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第129回 日本医師会定例代議員会

真栄田篤彦

常任理事 真栄田 篤彦

平成25 年6 月23 日(日)、日本医師会館に おいて標記代議員会が開催されたので、その概 要を報告する。

代議員会に先立ち、九州ブロック日医代議員 連絡会議が、宮城沖縄県医師会長の進行のもと 開催された。

財務委員の堤先生(福岡県)(長崎県:福田 先生)から昨日行われた財務委員会の報告があ り、続いて議事運営委員の蒔本先生から本日の 予定について説明があった。

定刻になり加藤議長から開会の挨拶が述べら れた後、受付された出席代議員の確認が行われ、 定数357 名中、出席351 名、欠席6 名で過半 数以上の出席により、会の成立が確認された。 その後引き続き、議事録署名人として、17 石 川議員(岩手県)、197 安達議員(京都府)が 指名され、代議員会議事運営委員8 名の紹介が あり、議事が進行された。

横倉義武日本医師会会長挨拶

本日は、第129 回日本医師会定例代議員会に、 ご出席をいただき、誠にありがとうございます。

また、日本医師会の会務運営と諸事業にわた り、日頃からご理解とご支援をいただいており ますことに対し、厚く御礼申し上げます。

本日の定例代議員会では、平成24 年度日本 医師会決算をはじめとする3 つの議案につい て、ご審議いただく予定であります。慎重にご 審議の上、なにとぞご承認賜りますよう、よろ しくお願い申し上げます。

さて、本代議員会の開催に当たり、若干の所 感を申し上げたいと存じます。

現在のわが国は、世界が未だ経験したことの ない急速な少子高齢社会を迎えており、そうし た事態をどのようにして乗り切るのか、世界中 が注目しているところであります。

この難題を乗り越えるためには、わが国を世 界トップレベルの健康長寿国まで押し上げた国 民皆保険制度を堅持したうえで、“持続可能なシステムとしての地域医療をいかに再興してい くか”という制度面と、“医療資源をいかに適 正に配分し、信頼に基づく医療を実践していく か”という運用面から、十分な議論を行ってい くことが必要であります。

安倍首相は社会保障にも精通されており、わ れわれの考えにも一定の理解を示されておりま すが、民間議員が入った経済財政諮問会議や規 制改革会議、さらには産業競争力会議等の財政 面からの議論を見ていますと、規制緩和の名の 下に、国民皆保険制度を崩壊へと導くような議 論が一部でなされており、大変危惧を覚えます。

そもそもわが国の公的医療保険制度の理念 は、全ての国民が支払い能力に応じて公平な負 担をするなかで、同じ医療を受けられる制度を 持続していくことであり、本来、これに反する ような議論や政策が進められることはあっては ならないはずです。

日本医師会は、わが国の医療制度が誤った方 向にいかないよう、これまでも、医療への営利 企業の参入や混合診療の全面解禁を阻止し、ま た、患者負担増に繋がる受診時定額負担制の導 入に反対するなどして、国民皆保険制度を堅持 してまいりました。

そして、今後とも日本医師会は、「国民の安 全な医療に資する政策か」「公的医療保険によ る国民皆保険は堅持できる政策か」を政策の判 断基準に、国民が必要とする医療給付を過不足 なく提供できるよう、TPP 交渉をはじめとす る政府の動きに厳しく対処してまいります。

また、国民皆保険制度の下、国際的に見ても 低い医療費で高い水準の医療を国民に提供でき ていることは、急速に進歩する医学知識の習得 と医療技術の修錬に生涯に亘って励み、日夜診 療に勤しむなかで「かかりつけ医」機能を担っ てきた、われわれ医師の努力の結晶であると考 えております。こうした医師の生涯学習を支援 し、個々の能力を適正に評価できるのは、当 然、医師以外にはおりません。そのため、医師 のプロフェッショナルオートノミーの理念に基 づき、医師の養成や研修につきましては、医師 会として一層取り組みを強化してまいります。

