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人類が地球上で絶滅危惧種とならないためには

山本壽一

社会医療法人かりゆし会 ハートライフクリニック
院長 糖尿病センター長
山本 壽一

私の専門分野は内分泌代謝疾患です。実際の 臨床では生活習慣病である2 型糖尿病の診療が メインになります。2 型糖尿病は昨今爆発的に 増加しています。患者数から見ると糖尿病専門 医の数は少なく、成りたいと希望する若手医師 も少ないように感じます。友人からは糖尿病専 門医は絶滅危惧種だと言われることもあり複雑 な心境です。今回は治療者側の話ではなく、食 行動が問題となる2 型糖尿病がなぜ増えている のかを、あくまでも私見ですが地球的規模で考 えてみたいと思います。

昨日、ある患者さんから訴えられました。「野 菜はウサギや山羊が食う物だ、とにかく肉が好 きで毎日食べる、牛でも豚でも馬でも、山羊は 最高だ」。このように主張される患者さんは日に 数名いらっしゃいます。また、最近はマスコミ の影響もあるのか不確かな情報で「炭水化物の ご飯を食べないで肉を増やした」という患者さ んも増加しています。このような患者さんに皆 さんはどのような指導をされていますか。字数 の制限から指導の話はまたの機会にしますが、 心理的アプローチから考えると、だめと否定す るような指導は望ましくありません。人はだめ と言われ一方的に矯正するような指導を受けると、約束を破るスリルが強い誘惑となります。

さて、生活習慣病がもたらす合併症は悲惨な ものです。合併症で亡くなられるかたもいます し、救命できたとしてもQOL やADL が障害 されたり、またご家族にも影響することが多い ようです。もちろん経済的負担も相当なもので す。なぜこのような試練が人類に与えられたの でしょうか。

ここからは私の私案(妄想)です。地球は地 球上に存在する生命を共に維持するために絶妙 なバランスの食物連鎖を構築して生態系を維持 してきました。食物連鎖を壊す種や個体は地球 環境に障害を与えてしまうため迷惑千万となり ます。つまり生態系を壊さないような食物連鎖 の枠内で私たち人類も生活しないといけませ ん。人間が生態系ではピラミッドの頂上部分で あることには異論が無いと思います。それでは あらゆる物を食べても良いのかどうかです。ト ップにいる人類は個体数がここ数十年で爆発的 に増加してきました。生態系ピラミッドの頂上 部分がいびつになってきたと言うことです。こ のような種(人類)が下段の種(家畜)を想定 外に食することは食物連鎖のバランスを崩して しまい、地球環境全体としては困るわけです。 つまり、地球にいて欲しくないということです。 私たち医療者としては生活習慣病の治療は、地 球環境の維持を考慮した食物連鎖に基づく食事 指導が基本になります。

製薬メーカーからどんなに良い薬が出てきた としても以上のコンセプトを無視する薬では将 来的にはご利益が見込めないでしょう。最近、 糖尿病の治療薬で食欲中枢を減退させる注射薬 が登場しました。とても理に適っている薬と思 い過食傾向にあり肥っている糖尿病患者さん に数十例用いました。ほとんどの患者さんは食 欲が落ちて体重が減少し糖尿病も良くなりまし た。ところが数ヶ月後から体重がリバウンドし てきます。患者さんにお伺いすると、食欲はな いが食べているとのこと。時間が来たから食べ た。出されたから食べた。あったから食べた。 食行動が乱れていた方は、食欲を抑えるだけで は望ましい食生活には戻れないようです。本当に難しいところです。

私は日々患者さんの食べ物への思いを聞きな がら、生態系が蝕まれる地球のことに心痛めてい ます。皆さん、患者さんだけでなく私たち医療者 もできるだけ長いあいだ地球に居られるように、 今一度食事の指導について考えてみませんか。