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一般内科通院患者の中における夜間頻尿の点と線

宮里実

琉球大学医学部泌尿器科学
宮里  実

夜間頻尿は、就寝後1 回以上排尿のために起 きなければならない病態と定義されています1)。 しかし、実際問題となるのは2 回以上と言われ ており、QOL を低下させ、夜間転倒骨折のリ スクをあげ、そればかりではなく生命予後にも 影響することが最近の疫学研究で分かってきま した2)。2009 年には、排尿機能学会主導で夜間 頻尿診療ガイドライン3)が発表されました。病 態、治療について細かく記載され、一般内科の 先生方にも分かりやすい内容となっています。 このように、夜間頻尿そのものの重要性はかな り認知されてきましたが、病態を引き起こす原 因となるとまだまだ混沌とした状態です。かつ ては、夜間頻尿は単なる老化現象といわれまし た。確かに、さまざまな疫学調査で最も関連の ある因子は年齢です。その後、男性なら前立腺 肥大症、女性なら過活動膀胱(頻尿、尿意切迫 を伴う)などの下部尿路疾患、すなわち泌尿器 科疾患が原因と考えられるようになりました4)。 私もかつてはそのことについて何の疑問も感じ ず診療にあたっていましたが、勉強すればする 程そうだろうか?と思うようになってきまし た。私の疑問にこたえるかのように、最近さまざまな疫学調査から、慢性腎臓病、肥満、閉塞 性睡眠時無呼吸症候群、糖尿病、高血圧、心疾患、 中枢神経障害、うつなどが夜間頻尿の原因と報 告されています5)。皆さん、ちょっと何か気づ きませんか?最近報告されているものはすべて 内科疾患との関連です。私にとってはまさに目 からうろこでした。夜間頻尿の原因があまりに も多岐にわたるため、それぞれの因子について の研究が孤立化していること、泌尿器科領域だ けの研究では限界があること、すなわち点と線 がうまくつながっていないことが混沌とした原 因だったのです。そこで、首里城下町クリニッ ク第一にご協力頂いて、一般内科通院患者の中 の夜間頻尿実態調査を行うことにしました。

2011 年11 月から2012 年5 月まで首里城下町 クリニック第一に受診した患者359 人に口頭同 意を得た後、年齢、性別、泌尿器科受診歴の有無、 内科疾患の有無、国際前立腺症状スコア、過 活動膀胱症状質問票アンケート調査を行いまし た 。359 人のうち、アンケート未記載例を除い た357 人(男性192 人、女性165 人)を解析し ました。357 人のうち、泌尿器科受診歴のある 患者は84 人(25.9%)でした 。夜間頻尿1 回 以上の患者の割合は、男性(30 代73%、40 代 75%、50 代78%、60 代91%、70 代93%、80 代100%)、女性(30 代54%、40 代59%、50 代66%、60 代83%、70 代88%、80 代100%) と若年層から高率に夜間頻尿を認めました。夜 間頻尿回数も年齢とともに増加しました(図1)。 単変量解析で高齢者、高血圧、脳血管障害が、 多変量解析で高齢者、高血圧が夜間頻尿と強い相関を示しました。このように、泌尿器科に受 診歴のない若年層内科患者の中にも高率に夜間 頻尿が認められたことは驚きでした。内科疾患 をもっているコアの集団でバイアスがかかって いるためか、日本一のメタボ県となった沖縄県 の現状を反映しているものか不明ですが、さら なる検討の必要性を感じています。さらに、高 血圧が夜間頻尿発症のリスク因子と指摘できた ことは、夜間頻尿に対する内科的治療介入の可 能性を裏付けるもので、プライマリ・ケアの観 点からも大きな意味をもつと考えています 。

図1.

図1. 年齢、性別にともなう夜間排尿回数
(首里城下町クリニック第一の患者を解析)

最後にもう少しお付き合い下さい。夜間頻 尿の診断は一体どうしたらよいか?どのよう に内科と泌尿器科疾患の点と線をつなげるこ とができるか?を説明してこのコーナーを終 わりにしたいと思います。夜間頻尿の原因の 50 〜 60%が夜間多尿と報告されています。夜 間多尿の多くが飲水過多と言われています。 一部の民間療法で、血液をさらさらにするためどんどん水を飲みましょう!という根拠の ない指導が問題となっています。一般的に、 一日尿量20 〜 25 ml/kg(60kg の人なら1,200 〜 1,500mL)、適度な水分摂取量は体重の2.0- 2.5% /body(60kg の人1,200 〜 1,500mL)と ガイドラインでも推奨されています。夜間多 尿は、夜間尿量(就寝後から翌日早朝尿ま で)が一日尿量(起床後から翌日早朝尿ま で)の1/3 以上と定義されています。正しい 飲水指導、泌尿器科医の治療介入が必要かど うかを判断するには排尿日誌(図2)が有効 です。飲水も多くないのに、夜間頻尿があり、 1 回排尿量が小さい場合(成人で通常300 〜 400mL)は、抗コリン薬が有効、泌尿器科に コンサルトした方がよい、といった具合です。

図2.

図2. 排尿日誌(記載例)

今後、沖縄県で大規模疫学調査を行えば夜間 頻尿の成因、沖縄県の現状と問題点が浮き彫り になってくると考えています。それには垣根を 越えた臨床研究が不可欠です。是非ご一緒しませんか?

参考文献
1. A b r a m s P , C a r d o z o L , F a l l M e t a l . T h e standardisation of terminology of lower urinary tract function: report from the Standardisation Subcommittee of the International Continence Society. Neurourol. Urodyn.2002; 21: 167-78.
2. Nakagawa H, Niu K, Hozawa A et al. Impact of nocturia on bone fracture and mortality in older individuals: a Japanese longitudinal cohort study. J Urol. 2010 Oct;184(4):1413-8.
3. 夜間頻尿診療ガイドライン作成委員会. 夜間頻尿診療 ガイドライン. ブラックウエルパブリッシング株式会 社、東京、2009
4. Yoshimura K, Terada N, Matsui Y, Terai A, Kinukawa N, Arai Y. Prevalence of and risk factors for nocturia: Analysis of a health screening program. Int J Urol. 2004 May;11(5):282-7.
5. Yoshimura K. Correlates for nocturia: a review of epidemiological studies. Int J Urol. 2012 Apr;19(4): 317-29. Review.

謝 辞

アンケート調査にご協力頂きました首里城下町クリニック第一田名毅先生、比嘉啓先生を始めスタッフの皆様に感謝申しあげます。