そのうえで、“特続可能なシステムとしての 地域医療の再興” に向けて、「かかりつけ医」 を中心とした切れ目のない医療・介護の提供を 目指すことを、政府与野党に対し、今後も強く 主張してまいります。

高齢社会における高齢者への医療・介護は、 生活の維持・改善というライフサポートシステ ムの一部であり、従来の医療に加え「在宅医療」 の役割が重要となります。

そのため、医師は地域を一つの病棟と捉える 視点などの意識改革をもって、医療と介護が協 働する地域包括ケア体制の整備に努めていくと ともに、患者が日常生活の延長としての「生」 に満足し、自然に終末期を迎えていくことを、 地域医療のなかで継続的・包括的に支援してい くことが求められます。

こうした地域包括ケア体制の整備にあたっ て、最も重要なものが、「かかりつけ医」機能 であります。日本医師会が考える「かかりつけ 医」の特性は、日常行う診療における医療的機 能の他に、地域住民との信頼関係を構築し、健 康相談、健診等の地域における医療を取り巻く 社会的活動、行政活動に積極的に参加するとと もに、保健・介護・福祉関係者との連携を行う 社会的機能を有することであります。

この「かかりつけ医」が中心となって、地域 の身近な通院先、急性期から慢性期、回復期、 在宅医療と、切れ目のない医療・介護を提供す ることで、国民の健康と安心を支えていくとと もに、各地域における人ロ構成や有病率等の現 状と将来予測から医療ニーズを導きだし、それ に則した地域連携を、全国に約900 ある地域 医師会が主導して構築していくことこそが、地 域医療の再興に向けた最善の道だと確信しております。

そして、このような地域医療連携を後押しす るためにも、地城医療を担う医療機関の経営安定 化に向け、来年4 月に増税が予定されておりま す消費税に係る取り組みを強化し、医療機関にと って一番の問題である控除対象外消費税につい て、患者負担が増えることのないように配慮した 形で、引き続き、問題解決を図ってまいります。

一方、“医療資源の適正な配分と、信頼に基 づく医療の実践” に向けて、全国どこでも良質 な医療提供体制を実現させるためには、医師不 足・偏在問題の解消が急務であります。そのた め『医師養成についての日本医師会の提案(第 三版)』で示した、仮称でありますが「都道府 県地域医療対策センター」を設置したうえで、 医師養成と医師確保対策を医師会、地域、行政、 大学とが協働して推進していくことを、広く提 言してまいります。また、医療を真に医療提供 者と患者の信頼関係に満ちたものとするために は、いわゆる「医療基本法」といったものを制 定し、そのなかで、医療政策の基本理念や医療 提供者・患者・行政等の役割と責務等を明確化 するとともに、現在の医事法制全体を秩序と整 合性のとれたものに再編成していくことも必要 と考えております。今後、会内をはじめ医療界 全体で幅広い議論を喚起し、取り組みを進めて まいります。

さらに、本来、慈意で行う医療行為を刑事罰 に問うことはあってはならないと考えておりま すが、現状は毎年70 人から100 人程度の医師 が業務上過失致死・過失傷害罪で送検されてお り、甚だ遺憾であります。そのため、医療にあ る不確実性について国民に理解を求めていくと ともに、医療現場が萎縮せずに、誠実且つ積極 的に医療の向上に取り組めるよう、医療界・医 学界あげての医療事故調査制度の創設に向け、 引き続き努力をしてまいります。

他方で、医療事故を繰り返す医師に対し、医 療界の自浄作用として、教育・指導に当たるこ とが求められます。そのため、日本医師会は医 賠責保険制度を通じて、教育・指導が必要と認 められる会員を把握し、当該会員への具体的な 指導内容等を諮問する組織として、新たに「改 善・指導委員会」を会内に設け、今後、対応を 強化してまいります。

以上、述べてまいりました通り、医療の現状 と問題、そしてその解決に向けた、国民の生命 と健康を守るための最善の方策を一番熟知して いるのは、医療現場に立つ、われわれ医師であります。

