沖縄県立中部病院耳鼻咽喉・頭頸部外科部長
崎浜 教之
今年も「耳の日」がやってまいりました。日 本耳鼻咽喉科学会では耳疾患の予防と治療の徹 底を図ることと聴覚障害者に対する社会的な理 解と関心を高めることを目的として3 月3 日を 「耳の日」と制定、今年で58 回目となります。 ここ沖縄でも琉球大学耳鼻咽喉科主催でイベン トが開催されますので是非患者さんやご家族に 周知していただければと思います。
さて、例年このコラムでは難聴や補聴器、人 工内耳の話題が多く提示されていますから今回 は、稀な疾患について述べたいと思います。
皆さんは耳疾患に何を思い浮かべますか?細 菌、ウイルスを原因とした中耳炎、外耳炎でし ょうか。あるいは耳管機能の問題である滲出性 中耳炎や耳管狭窄症、耳管開法症(昨年9 月に 東北大学耳鼻咽喉科、小林俊光教授がNHK の 「ためしてガッテン」に出演し耳管開放症を解 説、その後、芸能界でもカミングアウトする例 が増えています)でしょうか。または様々なめ まいを伴った難聴でしょうか。これらは比較的 頻度の高い疾患であり先生方もよく理解されて いることでしょう。今回私がご紹介するのは結 核と癌です。耳に結核、癌と言われてもピンと こない先生方が多いかと思いますが、決して少 ない疾患ではありません。結核は世界的には増 加傾向にあり日本では「再興感染症」としての 側面を持ちながら緩やかに減少してきています が難治化も問題になっている疾患です。中耳結 核は年間約30 例ほどの報告がありますが医療 機関での集団発生が過去に繰り返されてきてい ます。中耳結核には特異的な症状はなく滲出性 中耳炎、慢性中耳炎の形態をとることが多く、 ほとんどの症例が漠然と保存療法を受けていることが多いようです。重要なのは通常治療に対 し難治性であれば結核を疑うことです。診断は 肉芽組織の生検が重要で耳漏の塗抹・培養検査 での診断率は低くなっています。診断がつけば 活動性の肺結核などのチェックを行い適切な抗 結核薬での治療となります。最近経験した症例 ですが、60 歳代の男性で幼少時より左難聴と 耳漏を繰り返し、その都度開業医で保存治療を 受けていました。今回は外耳道が腫脹したとの ことで紹介されましたが、CT 上、鼓室から乳 突蜂巣、外耳道皮下にかけて軟部陰影を認め切 開、内部組織の生検で中耳結核と診断されまし た。既往歴には何もありませんがよくよく聞く と母親が幼児期に肺結核で亡くなったとのこと でした。もしかしたら咽頭、中耳に保菌しなが ら成長していったのかもしれません。最近のニ ューキノロン系点耳薬がある程度結核菌に効果 があるため症状を遷延化させていたのかもしれ ません。開業施設では他の患者さんや医療スタ ッフに感染が及ばなかったのが幸いでした。
次に耳の癌について。耳の癌は聴器癌と呼ば れ、主に外耳道、中耳腔、耳介の順に発生しま す。内耳には未だ癌の発生は確認されていませ ん。発生頻度は100 万人に3 〜 6 人と言われて いますので沖縄県では4 〜 8 人/ 年の発生数と なります。病理学的には扁平上皮癌が圧倒的に 多く、次いで腺様嚢胞癌、有棘細胞癌などが見 られます。症状は耳閉感、耳漏、耳出血、難聴 などで通常の耳疾患と変わらないため、外耳道 炎、中耳炎として経過をみられていることも少 なくありません。進行すれば顔面神経麻痺、め まい、難聴を生じ、さらに容易に頭蓋内へ進展 していきます。治療は外耳道に限局していれば、側頭骨部分切除、中耳腔や一部の硬膜進展例で は頭蓋底手術では最も難しい手技である側頭骨 亜全摘、もしくは化学放射線併用療法となり、S 状静脈洞、内頸動脈進展例では根治治療が難し くなります。この疾患も通常疾患と違うのでは? と疑問を持つことが早期発見のコツとなります。
今回は比較的まれですが、早期に見つけなけ れば患者さんや患者周囲に影響を及ぼす中耳結 核、聴器癌について概説しました。記憶の片隅 に残していただければ幸いに思います。