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診療雑感
「インフルエンザに罹患して改めてインフルエンザの症状について考えてみた」

小宮一郎

琉球大学医学部附属病院
地域医療システム学講座
小宮 一郎

今年のゴールデンウィーク後半は散々な目に あった。B 型インフルエンザに罹患し、外来診 療をキャンセルしてしまった。診察待ちの患者 さんも私が出勤しているのは気づいていたと思 うが、何も言わずに居なくなったと不信感を待 たれたと思う。外来での迅速キットでB 型陽 性となり、病院には20 分ほど居ただけで、同 僚の砂川優医師と看護師さんに後は任せて直ち に帰宅した。その日の外来予約数は通常よりも 多く、砂川医師は50 名以上の患者さんを診察 する事になってしまった。この場を借りてお詫 びしたい。

内科医師として30 年以上働いて来たが、突 然の出張や忌引きなどは別にして、風邪症状の ために二度休診した記憶があるのみである。丈 夫に生んでくれた両親に改めて感謝したい。今 まで多少の体調の悪さは我慢して外来診療をし てきたが、感染防御の観点からは、本当に良か ったのかとの疑問も湧いてくる。

インフルエンザ罹患もタミフルの服用も初め てのことで、溜まった仕事を片付ける計画も実 行できず、何よりも最近やっとなついてくれる ようになった、東京から帰沖した3 歳の孫娘の 相手もできず大変歯がゆい思いであった。頭痛と筋肉痛に悩まされ、妻に3 食配膳してもらう 以外は息子夫婦や孫から連休の4 日間は厳重に 隔離されてしまった。幸い発症後に限って言え ば誰にもインフルエンザは移さなかった(と思 われる)が、改めてインフルエンザについて考 えさせられた連休後半であった。

今回高熱は出ず、最高で37.1 度であった。 外来担当日の前日夕方から頭痛と軽度の寒気を 感じ、翌日に頭痛は一端軽快したが、筋肉痛も 出てきたため、「普段の風邪とは違う」と感じ、 迅速キット確認後に診療を開始するつもりで、 マスク着用の上で外来に赴いた。南部地域での 4 月末からのB 型インフルエンザ増加の情報も 得ていた。私が通常の風邪に罹患した場合は、 たいてい咽頭痛と顎下リンパ節腫脹がある。同 時期から咳や漿液性の鼻汁が出現し、疲労感や 悪寒があって37.5 度以上の高熱が出て、その 後粘性の鼻汁や痰に変化する。筋肉痛や関節痛 の併発時にはたいてい高熱を伴っていた。しか し、今回の初期症状は頭痛から始まり筋肉痛が 主体で、高熱や痰はなく、鼻汁と咳も軽度であった。

高熱がなかったこと(B 型故か)と食欲低下 がなかった事以外は通常のインフルエンザ症状 であったという事になる。それでは、インフル エンザ感染に咽頭痛やリンパ節腫脹は少ないの か(文献上では小児の場合咽頭痛は少なからず あるようだが)、湿性咳嗽は少ないのか、どう して筋肉痛や関節痛が強いのか、色んな疑問が 湧いてきた。同時に今まで真剣に考えてこなか ったことを大いに恥じ入ってしまった。気道感 染症状はほとんどない状況下でウィルス血症が あるなら、それはどこに由来するのか、筋肉や 関節ではウィルスは増殖していないのか、筋肉 痛や関節痛が高サイトカイン血症に由来すると すれば、今回発熱が軽度なのは何故か、咽頭痛 が少ない事は逆に咽頭が防御機構として働いて いないのか、などを知りたいと思った。ベッド に寝たまま古い教科書にあたり、iPad を使っ てPubmed 検索も行った。インフルエンザに横 紋筋融解症を合併した報告例でも筋肉内のウィ ルスRNA は証明されなかった。ヒトでのウィルス血症を証明し、これを筋肉痛の原因として いる報告がある一方で、動物への感染実験では 筋肉内のウィルスRNA は証明されるものの感 染ウィルスや抗原は検出されないという報告も あった。インフルエンザではないが、高度の関 節痛や筋肉痛が長期持続して関節破壊をも合併 するチンクグニア熱においては、これらの病変 が高サイトカイン血症(実際に証明されている) と病変部のウィルス抗原(これも証明されてい る)のどちらに由来するのかの結論も得られて いないようだ。

さらに、昨年の12 月の予防注射から既に5 か月が過ぎており、抗体価低下は確実で、これ は単に時間経過の為なのか、加齢も加味されて いるのか、2013 〜 14 年シーズンのB 型イン フルエンザの主流は昨シーズンと同じ山形系統 なので、もし抗体価が下がらねば感染しなかっ たのか、今後は予防注射を年に2 回以上すべき なのか、など次から次へと頭に浮かんできた。 ただ寝ているだけで時間はいくらでもあった。 そのうちに咽頭痛と顎下リンパ節腫脹と痛みも 出現してきて、何が何だかわからないまま、今 回のインフルエンザ感染は快方に向かった。

上に挙げた疑問は既に解決が付いており、単 に私の勉強不足なのかもしれないが、答えをご 存じの先生が居られたら是非ともお教え願いた いと思っている。4 日間もベッド上安静を強い られたが、インフルエンザについて色々考える 良い機会でもあった。何よりも県医師会からの 原稿依頼に応えられるネタを拾う事が出来た、 今回のインフルエンザ感染であった。