そして、医療を取り巻く環度が厳しくなり、 多くの問題が顕在化した今、われわれ医師はさ らなるプロフェッショナルオートノミーと、真 に国民に必要な医療制度を実現するための強力 なリーダーシップをもって、国民と共に歩んで いくことが求められています。そうした社会的 要請に応えるためには、まずはすべての医師が 小異を捨てて大同団結し、わが国の医師の総意 として、国民医療の向上に向けた医療政策等を 国民や政府に強く訴えていくことが必要であり ます。後ほどご質問への答弁のなかで詳細は述 べさせていただきますが、「日本医学会法人化 の意向」に対しましても、こうした基本姿勢の 下、拙速な解決を図るのではなく、変わらぬ連 携とさらなる協働を推進する方策を慎重に探っ てまいります。ただ残念なことに、従来からわ が国では、医師を「勤務医」と「開業医」とに 分けて捉え、あたかもそこに対立があるような イメージがマスコミ等を通じて喧伝され、政治 的に利用されてきたという経緯がございます。 しかしながら、病に苦しむ人を救いたいという 医師としてのアイデンティティは共通のもので あり、また、そもそも医師は医療に従事するな かで過度の利益を追及することはありませんの で、勤務形態や專門領域等の違いがあったとし ても、根本的には医師間に利害を通じた対立関 係は生じないものと考えております。

すなわち、世間に喧伝される「勤務医」と「開 業医」の意見の相違とは、この国の医学・医療 を良くし、多くの患者さんを救うためにどのよ うな医療制度を作っていくかという目標に向 けて、一人ひとりの医師が自らの就業環境と体 験とをエビデンスにした意見を、様々な媒体を 通じて発信している、議論であると考えております。

ただ、より良い議論をしていくためには、互 いへの理解と尊重が前提であり、そのためには 同じテーブルにつくことが必要です。真摯な議 論の末に導き出された、国民の生命と健康の確 保に向けた提言を国政に届けることで、われわ れ医師は、はじめて所期の目的を達成すること になるのです。

日本医師会は、医師であれば入会が可能であ り、会費上の区分はあるものの、会員身分は一 つで、等しく権利と義務を有しております。ま た、行政のカウンターパートナーとして活動し ていくなかで、現場の声をエビデンスにした政 策提言を行ってきており、それを政府へと届け る強いパイプも持っています。

すなわち、目的を同じくする者同士が、協調・ 親睦の気持ちをもって論議するならば、おのず から物事の道理にかない、最善の答えが得られ るはずであり、そして、その議論の場こそが、 医師会であると確信しております。

そのため、未加入の医師に対し、同じテーブ ルにつくよう、われわれ会員から積極的に呼び かけていくことが肝要であります。

それには、医師会がなにを目標とするのかを、 明確にした指標が必要です。そうした思いもあ り、前年度、会内に「日本医師会綱領検討委員 会」を設け、本日お諮りしております「日本医 師会綱領案」をおまとめいただきました。

内容の詳細は後に譲りますが、医師の大同団 結に向けた指標として、本綱領を採択いただく とともに、採択いただいた後は、本綱領を活用 いただくなかで、未加入の医師に対し広く加入 を呼びかけていただきますよう、よろしくお願 い申し上げます。

結びになりますが、本日は公益社団法人へ移 行後、はじめてとなる代議員会です。

その記念すべき会の開会に臨み、公益社団法 人として、様々な活動の公益性を深化させてい くなかで、国民皆保険制度の堅持と、医学・医 療を通じた国民への奉仕を、執行部一同、改め てここにお誓いいたします。

そのうえで、真に国民に求められる保健・医 療・福祉の実現に向けて、今後とも一層の努力 をしてまいりますので、代議員各位におかれま しても、さらなるご理解とご支援を賜りますよ う切にお願い申し上げ、挨拶の言葉とさせてい ただきます。

