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予防接種週間(3/1〜3/7)に寄せて
−確実なワクチンの効果−

浜端宏英

アワセ第一医院 浜端 宏英

ワクチンで予防できる疾患はVPD(Vaccine Preventable Diseases)と呼ばれます。予防接 種の種類が増えてきた中、VPD という言葉も よく知られるようになってきました。予防接種 週間はVPD について考える週間でもあります。 今回、沖縄県内の調査で明らかになった麻疹(は しか)、ヒブ(インフルエンザ菌b 型)そして 肺炎球菌3 つのVPD と予防接種の効果につい てまとめてみました。

【麻疹】

沖縄県では2001 年4 月に「沖縄県はしかゼ ロプロジェクト」が結成され、現在でも活動を 続けています。プロジェクト結成のきっかけは 麻疹で9 名の子どもたちの命が失われたことで した。沖縄県では国に先駆けて平成15 年(2003 年)から麻疹全数把握事業を開始し、図1 は 2003 年から2012 年までの10 年間の結果をま とめています。沖縄県で特筆されることは麻疹 が疑いの段階で報告されていることで、10 年 間に麻疹疑い症例は692 例報告され、そのうち 17%の120 例が麻疹と確定されています。全 報告例の95%にPCR 検査が行われ、2006 〜 2008 年に発生した5 件の集団発生では、全ての症例が検査診断で確定し、患者の疫学的リン クもすべて明らかにされています。これらは沖 縄県医師会会員の皆様が麻疹疑い患者を診療し た際に、直ちに保健所に連絡し、その後保健所 と、県衛生環境研究所職員の迅速で献身的な働 きによるもので、世界最高水準の麻疹疑い発生 時の調査と対応が行われています。このような 素晴らしいサーベイランス調査が行われて来 た中で、沖縄県では2005 年、および2010 〜 2012 年の4 年間麻疹ゼロを達成しています。麻 疹に関する限り、かつては数年おきに麻疹流行 があり、何人もの子供たちが犠牲になった時代 からは想像もつかない恵まれた時代になってい ます。我が国における麻疹の発生数も激減して 来ており、2007、8 年の1 万人を超える発生か ら、2009 年741 名、2010 年457 名、2011 年 434 名、2012 年293 名と報告されています。遺 伝子検査においてもわが国特有の遺伝子型であ ったD5 からD4、D8、D9、H1 などアジア諸国 やヨーロッパなど海外から持ち込まれた麻疹が 主流となっています。いまや日本は麻疹輸出国 の汚名を返上し、麻疹輸入国となっています。

図1

図1 沖縄県麻疹全数把握事業の結果

沖縄県やわが国の麻疹発生が激減した理由 は、2008 年に5 年間限定で開始された3 期(中 学1 年)、4 期接種(高校3 年相当)の効果だと 考えられますが、3 期、4 期接種はこの3 月で 終了となりますので、今後は1 期(1 歳代)、2 期(就学前)の接種率を高く維持することが大 切になってきます。また最近の麻疹患者は20 〜 40 代が半数を占めていますので、それらの 年代にも積極的に抗体検査を行い、感受性者を 見つけ、接種を勧奨する必要があります。表1 には沖縄県の予防接種率を示しました。麻疹発 生を抑え込むには95%以上の接種率が必要ですが、沖縄県は1 〜 4 期とも目標に達していませ ん。特に2 〜 4 期の接種率は残念ながら全国40 位前後となっています。3、4 期の接種は3 月末 で終了となります。2 期接種対象者も3 月末ま でが接種期間です。現在麻疹が流行しているヨ ーロッパが示すように麻疹は接種率が低下する と再び流行する疾患です。常に95%以上の接種 率を目指して、医師会皆様のご協力をお願いします。

表1 沖縄県におけるMR(麻疹・風しん)ワクチン接種率

表1

【ヒブ(Hib)・肺炎球菌】

ヒブ(Hib)とはインフルエンザ菌b 型のこ とで、米国では1987 年から接種が開始され侵 襲性ヒブ感染症(髄膜炎・菌血症)が99%減 少という劇的な効果をもたらしました。一方肺 炎球菌ワクチンは米国では2000 年から開始さ れ、これもワクチン株による小児の侵襲性肺炎 球菌感染症だけでなく全年齢でワクチン株の疾 患が劇的に減少しています。しかし、徐々に非 ワクチン株の疾患が増加し、結局2007 年の調 査では、ワクチン開始前に比較してワクチン血 清型による疾患は94%減少していますが、肺 炎球菌感染症全体としては50%の減少となっ ています。肺炎球菌は93 の血清型があり、現 在ではわが国で使われているワクチンは7 つの 血清型に対応する7 価ワクチンです。米国では2010 年より7 価ワクチンから13 価へと変更に なっています。13 価ワクチンに含まれる血清 型には多剤耐性の血清型が含まれており、アジ アでも13 価へ変更となっている国が多くなっ ています。わが国でも13 価ワクチンへの早期 の変更が望まれるところです。

表2 は沖縄県でのヒブ・肺炎球菌感染症で入 院した5 歳未満児の5 年間の推移を示していま す。県内ではヒブ・肺炎球菌ワクチンの公費開 始が2011 年6 月頃と遅れましたが、公費接種 開始以降は人口比で換算したワクチン出荷数は 全国でもトップクラスになっています。2012 年ヒブ髄膜炎は初めて発生ゼロでした。肺炎球 菌髄膜炎は4 例で例年と同じでしたが、非ワク チン株3 例(1 例は13 価に含まれる血清型)、 ワクチン株1 例(ワクチン接種1 回のみ)でし た。菌血症は両疾患とも1/3 程度に減少という 確実な効果となっています。

表2 沖縄県におけるインフルエンザ菌・肺炎球菌による髄膜炎・菌血症の推移

表2

麻疹・ヒブ・肺炎球菌とワクチンの効果は素 晴らしいものです。裏を返せば接種率が低迷す るとそれらの疾患が再び増えてくることを示し ています。現在、VPD から守るのは子どもた ちだけではありません。感染症に年齢の壁はな く、すべての医師がワクチンの効果を知り、予 防接種の理解者になっていただきたいと考えて います。