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世界禁煙デーによせて
―精神科病院での取り組み―

譜久原弘

南山病院 副院長 譜久原 弘

はじめに

世界の禁煙活動を見ると日本は遅れていま す。この遅れの大きな原因は、JT(日本たば こ産業)・財務省の利権が一致し、禁煙への大 きな抵抗勢力となっているためです。世界禁煙 デーのテーマは、『タバコの広告・販売促進・ 後援活動の禁止』であり、JT も危機感を感じ ているのでしょうか、ホームページからは爽や かなイメージで売り込もうと躍起になっている のがわかります。

精神科からの発信

WHO ではニコチン依存症は精神科のカテゴ リーに分類されています。しかし、精神科病院 では患者さんおよびスタッフに喫煙者が多く、 治療どころか逆にニコチン依存症を作っている のではないかと思われることもあります。未だ にタバコを嗜好品と考え依存症としてとらえて おらず、いつでも止められると安易に考えてい る人が多いことも事実です。依存症の治療とは、 止めている状況を継続することであります。

この10 年で精神科医の禁煙に対する考えも 様変わりし、県内精神科病院でも敷地内禁煙を 施行したいという風潮が出てきました。喫煙の 害が知られるようになり、正しい知識があると 禁煙しやすいことが分かってきました。私達 は、正しい知識をしっかり伝えていく必要があります。

当院の紹介

当院は精神科の中でも早期にニコチン治療を 開始した病院であり、私達がどう取り組んでき たか参考になればと思います。(表1)

表1 南山病院禁煙年表

南山病院禁煙年表

2003 年9 月、禁煙勉強会を始めたところ十 数名の患者さんがタバコを止めることができ、 これが禁煙活動に本格的に取り組むきっかけと なりました。2004 年より禁煙活動に病院全体 で取り組み、近い将来に敷地内禁煙を実施する ことを明らかにしました。この時期の当院は、 職員の7 割が喫煙者でした。2005 年4 月には 院内売店において沖縄産の安価でニコチン濃度 の高い3 銘柄のタバコを1 銘柄ずつ販売停止 し、同時に病棟の分煙室の利用時間を少しずつ 短縮していきました。これは病院の禁煙方針を 間接的に患者さんに知らせることが目的であり ました。2006 年9 月に発足した禁煙支援委員 会の10 人のメンバーは各部署から選出し、週 1 回会議を開きました。各部署の禁煙の進行状 況や問題点を確認し、具体的な対策を話し合い ました。この委員会の発足は、病院全体で取り 組んでいるという意識を職員に持たせるのに役 立ちました。また禁煙支援のための広報誌を創 刊(毎月発行)、当番制による全職員での院内 環境整備のためのパトロールを行うようになり、現在も継続しております。CO モニター測 定(呼気中一酸化炭素値測定)は当院において、 運送業や旅客業におけるアルコールチェックと 同じ意味を持つことを職員に繰り返し説明しま した。以来、本人同意の下、不定期にCO モニ ター測定を実施し、現在は全職員が受けるよう になりました。その結果2009 年1 月には全職 員が禁煙を達成し、喫煙者がゼロとなりました。

精神科病院で禁煙が進まない理由の一つとし て、精神科の患者さんに禁煙は困難だし、スト レスを強くするだけではないかなど精神科医療 関係者ですら偏見や思い込みが関係しているも のと考えます。病院で禁煙運動を開始するに当 たっては、患者さんへの禁煙治療を本格的に開 始する前に、まず医師の禁煙が必要で、次に職 員に禁煙の目的を理解してもらい喫煙職員の治 療を行うことです。チームワークを良くしスタ ッフが一丸となって取り組むためには、この2 つの事が重要と考えます。現在では、当院にお いては吸わないのが当たり前となっており、タ バコのない環境をごく自然のこととして、みん なが受け入れています。

入院患者さんに対しては、2007 年5 月から の敷地内禁煙以来、週一回禁煙の集団精神療法を続けています。喫煙していた患者さんが抵抗 なく参加できるよう工夫しわかりやすい内容を 心がけています。医療者は禁煙を押し付けるの ではなく、焦らず・諦めず・柔軟な心を持って 接することが大切です。

私達は禁煙を成功させることが病気で挫折し た患者さんの自尊心の回復に少しでも役立つこ とを願っております。今後のメンタルヘルス活 動の一つとして禁煙の地域活動に力を入れねば と考えております。

【参考文献】
小学生からの禁煙教室自由自在 平間敬文 かもがわ出版