会務報告

横倉会長の挨拶に引き続き、羽生田副会長か ら毎事業年度終了後、定例代議員会において会 務報告をしなければならないと、新公益法人制 度に則った新定款に定められており、既に平成 24 年度会務報告については平成25 年3 月に行 われた代議員会においてご報告しているので、 それをもって報告と替えさせていただきたいの でご了承頂きたい旨説明があった。

議 事

第1 号議案 平成24 年度日本医師会決算の件
第2 号議案 平成26 年度日本医師会会費賦課徴収の件

第1 号議案と第2 号議案は関連があるので一 括して上程する旨議長から説明があり、今村副 会長から次のとおり説明があった。

1)平成20 年公益法人会計基準で決算しており、 平成24 年度より新たに特別会計で医師年金(認 可特定保険業)を連結表示している。また、従 来の決算報告書は内部管理資料として引き続き 作成していると前置きがあり、議案書に基づい て決算の説明が行われた。

2)平成25 年4 月1 日から公益社団法人へ移行 したので、予算については理事会で承認し執行 することになった。「会費及び負担金の額並び にその徴収方法は、代議員会で定める。」と定 款第8 条に謳っている。事業年度開始日まで に行政庁へ提出する事が求められていることか ら、事前にお諮りすることになったので、本日、 平成26 年度会費賦課徴収の件について提案す ることになった。

3)議長より第1 号議案の審議に付託する財務委員14 名の紹介が行われた。

4)笠原吉孝財務委員長(滋賀県)より、本日の 代議員会に先立って前日(6/22)開催した財 務委員会について、慎重に細部まで審査した結 果、出席者13 名全員が適正と認め、提案どお り承認決定した旨の報告があった。

財務委員会について笠原財務委員長の報告を 受け、第1 号議案並びに第2 号議案表決を行った結果、起立多数で承認可決された。

なお、財務委員の北海道の三宅直樹代議員と 竹広晃代議員の辞任に伴い、藤原秀俊代議員と 林正作代議員を新たに財務委員に指名した旨報告があった。

第3 号議案 日本医師会綱領の件

羽生田副会長から日本医師会綱領にかかる策 定にいたるまでの説明があり、提案理由の説明 があった。

平成24 年4 月2 日に開催された第126 回定 例代議員会の所信表明の中で、横倉会長より基 本理念として日本医師会の綱領なるものを検討 し、組織として目的・目標の理想を会員のみな らず国民の皆様に示したいとの考えが示される と共に、代議員会における長崎県の福田先生か ら綱領の策定について要望があり、早急にプロ ジェクト委員会を立ち上げたいと回答した。こ れを受けて第1 回委員会が平成24 年7 月23 日 に開催され、これまで4 回の委員会が行われた。 平成25 年3 月6 日には横倉会長へ答申され、3 月19 日の理事会においてその報告があった。 その後4 月2 日の第1 回理事会においてその成 案を日本医師会綱領案とする事が決定され、本 日上程されている。また、「医師会が何を目標と するのかを明確にした指標」「医師の大同団結に 向けた指標」について説明があり、幅広い浸透 を呼び掛けたものであると追加説明があった。

第3 号議案表決を行った結果、挙手多数で原案のとおり承認可決された。

日本医師会綱領

日本医師会は、医師としての高い倫理観と使命 感を礎に、人間の尊厳が大切にされる社会の実現 を目指します。

  • 1. 日本医師会は、国民の生涯にわたる健康で文化的な明るい生活を支えます。
  • 2. 日本医師会は、国民とともに、安全・安心な医療提供体制を築きます。
  • 3. 日本医師会は、医学・医療の発展と質の向上に寄与します。
  • 4. 日本医師会は、国民の連帯と支え合いに基づく国民皆保険制度を守ります。

以上、誠実に実行することを約束します。

代表質問・個人質問

その後、ブロック代表質問(8 件)及び個人 質問(12 件)について質疑が行われ、日本医 学会法人化に関する諸問題や医療事故調査制 度、TPP をめぐる皆保険制度の堅持、そのほ か日医執行部に対する要望などに対し、日医の 見解が求められた。

