝先生

40 年ぶりに生まれ育った故郷の 石垣に単身赴任して、あっという まに3 年目になりました。八重山 病院新築移転に向け、地域住民と 共に最南端の特色ある病院を目指 したいと思います。

質問1. 県立八重山病院院長ご就任おめでとう ございます。ご就任に当たってのご感想と今後 の抱負をお聞かせ下さい。

病院長就任時、「おめでとう!」と皆からお 祝いの言葉を頂きました。しかし中部病院研修 医時代の1 期先輩(現在、大学病院の教授)か らは「御愁傷様!」と肩をたたかれました。本 音は後半の先輩の言葉がぴったり…。

というのも就任早々、2 人の医師が中途退職、 1 人は来年退職と知らされたからです。病院事 業局と密に連携を取りながら、医師確保に奔走 しても商談?は成立せず、医師確保がいかに大 変かを思い知らされました。4、5 月はうるま 市の実家に帰る余裕はなく、土日石垣の社宅に 居たのは1 回のみというハードスケジュール に、さすがに夜眠れない日々が続きました。

さらに副院長時代からの懸念事項であった電 子カルテ導入が、平成25 年2 月に決定し、病 院全体の意思統一、ベンダーのデモに追われて いる最中に、県議会での「新八重山病院早期着 工」の知事発言!、「大変な時期」に院長になっ た!!というのが本音でした。

しかし知人から「大変という字は、大きく変 わると書く」と言われ、その言葉がずしっと胸 に響き、逆に大変さを楽しもうという気持ちに なれました。

その後も、出張の度に病院で色んな事が勃発 し、衛星アンテナで監視されてるのかと勘ぐる 程で、急遽予定変更し飛行機のキャンセル待ち が日常化しつつあります。今日はどんな事が起 こるのかな、どんな試練が待っているのかな と、楽しみながら期待しないとやっていけない のが院長職なのかもしれないと、菩提樹で悟り をひらいた仏陀の心境になりたいと思うこの頃です。

今後の抱負は?とのことですが、八重山病院 の基本理念4S(後述)に日本語版4M を追加 したいと思います。

・無理せずに:楽しく働ける職場で
・無視せずに:Fine Team work で
・無駄をなくし:病院経営へ参加し
・皆に信頼される病院をめざす

「S、M ってサド&マゾ?」と言われないた めには、どのM も全職員の協力と努力が必要 です。自分の大切な人が安心して治療が受けら れ、「八重山病院がなくては困る」と地域住民 から愛され、頼りにされる病院にしたいと思っ ています。

質問2. 11 の有人島があり、地元住民のほか多 数の観光客が常時滞在する八重山医療圏域の中 核病院として重要な役割を担っておりますが、 医師不足、救急医療を含めた離島医療の現状と 課題についてお聞かせ下さい。

「その立場にならないと解らない事がたくさ んある」と、34 年間の中部病院での勤務で研 修医に常々言っていた事が、生まれ故郷に40 年ぶりに戻って来て、その言葉を自分自身で噛 み締めています。

前述しましたが、この4 月から医師確保の 大変さを実感させられてます。最南端の地域中 核病院として不採算部門の救急(救急車出動の 約80%が当院に月約150 件搬送され、入院患 者の約60%が救急室からの入院)・周産期(八 重山医療圏でお産ができるのは当院のみ、年 間約650 人の次世代を担うベビー誕生)・小児 (NICU・小児入院患者を診ているのは当院の み)、離島巡回診療も行いながらの精神医療、 災害拠点病院、結核・感染症病棟、がん地域支 援病院、研修協力病院等等…。体力勝負の初期 研修医が50 人以上はいた中部病院とは全く異 なった環境で、老体?にムチ打ってまた研修医 と同じように救急室、病棟にコールされ日常診 療をこなしながら離島代診(当院だけで年間延 べ102 日)、巡回診療(延べ117 日)、訪問診療(在 宅患者40 〜 50 人)、急患ヘリ搬送・洋上救急(年 間120 〜 150 件)を管理者を含めた48 名の医 師で担っており、麻酔科専門の私ですが、でき るなら救急当直を変わってあげたいと思う程で す。離島医療を支えるには、まずヒト(医師を 含めた医療・事務スタッフ)、モノ(医療機器)、 カネ(離島増こう費などの離島が故の必要な予 算)が絶対必要なのに、事はスムーズには運ば ず特に人材確保は大きな課題です。

