琉球大学医学部附属病院
血液浄化療法部
(日本腎臓学会広報委員会委員長)
井関 邦敏
慢性腎臓病(CKD)の概念が発表されて、約 12 年になります。しかし、メタボリック症候群 に比し国民の認知度が低く、透析導入患者数は 依然として増加。透析導入の約半数近くは糖尿 病患者で占められています。なかでも沖縄県は 糖尿病通院患者で透析に至る危険率が全国平均 に比し2 倍近くであり、平均寿命の延びが鈍化 し順位が低下している一因と考えられます。
保存期腎不全の治療を推進すべき立場の日本 腎臓学会では昨年12 月に「将来構想検討ワー キングチーム」を発足させ、本年4 月、30 ペ ージに及ぶ報告書が理事会に提出されました。 ワーキングチームは42 名の若手〜中堅メンバ ーが中心で、わが国の腎臓内科医の問題意識が 伺えます。医師会の皆様にも関係の深い領域に ついて紹介いたします。
1. 診療報酬・医療経済:維持療法透析や腎移植 など莫大な医療費の削減を目標として、既存の メタボリックシンドローム対策のようなCKD に対する特定検診、特定保健指導が必要である。 まず、健診項目ではCKD 発症予防対策の一環 として、学校検診・特定検診において検尿・随 時尿蛋白定量(g/gCr)の導入、一定の年齢以 上の血清Cre 値の測定を勧奨する。更に、早期 診断マーカーとして尿アルブミン定量(ACR) の適応を非糖尿病性腎疾患にも拡大する。
検診後のフォローアップを確実に行わせるよ うなシステムの策定と腎疾患専門栄養師や専門 看護師育成による患者教育支援体制が必要であ る。そのためにも非糖尿病性腎疾患に対する患 者教育に関する保険収載が必須である。透析導 入の半数は非糖尿病性腎疾患であり、糖尿病透 析予防指導管理料に対応するCKD 指導管理料 の設定は当然である。腎臓専門看護師を資格化 し、専門医だけではフォローできないCKD 患 者群を腎臓専門看護師によりCKD 外来診療補 助や慢性腎不全進行予防教育に投入し、中長期 的にCKD 進行抑制に取り組むべきである。そ のうえで、これらのコメディカル・スタッフの 管理責任者でもある腎臓専門医がCKD を診療 し、きめ細かなフォローを行った場合のCKD 管理料の設定と保険収載を行うべきである。
2. 行政/ 医師会/ 各種医療職種との連携:近い 未来に遺伝診断に基づく個別化医療が海外から 導入されると想定されるが、そのための基盤作 り(取り扱い施設の設定、検査の一元化、保険 収載の是非、遺伝カウンセラーの確保など)が 必要である。現時点ではAlport 症候群、ネフロン癆などの疾患の遺伝診断すら一元化されて おらず、医師が個別に国内外の研究者に検査を 依頼している。これらの遺伝子検査を一元化・ 標準化しその費用を保険収載することは急務で ある。更に、頻度の高い多発性嚢胞腎やAlport 症候群などの遺伝性疾患に関しては、遺伝カウ ンセラーによる専門的な遺伝子相談を保険収載 し、家系図調査に伴う倫理指針の早期策定も行 われるべきである。
3. 地域・社会貢献:全国における、保健所との 連携による健診データの活用と介入的試み、医 師や医療職向けの研修会、市民向けの講習会の 実施を実現する。
1)全国版CKD 病診連携パスの作成と保険点数化
2)保存期腎不全検査教育入院の推進/ パスの作成と保険点数化/DPC コード取得
3)病病連携の推進(特に都市部)
4)学会主導でのCKD(保存期)指導スタッ フ育成(看護師・薬剤師・MSW など)CKD 地域医療コーディネータ養成。栄養ケアステ ーションの活用による生活・食事指導の普及 (FROM-J、厚生労働省腎疾患重症化予防実 践事業、日本栄養士会等との連携)。厚生労 働省秋澤班作成のCKD 病診連携マニュアル 2012(http://j-ckdi.jp/index.html) の周知が必要である。
保存期腎不全教育入院は腎機能保持効果や患 者行動変容効果に優れている。また教育入院経 験者では、予めCVD リスク評価がされており イベント発症予防のみならず医療費削減にも大 きく寄与することが予想される。保存期腎不全 教育入院が普及しない理由の一つに学会主導の 保存期腎不全指導スタッフ育成(CKD 療養指 導士)が不十分だった点が挙げられる。看護師、 栄養士、薬剤師、MSW、臨床検査技師などへ の研修、研修認定などの仕組みが現在検討中。 現在の外来での糖尿病透析予防指導を発展させ CKD 透析予防指導管理料(仮称)を充実させ る方が先決かもしれない。
現在、日本腎臓学会の各常設委員会および理 事長直轄のプロジェクトチームにより緊急度・ 重要度の高い提案より、具体的活動を開始して います。医師会の会員の皆様にも学会のホーム ページを時折、御参照いただければと思います。 沖縄県のキーパーソン(広報委員会委嘱)とし て古波蔵健太郎先生(琉球大学)、和氣亨先生(南 部医療センター・こども医療センター)に学会 との連携促進、パイプ役をお願いしています。