◆日本医学会法人化に関する諸問題

日本医学会の法人化に伴い日本医師会から独 立した場合、日本医師会の学術団体としての存 続が危惧されることに対し、北海道ブロックか ら代表質問があり、答弁に立った横倉会長より 概ね下記のとおり回答があった。

日本医学会の法人化に対する執行部の意見と しては、会員が納得する形での帰結が大前提で ある。登記だけで誰でも一般社団法人をつくる ことは可能であり、最も懸念するのは、両団体 がけんか別れしたとの印象を持たれ、これをき っかけに医療界が分断されるような事態に陥る ことである。今後、定款・諸規程検討委員会か ら、日本医師会と日本医学会が車の両輪となっ て、わが国の医学・医療を牽引していることが、 外部からも分かる関係を構築していく具体的方 策を答申頂く予定となっている。

「日本医師会と分科会との連携」についても、 従来、日本医学会と連携することが各分科会と の連携と認識しており、日本医学会が法人化し た揚合でも、同様の認識で問題ないと考えてい る。定款諸規定検討委員会より答申が提出され た際には、直ちに都道府県医師会と代議員の先 生方にご確認頂きたい。一方、議論の結果、定 款改正が必要との意見に集約された場合は、最 終的な取り扱いを代議員会に諮ることになる。

最後に、日本医学会の定款(案)については 現在日本医学会法人化組織委員会にてたたき台 を検討中であり、成案までに日本医師会の意向 も組んでいただくこととしている。

また、日本医学会の高久会長より、医学会の 法人化をめぐり日本医師会と仲間割れするような印象を与えたくない。日本医師会執行部と歩 調を合わせ、慎重な検討を進めたい。分科会に 所属する医師以外の会員の中に日本医師会の下 に日本医学会があることに不満があること、各 分科会は法人化しており日本医学会も法人化す べきだとの見方も出ている。仮に法人化にかじ を切っても日本医師会と連携して日本の医療の 進歩のために尽くすことを定款に明記するつも りである。日本医師会と医学会が仲間割れする ような印象を世間に与えたくないのが私の信念 である。

医学会の法人化によって勤務医の多くが医師 会に加入しなくなることを不安視する見方が根 強いが、病院団体と医師会の双方に加入してい る会員がいることなど、法人化に伴う影響は少 ないと考えるとの発言があった。

◆ TPP と国民皆保険制度の堅持について

TPP に参加した場合の日本医師会の見解に ついて、北海道ブロックから代表質問があり、 羽生田副会長から概ね下記のとおり回答があった。

医療は市場原理に曝すべきではないと考え る。実際に市場原理により医療が行われている 米国では6 人に1 人は無保険者である。その事 実から米国が以前から日本の医療を市場開放す るよう主張していたことを考えれば、TPP(環 太平洋連携協定)を利用して日本の医療に市場 原理を導入しようとしているものと考えられ る。TPP などの国際条約は、憲法の定めにより、 国内法よりも優位であるため、米国が健康保険 法などの改正を求めてくる恐れもあると危惧し ている。また、TPP は日本と米国の経済規模 でGDP の80%以上を占めてしまい、日米2 国 間協定のような様相を呈している。TPP 交渉 では、参加する12 力国のうち、日本以外の国 が米国に追随することも考えられ、そのような 状況になったときには11 対1 の議論になる。 このとき日本はどうするのかということも考え なければならない。

日本国内でも、米国からの要求に応えるかのように国民皆保険を揺るがす医療の営利産業化 に向かいかねない動きがある。政府の規制改革 会議では「医療・介護・保育・農業などの官製 市場には、関連団体が強く反対し解決がつかな い岩盤のような規制がある」との意見が出てい る。日本医師会としても現行の仕組みの中で医 療イノベーションを進めることには全く異論は ない。しかし営利企業の医療機関経営の参入と、 医療本体への規制緩和は行うべきではなく、次 の3 点が守られることが重要であり、1)公的な 医療給付範囲を将来にわたって維持すること。 2)混合診療を全面解禁しないこと。3)営利企業 を医療機関経営に参入させないこと。これを守 ってこそ国民皆保険が守られたといえる。

