かいクリニック 稲田 隆司
社会的規制等関係省庁等連絡協議会(主 国 税庁)は、発育段階になる未成年者の心身に大 きな影響を与える飲酒を防止する為、毎年4 月 を「未成年者飲酒防止強調月間」と定め、平成 14 年から全国的な啓発活動を行っている。例 えば、酒類販売店における年齢の確認、未成年 者飲酒禁止法による罰則、未成年者に飲酒をさ せた大人を処罰、ポスターの掲示等々である。
長年アルコール問題に取り組んできた鈴木健 二(鈴木メンタルクリニック)は「中高生のた めのメンタル系サバイバルガイド」(日本評論 社)の中で、アルコールの害についてわかり易 く子ども達に語りかけている。2010 年の全国 の青少年の飲酒実態調査では、中学生の20%、 高校生の33%に飲酒体験がみられた事を示し、 「アルコール乱用で専門病院にかかったティー ンエイジャーの人達は、学校がおもしろくな く、何にも集中できず、現実逃避のために飲酒 をしていました。無気力になってアルコールに 一瞬の解放感を求めていたのです。」と記した。 そして、子どもにとってのアルコールの害とし て、急性アルコール中毒による呼吸停止、早期 の飲酒開始による依存回路の強く早い形成、そ の結果、他のドラッグ依存へのなり易さ、前頭 葉へのダメージ、性的成熟の遅れ、女児の飲酒 が妊娠中も飲酒するという可能性を強め、胎児 性アルコール症候群のリスクが増加する等を挙 げ「子どもにアルコールはいらない」と警鐘を 鳴らしている。
又、寺戸亮二(京都保護観察所長)は、「更 生保護」平成23 年3 月号において、全国の保 護観察対象者中、問題飲酒者435 人の分析から、 問題飲酒者は「暴力事犯」「交通事犯」の割合が非飲酒者群に比べ、構成比が3 割程高い事を 指摘し、飲酒と犯罪の関連を示した。特に飲酒 開始年齢の低い群(18 歳以下)においては高 い群(19 歳以上)に比べ、1)事件時の飲酒量 が顕著に多い。2)飲酒コントロールの利かなさ、 感情の不安定さ、判断力の低下した者の割合の 高さ。3)飲酒運転、飲酒時の口げんか、飲酒時 の対家族以外暴力の経験者の割合の高さ。4)違 法薬物使用経験者の高さ。5)親の大量飲酒など 家族内の問題飲酒者の割合の高さがみられると いった特徴を挙げている。
その背景には体質、パーソナリティー、生育 歴、家族、社会環境等多様な考察が求められる が、当事者が寄せてくれた体験が参考になると 思われるのでご紹介したい。
「回復への道のり」 AA たか
「初めてお酒で酔っぱらったのは13 歳の頃、 冷凍庫に冷やされていた父親のウォッカを飲み ました。僕の家にはお客さんがよく来ていて、 大人の人達が楽しそうにお酒を飲むのを目にす る事が多かったので、そんなに楽しいものなら 飲んでみようと思ったのがきっかけでした。僕 はウォッカをストレートで結構な量を飲みまし た。喉は焼けるように熱くなり、胃に入ったら すぐに酔いが回りました。僕は酔った感覚が結 構気に入りキッチンで横になりヘラヘラ笑って いました。しかし、すぐに気持ちが悪くなり吐 いてしまってからブラックアウトして、気がつ いたらベッドの上でした。15 歳になると悪い 先輩にタバコを教えてもらい吸うようになり、 お酒も一緒に飲みに行くようになりました。お 酒の席で僕はお酒が強いのは格好いいと当時は思っていて、早いペースでお酒を飲み誰よりも 先に潰れてブラックアウトする事が多かったで す。僕は酔っぱらった感じが好きでした。お酒 を覚える前の僕は自分に自信が持てず、人間関 係も上手なほうではなかったし、女の子と話を するのも苦手でした。お酒は僕に自信や安心感 を与えてくれて、酔っぱらった時が一番自分ら しくいられるような感じがしました。16 歳に なり、ハワイに留学しました。外国の学校へ行 くのはすごく不安でした。もともと人見知りの 僕は頑張ってお酒の席で友達を作っていたよう に思います。そのうちに大麻を吸うようになり MDMA などの合成麻薬にも手を出すようにな りました。そんな中でアルコールや薬物が僕の 中で確実にアイデンティティーになっていきま した。僕は普通の人は知らない世界を知ってい ると、普通の世界に勝利したような気分になっ ていました‐後略‐」その後、この青年は入退 院の繰り返しの後、自助グループ(AA、NA) や治療共同体(琉球ガイア)に出会い回復、現 在若い世代の為のAA 沖縄ヤングミーティング(aa.okinawa.young@gmail.com) (http://www12.plala.or.jp/aaokinawa/)を立ち上げて活 動中である。
県警少年サポートセンターの平成23 年の資 料では、沖縄の少年は深夜はいかい、飲酒、喫 煙の割合が全国平均を上回り、特に飲酒は全国 平均1.65%に対し3.78%と高い割合を示して いる。夜型社会、飲酒に寛容な風土が背景にあ ると思われるが、雇用・教育・福祉等の領域に おける沖縄の「子どもの貧困」問題が憂慮され る。依存症のリハビリで有名なへ―ゼルデン研 究所(ミネソタ州)のアンダーソン先生は、か つて依存症の本質は心理学的には気分を変えた いという強い欲求であると述べた。であるなら ば、「子どもの貧困」問題を負荷として「気分 が悪いバーヨ」「ムカツク」といった子ども達 の内界に気分変容を持たらす依存性薬物が結び ついた時、容易に乱用、依存へと発展する事は 想像に難くない。社会全体で子どもを守り育ん でいかねばならない。
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沖縄県医師会常任理事 稲田隆司
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