質問3. 県立八重山病院の新築に向けての現在 の進捗状況と、将来の展望等についてお聞かせください。

八重山病院の基本理念は「八重山医療圏に科 学的根拠に基づいた医療を提供します(4 つの S)」となっています。

  • 1)安全(Safety)  「安全な医療」を提供します
  • 2)安心(Security) 「安心でやすらぎのある環境」を提供します
  • 3)サービス(Service) 「患者中心のサービス」に努めます
  • 4)満足(Satisfaction) 「満足の頂ける医療」を提供します

しかし昭和55 年に現所在地に移転してから、 33 年以上経過した病院は安心・安全の4S ど ころかいつ人身事故が発生してもおかしくない 程、老朽化してます。天井板、コンクリートが 落下し、給湯管が破裂し、給水管は動脈硬化を 起こし水圧不足で出張透析ができなかったり、 今回の台風7 号の直撃でアルミの天井板は吹き 飛ばされ、滝のような雨漏りで救急室は使えず、 自家発電機は緊急停止し、いつ病院機能が停止 してもおかしくない現状です。視察に来院した 県知事に「4 年では遅い、3 年後オープンを目 指しなさい」と言わせた程でした。

新八重山病院の進捗状況は、実は電子カルテ 選定の真っ最中で、新病院検討会は遅々として 進まずというのが現状です。しかし早急な着工 に向け、今基本構想と土地の選定に病院と事業 局が協力して案を作成しているところですが、 特に土地選定は難航しそうです。

将来の展望としては、患者・職員・来院者に 優しい病院、自然エネルギーを最大限に活用し 自然に優しい病院、ICT を活用し経営面でも 低コストで運営できる病院作りに全職員で努力 し、同じ離島の宮古とは異なる八重山特有の病 院を作りたいと思います。今年の3 月に新空港 が開港してから国内外の観光客が前年の約2 倍 に急増してます。沖縄本島を含む旅行者の入院 は昨年250 人でしたが、恐らく今年はさらに 増加する事が予想されます。また週2 回台湾か らのクルーズ船で月に14,000 人以上の外国人 が石垣を訪れており、輸入感染症に対応できる 感染症病棟の整備は必須です。

夢は大きい方がいいと思っていますが、建物 はりっぱになったけど、ソフトが充実しなけれ ば八重山病院、ひいては国境の島の存続に関わる事なので、病院スタッフの努力と行政・八重 山住民のバックアップは絶対必要です。

質問4. 県医師会に対するご要望がございましたらお聞かせください。

離島医療を維持していくには、マンパワー が必要です。県医師会のなかに代診も可能な Dr. プール制を作って欲しいと思います。また 離島巡回講演会も計画してくれたらありがたいです。

質問5. 最後に日頃の健康法、ご趣味、座右の 銘等がございましたらお聞かせ下さい。

中部病院勤務時代は徒歩出勤で毎日40 分間 は歩いてましたが、石垣に単身赴任してから車での通勤で体重が2kg 増加してしまいました。 出勤前と寝る前に「ラジオ体操」と若返り?体 操をしてますが、摂取カロリーが多く体重計に 乗るたびに反省しきりです。

趣味は自己流川柳、落語で笑う事、温泉での んびりリフレッシュすることですが、日帰り出 張が多くゆっくりと旅を楽しむ機会が少なく なってきました。

座右の銘は学生時代の「努力に勝る天才なし」から「有言実行」へ変化しつつあります。

この度はお忙しい中、ご回答頂きまして、誠に有難うございました。

インタビューアー 広報委員 本竹 秀光