TPP 交渉で、日本の国益に反すると判断さ れた場合には交渉から速やかに撤退することも 選択肢として持つべきである。今後もTPP の 動向を、強く注意深く監視し、政府に力強い働 き掛けを行う。

◆強い医師会をつくるために

高い組織率をもった強い医師会をつくるため の方策について関東甲信越ブロックから代表質 問があり、今村副会長から概ね下記のとおり回 答があった。

組織率を高めるということには執行部も同様 の考えであり、組織全体の発言力や政策の実現 力を強め、誤った規制改革を阻止していくため には、医師会にできる限り多くの医師の力を結 集し、多くの勤務医に医師会の活動を理解して もらい、入会して頂きたいと考えている。

日本医師会は世界医師会に認められている日 本で唯一の医師個人の資格で加入する組織であ る。現在は医師の6 割弱、勤務医に限ると約4 割の加入にとどまっている。

日本医師会でも各種協議会などで、勤務医 に係る取組を行っている。入会に対してある程 度の強制力を持った方策についても一つの可能 性として検討を進める必要があると認識してい る。昨年度の勤務医担当理事連絡協議会で「加 入率向上の方策」として5 つの段階を示した。

一番緩やかなものとして「勤務医の発言の場と して積極的に医師会という組織を活用して頂 く」。2 番目に「医師会に加入することのメリッ ト論」。3 番目に「日本医師会の認証局や生涯教 育制度の専門医の要件化など、加入していない 勤務医にとって不便な状態の創出」。4 番目に「保 険医の指定を医師会が行うようにするなどの実 質的な全員加入を図る」。最後に「法的根拠を伴 う完全な強制加入を図る」の5 段階である。最 終的にどの段階を目標とするかについては、勤 務医や会員の先生方の考えに耳を傾けて決めて いく必要があるが、日本医師会への加入促進を 考えていく上で非常に重要な、そして避けては 通れない論点になると考えている。今後、具体 的な方法についても検討していきたい。

最後に入会異動については、以前から手続き の煩雑さが指摘されている。平成22 年10 月 に同一県内の異動に係る新様式導入調査を行っ た際、業務処理の煩雑や事務量の増加等のご意 見があり、導入に至っていないが、医師会組織 全般の見直しを行っているところである。

◆医療費適正化計画に書き込まれている診療報酬の特例について

都道府県毎に診療報酬点数を変えるような動 きが行政内において画策されていることに対 し、九州ブロックから代表質問があり、中川副 会長より概ね下記のとおり回答があった。

厚生労働省より、現時点において、都道府県 ごとの診療報酬の設定を検討する予定はないと の回答を得ている。理由は、各都道府県から現 実的な要請が上がってきていないことを踏ま え、厚労省としては、理由の第1 に都道府県と 協議して合意に至ることが前提条件と考えてお り、都道府県からの具体的な要請がない中で、 厚労省自らが特例診療報酬を検討することはな いとの判断であった。地域ごとの診療報酬の特 例が認められるのは、地域の実情を踏まえつつ 適切な医療を各都道府県間において公平に提供 するために合理的な範囲内であると明記されて いる。現状において、各都道府県間の公平のため、地域に特例診療報酬を認める合理的な理由 は見当たらず、将来においても難しいと思う。

理由の第2 は、社会保障審議会・医療保険部 会で、都道府県ごとの診療報酬が否定されてい ること。社会保障制度改革国民会議では、地域 の実情を踏まえた診療報酬の決定ができる仕組 みを積極的に活用すべきとの意見があったが、 医療保険部会では保険者側の委員から「一物一 価、全国統一にしないと国民の納得は得られな い」と明確な反対意見があった。現在のところ 都道府県ごとの診療報酬の特例が実現される見 通しはない。

