沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 7月号

「愛の血液助け合い運動月間」(7/1 〜 7/31)に寄せて

宮城敬

ハートライフ病院 宮城 敬

ハートライフ病院は沖縄県中部地区東海岸 に面する中城村に位置し、病床数300 を有し、 24 時間救急を担う病院です。ハートライフ病 院が力を入れている分野の一つが血液内科であ り、再生不良性貧血などの造血不全、白血病や 悪性リンパ種などの血液悪性疾患の患者さんを 沖縄県内広域から受け入れております。さら に、当院では2000 年より造血幹細胞移植を開 始し、2010 年10 月に骨髄バンク移植認定施設 を受け、2011 年1 月より非血縁者間同種骨髄 移植を開始しております。同種造血幹細胞移 植の経験は2010 年までは年間5 〜 6 例でした が、2011 年には26 例を経験しました。その後、 2013 年1 月からは臍帯血移植を開始しており、 これまでに行った造血幹細胞移植は平成24 年 度までに150 例を超えました。今回は、血液 内科そして造血幹細胞移植を担う視点から血液 事業を考えたいと思います。

血液内科の診療において輸血医療は切り離す ことができないものであり、造血不全による貧 血や血小板減少を認める患者さん、そして、血 液悪性疾患に対する抗がん剤治療に伴う骨髄抑 制を認める患者さんに対して、日々、輸血が行 われております。造血幹細胞移植に際しては、 強力な化学療法や放射線治療を行った後に、移 植された造血幹細胞から正常造血が回復するま で、輸血による補助が必ず必要になります。

ハートライフ病院における輸血使用量は、平 成23 年度には赤血球製剤が3,544 単位、血漿 製剤が910 単位、血小板製剤が11,480 単位で、 合計は15,934 単位となっており、大学病院・ 県立病院などに続き、県内で5 番目に使用量が 多い病院となっております。

ハートライフ病院において使用される輸血製材の内訳において、非血縁者間同種骨髄移植を 始めた平成23 年以降に認められている変化と して、HLA-PC(HLA 適合血小板)輸血の増 加があります。

赤血球の血液型としてABO 式、Rh 式があ るように、白血球・血小板にも血液型があり、 これをHLA(human leukocyte antigen: ヒト 白血球抗原)と言います。自分と他者を識別す るという大事な機能を持つ抗原で、体を構成す る細胞ひとつひとつにも存在します。血小板輸 血を繰り返し行っていると、患者さんの体内で 自分とは異なる血小板のHLA に対して抗体が 産生されるようになります。この場合、HLA が一致していないと、輸血された血小板が壊さ れ、輸血効果が得られない場合があります。こ のような患者さんにはHLA の適合した血小板 の輸血を行う必要があります。HLA にはA、B、 C、DR、DQ、DP の6 つの種類(座)があり、 それぞれの座に2 つの型を有します。このう ち、輸血に関与する型はA、B、C 座でこれら の適合率は数百から数万人に一人と言われてい ます。HLA 抗体が出現している患者さんに血 小板輸血が必要な際に、適合する献血者を探す のは極めて困難となります。

造血幹細胞移植を受ける患者さんにおいて、 HLA 抗体の存在は、移植された造血幹細胞が 拒絶される原因の一つとなるため、その有無を 調べる必要があります。移植を受ける患者さん が増えた結果として、HLA 抗体の存在が証明 され、血小板輸血としてHLA-PC を使用する 頻度が増しています。

HLA の適合した輸血が必要な患者さんへの 血液製剤供給を確保する目的に、赤十字血液セ ンターでは献血登録制度が設けられております。献血登録制度は緊急時に大量の血液が必要 となる場合やRh 陰性など少ない血液型、そし て前述するようなHLA 適合製剤の安定的な血 液確保を目的として、献血者の血液型、HLA 型を調べさせていただき、その住所、氏名、可 能な献血種類などをあらかじめ登録します。そ して、輸血を必要とする患者さんの状況により、 血液センターから献血者へ依頼し、献血にご協 力いただく制度です。必要時に献血していただ くということで、通常の献血とはことなり、登 録献血される方には負担がかかることになりま すが、その輸血の必要性は年々増しております。 平成23 年に、沖縄県赤十字血液センターにお ける献血登録者は成分献血登録者が6,112 人、 全血献血登録者が14,285 人で総数は20,397 人 となっております。患者さんの状況に応じて、 献血をしていただいた方や献血登録をしていた だいているこの20,397 名の方々のご協力に対 しては只々あたまが下がる思いです。

しかしながら、依然としてHLA 適合製剤の 確保には難渋することが多く、県外からの供給 が必要となる場合も多く経験します。必要な時 に輸血ができないことも経験します。平成23年度に沖縄県赤十字血液センターで他県から受 け入れた血液製剤総量は7,777 単位で、必要と する血液製剤を県内献血で補うことができず、 他県に一部依存している状況がうかがえます。

少子高齢化時代において、沖縄県内において も特に若年層の献血者数は減少する傾向にあり ますが、血液製剤の必要とされる量は増加を続 けております。血液製剤の適正使用そして安定 供給がますます求められようになっており、輸 血製剤を使用するものとしてその適正使用にお いてはさらに努力していく必要があると感じて おります。

当院で造血幹細胞移植を受けられ、難病を克 服し、社会復帰を果たす患者さんが増えてきて おります。安定した血液供給・血液事業が、彼 らを支えているということを感じずにはいられ ません。県民のみなさんの献血への理解と更な るご協力をお願いしたいと思います。また、特 殊な血液製剤が必要な患者さんがいること、そ して献血登録制度について知っていただき、登 録いただける方が増えていただければ、とても うれしく思います。