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放射線科入局当時を思い出して
―放射線医療40年の歩みー

勝山直文

友愛会 豊見城中央病院
放射線科 統括部長
勝山 直文

私は昭和48 年(1973 年)に東京慈恵会医科 大学を卒業しましたので、今年は卒業40 周年 となります。ちょうど節目の年に当たりますの で、放射線科入局当時を思い出しながら、この 40 年の放射線医療の進歩について、述べてみ たいと思います。

卒後内科1 年、放射線科1 年の研修後に、同 大学放射線科に入局しました。入局当時は一般 撮影装置、X 線透視装置、断層撮影装置などが あり、造影剤としてバリウムやヨード造影剤は ありました。胃や大腸の透視診断、腎尿路造影、 たまにセルジンガー法による血管造影検査、経 口的胆嚢造影や点滴静注による胆道造影検査、 脊髄くも膜下腔より空気をいれて脳室を撮影す る気脳撮影などが施行されていました。読影は フィルムをシャーカステンに掛け、手動式タイ プライターで英語による報告書を作成していま した。現在のように、検査件数も多くなく、ほ どよい仕事量でした。まだ、放射線科が世間に余り認められておらず、保険診療における読影 加算もありませんでした。

入局当時、X 線CT が海外で稼働しておりま したが、日本への導入は昭和50 年初頭でした。 当時のCT は頭部専用で、X 線管球と1 個の検 出器が一対で頭部の1 スライス面を180 度の 方向よりスキャン(走査)します。1 スライス 撮像に約5 分間、6 スライス撮像では30 分間 を要していました。その後、ファンビームX 線管球と多数の検出器が出現し、検査時間は短 縮され、更に撮像範囲(ガントリー)が大きく なって体幹部を撮影できるようになりました。 現在では、320 列CT を代表とする、超短時間 で撮像できる装置が出現しています。更に他の 診断装置とのドッキングにより、PET/CT や SPECT/CT が出現し、さらには放射線治療装 置とのドッキングにて、より精密な治療が可能 となっています。

私が専門とする核医学も、入局当時はシンチ スキャナー、レノグラム装置、甲状腺摂取率測 定装置といった古典的な装置の他に、ガンマカ メラが既に登場していました。脳、甲状腺、唾 液腺、肺換気・血流、肝、膵、腎、副腎皮質、 骨、ガリウムなどの検査が既に施行されていま した。その後、Tl-201 が出現し、心筋血流検 査が始められましたが、まだSPECT は出現し ていませんでした。初期のSPECT はカメラが 回転するのではなく、被験者を座らせて椅子を 回転させて撮像していました。今では、多検出 器によるSPECT 装置が当たり前となっていま す。F-18 FDG などを用いたPET 検査は1970 年後半に私が米国に留学した際には既に研究レ ベルで行われており、決して新しい診断法で はありません。しかしながら、PET 装置の進 歩とPET とCT のドッキングにより、機能画 像と解剖学的情報が同時に得られることによ り、より優れた診断法となっており、現在では clinical PET と呼ばれ、がん診療には不可欠な 検査法となっています。

1980 年代に出現したMRI 装置は心臓への応 用、膵菅描出(MRCP)、血管の描出(MRA)、 機能画像などが得られるようになり、更に3T装置の出現でよりノイズの少ない良質な画像が 得られるようになっています。

初期の超音波検査は画質不良でありました が、1970 年代に電子高速リニア装置が開発さ れ、カラードップラー法は心・大血管領域の診 断に、またパワードップラーは腫瘍内血流の評 価が可能となりました。更に、穿刺用プローブ の開発は腫瘍の診断に大きな貢献をしました。

放射線治療は正確な照射技術により、癌組 織のみに多くの線量が照射され、合併症の少 ない治療が可能となっています。その他、密封 小線源を用いたアフターローディング法の開発 やI-125 シード永久刺入による前立腺癌の治療 など可能となっています。非密封線源を用い たRI 内用療法として、従来のI-131 以外にス トロンチウム89 による骨転移の疼痛緩和治療、 イットリウム90 に標識されたゼヴァリンによ る悪性リンパ腫の治療などが日本でも行えるよ うになってきました。その他にも、IVR による 治療は放射線科以外でも比較的低侵襲での治療 が可能となってきています。

以上述べてきたように、この40 年間の放射 線医療・医学の進歩は目を見張るものがありま す。しかし、装置などの箱物が幾ら進歩しても、 それを施行する放射線技師や放射線科医の量と 質は十分には担保されていません。

次の10 年、40 年後には、更なる画像診断の 進歩と放射線治療の開発、改良がなされていく と思われます。その進歩に少しでも遅れないよ うに、老体に鞭うって頑張らねば???