しかし、今後都道府県によっては、個性的独 断的意向が働くことは否定できない。日本医師 会は、診療報酬をはじめとする医療制度や医療 政策が都道府県ごとに決定される仕組みの導入 を警戒していく。

◆新しい事故調査制度について

医療事故に係る調査仕組み等の基本的なあり 方について、個人質問があり、高杉常任理事よ り概ね下記のとおり回答があった。

医療事故調査制度について、厚生労働省の医 療事故に係る調査の仕組み等の検討部会では日 本医師会から構成委員として参画したが、13 回に及ぶ議論を終え、5 月31 日に基本的な在 り方が公表された。この基本的在り方は医療事 故調査制度の骨子を纏めたものである。詳細に ついては日本医師会などが参画した上でガイド ラインを策定することになっている。日本医師 会の事故調査検討委員会でも横倉会長に答申が 提出された。既に全国の医師会にも示している。 この厚生労働省の検討部会報告書は日本医師会 会長への委員会答申の考え方を大きく反映され たものとなっている。診療に関連した予期しな い事故が発生した場合には、1)全ての医療機関 で院内事故調査を先行して徹底する。2)事例が 発生したことを第3 者機関に届けておく。3)院 内調査でご遺族の納得が得られない場合、また院内調査の限界がある事例は第3 者機関による 調査を用意する。となっている。

ただし第3 者機関の組み立て、構成について は、厚労省部会案と日本医師会案では異なるが、 5 年半の医療界の様々な提案を受けての厚労省 の事故調査に係る調査の仕組みの在り方に関す る検討部会は評価するべきものがあり、大きな 動きとなることが期待される。今後ガイドライ ン作りや法律案作成の過程で日本医師会として も積極的に踏み込んで議論したい。

医療事故調査制度の創設は、十分な原因究明 がなされないままに刑事訴追がなされていた現 状を変える。迅速に事故調査を行い、真摯に患 者側に説明する。医療機関が真剣に対応するこ とで、患者・遺族を守り、ひいては職員を守る ことになる。結果として納得が得られない事例 は、刑事ではなく民事の話し合いによる解決が 促進されることとなり、医療のあるべき姿にな ると考える。制度自体は責任追及とは切り離さ れた原因究明と再発防止という純粋に医療・医 学の中の営みの中で、すなわち医療の枠の中で 取り組まれるべきものであることは、厚生労働 省の「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方 に関する検討部会」の案、日本医師会の「医療 事故調査に関する検討委員会」からの答申とも に共通の理念と言える。民事責任については、 従来の医師賠償責任制度で対応すれば、刑事責 任の追及は避けられると考える。

警察への届け出や、医師法21 条にいう異状 死体とは切り離して考えるべきということで、 厚労省の検討部会では整理された。日本医師会 の報告書では、事態混乱の一因となった医師法 21 条については、医療界の自律的な取り組み の中で社会に再評価を求め、医療への刑事介入 を抑制する。将来的には改正ないし、解釈の整 理が必要である。ガイドラインや法律など、具 体的な内容が議論されるこれからがもっとも厳 しい道のりであると覚悟している。医療界はも とより患者・国民・行政が議論し、結果として 新たな道を実現する歴史的にも極めて意義のあ る未来へ向けた取り組みといえる。

◆日本医師会主導の新しい日本警察医会について

新しい警察医組織の概要及び都道府県警察医 会との関係、その指揮命令系統、活動内容につい て、また検案活動の両輪とされる歯科医師会・警 察歯科医会との連携について個人質問があり、葉 梨常任理事より概ね下記のとおり回答があった。

日本警察医会は警察活動に協力する医師の全 国組織として平成7 年の発足以来、現在まで活 動を続けてきたが、加盟する都道府県警察医会 の数は20 余りと伸び悩んでいた。警察活動に 協力する医師の活動内容はもとより、名称につ いても「警察医」「警察協力医」「検案医」など 県ごとにまちまちであり、全国を網羅する組織 化するため、対処について協議を続けてきた。

このたび、日本警察医会としては警察活動に 協力する医師の組織基盤を確固たるものとする ため発展的に解散し、新たに日本医師会の下に 力の結集を図るべきとの結論を出された。これ を受けて日本医師会では平成26 年度をめどに 準備を進めている。

新しい組織として各都道府県医師会には「警 察活動に協力する医師の部会」を設置いただく 予定である。既存の各県の組織を移行して頂く ことでも差し支えないと考えている。その上で、 全国組織として日本医師会内に連絡協議会を設 置し、総会と学術集会を兼ねた大会を年1 回程 度開催したいと考えている。検視立ち会いにか かる身分保障や費用、要員の確保といった諸問 題について検討する専門の委員会を日本医師会 内に設ける予定である。

大災害時の検視・検案に際しての歯科医師会、 警察歯科医会との連携については、地域ごとに 警察、医師会、歯科医師会がユニットとして活 動できる体制が最も機能的だと考える。関係団 体・諸機関と実践的な協議に入りたい。

その他、「病床機能報告制度」、「第6 次医療 計画における基準病床について」、「予防接種法 改正法のもの実効性のある予防接種基本計画の 策定に向けて」等についても活発な質疑が交わされた。

印象記

常任理事 真栄田 篤彦

公益社団法人移行後の初めての代議員会で、横倉義武会長は、日医として様々な活動の公益性 を深化させていくなかで、国民皆保険制度の堅持と医学・医療を通じた国民への奉仕を、執行部 一同、改めてここにお誓いすると述べている。国の方針としての経済財政諮問会議や規制改革会議、 産業競争力会議等の財政面からの議論に関して、規制緩和の名の下に、国民皆保険制度を崩壊へ と導くような議論に危機感を示し、日医としては、我が国の公的医療保険制度の理念は、全ての 国民が支払い能力に応じて公平な負担をするなかで、同じ医療を受けられる制度を持続していく ことであり、本来、これに反するような議論や政策が進められることはあってはならない。日医 は我が国の医療制度が誤った方向にいかないよう、これまでも医療への営利企業の参入や混合診 療の全面解禁を阻止し、患者負担増につながる受診時定額負担制の導入に反対し、国民皆保険制 度を堅持し、「国民の安全な医療に資する政策か」「公的医療保険による国民皆保険は堅持できる 政策か」を政策の判断基準に、国民が必要とする医療給付を過不足なく提供できるよう、TPP 交 渉をはじめとする政府の動きに厳しく対処していくと表明した。TPP に関してはすでに日本が7 月下旬から交渉参加ということになっており、医療関係、知的財産等の分野でどのような方向性 が出るか注目したい。アメリカの日本に対するTPP での最大の狙いは郵貯が一番大きいものと 思われる。桁はずれの多額の郵便貯金が医療保険分野から日本を攻め、国民皆保険制度への影響 を強めていくのではと危惧される。

第3 号議案の日本医師会綱領の件に関しては、特に異論も無く、承認された。

これまではヒポクラテスの誓いに基づいた医の倫理綱領はあったが、医師会としては初めての 綱領で非常に大切で必要な綱領だと思う。

代表質問では、日本医学会法人化に関する諸問題について最初に取り上げられており、日本医 学会の高久史磨会長も特別参加し、日医からの独立に関する見解を述べていたが、学会の法人化 に関して、日医は法人化に向けて前向きに検討していくとのことであった。日医と医学会は車の 両輪との表現に対し、高久会長は、緊密な連携を取りながらとの表現であった。今後の成り行き が注目される。

2014 年開始予定の「病床機能報告制度」に対する件や、新しい事故調査制度等に関しての日医 の今後の対応に期待したい。

平成25 年度も上半期を無事に終え、真に国民に求められる保健・医療・福祉の実現に向けて、 横倉日医執行部の益々のご活躍を祈念申し上げたい。

最後に、第23 回参議院議員比例区当選の羽生田俊先生の祝当選!